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第276話
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領主の館に到着する。
まさか、領主の館に来ると思っていなかった……リゼはリャンリーの顔を見ると、騙したつもりはなかったのか、申し訳なさそうだった。
「リゼが目覚めたら、連れてくるように言われていてな」
「どうしてですか?」
「リゼがボムゴーレムの魔法陣を発見して破壊しただろう。冒険者ギルドとしては、貢献度が一番高かったと判断したそうだ」
「そんな……現場の指揮を取っていたリャンリーさんの方が――」
「もちろん、戦った冒険者たち全員が、町を救ったことには変わりない。ただ、政治的な面もあり、誰かを祭り上げる必要がある」
「それなら、リャンリーさんが」
「リゼ。私じゃ駄目なんだよ。こういうのは冒険者……次世代の冒険者たちに希望を持たせられるような人物がいいんだよ」
リャンリーは何度もリゼの言葉を遮った。
新進気鋭で“宵姫”の二つ名を持ち、エルガレム王国で有名な銀翼のメンバーであるリゼ。
ボムゴーレムに必死でしがみつき、諦めなかった光景を戦闘していた冒険者たちは目にしている。
リゼが選ばれたとしても文句を言う冒険者はいないというのが、リャンリーの見解だった。
もっとも、戦闘に参加した冒険者の何人かは、すでにバビロニアを去っている。
リャンリーは空いてる時間は全て、冒険者たちの見送りをしていた。
バビロニアで一緒に過ごした仲間たちの旅立ちを快く送り出すためだ。
迷宮に入場出来なくなったため、早々にバビロニアを去ることに負い目を感じている冒険者たちへの心の負担を軽くしてあげようとする気遣いだった。
同時にリゼの貢献度が高く、領主から表彰されるということは伝えていた。
新天地でも、今回のスタンピードの件は噂になるはずだ。
その時、話をする際に誰が一番活躍をしたなどを絶対に聞かれる。
普通であれば、魔核を手にした者が選ばれるが、今回は魔核の取り出しが起爆となったため、その冒険者は亡くなっている。
自分を中心に話すのではなく、誰かを軸に話をした方が、聞き手が喜ぶ話になりやすい。
得てして冒険者たちは、この手の話が好きだし、酒の場では必ず盛り上がる話題になる。
自分たちもバビロニアを救った冒険者だと新天地で話しやすいようにと、リャンリーから去っていく冒険者たちへ、はなむけの言葉だった。
ほとんどの冒険者たちはリャンリーに感謝をして、笑顔でバビロニアを去って行った。
「間違いなくリゼは、町を救った功労者なんだ。そのことは変えることが出来ない事実だ。だからこそ、胸を張れ」
「分かりました」
夢の中でクウガが言っていたのは、こういうことなのだと理解する。
少しだけ自分に自信を持って良いのだと……。
町を歩いていた時、町の人たちから感謝の言葉を掛けられていた。
人が集まり歩くのも困難な状況になるので、リャンリーが町の人たちを宥めながら進んでいたが、自分がこんなに感謝されている理由が、先程のリャンリーの言葉に関係しているのだと、リゼは思い返していた。
だからこそ、堂々とした態度で応えようと努める。
リャンリーと共に領主が待つ部屋へ向かう。
すれ違う使用人たちが皆、頭を下げて行く。
この光景が昔、育った屋敷の嫌な光景と重なり、自分が嫌な人間になったのではないかと錯覚してしまい不快に感じていた。
自分には価値がないのに、地位や恩恵のせいで自分がさも偉いかのように錯覚する愚かで醜い人間たちを多く見て育ったからだ。
複雑な表情を浮かべるリゼにリャンリーも気付いていたが、声をかけることなく領主が待つ部屋に到着する。
扉の前の衛兵に声を掛けると、リャンリーが来たことを扉越しに伝える。
入室の許可が出ると、衛兵は門を開けた。
部屋に入ると、正面に見慣れない男性が二人座っていた。
両脇には多くの衛兵や騎士たちが二人を護衛している。
一人は領主だと分かるが、もう一人も領主に負けない気品を持っていた。
(……もしかして、ラバンニアル共和国の国主様⁈)
冒険者ギルド会館で、ギルド職員から聞いたことを思い出して、リャンリーの動きを見ながら、失礼の無いようにと慎重な行動を取る。
屋敷に入る時、門番へ事前に連絡をしていたため、自分たちの目の前にいるのが“リゼ”という冒険者だと言うことを知っている国主と領主。
思っていたよりも幼い容姿のリゼに少しだけ驚くが、リャンリーよりエルガレム王国を拠点に活動している銀翼のメンバーだと聞いていた。
見た目で判断するのは愚か者のすることだと知っているからこそ、容姿に関係なく実力があるリゼを興味深く見ていた。
リャンリーが一礼してリゼのことを伝えると、領主が礼の言葉を口にする。
続けて国主も同じように感謝の言葉でリゼを労った。
形式的なことなので、特別な言葉を交わすことなく決定事項のみ伝えられた。
