41 / 96
ブランの思惑(子爵視点)
しおりを挟む
<子爵視点>
ブランがリリアを伴って塔の間へ行き、ローズへと領地追放と婚約破棄を言い渡し、壊れた塔が目の前で治っていくという奇跡のような修復を見た翌日の事。
それはローズが人知れず領地を出て行った日でもあった。
ブランは、セスティア家管轄の領地内に宿を取っていた。セスティア家の屋敷には一番近い一等地の宿だ。
ローズを追わせている側近から何とも気が抜ける報告をもらったブランは、ぐったりと脱力する。
(追跡用の小鳥がクッキーを食べてて見失っただと………??
あいつに任せたのが間違いだったか……いや、しかし信用だけはおける奴だ……)
□□□
セスティア家の令嬢と婚約を決めたのはブランの父……貧乏伯爵だった。
由緒正しき家柄ではあるが、今は名誉のみで保たれているようなものだ。
ブランの家が統治している領地は、魔石の生産が極端に少ない。
魔石を核とするモンスターが出ないという点ではありがたかったが、領地経営に多くの魔石が使えないという痛いハンデを負っていた。
その代わりとでも言うように、領地内に住む人々は、大多数が生まれた時から一定の魔力を有していた。
領民は自前の魔力を使って最低限の生活を営んでいた。
しかし、この土地の魔力使いは、間接的な能力に秀でている者が多く……
直接的で強力なパワーを持った領民はほとんど居なかった。
魔石が取れず、武力となるような兵もいない。
他所と取引をする魔石と、術師により張られた結界で、成り立っているような有様だった。
そして、領地で魔石が取れないことへの裏返しなのか……
ブランの祖父は、魔石の運用を好まなかった。
ごく一部の魔術師だけに、魔石を扱う権限は与えられた。
ブランには兄が二人いる。伯爵の爵位は恐らく兄のどちらかが継ぐことになるだろう。
ブランが持っている子爵の位も、彼が自前の功績により賜ったものだった。
領地を継ぐことのない三男のブランには、魔石の基礎さえ携わる事が許されなかった。
ある時、祖父が老齢によって隠居を決める。
父は、さっそくとばかりにブランへとセスティア家との縁談を持ってきた。
国内有数の魔石産地として名高いエリアを領地としているセスティア家。
そこと関係を持つことで、やっとブランのところの領地でも、魔石のスムーズな運用が可能になるかもしれない、という事だった。
ブランは継ぐ領地のない三男坊だ。
自分の未来は生まれてからずっと決まっていたものと割り切っていたブランは、これをあっさりと了承する。
しかし、婚約の席で初めてローズと会ったブランは、絶望することになった。
(なんだ、あの……異様な……)
ブランがリリアを伴って塔の間へ行き、ローズへと領地追放と婚約破棄を言い渡し、壊れた塔が目の前で治っていくという奇跡のような修復を見た翌日の事。
それはローズが人知れず領地を出て行った日でもあった。
ブランは、セスティア家管轄の領地内に宿を取っていた。セスティア家の屋敷には一番近い一等地の宿だ。
ローズを追わせている側近から何とも気が抜ける報告をもらったブランは、ぐったりと脱力する。
(追跡用の小鳥がクッキーを食べてて見失っただと………??
あいつに任せたのが間違いだったか……いや、しかし信用だけはおける奴だ……)
□□□
セスティア家の令嬢と婚約を決めたのはブランの父……貧乏伯爵だった。
由緒正しき家柄ではあるが、今は名誉のみで保たれているようなものだ。
ブランの家が統治している領地は、魔石の生産が極端に少ない。
魔石を核とするモンスターが出ないという点ではありがたかったが、領地経営に多くの魔石が使えないという痛いハンデを負っていた。
その代わりとでも言うように、領地内に住む人々は、大多数が生まれた時から一定の魔力を有していた。
領民は自前の魔力を使って最低限の生活を営んでいた。
しかし、この土地の魔力使いは、間接的な能力に秀でている者が多く……
直接的で強力なパワーを持った領民はほとんど居なかった。
魔石が取れず、武力となるような兵もいない。
他所と取引をする魔石と、術師により張られた結界で、成り立っているような有様だった。
そして、領地で魔石が取れないことへの裏返しなのか……
ブランの祖父は、魔石の運用を好まなかった。
ごく一部の魔術師だけに、魔石を扱う権限は与えられた。
ブランには兄が二人いる。伯爵の爵位は恐らく兄のどちらかが継ぐことになるだろう。
ブランが持っている子爵の位も、彼が自前の功績により賜ったものだった。
領地を継ぐことのない三男のブランには、魔石の基礎さえ携わる事が許されなかった。
ある時、祖父が老齢によって隠居を決める。
父は、さっそくとばかりにブランへとセスティア家との縁談を持ってきた。
国内有数の魔石産地として名高いエリアを領地としているセスティア家。
そこと関係を持つことで、やっとブランのところの領地でも、魔石のスムーズな運用が可能になるかもしれない、という事だった。
ブランは継ぐ領地のない三男坊だ。
自分の未来は生まれてからずっと決まっていたものと割り切っていたブランは、これをあっさりと了承する。
しかし、婚約の席で初めてローズと会ったブランは、絶望することになった。
(なんだ、あの……異様な……)
6
お気に入りに追加
7,030
あなたにおすすめの小説
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる