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第三章 発芽

最初のトラブル現場を目指す

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 俺とヴァラレイスは公園を後にすると、再び街を徘徊していき、悪夢種が出現する原因を探っていた。

「……世界も随分変わったなぁ」
「暗がりの街並みが見えるのか?」
「……ああ、ずっと暗い底にいたからハッキリと見える」
「キミのいた時代か……どうだったんだ?」
「毎日……とても悲惨な光景が続いていたよ……人々の憎悪と苦痛と悲哀が永遠と……」
「あっ……(馬鹿か俺は、彼女の時代を知っていたはずなのに、よりにもよって、なんて話題を……)」
「ふん、別に今でもよく思い返すから大したことではないさ。むしろ気に病むな。そっちの方が気分が悪い」
「ああ、そうだよな……ごめん」
「お前、全然わかってないだろ」

 俺たちは顔を見合わせずに会話をしていたのだが、街の様子に変わったところがないか、注視しながら歩いていたからだ。

「……やはり効率的ではないなぁ、手掛かりの見当さえつかない」
「この辺りは、まだトラブルが少ないから――(待てよ!?)」

 ふと脳裏であることを思い出した。

「どうした?」
「……最初のトラブルは時計塔の近くで起きたんだ。けど、その一件を引き金に、次から次へとトラブルが続出するようになった」
「……何が言いたいんだ?」
「――区域さ。最初の事件が起きた区域から、トラブルの発生が少しずつ広がっているように感じるんだ」
「……ふん、なるほど、最初の場所か……そこに立ち寄ってみよう」

 二人で時計塔の建っている青葉の区域へと向かう。
 しばらく歩いてその場所まで辿り着いた。

「着いてそうそう、ここは結構な数の悲鳴が聞こえるな」

 髪切り小鎌を取り出して、手のひらを裂くと黒い血が滲み、無数の綿となって宙へと散らばっていった。

「これで大体の悪夢種からは、その効力を奪い取れるだろう」
「大体……?」
「ああ、トラブルを起こしたり、衰弱したりする者たちは、今の綿を取り込ませるだけでいい。しかし発芽状態に達した者はあの程度ではどうにもならない。お前に喧嘩をしてもらったように、弱らせてから取り込ませないと、夢を見ている精神そのものが破壊されかれないんだ。要するに動かない人間になってしまう」
「……昔はあった植物人間のようなものか?」
「ああ、そんなところだ……」

 青葉の区域を二人で歩き続ける。

「……あの辺りに時計塔があるんだ」


「……あの塔か? 時計というモノは知らないが……私の時代にもああいったモノがあったよ。土を固めて作っていくらしいんだ」
「ははは、そんなに脆い素材はもう使われてないよ……今は鉄の土を使っているんだ」

 少し笑いが出ると、ヴァラレイスは無表情な悔しさを見せる。

「……よく分からないが、嵐が起きても塔が倒れない時代が来てくれたのなら、私も地獄へ落ちていった甲斐がある」
「……その嵐は今まで来たことがないけどね」
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