リゼには冒険者ギルドからの報酬とは別に、白金貨二枚を褒美と言う名目で渡された。
当然、断ることなど出来ないリゼは有難く受け取る。
「町を守るために戦い亡くなった冒険者たちへの慰霊碑とともに、戦ってくれた冒険者たちの記念碑を立てるつもりだ。その記念碑の一番上に“宵姫:リゼ”の名を刻もう」
記念碑は町を守った証として建てられることが多い。
名前を刻まれるのは、上から貢献度の高い順番になる。
参加しただけの冒険者は字も小さい。
町の中央に建てられて、冒険者たちの目標とされる証となる。
始めてバビロニア壊滅の危機に直面した今回のスタンピード。
人々の記憶から風化させず、教訓として残す意味もあった。
エルガレム王国の王都にも中央に大きな記念碑が三つほど建っているので、記念碑の重要性をリゼは理解していたし、自分もそこに刻まれている名前を見ていた記憶がある。
当然、何十年も前の記念碑なので知っている名前は無いが、いまでも町の人たちからも丁重に扱われている。
だが、二つ名まで刻まれている記念碑は見たことがない。
エルガレム王国には二つ名の風習が無いことも関係しているが……。
「リゼよ」
「はい」
国主の問いかけに対して、すぐに返事をする。
「お主も国に戻るのか?」
「はい。いずれ戻ろうと思っております」
「そうか……ぞれは残念だな。まぁ、冒険者を縛り付けることは出来ぬからの。エルガレム王国の国王と会談する際は、一言礼を言っておくとしよう」
思っていた以上の事態にリゼは驚くが、これはラバンニアル共和国に何かあった時、エルガレム王国の冒険者を派遣してくれという牽制の意味もある。
国としての規模に比例するように、冒険者の質や人数もエルガレム王国の方が上だ。
今まで以上に協力関係を築く交渉材料として、リゼは利用されることになる。
そして“宵姫”の名は、多くの冒険者たちが耳にすることになるのだった。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十四』
『魔力:三十三』
『力:二十八』
『防御:二十』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百八』
『回避:五十六』
『魅力:二十四』
『運:五十八』
『万能能力値:十四』
■メインクエスト
■サブクエスト
・殺人(一人)。期限:無
・報酬:万能能力値(十増加)
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)
まさか、領主の館に来ると思っていなかった……リゼはリャンリーの顔を見ると、騙したつもりはなかったのか、申し訳なさそうだった。
「リゼが目覚めたら、連れてくるように言われていてな」
「どうしてですか?」
「リゼがボムゴーレムの魔法陣を発見して破壊しただろう。冒険者ギルドとしては、貢献度が一番高かったと判断したそうだ」
「そんな……現場の指揮を取っていたリャンリーさんの方が――」
「もちろん、戦った冒険者たち全員が、町を救ったことには変わりない。ただ、政治的な面もあり、誰かを祭り上げる必要がある」
「それなら、リャンリーさんが」
「リゼ。私じゃ駄目なんだよ。こういうのは冒険者……次世代の冒険者たちに希望を持たせられるような人物がいいんだよ」
リャンリーは何度もリゼの言葉を遮った。
新進気鋭で“宵姫”の二つ名を持ち、エルガレム王国で有名な銀翼のメンバーであるリゼ。
ボムゴーレムに必死でしがみつき、諦めなかった光景を戦闘していた冒険者たちは目にしている。
リゼが選ばれたとしても文句を言う冒険者はいないというのが、リャンリーの見解だった。
もっとも、戦闘に参加した冒険者の何人かは、すでにバビロニアを去っている。
リャンリーは空いてる時間は全て、冒険者たちの見送りをしていた。
バビロニアで一緒に過ごした仲間たちの旅立ちを快く送り出すためだ。
迷宮に入場出来なくなったため、早々にバビロニアを去ることに負い目を感じている冒険者たちへの心の負担を軽くしてあげようとする気遣いだった。
同時にリゼの貢献度が高く、領主から表彰されるということは伝えていた。
新天地でも、今回のスタンピードの件は噂になるはずだ。
その時、話をする際に誰が一番活躍をしたなどを絶対に聞かれる。
普通であれば、魔核を手にした者が選ばれるが、今回は魔核の取り出しが起爆となったため、その冒険者は亡くなっている。
自分を中心に話すのではなく、誰かを軸に話をした方が、聞き手が喜ぶ話になりやすい。
得てして冒険者たちは、この手の話が好きだし、酒の場では必ず盛り上がる話題になる。
自分たちもバビロニアを救った冒険者だと新天地で話しやすいようにと、リャンリーから去っていく冒険者たちへ、はなむけの言葉だった。
ほとんどの冒険者たちはリャンリーに感謝をして、笑顔でバビロニアを去って行った。
「間違いなくリゼは、町を救った功労者なんだ。そのことは変えることが出来ない事実だ。だからこそ、胸を張れ」
「分かりました」
夢の中でクウガが言っていたのは、こういうことなのだと理解する。
少しだけ自分に自信を持って良いのだと……。
町を歩いていた時、町の人たちから感謝の言葉を掛けられていた。
人が集まり歩くのも困難な状況になるので、リャンリーが町の人たちを宥めながら進んでいたが、自分がこんなに感謝されている理由が、先程のリャンリーの言葉に関係しているのだと、リゼは思い返していた。
だからこそ、堂々とした態度で応えようと努める。
リャンリーと共に領主が待つ部屋へ向かう。
すれ違う使用人たちが皆、頭を下げて行く。
この光景が昔、育った屋敷の嫌な光景と重なり、自分が嫌な人間になったのではないかと錯覚してしまい不快に感じていた。
自分には価値がないのに、地位や恩恵のせいで自分がさも偉いかのように錯覚する愚かで醜い人間たちを多く見て育ったからだ。
複雑な表情を浮かべるリゼにリャンリーも気付いていたが、声をかけることなく領主が待つ部屋に到着する。
扉の前の衛兵に声を掛けると、リャンリーが来たことを扉越しに伝える。
入室の許可が出ると、衛兵は門を開けた。
部屋に入ると、正面に見慣れない男性が二人座っていた。
両脇には多くの衛兵や騎士たちが二人を護衛している。
一人は領主だと分かるが、もう一人も領主に負けない気品を持っていた。
(……もしかして、ラバンニアル共和国の国主様⁈)
冒険者ギルド会館で、ギルド職員から聞いたことを思い出して、リャンリーの動きを見ながら、失礼の無いようにと慎重な行動を取る。
屋敷に入る時、門番へ事前に連絡をしていたため、自分たちの目の前にいるのが“リゼ”という冒険者だと言うことを知っている国主と領主。
思っていたよりも幼い容姿のリゼに少しだけ驚くが、リャンリーよりエルガレム王国を拠点に活動している銀翼のメンバーだと聞いていた。
見た目で判断するのは愚か者のすることだと知っているからこそ、容姿に関係なく実力があるリゼを興味深く見ていた。
リャンリーが一礼してリゼのことを伝えると、領主が礼の言葉を口にする。
続けて国主も同じように感謝の言葉でリゼを労った。
形式的なことなので、特別な言葉を交わすことなく決定事項のみ伝えられた。
リゼには冒険者ギルドからの報酬とは別に、白金貨二枚を褒美と言う名目で渡された。
当然、断ることなど出来ないリゼは有難く受け取る。
「町を守るために戦い亡くなった冒険者たちへの慰霊碑とともに、戦ってくれた冒険者たちの記念碑を立てるつもりだ。その記念碑の一番上に“宵姫:リゼ”の名を刻もう」
記念碑は町を守った証として建てられることが多い。
名前を刻まれるのは、上から貢献度の高い順番になる。
参加しただけの冒険者は字も小さい。
町の中央に建てられて、冒険者たちの目標とされる証となる。
始めてバビロニア壊滅の危機に直面した今回のスタンピード。
人々の記憶から風化させず、教訓として残す意味もあった。
エルガレム王国の王都にも中央に大きな記念碑が三つほど建っているので、記念碑の重要性をリゼは理解していたし、自分もそこに刻まれている名前を見ていた記憶がある。
当然、何十年も前の記念碑なので知っている名前は無いが、いまでも町の人たちからも丁重に扱われている。
だが、二つ名まで刻まれている記念碑は見たことがない。
エルガレム王国には二つ名の風習が無いことも関係しているが……。
「リゼよ」
「はい」
国主の問いかけに対して、すぐに返事をする。
「お主も国に戻るのか?」
「はい。いずれ戻ろうと思っております」
「そうか……ぞれは残念だな。まぁ、冒険者を縛り付けることは出来ぬからの。エルガレム王国の国王と会談する際は、一言礼を言っておくとしよう」
思っていた以上の事態にリゼは驚くが、これはラバンニアル共和国に何かあった時、エルガレム王国の冒険者を派遣してくれという牽制の意味もある。
国としての規模に比例するように、冒険者の質や人数もエルガレム王国の方が上だ。
今まで以上に協力関係を築く交渉材料として、リゼは利用されることになる。
そして“宵姫”の名は、多くの冒険者たちが耳にすることになるのだった。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十四』
『魔力:三十三』
『力:二十八』
『防御:二十』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百八』
『回避:五十六』
『魅力:二十四』
『運:五十八』
『万能能力値:十四』
■メインクエスト
■サブクエスト
・殺人(一人)。期限:無
・報酬:万能能力値(十増加)
■シークレットクエスト
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