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第一章 日常

歴史会館の大広間

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 フォレンリース歴史会館には様々な品々が展示されている。
 昔の風景を再現したジオラマや、価値ある骨董品を多く並べる棚や、古代人の作り出した手製の道具や石の硬貨から、歴史的偉人の着用した衣類や使用していた日用品まで、かつての流行品など様々だ。
 数千年前の世界では人同士の争いもあったらしく、その時に使用された武器や防具も飾られていた。
 館内には落ち着いた空気が漂っていて、訪れていた人の多くは高年代の大人たちだ。若者にはあまり馴染みにくい空間かもしれないけど、俺は慣れてしまっている。

(ん? フェリカ?)

 ふと後ろ振り返ったら、ついてきていたはずの少女がいなかったので、戻って探すことにした。少し戻ったところにあった広間で彼女を発見すると、どうやら館内の展示品を見ていたようだ。

(以外だな、こういったモノに興味があったのか……)

 骨董品を適当に見ていたフェリカは、不意にキョロキョロと首を振り、辺りを見渡いていた。そして俺と目が合うと、彼女は早足でこちらに向かってくる。

「す、すみません先輩……つい」
「いいさ、もう少しゆっくり見ていてもいいだぞ」
「いえ、また後でいいです。今日は先輩に誘われてきたので、先にそちらの用事から」
「……わかった。じゃあ、こっちだ」

 俺は歴史会館のある場所へとフェリカを導いていく。廊下を通り、休憩所を過ぎ、階段を下り、地下へ地下へと降りていく。
 そうして辿り着いたのは、薄暗い空間の大広間だ。ぼんやりと明かりがつけられて遺跡のような雰囲気を醸し出している。
 ちなみにフォレンリースの照明は全て“吸明液”という特殊な液体を使用している。この液体は、昼間に日光を浴びせると光を吸収し、暗がりに持ち込めば、その時間の分だけ明かりを放つ代物だ。この性質を利用して、容器に液体を入れておくと、日常的に照明具として扱える。説明する必要もないこの世界の一般常識だけど。

「君を連れて来たかった場所はここなんだ……」

 広大な空間のわりに、周囲には数人程度が立っているだけだったり、中央のソファーに座っているだけだったりで、あるモノをただ眺め続けていた。

「あの、先輩ここって、もしかして……」

 広間を見て、恐る恐るフェリカが訊いてきた。

「予想通り。ここは“唯一無二にして絶対永遠の最敗北者”その歴史が綴られている間さ……」

 そう言って、俺が先に広間へと足を進めて行くと、怯える彼女も意を決して、後についてきてくれた。
 広間に入って、まず目にするモノは正面にある壁一面の大壁画だろう。俺が良く知っているあの壁画が設置されている。その前には祭壇があり、蝋燭や黒い花束が置かれ、大きな杯の賽銭入れは溢れかえっていた。
 球状の天井は、真っ黒に塗りつぶされており、不気味な象形文字や奇怪な陣が彫られている。壁には数千年前の暗い暗い景色と、人々が争い倒れている絵が描かれて、あまり気分のいいモノではないのは確かだ。

「(あの~~、先輩、恋のお相手を教えてくれるんじゃなかったんですか? こんなところに何の用です……縁起が悪いので近づきたくないんですけど……)」

 ヒソヒソとフェリカが俺に話しかけてくる。

「俺の意中の相手ならそこにいる」
「(えっ……どこに、辺りには高齢の方しか…………あっ! 陰でお祈りしている暗い顔の、でも綺麗な女性が見えました。 ――あの人の事ですね?)」
「――違うさ」

 俺は祭壇の前まで移動していくとと、大壁画を見上げてフェリカに告げることにした。

「この人が俺が恋に焦がれているお相手さ……」

 紹介したのは大壁画に描かれた一人の少女、人生の最後を笑顔で迎えた少女。

「名前はヴァラレイス・アイタン」
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