7 / 8
エピローグ
しおりを挟む
婚約破棄は不当な申し立てであるとして、息子の不義理を責められ、積み重なった不始末と稚拙な政治判断によってやり玉に挙げられた前王。
前王の決断は早かった。
王子の廃嫡を決定し、地下牢行きを命ぜられ、自分は隠居するとして猛スピードで僻地にある別荘地へと逃亡した。
…………国の権限を丸ごと、侯爵家へと譲渡してから。
腕を披露する機会を失ったと騎士団長のサルマンや宰相補佐のソルトは嘆いていたが、ミレイはホッと息をついた。
血は流れないに越したことはない。
そして、国は一度亡び。
侯爵一家が王家。その一族が重臣となって、生まれ変わったのだった。
□□□
長期休暇明け、学園のカフェテリアにて。
ティータイムを楽しんでいるミレイに、話し掛ける声があった。
「ここ、いい?」
「どうぞ」
隣国の第二王子だ。
天が使わせたような美貌とうたわれ、その柔らかな笑顔と佇まいは何人をも虜にすると言われている。
そして、侯爵家とは昔から交流をもつ、ミレイの幼馴染でもある。
婚約者のいなくなったミレイに「じゃあ僕が立候補していい?」と手を挙げて、トントン拍子に話を進めてしまった。
つまり、ミレイの現婚約者ということ。
「うかない顔をしているね?」
「……ええ」
「そういえば君は最後まで、あの国が亡ぶことを悲しんでたみたいだけど……何かあったの?」
「名前の響きが好きだったのよ」
「何だ、そんな理由?」
ミレイは何も言わずに微笑んだ。幼馴染は肩をすくめてる。
「……すました顔をして、知ってるんですからね。
あなた自ら、リード様へ追放を伝えに地下牢へ行ったんですって?」
「あんな面白い事、他の誰かにさせるなんて勿体ないだろ。……抜け殻みたいになってたよ、あの男」
幼馴染が笑う。今度はミレイが肩をすくめる番だった。
「おかげで君と一緒に居られる事になってほんとに嬉しいよ、ミレイ。今日も君だけがこの世界で光り輝いているみたいだ」
「ハイハイ……相変わらず口が回ること。わたしも嬉しいわ、あなただったら妙なミスは犯さないでしょうから」
「もちろん。君と一緒にいたいからね」
何が嬉しいのか、ずっとニコニコと幼馴染は笑っている。
……お気に入りの紅茶へ口をつけながら、ミレイは頭の中で前国の名前を思い浮かべた。
□□□
もう、地図にはない国の名前。
先代国王の威光はともかく、逃亡した国王の愚かさも語り継ぎになるかもしれない。
(あの方は……きっと歴史書にも、名前は刻まれないでしょうね)
王の血筋として生まれ正当な後継ぎとして周囲にも知られながら、今となっては存在を抹消されてしまった元婚約者の身を思った。
元婚約者に腕を絡ませていた下位令嬢だが、同じくその存在は無いものとされた。
これは、元婚約者と同じく存在を消されたのか、それとも最初から工作員の類で、前国を陥れるために元婚約者へと近づいていたのか……
それももう、彼女の知るところではない。
<次ページあとがき>
前王の決断は早かった。
王子の廃嫡を決定し、地下牢行きを命ぜられ、自分は隠居するとして猛スピードで僻地にある別荘地へと逃亡した。
…………国の権限を丸ごと、侯爵家へと譲渡してから。
腕を披露する機会を失ったと騎士団長のサルマンや宰相補佐のソルトは嘆いていたが、ミレイはホッと息をついた。
血は流れないに越したことはない。
そして、国は一度亡び。
侯爵一家が王家。その一族が重臣となって、生まれ変わったのだった。
□□□
長期休暇明け、学園のカフェテリアにて。
ティータイムを楽しんでいるミレイに、話し掛ける声があった。
「ここ、いい?」
「どうぞ」
隣国の第二王子だ。
天が使わせたような美貌とうたわれ、その柔らかな笑顔と佇まいは何人をも虜にすると言われている。
そして、侯爵家とは昔から交流をもつ、ミレイの幼馴染でもある。
婚約者のいなくなったミレイに「じゃあ僕が立候補していい?」と手を挙げて、トントン拍子に話を進めてしまった。
つまり、ミレイの現婚約者ということ。
「うかない顔をしているね?」
「……ええ」
「そういえば君は最後まで、あの国が亡ぶことを悲しんでたみたいだけど……何かあったの?」
「名前の響きが好きだったのよ」
「何だ、そんな理由?」
ミレイは何も言わずに微笑んだ。幼馴染は肩をすくめてる。
「……すました顔をして、知ってるんですからね。
あなた自ら、リード様へ追放を伝えに地下牢へ行ったんですって?」
「あんな面白い事、他の誰かにさせるなんて勿体ないだろ。……抜け殻みたいになってたよ、あの男」
幼馴染が笑う。今度はミレイが肩をすくめる番だった。
「おかげで君と一緒に居られる事になってほんとに嬉しいよ、ミレイ。今日も君だけがこの世界で光り輝いているみたいだ」
「ハイハイ……相変わらず口が回ること。わたしも嬉しいわ、あなただったら妙なミスは犯さないでしょうから」
「もちろん。君と一緒にいたいからね」
何が嬉しいのか、ずっとニコニコと幼馴染は笑っている。
……お気に入りの紅茶へ口をつけながら、ミレイは頭の中で前国の名前を思い浮かべた。
□□□
もう、地図にはない国の名前。
先代国王の威光はともかく、逃亡した国王の愚かさも語り継ぎになるかもしれない。
(あの方は……きっと歴史書にも、名前は刻まれないでしょうね)
王の血筋として生まれ正当な後継ぎとして周囲にも知られながら、今となっては存在を抹消されてしまった元婚約者の身を思った。
元婚約者に腕を絡ませていた下位令嬢だが、同じくその存在は無いものとされた。
これは、元婚約者と同じく存在を消されたのか、それとも最初から工作員の類で、前国を陥れるために元婚約者へと近づいていたのか……
それももう、彼女の知るところではない。
<次ページあとがき>
1
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。
藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」
婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで←
うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
ゲームのシナリオライターは悪役令嬢になりましたので、シナリオを書き換えようと思います
暖夢 由
恋愛
『婚約式、本編では語られないけどここから第1王子と公爵令嬢の話しが始まるのよね』
頭の中にそんな声が響いた。
そして、色とりどりの絵が頭の中を駆け巡っていった。
次に気が付いたのはベットの上だった。
私は日本でゲームのシナリオライターをしていた。
気付いたここは自分で書いたゲームの中で私は悪役令嬢!??
それならシナリオを書き換えさせていただきます
ハズレスキルがぶっ壊れなんだが? ~俺の才能に気付いて今さら戻って来いと言われてもな~
島風
ファンタジー
とある貴族の次男として生まれたアルベルトは魔法の才能がないと蔑まれ、冷遇されていた。 そして、16歳のときに女神より贈られる天恵、才能魔法 が『出来損ない』だと判明し、家を追放されてしまう。
「この出来損ない! 貴様は追放だ!!」と実家を追放されるのだが……『お前らの方が困ると思うのだが』構わない、実家に戻るくらいなら辺境の地でたくましく生き抜ぬこう。 冷静に生きるアルだった……が、彼のハズレスキルはぶっ壊れだった。。
そして唯一の救いだった幼馴染を救い、大活躍するアルを尻目に没落していく実家……やがて毎日もやしを食べて生活することになる。
経済的令嬢活動~金遣いの荒い女だという理由で婚約破棄して金も出してくれって、そんなの知りませんよ~
キョウキョウ
恋愛
ロアリルダ王国の民から徴収した税金を無駄遣いしていると指摘されたミントン伯爵家の令嬢クリスティーナ。浪費する癖を持つお前は、王妃にふさわしくないという理由でアーヴァイン王子に婚約を破棄される。
婚約破棄を告げられたクリスティーナは、損得を勘定して婚約破棄を素直に受け入れた。王妃にならない方が、今後は立ち回りやすいと考えて。
アーヴァイン王子は、新たな婚約相手であるエステル嬢と一緒に王国の改革を始める。無駄遣いを無くして、可能な限り税金を引き下げることを新たな目標にする。王国民の負担を無くす、という方針を発表した。
今までとは真逆の方策を立てて、進んでいこうとするロアリルダ王国。彼の立てた新たな方針は、無事に成功するのだろうか。
一方、婚約破棄されたクリスティーナは商人の国と呼ばれているネバントラ共和国に移り住む計画を立て始める。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
悪役令嬢は倒れない!~はめられて婚約破棄された私は、最後の最後で復讐を完遂する~
D
ファンタジー
「エリザベス、俺はお前との婚約を破棄する」
卒業式の後の舞踏会で、公爵令嬢の私は、婚約者の王子様から婚約を破棄されてしまう。
王子様は、浮気相手と一緒に、身に覚えのない私の悪行を次々と披露して、私を追い詰めていく。
こんな屈辱、生まれてはじめてだわ。
調子に乗り過ぎよ、あのバカ王子。
もう、許さない。私が、ただ無抵抗で、こんな屈辱的なことをされるわけがないじゃない。
そして、私の復讐が幕を開ける。
これは、王子と浮気相手の破滅への舞踏会なのだから……
短編です。
※小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿しています。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる