見捨てらえた夏に

うさみかずと

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望月敏夫②

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 思えば、三年間野球を続けてこられたのも原野のおかげだった。

 原野とは中学時代のクラスメイトだった。硬式シニアチームに入っていた原野と中学校の軟式野球部に入っていたからあまり話すこともなかったが、春日部光栄高校に入学するはずだった原野が僕と同じ児王高校に入学すると分かった時、少しだけ嬉しかったことを覚えている。

「もっちーお前がキャッチャーをやれ」

 開口一番原野にそう言われたとき、耳を疑った。サードしか守ったことがない自分がどうしてキャッチャーなのか?

「何言ってんだ、僕はサードしかやったことないぞ」

「チームの中でボールをしっかりグラブの芯で捕ることができるお前が俺の球を受けないで誰がキャッチャーをやるんだ。いいから三年間俺のボールを受けとけ」

 強引な言い草だったが、原野の言っていることはもっともだった。

 キャッチャー経験者の相川ちゃんは中学時代ずっと補欠でまともに試合に出たことがない。だから高校一年生にして一四〇キロ近いボールを投げる原野のボールを捕球することが難しかった。

 だからと言って原野は表立って「下手くそ」とか「やめちまえ」とかそう言った罵声を一々言わないタイプだった。

 キャッチャーとして未熟な僕に対しても詳細な技術指導はせずに、いい音でボールを捕れとしか注文をしない。

「中島や他の奴らのボールは捕るな」

 二年生の夏の大会が終わり、秋季大会が近づいてきたときに当然そう言われて困惑した。新監督として笠原がチームを指揮するようになってからは、練習試合でも中島や下級生の登板が多くなって、確かにその時点で、秋季大会のエースが誰になるのか分からなかった。

 僕は同級生や下級生とは上手くコミュニケーションをとっていたから、そんな話を持ちかけられると、余計に意識してしまい、ここでうんと頷いてしまったらキャプテンとしての立場もなくなる。

「極力は捕らないようにするから」

 そう言うしかなかった。むしろ他に良い言い方があったのなら教えてほしい。

 原野がいなければこのチームはまともに試合にすらなっていない。軟式野球出身者が多く、その半数が補欠の選手だ。最初の頃は内野ゴロが飛んだらエラーは日常茶飯事、フライだって五回に一回落球するチーム状態で三振アウトを奪うことができたからこそだった。

 チームがまともに試合できるようになるまで、一人で児玉高校を引っ張ってきた功労者を否定することはできないし、かといって個人的な我儘を全肯定するわけにもいかない。だいたい笠原が監督になってから原野は明らかに周りとの間に壁を作っていた。

 そのすぐ後だ、笠原と原野が喧嘩したという噂が耳に入ってきたのは。
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