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エピローグ

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婚約破棄は不当な申し立てであるとして、息子の不義理を責められ、積み重なった不始末と稚拙な政治判断によってやり玉に挙げられた前王。

前王の決断は早かった。
王子の廃嫡を決定し、地下牢行きを命ぜられ、自分は隠居するとして猛スピードで僻地にある別荘地へと逃亡した。
…………国の権限を丸ごと、侯爵家へと譲渡してから。


腕を披露する機会を失ったと騎士団長のサルマンや宰相補佐のソルトは嘆いていたが、ミレイはホッと息をついた。
血は流れないに越したことはない。



そして、国は一度亡び。
侯爵一家が王家。その一族が重臣となって、生まれ変わったのだった。







□□□






長期休暇明け、学園のカフェテリアにて。
ティータイムを楽しんでいるミレイに、話し掛ける声があった。

「ここ、いい?」

「どうぞ」

隣国の第二王子だ。
天が使わせたような美貌とうたわれ、その柔らかな笑顔と佇まいは何人なんびとをも虜にすると言われている。
そして、侯爵家とは昔から交流をもつ、ミレイの幼馴染でもある。
婚約者のいなくなったミレイに「じゃあ僕が立候補していい?」と手を挙げて、トントン拍子に話を進めてしまった。
つまり、ミレイの現婚約者ということ。



「うかない顔をしているね?」

「……ええ」

「そういえば君は最後まで、あの国がほろぶことを悲しんでたみたいだけど……何かあったの?」

「名前の響きが好きだったのよ」

「何だ、そんな理由?」

ミレイは何も言わずに微笑んだ。幼馴染は肩をすくめてる。

「……すました顔をして、知ってるんですからね。
あなた自ら、リード様へ追放を伝えに地下牢へ行ったんですって?」

「あんな面白い事、他の誰かにさせるなんて勿体ないだろ。……抜け殻みたいになってたよ、あの男」

幼馴染が笑う。今度はミレイが肩をすくめる番だった。

「おかげで君と一緒に居られる事になってほんとに嬉しいよ、ミレイ。今日も君だけがこの世界で光り輝いているみたいだ」

「ハイハイ……相変わらず口が回ること。わたしも嬉しいわ、あなただったら妙なミスは犯さないでしょうから」

「もちろん。君と一緒にいたいからね」

何が嬉しいのか、ずっとニコニコと幼馴染は笑っている。
……お気に入りの紅茶へ口をつけながら、ミレイは頭の中で前国の名前を思い浮かべた。






□□□







もう、地図にはない国の名前。
先代国王の威光はともかく、逃亡した国王の愚かさも語り継ぎになるかもしれない。

(あの方は……きっと歴史書にも、名前は刻まれないでしょうね)

王の血筋として生まれ正当な後継ぎとして周囲にも知られながら、今となっては存在を抹消されてしまった元婚約者の身を思った。

元婚約者に腕を絡ませていた下位令嬢だが、同じくその存在は無いものとされた。
これは、元婚約者と同じく存在を消されたのか、それとも最初から工作員スパイの類で、前国を陥れるために元婚約者へと近づいていたのか……



それももう、彼女の知るところではない。






<次ページあとがき>
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