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第280話

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 リゾラックから冒険者の話をして欲しいと振られる。
 マトラたちは特に話すようなことは無いと、素っ気なく断った。
 そうなると、次はリゼたちの番だが断りにくい雰囲気のため、少しだけバビロニアの迷宮ダンジョンの話をすることにした。

「バビロニアの迷宮ダンジョンですか‼」

 目を輝かせるララァに驚く。

「深くは潜っていませんが――」

 前置きをして、たいしたことない冒険譚の続きを話す。
 それからは、いままで猫を被っていたのかと思うくらいに話に食らいついて来た。

「あっ!」

 前のめりに話を聞き続けたララァだったが、自分の体勢に気付くと我に返ったのか、恥ずかしそうに顔を伏せる。
 ミノタウロスとの戦闘を話し終えたところで、リゾラックが話を止めて明日の予定を皆に話す。

「次の休憩場所は今日より遠い。長距離を移動するので、早めに出発しようと思う。だから、今夜は早めに就寝するとしよう」

 リゾラックの提案を承諾して見張り以外の時間を、それぞれが体を休める。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――翌朝。
 昨日は座席的に前方をリゼたち、後方はマトラたちが警戒していた。
 一気に距離が縮まったのか、話の続きを聞こうとしていた。
 リゼはレティオールとシャルルの二人に、バビロニアで起きたスタンピードのことは積極的に話をしないように頼んでいた。
 噂が噂を呼んだ結果、湾曲した噂が広まることは、ある程度は仕方のないことだと覚悟していた。
 だが、自分たちの口から話す限り、どうしても自分たち中心の話になる。
 それが、良からぬ話として広まることを防ぐためだった。
 後方の見張りはリゼとレティオールの二人で担当して、シャルルはララァの話し相手に専念してもらった。
 同世代同士なのか、話が弾んでいる。
 その様子をマトラたちは注意深く見ていることに、リゼが気付いていた。
 注意の対象がシャルルで、一種の警戒にも似たものだと感じるのは気のせいかと思いながら、シャルルを。

 安全な道を選んでいるので、魔物と遭遇することなく順調に進む。
 明日の昼前にはラバンに到着すると、陽気に話すリゾラック。
 馬車の心地良い揺れが眠気を誘い、ララァは話し疲れたのか、シャルルに持たれ掛かるように寝てしまっていた。

「変わろう」

 今まで話し掛けてこなかったサイミョウがシャルルに交代の意思を告げる。
 布を頭の下に敷き、丁寧な仕草でララァを起こさないように楽な姿勢で寝かせた。

「一雨、来そうだな……少し、馬を走らせるぞ」

 ラバンの方向に雨雲を発見したリゾラックが、握っていた手綱を強く叩くと、馬が加速する。
 その振動で寝ていたララァが目を覚ます。
 自分が寝ていたことに気付くと、恥ずかしそうに起き上がり無言で座る。

「有難う御座いました」

 頭に敷いてあった布を拾うと、シャルルに礼を言うと「サイミョウさんですよ」とサイミョウに視線を向けると、サイミョウは視線を外す。

「そうでしたか。サイミョウさん、有難う御座いました」
「あっ、いえ……」

 少し戸惑い困ったかのような反応だった。

「くそっ、降り始めたか!」

 帆に当たる雨音がすると、リゾラックが叫んだ。
 空気の匂いも変わり、時間とともに地面に泥濘ぬかるみをつくり、馬車の振動も大きくなる。
 激しくなる雨に止まることなく進む。

「雨宿りしなくていいんですか?」

 レティオールがリゾラックに声を掛ける。
 普通は雨が激しくとなると、馬車を停めて雨雲が去るまで休憩もしくは宿泊するのが普通だ。
 それは、マトラたちも同意見だった。

「この辺りで安全に休憩出来て雨宿り出来る場所はないんだ。このまま進めば雨雲から抜け出すし、予定していた場所までは行きたいからな。もう少しだけ我慢してくれ」

 熟練したリゾラックの言葉だと信じて従う。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふぅ、やっと着いた」

 大通りから少し逸れた大きな木々に囲まれた雨風が多少凌げる場所だった。

「本当なら、もう少し先だったが予定を変更して、この場所で今晩は野営をしようか」
「安全な場所なんですか?」
「あぁ。あまり使われてはいないが、秘密の場所の一つだ」

 昨夜と違い野営の痕跡がないことを不思議に思ったマトラは質問する。
 即答するようにリゾラックは得意気に答えた。

 暫くすると雨も止み、雲の間から夕陽が差すと周囲に、雨の後特有のカビ臭いが充満していた。
 昨夜と同じようにリゾラックが馬や馬車の手入れを始めると、マトラの指示で野営の準備を始める。
 リゼたちは馬車が見える範囲で火を起こし維持するため、濡れていない枝を探す。
 七人で集めたこともあり、多く集めることが出来た。

 夕食をしながら、今夜の見張りについて話をするが、昨夜同様の組で決まる。

「しかし、魔物と一度も遭遇しないとは、皆さんは運がいいですね」

 今夜もリゾラックが話の中心だった。

「そういえば、三人はバビロニアからだったが、例のスタンピードには参加していたのかい?」

 サイミョウの言葉にリゼたちは食事の手が止まる。
 レティオールとシャルルはリゼの方を見る。
 それはリゼが話をすべきだという無言の圧力だった。
 二人にスタンピードの口止めをした自分の責任だと思い、リゼは口を開く。

「はい、スタンピードを止めるために戦いました」
「やはり、そうか。よければ話を聞きたいんだが、いいかい?」
「はい、私の知っている範囲でよければ――」

 リゼは起きたことを俯瞰的に説明する。

「隣で聞いてもいいですか?」

 昨夜に続き、冒険譚が大好きなララァがリゼの横へと移動してきた。

「私も詳しく聞きたいので、ララァ殿の隣で聞いてもいいですか?」
「はい、構いません」

 興味があるのかリゼの話を前のめりで聞いていた。
 バビロニアの迷宮ダンジョンから出た魔物のこと。
 アルカントラ法国の結界が稼働していなかったこと。
 最後の魔物がロックゴーレムで魔核に触れた瞬間に爆発して、多くの死傷者を出した。
 ロックゴーレムだと思っていた魔物が実は、ボムゴーレムだった。
 ボムゴーレムが最後に爆発したことでスタンピードが終了したと、リゼは説明を終える。
 敢えて美談でなく、後味の悪い終わりにしたのには、それだけ悲惨な状況だったと印象を与えるためだった。
 冒険譚は良いことしか語らないが、それだけではないことをララァに伝える意味もあった。
 リゼの話はララァにとって衝撃的なことだったのか、顔色が悪くなっていた。

「そういえば、バビロニアには宵姫って呼ばれる冒険者が名を上げているそうだが?」
「そうみたいですね」

 誤魔化すリゼを見たレティオールとシャルルは驚くが、すぐに平然を装う。
 だが、その一瞬の変化を対面で話を聞いていたサイミョウが気付いていた。


――――――――――――――――――――


■リゼの能力値
 『体力:四十四』
 『魔力:三十三』
 『力:二十八』
 『防御:二十』
 『魔法力:二十六』
 『魔力耐性:十三』
 『敏捷:百八』
 『回避:五十六』
 『魅力:二十四』
 『運:五十八』
 『万能能力値:十四』
 
■メインクエスト
 ・七人でラパンに辿り着くこと。期限:ラバン到着まで
 ・報酬:魅力(一増加)、力(二増加)

■サブクエスト
 ・殺人(一人)。期限:無
 ・報酬:万能能力値(十増加)

■シークレットクエスト
 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
 ・報酬:万能能力値(五増加)
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