僕はただの妖精だから執着しないで

さくせんかいぎ②

『僕が知っているのは、ノアにとってあのお守りは凄く大事で肌身離さず持っているって事。でも入学式でノアはそのお守りを持っていなかった…』

頭の上には沢山のクエスチョンマークが浮かぶが、ふと気づいてしまった。

『もしかして、お守りは持ってても落としていないっていう可能性もある…？』


バグが起きているのは間違いないのに、もう１つの可能性に気付き再び眉間に皺が寄る。

1人でああでもないこうでもない、とブツブツ呟く僕と心配そうに見守ってくれている皆。



『うぅん。この世界って僕が知ってる世界じゃないのかなぁ』

登場人物は皆同じ。でも不思議な事に、僕の知っているストーリーとちょっと違う点が最近出てきた。

論文で名を挙げたロカ
髪色が変わったハゼス
そしてお守りを落とさなかったソラ


『いっそのことソラを観察できればいいのに』


思わず呟いた一言。

深く考えずに発した自身の言葉で、はっ！と息を呑む。



（その手があった、）

この世界に来て僕自身受け身になっていたけれど、僕は前世と違って動ける身体がある。

寝たきりで手足の感覚すら分からなくなった最期。

命を落とす瞬間に僕が思ったのは、



自由に生きてみたかったな、って事だった。



１つの生を終え、
今また僕は生きている。

手も足もちゃんと動かせる。それに薄いけど羽だって生えている。きっと今なら…、

何処へだって行ける。


『ねぇ皆…ぼくねっ、自分で確認したい事ができたの』








僕の最初の居場所はこの寝床。
木の中だから雨風も防げて、中は過ごし易い空間だった。この世界で出来た僕のお家と、

僕の家族たち。

言葉は通じなくとも分かり合えた存在。


『少しだけここを離れちゃうけど…いいかな？』