38 / 69
第三章 発芽
薄気味悪い恋心
しおりを挟む(ど、どうしよう……アイツもヴァラレイスに恋をしていたのか? か、彼女はどう答えるのだろう)
彼女を見ると、深い溜息を吐いていた。そして口を開く。
「……それで? お前は私の答えが欲しいのか?」
「……いいや、答えはいらない。僕がキミを欲しいか欲しくないか判断する……だから――こちらへ来てほしい!」
イルフドの勢いよく迫る触手は、彼女を捕らえられなかった。くるりと回られて、華麗なステップで回避される。
「……やはり」触手を躱されたイルフドが呟き。
(――美しい)俺は舞踊のような動きを見てそう思う。
「お前たちは気色が悪いよ……」
涼しい顔で言い放つヴァラレイスは、俺たち二人に告げて言う。
「……イルフドと言ったか? ここにいる女たちは、なぜ倒れているんだ?」
「ああ、僕の琴線に引っ掛からなかったからさ……」
路上に倒れる数十人の女性を見て、イルフドは普通に答えた。
(イルフドがこの女の人たちに何かをしたのか? にしても、気絶している人たちを見て、あんなに薄い反応をするなんて……)
「恋に相応しい相手……なるほど、ここの女たちはお前には相応しくなかったと……」
「そうさ、僕が夢見ている美しい恋に、この人たちは釣り合わなかった。だから次は君を品定めしようと思う……だから君のことを近くでもっと知りたい」
(ほ、本当にイルフドなのか? 俺も相当だと思うけど、こいつも相当、気味の悪い夢を見ていたんだな……)
「ホロム、これはお前の責任だぞ!」
「えっ……俺の責任?」
「お前が――――っ!?」
ヴァラレイスとの会話は打ち切られた。空気を読んでくれなかったイルフドが、不気味な触手をしならせて、鞭のように振って来たからだ。
「この、触手か、女たちが気絶をしている原因は、人の水分を吸収する、もののようだな」
彼女は優雅な舞いを披露しながら、蛇のようにうねる触手を回避していく。
(なんて綺麗なんだろう……そうではなくて、彼女の話を聞いておかないと)
「……要するに、お前の琴線とやらに引っ掛からなかった女たちは、その触手で水分を奪い取ってしまい、自分の悪夢力に加えるわけか……ふん、自分勝手な」
ヴァラレイスは触手を避けていく過程で、民家の屋根に舞い上がり、夜空を背にして佇むと、そう告げた。声には怒りも軽蔑の感情もない。
「いいから! こちらへ来るんだ! 君が僕に相応しいかどうか確かめさせてくれ!」
イルフドは彼女の立つ屋根の上へと、不気味な触手を鞭のように振って落とす。
一方のヴァラレイスは、屋根から飛び立ち、宙を踊り狂って、俺の側へと静かに着地した。
「私は辺りの女たちを引き連れて容体を診ておく。お前は喧嘩を――」
「わかってる(けど……どうしてアイツは俺に夢を教えてくれなかったんだ……?)」
「勘違いするな。アイツはまだ悪夢も夢も語っていない」
「――えっ! けど、アイツは恋をするのが夢だって……ヴァ、ヴァラレイス、お、俺には意味が分からない?」
「……ぶつかって来い。そうすれば本当のことがわかるさ…………いいなホロム、自分の描いた夢がお前の力だぞ」
俺は曖昧に頷いくと、彼女は早足で自分のやるべきことに取り掛かる。
そして俺の方は喧嘩をするため、素人の構えでイルフドの正面に立った。
(恋の話は苦手じゃなかったのか? どうしたんだイルフド……)
「ヴァラレイスが欲しい。これが、これが恋なんだよなぁ……」
背中の不気味な触手より、友人の見たこともない歪んだ嗤いの方が何倍も恐ろしかった。
(……俺の彼女への恋心も、これほどに薄気味悪いものなのだろうか)
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ボッチの高校生が異世界の少女にスカウトされて悪夢を救う魔道士に転職 -ナイトメア・ハンター-
nusuto
ファンタジー
ボッチの東条郁人は魔道士の少女によって異世界に招待される。異世界では黒魔術師や悪夢によって支配され、国民が安心して眠れない世界だった。主人公は転移したときに妖精から貰った魔法を駆使して、国を脅かす黒魔術師を倒す。そしてメイドや魔道士の仲間、女王様と一緒に世界を救うために戦い続ける。ハーレムや主人公最強、異世界ファンタジーが好きな方にオススメです。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる