4 / 69
第一章 日常
フォレンリース学庭園
しおりを挟む
フォレンリース学庭園の敷地に踏み込んで、校舎まで続いている石畳の道を歩いていく。その間、花壇の色鮮やかな花々が出迎えてくれるのだが、これは園芸部が毎日のように手入れをしている物だ。
そうして校舎に辿り着いて、中にあるエントランスに踏み込むと、多くの学生が各教室へとマイペースな足取りで向かっているのが見て取れた。
俺とイドルフは高等部2-Bクラスなので向かう教室は一緒だ。
二人で歩みを進めていたのだが、不意に俺の制服の袖が引っ張られる感覚があって足を止められた。
「は、あの、ホ、ホロム先輩……」
小声が聞こえたので振り向くと、知り合いの少女がそこにいた。どうやら彼女が俺の制服の袖を摘まんで呼び止めたようだ。
「ん? ああ、フェリカか……おはよう」
「お、おはようございます……」
その長く真っ白い髪を手で梳かした後、軽いお辞儀で挨拶を返してくれた。まるで照れを隠すように、何度も何度も手で髪を梳かしているのが気になるけど。
彼女は、俺の一つ学年下の後輩で、名札の通りフェリカという小柄な少女だ。些細なきっかけで知り合って、たまに俺が図書室で勉強を教えてあげている。
「……どうした? また勉強でわからないところがあったのか?」
「い、いえ、そうではなくて……え、ええと、その……」
ただただ俯いて、視線を彷徨わせるだけの後輩。
「(なにか、言いたそうだな……よくわからないが頑張れ……ん?)――ちょっと待て、いつもより顔が赤くないか? 熱でもあるんじゃ――」
体調でも悪いのかと思った俺は、手を彼女の額に当てみようと動かしていくと、
「あっ! 違くて、そ、その――」
――ハッと真っ赤になった顔を上げて、一歩後ろへ下がっていくフェリカ。俺は伸ばしかけた手を下ろした。
「――こ、これを受け取ってください」
フェリカが勢い任せの行動に移ると、後ろに回していた腕をこちらに差し出して、ある物を受け取ってもらう姿勢を作っていた。
(?……これは封筒……手紙か?)
その微妙にフルフルした両手で、可愛らしい桃色の封筒を差し出してきていた。とりあえず受け取ってはみたが、
(まさか、これ――)
そこで俺はある噂を思い出した。
「――ほ、放課後までには、必ず読んでおいてください」
そう言ってすぐさま踵を返し、早足で立ち去る少女。その背中が遠くになると、友人らしき女子たちが集まって固まりを作り、ヒソヒソと話でもしているのか、そのままエントランスを後にしていった。
いつの間にか俺は周囲の注目を浴びていたらしく、渡された封筒を男連中が羨ましそうに見ていた。
「ホ、ホロム君? な、なにかなそれは……」
一連のやり取りを終えると、すぐ近くで傍観していたイルフドが聞いてきた。
「多分、噂のラブ的なレターじゃないかと思う」
渡された可愛らしい封筒の表裏を確認しながら答える。
「そ、そうか、よ、良かったじゃないか……お、おめでとう、うん」
「いや、まだわからないけど…………どうしたんだ? そんなに狼狽えて……もしかしてお前、フェリカに気が合ったりして、ショックを受けているのか?」
「そうではない」
「? ――ああ、キミって女子と会話ができないくらいに色恋沙汰の話は苦手だったね」
「そ、そういう事は大人になるまで考えないようにしているんだ。だから、相談には乗れないからな……はっきり言って学生にはまだ早いとも思っている。うんうん、不純異性交友反対。反対反対」
そう固く決心するイルフドは先に教室に向かってしまった。俺も後について行きながら、受け取った手紙について考える。
(……きっと、日ごろの感謝の気持ちを口には出しずらいから、手紙に書き写しただけだろう。しっかり者のフェリカは、俺のような変人に恋をする子ではないはずだ)
