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第一章 日常

放課後の告白

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 午後の授業も滞りななく終わると放課後の訪れる。
 学園の大鐘が――カランカランと下校の時間を報せてきて、教室に居たクラスメイトが次々と帰宅していく。
 俺も鞄に荷物をまとめて自分の席を後にし、イルフドに挨拶をしておこうと本人の席まで向かう。

「イルフド、行ってくるよ」
「――おぉそうか、なら僕は、一人で帰らないといけないか。どうする? 明日、炭酸飲料水をまた買いに行ってもいいが……」
「いや、自分で買う機会を探してみるさ。じゃあ、また明日……」

 俺は片手を軽く上げて、友達との別れの挨拶を済まし、教室から廊下へと出る。
 廊下には、まだ帰宅せずに固まりを作って留まっている生徒たちが至る所で話し込んでいた。

(学園の庭園で待っているか……おそらくは雨宿り用の休憩所で待っているのだろう。あまり早く行きすぎても、向こうが庭園に来ていなければ、無駄に探し回ることになるか……ゆっくり歩いて行こう。彼女がその場所に先に着けるように……)

 俺は焦らず階段を下りていくことにして、貼られた張り紙や窓からの景色に目を移したりもする。帰宅する生徒で入り乱れていたエントランスも上手く通り抜けて外へ出た。

 出ると、校門までの道ではなく、庭園の奥へと続いている道を行く。

 途中で、スポーツ部学生たちが準備運動をしていたり、走り込んでいたりするのが目に留まった。
 目的地である花畑の中央に雨宿り用の施設があり、少女はベンチに座って待っていた。なにやら高級そうな分厚い本を読みこんでいる。

(恋占いの本か……なるほど、それでこんなに大胆な行動にフェリカは移ったわけか)

 そこで彼女は俺の存在に気が付くと、急いで本をしまい込み、真っ白い髪を何度も梳かして、制服も整えて、花のように美しい姿勢で起立した。

「手紙、読んだよ」
「あ、ありがとうございます。ホロム、先輩……」

 緊張しているのが一目でわかった。それでも口を引き結んで、じっと俺の言葉を待っている。

(言おう……)

「君の気持ちは受け取った、次は俺の気持ちを伝える番だ」
「はい……」

 そのとき風が吹いて、さわさわと花々が音を鳴らして揺れたので、通り過ぎるのを待っていた。そして、

「俺は君とは付き合えない」

 フェリカに気持ちを伝えた。すると、彼女は俯いて沈黙してしまった。

「私ではダメですか……?」
「……うん、ダメだ」
「…………どしてです」

 力なき呟きが微かに聞き取れた。

「……君とは別に、恋をしている女性がいるからだ」
「えっ、だ、誰なんですか? その人は……」
「これからその人を紹介してあげるけど、どうする……ついて来るか?」
「それは、先輩には、もう彼女さんがいるということですか?」
「ついてきてくれるなら全部教えるよ……」
「……行きます。先輩の好きな人がどんな人か知っておきたいので……」
「わかった。少し遠くなるけど……時間はあるかな……?」

 彼女は小さく頷いた。荷物を持って俺の後について来る。

(泣かせてしまうかと思ったけど、どうやらその心配はなさそうだ……けれど、これから失望されるだろうな。なにせ俺の恋は、叶わない夢でしかないのだから……)

 二人して学園から下校する様は、周囲の生徒には恋人同士と映ってしまったらしい。
 フェリカの友人らしき女子たちが、嬉しそうな顔でこちらに向かって、何かを祝福するように手を振っていた。困り顔のフェリカは首をフルフルと振って、友人たちの喜ぶ何かを否定しているようだった。
 それから二人でフォレンリースの街をしばらく歩いていた。
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