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第一章 日常

フォレンリース学庭園

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 フォレンリース学庭園の敷地に踏み込んで、校舎まで続いている石畳の道を歩いていく。その間、花壇の色鮮やかな花々が出迎えてくれるのだが、これは園芸部が毎日のように手入れをしている物だ。
 そうして校舎に辿り着いて、中にあるエントランスに踏み込むと、多くの学生が各教室へとマイペースな足取りで向かっているのが見て取れた。
 俺とイドルフは高等部2-Bクラスなので向かう教室は一緒だ。
 二人で歩みを進めていたのだが、不意に俺の制服の袖が引っ張られる感覚があって足を止められた。

「は、あの、ホ、ホロム先輩……」
 小声が聞こえたので振り向くと、知り合いの少女がそこにいた。どうやら彼女が俺の制服の袖を摘まんで呼び止めたようだ。

「ん? ああ、フェリカか……おはよう」
「お、おはようございます……」

 その長く真っ白い髪を手で梳かした後、軽いお辞儀で挨拶を返してくれた。まるで照れを隠すように、何度も何度も手で髪を梳かしているのが気になるけど。
 彼女は、俺の一つ学年下の後輩で、名札の通りフェリカという小柄な少女だ。些細なきっかけで知り合って、たまに俺が図書室で勉強を教えてあげている。

「……どうした? また勉強でわからないところがあったのか?」
「い、いえ、そうではなくて……え、ええと、その……」

 ただただ俯いて、視線を彷徨わせるだけの後輩。

「(なにか、言いたそうだな……よくわからないが頑張れ……ん?)――ちょっと待て、いつもより顔が赤くないか? 熱でもあるんじゃ――」

 体調でも悪いのかと思った俺は、手を彼女の額に当てみようと動かしていくと、

「あっ! 違くて、そ、その――」

 ――ハッと真っ赤になった顔を上げて、一歩後ろへ下がっていくフェリカ。俺は伸ばしかけた手を下ろした。

「――こ、これを受け取ってください」

 フェリカが勢い任せの行動に移ると、後ろに回していた腕をこちらに差し出して、ある物を受け取ってもらう姿勢を作っていた。

(?……これは封筒……手紙か?)

 その微妙にフルフルした両手で、可愛らしい桃色の封筒を差し出してきていた。とりあえず受け取ってはみたが、

(まさか、これ――)

 そこで俺はある噂を思い出した。

「――ほ、放課後までには、必ず読んでおいてください」

 そう言ってすぐさま踵を返し、早足で立ち去る少女。その背中が遠くになると、友人らしき女子たちが集まって固まりを作り、ヒソヒソと話でもしているのか、そのままエントランスを後にしていった。
 いつの間にか俺は周囲の注目を浴びていたらしく、渡された封筒を男連中が羨ましそうに見ていた。

「ホ、ホロム君? な、なにかなそれは……」

 一連のやり取りを終えると、すぐ近くで傍観していたイルフドが聞いてきた。

「多分、噂のラブ的なレターじゃないかと思う」

 渡された可愛らしい封筒の表裏を確認しながら答える。

「そ、そうか、よ、良かったじゃないか……お、おめでとう、うん」
「いや、まだわからないけど…………どうしたんだ? そんなに狼狽えて……もしかしてお前、フェリカに気が合ったりして、ショックを受けているのか?」
「そうではない」

「? ――ああ、キミって女子と会話ができないくらいに色恋沙汰の話は苦手だったね」
「そ、そういう事は大人になるまで考えないようにしているんだ。だから、相談には乗れないからな……はっきり言って学生にはまだ早いとも思っている。うんうん、不純異性交友反対。反対反対」

 そう固く決心するイルフドは先に教室に向かってしまった。俺も後について行きながら、受け取った手紙について考える。

(……きっと、日ごろの感謝の気持ちを口には出しずらいから、手紙に書き写しただけだろう。しっかり者のフェリカは、俺のような変人に恋をする子ではないはずだ)

 という訳で受け取った手紙は、授業中にでも教師の目を盗んで読んでおくことにした。

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