という訳で受け取った手紙は、授業中にでも教師の目を盗んで読んでおくことにした。
そうして校舎に辿り着いて、中にあるエントランスに踏み込むと、多くの学生が各教室へとマイペースな足取りで向かっているのが見て取れた。
俺とイドルフは高等部2-Bクラスなので向かう教室は一緒だ。
二人で歩みを進めていたのだが、不意に俺の制服の袖が引っ張られる感覚があって足を止められた。
「は、あの、ホ、ホロム先輩……」
小声が聞こえたので振り向くと、知り合いの少女がそこにいた。どうやら彼女が俺の制服の袖を摘まんで呼び止めたようだ。
「ん? ああ、フェリカか……おはよう」
「お、おはようございます……」
その長く真っ白い髪を手で梳かした後、軽いお辞儀で挨拶を返してくれた。まるで照れを隠すように、何度も何度も手で髪を梳かしているのが気になるけど。
彼女は、俺の一つ学年下の後輩で、名札の通りフェリカという小柄な少女だ。些細なきっかけで知り合って、たまに俺が図書室で勉強を教えてあげている。
「……どうした? また勉強でわからないところがあったのか?」
「い、いえ、そうではなくて……え、ええと、その……」
ただただ俯いて、視線を彷徨わせるだけの後輩。
「(なにか、言いたそうだな……よくわからないが頑張れ……ん?)――ちょっと待て、いつもより顔が赤くないか? 熱でもあるんじゃ――」
体調でも悪いのかと思った俺は、手を彼女の額に当てみようと動かしていくと、
「あっ! 違くて、そ、その――」
――ハッと真っ赤になった顔を上げて、一歩後ろへ下がっていくフェリカ。俺は伸ばしかけた手を下ろした。
「――こ、これを受け取ってください」
フェリカが勢い任せの行動に移ると、後ろに回していた腕をこちらに差し出して、ある物を受け取ってもらう姿勢を作っていた。
(?……これは封筒……手紙か?)
その微妙にフルフルした両手で、可愛らしい桃色の封筒を差し出してきていた。とりあえず受け取ってはみたが、
(まさか、これ――)
そこで俺はある噂を思い出した。
「――ほ、放課後までには、必ず読んでおいてください」
そう言ってすぐさま踵を返し、早足で立ち去る少女。その背中が遠くになると、友人らしき女子たちが集まって固まりを作り、ヒソヒソと話でもしているのか、そのままエントランスを後にしていった。
いつの間にか俺は周囲の注目を浴びていたらしく、渡された封筒を男連中が羨ましそうに見ていた。
「ホ、ホロム君? な、なにかなそれは……」
一連のやり取りを終えると、すぐ近くで傍観していたイルフドが聞いてきた。
「多分、噂のラブ的なレターじゃないかと思う」
渡された可愛らしい封筒の表裏を確認しながら答える。
「そ、そうか、よ、良かったじゃないか……お、おめでとう、うん」
「いや、まだわからないけど…………どうしたんだ? そんなに狼狽えて……もしかしてお前、フェリカに気が合ったりして、ショックを受けているのか?」
「そうではない」
「? ――ああ、キミって女子と会話ができないくらいに色恋沙汰の話は苦手だったね」
「そ、そういう事は大人になるまで考えないようにしているんだ。だから、相談には乗れないからな……はっきり言って学生にはまだ早いとも思っている。うんうん、不純異性交友反対。反対反対」
そう固く決心するイルフドは先に教室に向かってしまった。俺も後について行きながら、受け取った手紙について考える。
(……きっと、日ごろの感謝の気持ちを口には出しずらいから、手紙に書き写しただけだろう。しっかり者のフェリカは、俺のような変人に恋をする子ではないはずだ)
という訳で受け取った手紙は、授業中にでも教師の目を盗んで読んでおくことにした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる