上 下
85 / 96

願った場所へ1

しおりを挟む
輪の向こうが領地に繋がっていると知って、えいっと飛び込んだはいいけど。足元に何もなくって、床にぶつかる!と思ったらいつの間にか目を瞑ってしまったみたいだった。

「ふぎゃっ」
「うわっ」
「ぐっ」

あれっ、痛くない、でも重い!
それに何か声が多くない……!?

ゆっくり片目を開けてみる。と、目の前には人の体が……ていうかのびていた、子爵が。彼にぶつかって乗りかかって、しっかりと潰してしまっていたみたいだった。
じゃあ重いのは!?

「……マジか……」

呟いたのはアストだった。呆然としつつ、わたしの背中から退いていく。と、体が軽くなったのでバッとわたしも起き上がる。

「……流石に桁が違うな」

「あなたも来ちゃったの……!?」

振り向くと、通ってきたと思われる光の輪はすでになくなってたみたいだった。そんなこと出来るなんて思わなかったけど、まさかとは思うんだけど、どうも道を繋げてしまった……のかな……
って、そんなことしてる場合じゃないんだ、森!

転びそうになりながら窓へ駆け寄って、バンっと左右に開け放った。
そこは宿屋の二階で、身を乗り出すと屋敷の方が見えて、その後ろに広がっている森までも遠くにだけど見える。
子爵がさっき言っていた通り、なんだか今まで感じたことのないような気配が感じられた。

「……!?」

何あれ。じんわりと黒い何かが……森に半円状にかかってて、そこからじわじわと漏れてるように空気へ溶けてる。
血の気が引くのを覚えながら、部屋の扉を探して顔を巡らせる。見つけたドアに駆け寄ろうとして、アストへ腕を掴まれた。

「落ち着け。すぐにどうこうなる段階じゃない」

「あれが何か分かるの……!?」

「邪気が溜まりすぎると稀にああなることがある。……が、進行が早いな」

アストは眼を細くして、窓の外を眺めている。それからわたしの腕を引いて、一度窓を閉じた。部屋の中には結界が張ってあって外に声が漏れないようにしてあるみたいだと、その時に気付いた。

「森に近いほど影響を受けやすい。近くに民家は?」

「う、うちの屋敷ぐらい……それも、敷地内とはいえ距離はあるわ……でも、」

でも、森の側には塔がある。今、そこには、リリアがいるんじゃないの?

「ぐっ……」

後頭部を抑えながら、子爵が上半身を起こした。あ、そういえば潰してそのまま……
ちょっとくらくらしてるみたいだけど目を開けて、わたしを見た。ぎょっとしている。

「君は……ローズなのか……」

「他に誰がいるのよ……!」

「……いや。報告にはあったが……そうか」

あ、そういえばこの人、わたしが成長(?)してから会うのは初めてなんだわ。
バツが悪そうに俯いていた子爵は、ゆっくりと立ち上がった。何となくふらふらとしている。やっぱり頭でも打ってる……?

「ローズ……今回のことは、」

そう言い出した子爵をわたしは思いっっ切り睨んだ。

「後にしてもらえる!?」

「!?」

今それどころじゃないのよ!!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした

桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。 彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。 そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。 そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。 すると、予想外な事態に発展していった。 *作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

婚約破棄を告げた瞬間に主神を祀る大聖堂が倒壊しました〜神様はお怒りのようです〜

和歌
ファンタジー
「アリシア・フィルハーリス、君の犯した罪はあまりに醜い。今日この場をもって私レオン・ウル・ゴルドとアリシア・フィルハーリスの婚約破棄を宣言する──」  王宮の夜会で王太子が声高に告げた直後に、凄まじい地響きと揺れが広間を襲った。 ※恋愛要素が薄すぎる気がするので、恋愛→ファンタジーにカテゴリを変更しました(11/27) ※感想コメントありがとうございます。ネタバレせずに返信するのが難しい為、返信しておりませんが、色々予想しながら読んでいただけるのを励みにしております。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

〈とりあえずまた〆〉婚約破棄? ちょうどいいですわ、断罪の場には。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
辺境伯令嬢バルバラ・ザクセットは、第一王子セインの誕生パーティの場で婚約破棄を言い渡された。 だがその途端周囲がざわめき、空気が変わる。 父王も王妃も絶望にへたりこみ、セインの母第三側妃は彼の頬を打ち叱責した後、毒をもって自害する。 そしてバルバラは皇帝の代理人として、パーティ自体をチェイルト王家自体に対する裁判の場に変えるのだった。 番外編1……裁判となった事件の裏側を、その首謀者三人のうちの一人カイシャル・セルーメ視点であちこち移動しながら30年くらいのスパンで描いています。シリアス。 番外編2……マリウラ視点のその後。もう絶対に関わりにならないと思っていたはずの人々が何故か自分のところに相談しにやってくるという。お気楽話。 番外編3……辺境伯令嬢バルバラの動きを、彼女の本当の婚約者で護衛騎士のシェイデンの視点から見た話。番外1の少し後の部分も入ってます。 *カテゴリが恋愛にしてありますが本編においては恋愛要素は薄いです。 *むしろ恋愛は番外編の方に集中しました。 3/31 番外の番外「円盤太陽杯優勝者の供述」短期連載です。 恋愛大賞にひっかからなかったこともあり、カテゴリを変更しました。

処理中です...