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元推し

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好きな推しがいるだけで世界がバラ色に染まる。嫌な学校もバイトも、推しの存在で乗り越えられるし、なんならバイトで得た金は推しの生活を支える金に変わると気付いた時にはバイト先に感謝した。

俺の推し様は白色担当の王子、コトコ。中性的な声で、いつも配信に来たリスナーを陽気なキャラで楽しませてくれる人。歌枠から雑談、ゲーム配信に凸企画。

飽きることの無いその枠は最初こそリスナーの人数は2桁だったけれど、あっという間に4桁まで達した。1年前くらいから大手とのコラボに呼ばれだして、「あっ、これは伸びるやつだ」と察した。彼の芽が出るその日まで推して推して推した。

そして人気が出始めて握手会、チェキ会、ライブに足繁く通って…気付いてしまった


ステージに立つ彼は輝いていて眩しくてそして遠い人だと。別に認知してほしいわけじゃない。でも思ってしまったのだ。

沢山の人に推されている彼に…俺は必要なくて。なんなら居るか居ないかすら分からず

ただファンとして。
数字としてしかカウントされないと。



一方通行なその思いは我に返ったとき酷く滑稽で、虚しくなった。彼色に染まった部屋も、持ち物も、価値観も。染っても染っても意味を持たないのに。

ただ近くに居れるような錯覚に酔いしれて、でも実際は1人ぼっちで。ただ寂しい。



彼が有名になって1年ちょっと。気付けば彼を追いかけることを止めていた。

まず男が男をガチで推すのも世間体的にどうなのか、と気付き。周りの目を気にするようになり、

彼を見に行くことも辛くなった。

普通の推し事をすれば幾分楽だったのだろうか。異性で可愛くてふわふわした女の子とか

踊りの振り付けを覚えて、会場と一体感になって。同士と肩を組みながらどこが良かったとか、衣装のここが可愛かったとか。熱く語り合って、SNSに感想を投稿したりして。


そんな普通の推し事をしていたら、俺は幸せだと胸を張って言えていたのだろうか


『はぁ…、たらればの話しをしても仕方ないよな』

白色担当コトコの推しを降りて、結局コトコに似た中性的な新人配信者を推し始めた。

女の子を推していたら、なんて前置きはただの言い訳で結局は推さなかったし推せなかった。



新人の配信者を通してコトコの影を追いかけているだけ。



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