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第一章
ループ
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「嫌いって言われた」
絞り出すように独り言を吐きながら佐伯は買い物袋をぶら下げてとぼとぼ家路を目指していた。アンネのあとを追いかけなくてはいけないと分かっているが、想像以上に大嫌いと言われたことが心にきて足が重い。
まぁでも如(実)の耳は発動しているし、彼女の足音や息遣いは手に取るように分かっている。
というか、俺はストーカーかとため息をつく。これじゃあアンネを狙っている連中とやってることは変わらない気がする。
「よくわからん」
佐伯は夕暮れが夜に変わる狭間の道を歩きながらぼんやり心でつぶやいた。
アンネにとって最善なことは自分と一緒にいることなのだろうか。そんなことを思う。
あの聖職者が言っていたようにアンネを狙う連中はたくさんいるわけでもしその大半があいつみたいな能力を持っていたらどんなに徳をためてもきりがない。
――俺はあの子を守れるのか。
しかし、そんな弱音を考えるほど、心臓を握り潰されるような苦しさに襲われる。かといって今さら高野山にいる連中に頭を下げて彼女を保護してもらおうなんて甘い考えはない。ましてあの聖職者の言うとおりにするのも癪に障る。
彼女が置かれた状況、背負った運命、生きている理由。どれをとっても自分とかけ離れている。
佐伯は仏の世界を信仰し、アンネは神の加護を信じている。
二つの世界は似ているようでまったくの別物。本来ならその価値観や思想は空と大地のように決してまじり合うものではない。
たったそれだけのこと。
たったそれだけのことが心に宙ぶらりんになっている。
「うん?」
不意に音が消えた。
アンネの音だけじゃない。風や周囲の生活音まで何もかも消えた。
何かがおかしかった。佐伯は冷や汗をかきながら足を進める。次第にそのスピードは速くなってアンネの名前を叫んだ。
――まずい、まずい、まずい。
気が付けば佐伯は買い物袋をほっぽり出して走っていた。
――誰もいない。いつからだ?
きっと音が消えてからじゃない。如(実)の目を使っていなかったから詳しくは分からないが、おそらくモールプラザ草加を出てから異変があったのだろう。
「あぁっ」
声がもれる。心に抱いた疑念が確信へと変わった。
目の前に落ちていた買い物袋はさきほど佐伯が放り出したものだった。まるでフリーPC脱出ゲームのように同じところをループしているようだった。
絞り出すように独り言を吐きながら佐伯は買い物袋をぶら下げてとぼとぼ家路を目指していた。アンネのあとを追いかけなくてはいけないと分かっているが、想像以上に大嫌いと言われたことが心にきて足が重い。
まぁでも如(実)の耳は発動しているし、彼女の足音や息遣いは手に取るように分かっている。
というか、俺はストーカーかとため息をつく。これじゃあアンネを狙っている連中とやってることは変わらない気がする。
「よくわからん」
佐伯は夕暮れが夜に変わる狭間の道を歩きながらぼんやり心でつぶやいた。
アンネにとって最善なことは自分と一緒にいることなのだろうか。そんなことを思う。
あの聖職者が言っていたようにアンネを狙う連中はたくさんいるわけでもしその大半があいつみたいな能力を持っていたらどんなに徳をためてもきりがない。
――俺はあの子を守れるのか。
しかし、そんな弱音を考えるほど、心臓を握り潰されるような苦しさに襲われる。かといって今さら高野山にいる連中に頭を下げて彼女を保護してもらおうなんて甘い考えはない。ましてあの聖職者の言うとおりにするのも癪に障る。
彼女が置かれた状況、背負った運命、生きている理由。どれをとっても自分とかけ離れている。
佐伯は仏の世界を信仰し、アンネは神の加護を信じている。
二つの世界は似ているようでまったくの別物。本来ならその価値観や思想は空と大地のように決してまじり合うものではない。
たったそれだけのこと。
たったそれだけのことが心に宙ぶらりんになっている。
「うん?」
不意に音が消えた。
アンネの音だけじゃない。風や周囲の生活音まで何もかも消えた。
何かがおかしかった。佐伯は冷や汗をかきながら足を進める。次第にそのスピードは速くなってアンネの名前を叫んだ。
――まずい、まずい、まずい。
気が付けば佐伯は買い物袋をほっぽり出して走っていた。
――誰もいない。いつからだ?
きっと音が消えてからじゃない。如(実)の目を使っていなかったから詳しくは分からないが、おそらくモールプラザ草加を出てから異変があったのだろう。
「あぁっ」
声がもれる。心に抱いた疑念が確信へと変わった。
目の前に落ちていた買い物袋はさきほど佐伯が放り出したものだった。まるでフリーPC脱出ゲームのように同じところをループしているようだった。
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