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第一章
即身成仏
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「くそったれめ」
佐伯は知っている。
何を知っているのか?
この圧倒的状況をひっくり返す方法を知っているのだ。
それは技術や力でもない。まして条理や道理ですらない。もっと神秘的な、魂の根源が教えてくれている。悟ったものにしか到達できない境地。しかし、そこに到達して還ってきたものがいないから、そこに行ったら、何を得られるのか知らない。だが、確実に分かるのはそこにたどり着いたら、もう以前の佐伯真魚には戻れないということ。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
佐伯は大きく息をはき身体を震わせた。
四畳半が炎上し、協力者が火に焼かれ、大切な人が傷つけられても佐伯は立ち上がることができない。もう光がさすことのない夜の中で震えて、震えて、震えて、だんだんと呼吸があらくなる。
――だってよぉ。
正味な話。『そこ』に行って還ってきたとき、アンネとその仲間たちも全部まとめて救い出すことができるのだから。
「意味があった、意味があったんだ。あのつらい経験も、厳しい修行も、ぜんぶぜんぶ……」
――恐怖はない。あるはずがない。だってこの時のために俺は僧になったのだから。助けを求めている人、救いの声を上げられない人たちを助けることが俺の生まれた使命。
空海の名を継ぎながら、チンピラには敵わず、学校の成績が良くなることも、クラスメイトから好意を向けられるわけでもない。それどころか、同業者からも、嫌われる。こんな面倒だけを呼び込む力を持って。
それでも、アンネの過去に触れた時、アンネの悪魔に殺されかけた時、レジスタンスの連中にボコボコにされた時、自分の力の足りなさを痛感しながらも、どうしようもない運命を背負わされた女の子の笑顔を守りたいと思ってしまった。
別に正義のヒーローになりたかったわけではない。
ただこんな胸糞悪いB級映画の結末をぶっ壊し、呆れて笑ってしまうほどのハッピーエンドに変えちまう力を持っている!
佐伯は手探りで金剛杵(ヴァジュラ)を掴み傷ついた両手で刃を胸に押し込める。
突き刺さった刃は佐伯の肉をさき、骨を砕く。
「俺は遷化する!」
即・身・成・仏
その言葉を反動にして心臓を突き刺した。それから気の遠くなる痛みとそれを補うように脳からエンドルフィンが分泌され、佐伯真魚の人生は幕を閉じた。
佐伯は知っている。
何を知っているのか?
この圧倒的状況をひっくり返す方法を知っているのだ。
それは技術や力でもない。まして条理や道理ですらない。もっと神秘的な、魂の根源が教えてくれている。悟ったものにしか到達できない境地。しかし、そこに到達して還ってきたものがいないから、そこに行ったら、何を得られるのか知らない。だが、確実に分かるのはそこにたどり着いたら、もう以前の佐伯真魚には戻れないということ。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
佐伯は大きく息をはき身体を震わせた。
四畳半が炎上し、協力者が火に焼かれ、大切な人が傷つけられても佐伯は立ち上がることができない。もう光がさすことのない夜の中で震えて、震えて、震えて、だんだんと呼吸があらくなる。
――だってよぉ。
正味な話。『そこ』に行って還ってきたとき、アンネとその仲間たちも全部まとめて救い出すことができるのだから。
「意味があった、意味があったんだ。あのつらい経験も、厳しい修行も、ぜんぶぜんぶ……」
――恐怖はない。あるはずがない。だってこの時のために俺は僧になったのだから。助けを求めている人、救いの声を上げられない人たちを助けることが俺の生まれた使命。
空海の名を継ぎながら、チンピラには敵わず、学校の成績が良くなることも、クラスメイトから好意を向けられるわけでもない。それどころか、同業者からも、嫌われる。こんな面倒だけを呼び込む力を持って。
それでも、アンネの過去に触れた時、アンネの悪魔に殺されかけた時、レジスタンスの連中にボコボコにされた時、自分の力の足りなさを痛感しながらも、どうしようもない運命を背負わされた女の子の笑顔を守りたいと思ってしまった。
別に正義のヒーローになりたかったわけではない。
ただこんな胸糞悪いB級映画の結末をぶっ壊し、呆れて笑ってしまうほどのハッピーエンドに変えちまう力を持っている!
佐伯は手探りで金剛杵(ヴァジュラ)を掴み傷ついた両手で刃を胸に押し込める。
突き刺さった刃は佐伯の肉をさき、骨を砕く。
「俺は遷化する!」
即・身・成・仏
その言葉を反動にして心臓を突き刺した。それから気の遠くなる痛みとそれを補うように脳からエンドルフィンが分泌され、佐伯真魚の人生は幕を閉じた。
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