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第一章 日常

知り合いのお偉いおじさん

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 フェリカが立ち去った後のこと。
 薄暗い広間でソファーに腰掛けていた俺は、しばらく壁画の少女を見つめていた。いつの間にやら他の人たちもいなくなり、俺一人だけがその空間を独占していた。
 けれど、背後から足音がコツコツと鳴るのを耳にして、誰かが広間に入って来たのだと気が付いた。

(もしかしてフェリカか? やっぱり帰らずに歴史会館を見て行くことにしたのかな?)

 そう思って、すぐそこまで近づいてきた足音の発生源が誰なのかを確認すると、

「やぁ、こんにちはホロム・ターケン君」

 知り合いのお偉いおじさんだった。

「なんだ、ゴダルセッキさんでしたか……はぁ……」
「あからさまになんだね? 人の顔を見てため息とは、そんなに若いオナゴの方がいいかね……わからなくもないが、私はこれでもフォレンリース国の議員だぞ。そのような態度は感心しないな」
「すみません。ちょっとした悩みがあって、確かに失礼でしたね……」
「まぁ、弁えてくれるのなら構わない」

 ソファーに腰を下ろし、俺の隣に座ったのは短い茶髪のゴダルセッキさん。
 フォレンリース国の中央区域の“国会樹治塔”の若き上役さんだ。若きといっても四十代半ばの男性だが、日頃から様々な政策に取り掛かっている。
 重苦しい装束に身を包んだ姿は議員らしさを引き立たせ、人目も無いので普段は堅い表情も緩くなっているようだった。

「……悩みがあるのなら私が聞こうか? こう見えても相談事には幾たびか力になったことがある」
「いえ、自分で解決したいことなので……」
「そうか、それもいいだろう。大いに悩め若者よ……」

 そこで、一息の間があって少し気まずかった。

「そういえば、学業はどうかな……? いや、グラルの息子だ、さして問題はないだろう……そいえば、どこぞで働いているのだったか?」
「はい、ティエルさんの診療所で、お手伝い程度の簡単な仕事をさせてもらっています」
「……う~~む、国から出されている支給金では足りぬか?」
「いえ、将来のために今の内から出来る限り貯金をしておこうかと思ったんです」
「そうか、まぁ確かにその方が良いだろうな。感心した頑張りたまえよ……」

 そうして、また静かになって気まずい空気が漂う。

「……父と母を欠いて寂しくはないかね」
「ええ、もう慣れました……一人で生活する分には……」
「強がらずともよい。私としてもグラル・ターケン氏の不在には寂しさを感じている。あれほど行動的な歴史家を失ってしまったのは、国としても忍びない」

 広間に僅かな沈黙が訪れる。
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