8 / 56
*
しおりを挟む
身体を起こせば、痛かった背中は嘘のように元に戻り。斬られて深手を負った傷も、斬られた時に破れた服もまるで最初から何も起こっていなかったかの様に、そこには何も残っていなかった。
確かに斬られた筈なのに
地面には血の模様を染み込ませていたはずなのに。
寝そべっていた地面にそんな痕は見当たらなかった。
まるで狐につままれた様な気分で、思考はなんども行ったり来たりする。
「夢…だったのか?」
死を覚悟した事も、
兄さんが俺を消し掛けた事も、
刺客が俺を斬った事も、
全部夢だったなら。もし、あの出来事全てが存在しないモノであったなら俺は…、
またあの場所に戻らなくては。
俺の事を必要としない、
冷たい場所へ。
家族の一挙手一投足を見て、ただビクビクと怯える生活に戻るだけ。
いつもの生活に。
(どうして…こんなに寂しいんだろう)
ただ誰かに認めて欲しかっただけ
ただ笑いかけて欲しかっただけなのに。
そして、ふと思い出すのは。
余りにも綺麗なあの声だった。
“生まれてきてくれてありがとう”
この世の物とは思えないほど透き通った声だった。今だって鮮明に思い出せるほど魅力的で、ずっと昔からその人を知っているかの様な安心感があった。
(あれが…夢、なわけない)
知らない誰か。
けれど寄り添ってくれた人。
そして俺に触れてくれた人。
(もしかして斬られた事は現実で、俺は本当に死にかけた…?)
行き着く答えはとてもシンプルで、
兄さんが俺を殺したいほど疎んでいた事を否定したい気持ちよりも、
遥かに上回った気持ち。
現実から目を逸らせばきっと楽だったかもしれない。それでも気付いてしまった。
あの声の持ち主が助けてくれたのかもしれない、と。
確かに斬られた筈なのに
地面には血の模様を染み込ませていたはずなのに。
寝そべっていた地面にそんな痕は見当たらなかった。
まるで狐につままれた様な気分で、思考はなんども行ったり来たりする。
「夢…だったのか?」
死を覚悟した事も、
兄さんが俺を消し掛けた事も、
刺客が俺を斬った事も、
全部夢だったなら。もし、あの出来事全てが存在しないモノであったなら俺は…、
またあの場所に戻らなくては。
俺の事を必要としない、
冷たい場所へ。
家族の一挙手一投足を見て、ただビクビクと怯える生活に戻るだけ。
いつもの生活に。
(どうして…こんなに寂しいんだろう)
ただ誰かに認めて欲しかっただけ
ただ笑いかけて欲しかっただけなのに。
そして、ふと思い出すのは。
余りにも綺麗なあの声だった。
“生まれてきてくれてありがとう”
この世の物とは思えないほど透き通った声だった。今だって鮮明に思い出せるほど魅力的で、ずっと昔からその人を知っているかの様な安心感があった。
(あれが…夢、なわけない)
知らない誰か。
けれど寄り添ってくれた人。
そして俺に触れてくれた人。
(もしかして斬られた事は現実で、俺は本当に死にかけた…?)
行き着く答えはとてもシンプルで、
兄さんが俺を殺したいほど疎んでいた事を否定したい気持ちよりも、
遥かに上回った気持ち。
現実から目を逸らせばきっと楽だったかもしれない。それでも気付いてしまった。
あの声の持ち主が助けてくれたのかもしれない、と。
228
お気に入りに追加
936
あなたにおすすめの小説
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!
柑橘
BL
王道詰め合わせ。
ジャンルをお確かめの上お進み下さい。
7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです!
※目線が度々変わります。
※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。
※火曜日20:00
金曜日19:00
日曜日17:00更新
どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。
彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。
だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。
どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。
転生したら溺愛されていた俺の話を聞いてくれ!
彩ノ華
BL
不運の事故に遭い、命を失ってしまった俺…。
なんと転生させて貰えることに!
いや、でもなんだかおかしいぞ…この世界…
みんなの俺に対する愛が重すぎやしませんか…??
主人公総受けになっています。
顔だけが取り柄の俺、それさえもひたすら隠し通してみせる!!
彩ノ華
BL
顔だけが取り柄の俺だけど…
…平凡に暮らしたいので隠し通してみせる!!
登場人物×恋には無自覚な主人公
※溺愛
❀気ままに投稿
❀ゆるゆる更新
❀文字数が多い時もあれば少ない時もある、それが人生や。知らんけど。
実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる