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第三章 発芽

いざ、パトロール

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 夜が訪れと共にとヴァラレイスは目を覚ました。
 そして二人で家を飛び出すと、悪夢種が異常を起こす街へと徘徊していく。
 事件の手がかり、あるいは解決の糸口を探すことにした。

「なかなか、トラブルには出くわさないな……」
「正直その方がいい……トラブル続きで人が苦しむなんて、私にとっても悪夢なんだ。なんだって私がずっと負々敗々の因果を背負っていたというのにこんなことになるんだ。話が違うじゃないか…………はぁ~~、あのとき願っただろぉ? お月様ぁ、ずっと皆を幸せにしてってさ……なんだってこんな……」

 空を見上げてブツブツと小言を始める。

(……ずいぶん、イメージと違ったなぁ……美しいは美しいけど、どこか幼さがある)
「――ババ臭いんだよ、私はな。お前みたいな気色悪い奴に、女性としての配慮なんかするものか!」
「……あのさ、心の声を聞かないでくれるかなぁ」
「聞かせてきているのはそっちだろう。耳障りでしょうがない」

 言い合いながら道を歩いていると、街有数の大きな公園に通りかかった。

「……待て、この森にいるぞ」
「森じゃなくてさ……訂正すると、ここは公園ってところだ。それで何がいるんだ?」
「……悪夢種が発芽状態にまで達した者だ」

 ヴァラレイスが腰ぐらいまでの柵を軽やかに飛び越えて公園に入る。俺もその後を追う。
 公園全体は木々に囲まれており、園内には色鮮やかな花壇に、ボートに乗れる湖と、整備された丘や、芸術的なオブジェなどが楽しめる。今は夜の暗さで隠されてしまっているけど。

(ん? 何か音が、これはギターか……?)

 丘の近辺を歩いていた時に、ふとボロロンという音が耳まで届いてきた。

「ギターというものは知らないが、あの丘の上にいるようだ。そろそろ覚悟を決めておいてくれ、これから喧嘩になるからな」

 そう言いながら丘の中心部へと歩み寄って行く。何やら複数のオブジェも設置されているらしい。

(喧嘩か……何をどうすればいいのか。未だにわからないけど……)

「なぁに、ただ怪我をさせないように、打ち負かすだけさ」
「だから、それがどういう――っん!?」

 奏でられていたギターの音が激しい曲調に変わり、俺の警戒心が一気に強まる。
 ギターを弾く者もヴァラレイスと俺が接近してくるのに気が付いたようだ。
 オブジェに腰掛けていたそいつは、その頂点から飛び降りて、草の上に軽やかに着地をして見せた。しかも、そいつの顔を見て俺は驚いた。

「レレヤ……?」
「ん? なんだ、お前の知り合いか?」
「あ、ああ、友達なんだ……」

 友人の表情は暗がりの為、よく見ることができない。

「レレヤどうしたんだ? こんな時間に出歩いてると危ないぞ? トラブルに巻き込まれたりしないうちに早く家に……」
「……いいじゃないか」
「……何だって? 聞こえなかった。もう一度言ってくれないか」
「――俺っちが、どこで何をしてようが別にいいじゃないか!!」

 普段と全く形相の違うレレヤは叫んだ。しかも自分の恋人とまで言ったギターを乱暴に放り投げてしまう。

「夢を見て悪いかーー!!」

 叫ぶレレヤが俺をめがけて一直線に走ってくる。

「お、おい待て――落ち着けって!」

 慌てふためく俺の前に、ヴァラレイスが盾になるようにスッと入って来た。
 彼女は手を口元に持って来て、走ってくるレレヤに対し、まるで花びらでも散らすように――ふぅっと息を吹きかける。

「――おおあっ!!」

 レレヤはその息に合わせて、元の場所へと飛ばされていった。

「ホロム、あの子はお前のお友達らしいが、今は悪夢にさいなまれている者だ。お前の事は見えてないようだから、まともに話は通じないだろう……」
「レ、レレヤが、君の言っていた、発芽状態に達した者か……?」
「ああ、間違いない。悪夢の力が他者よりも強いのを感じるよ……」
「お、俺はどうすればいい」
「まぁ、待て、まずは説明しよう。彼には申し訳ないが、もう少し悪夢に苛まれてもらうことになる。今後の為には必要なことだ。ふん、私ってつくづく地獄が相応しい女だよなぁ」
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