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第三章 発芽
叶うかもしれない夢となる
しおりを挟む「では、やってみてくれ」
ヴァラレイスは宙にスッと浮かび上がっていき、俺とレレヤを一対一にして見守る。
「――お前が閉じ込めたんだなぁ!!」
(――俺ではないんだけどさ!)
怒りをぶつけるレレヤから根の腕が振るわれた。
俺は、透き通った水の腕で、不気味な根の腕を掴み取って止めた。
「――俺っちの夢を他人が掴むんじゃない!!」
せっかく水の腕で掴み取ったのに、レレヤの根の腕に暴れられて、振りきられてしまった。
(――力が強いな)
もう一度、水の腕を振るい、今度は根の腕を地面に抑えつけてみた。
じたばたと根の腕が動き回り、またしても抑えつけから抜け出されてしまう。
「――俺っちを捕まえておくのが、そっちの夢なら壊してやるぅ!!」
根の腕で力強い拳を作り、思いっきり振りかぶってくる。
(あっ、殴られる)――俺は反応を遅らせてしまった。
「――っうわぁ!?」
突然身体に浮遊感を感じた。なんと俺が宙に浮き上がってしまったのだ。代わりに拳が直撃することはなかったけど。
「危なかったな……ヒヤヒヤしたぞ……」
この浮遊感は、どうやらヴァラレイスが俺を危機から救ってくれたからのようだ。その後また地上に降ろされた。
「……あ、ありが――おっと!」
彼女にお礼を言う暇はなかった。レレヤの振ってくる根の腕を、避けていくことで精いっぱいだったから。
水の腕と根の腕がぶつかり合う中、レレヤの腕の方が少しずつ縮んでいるような気がした。
「よし、お前の腕より小さくなってきた、いい具合に悪夢力が減少している。そろそろ、拳を掴み取ってしまえ」
「――簡単にっ! 言うなよっ! っと!」
振るわれる根の腕を跳ね返し、間一髪のところで避けたりし、ようやく拳を正面から掴み取った。相手の力が弱まっているからか抜け出されることもない。
「よーーし、そのまま力任せに潰してしまえ!」
「――ふっぐうう!!」
俺は慣れない水の腕に力を入れていく。リンゴを握力で潰してしまうイメージも乗せてだ。すると、根の腕は絡まりが解けるようにバラバラに分散した。
「う、おおおおおおお、俺っちの夢が、夢が……」
それと同時にレレヤは足から崩れて倒れ込んでいく。
――パチパチとヴァラレイスが手拍子をこちらに送って来た。
「……喧嘩の素人にしてはいい動きだったよ」
「はぁ、はぁ……終わったのか……こ、これ、水の腕はどうやって納めるんだ?」
「……夢から覚めればいい。こんな感じで――――ほらっ!!」
パン!! と猫だましされて、俺が――ビクッとすると、まるで夢から覚めるように水の腕が消えていった。
「さて私の出番だ。お前は少し夜風に当たって休んでいるといい」
勧められたので、俺は近場にベンチに座り込んで、ヴァラレイスたちを見守る。
「――うあああおおああああ!! ああががあああああぐううあああああ!!」
純黒苦血を飲まされて、レレヤは苦しんで叫ぶ、とても聞くに堪えない声を上げていた。
数分してレレヤの叫びは止まる。ヴァラレイスは謎の力で彼を浮かせて、ギターと一緒にベンチまで運んできた。ここに寝かせておく為だろうと、察した俺はそこから離れる。
(……レレヤの、夢か……本当にこれでよかったのだろうか)
「よかったさ」
ベンチに寝かされたレレヤの表情は、憑き物が落ちたように安らかではあった。
「けど、もうギターは弾けなくなったんだろ? 何だか大事な物を奪ってしまったみたいで、心がスッキリしない」
「……お前は何を言っているんだ? また弾き始めればいいだけの話じゃないか」
「えっ? けどさっきキミは……叶えられないって」
「ああ、悪夢は叶えられない。もう私が貰ってしまったからな。けれど、この子にはこれからの未来がある。もし、またギターを手にして同じ夢を語れることが出来たのなら、今度こそ叶うかもしれない夢になるんだ……」
「…………それでも叶うかもしれない、夢なのか?」
「そう、叶うかもだ。夢というのは曖昧なんだよ…………そして、時に人を悪へと誘うくらい危険な力なんだ……大切なのは、夢を見ている間、本人が幸せでいられるかどうかだ」
ヴァラレイスが優雅に着物の袖を振ると、どこからか現れた布団がレレヤに掛けられた。風邪を引かせないための処置だろう。
「……いい夢見ろよ、少年」
まるで子供を寝かしつける母親の様にヴァラレイスが囁くと、眠るレレヤに僅かな笑みが浮かび上がっていた。
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