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休息(おかみさん視点)
しおりを挟む夕食の仕込みを旦那に任せ、夕方の来客ピークが来る前にと二階に上がるおかみ。
手には、ローズへ渡すための手ぬぐいを持ってくる。
「お客さん、手ぬぐい持ってきたよ……おや?」
軽くノックをしようとしたら扉が開いてしまった。この宿のドアには一応鍵がついている。
小さな棒を引っ掛けるだけの簡単な鍵だが、今日の客人はそれもかけていないようだ。
「入りますよ~……?」
一応声をかけてから扉を開ける。さっき声を掛けたときに返事がなかったということは……
「……やっぱりね」
こういう時は、眠りこけてる客がいたりする。
ローズもやっぱりその中の一人だったみたいで、ベッドにも上がらず床に座って眠っているのが見えた。
(ずいぶん疲れてるみたいだし、そーだと思ったんだよねぇ……)
腰に手を当てて、床板に座ってベッドに凭れたまま眠っているローズを見下ろすおかみ。
このままでは体が固まってしまい、休めるものも休めないだろう。
あまり余計なことをするのもよくない気がするが、おかみの世話焼きな性格が放っておけなかった。
「は~……失礼しますよ、お客さん」
声を掛けて体の下に手を入れる。
「よぉいしょ、っと……」
持ち上げて、あまりの軽さに声が出てしまった。
「ええ……っ?」
痩せてる子だとは思ったが、抱き上げた重さはちょっとした子供とそう変わらない気がする。
(まー、子供っちゃそうなのかもしんないけどさ……)
とさ、とベッドに寝かせてあげて、体を楽な姿勢へと調整する。
店に来た時から被っていたフードは、取らない方が良さそうだと判断してそのままだ。
隠しているものを無理に暴くことはない。
長年店をやってきて、悪人と善人の区別はつくつもりだった。
ローブの裾を軽く払った時、手触りがさらっとしている事に気付いた。
質素な布ではあるが、汚れがなくなっている。
(あれ、この子生活魔法出来たんだね。上手なもんじゃないか)
おかみは、パチパチと瞬きする。
(なんだか不思議な子を泊めちまったねぇ……ま、悪い子じゃないことは何となくわかるよ。ゆっくり休みなさい)
風が冷えてくる前に窓を閉めて、カーテンも閉じる。
夕食の声掛けもやめにすることにして、おかみはまた一階へ降りて行った。
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