上 下
274 / 281

第274話

しおりを挟む
「そういや、ジジィ。アルカントラに出入りしている商人にカースドアイテムを売りつけただろう」

 ジャンロードがジジィと呼んだ人物はブライトだった。

「なんのことだ?」

 身に覚えのないブライトは怪訝そうな表情で答える。

「ジジィにとっては些細なことなんだろうが――」

 完全に忘れていると思ったジャンロードは面倒臭そうに説明をする。
 シャルルの腕につけられていたカースドアイテムについてだった。

「あぁ、確かにそんなこともあったな」

 カースドアイテムを見て思い出したのか、ブライトはジャンロードを小馬鹿にしたように話し始めた。
 任務でアルカントラ法国との国境近くまで行った時、町で偶然会った商人と酒を酌み交わした。
 その時に、商人の娘がアルカントラ法国の学院で優秀な生徒だと聞く。
 そして親馬鹿だと思いながら、いずれはアルカントラ法国の重要な役職に就くだろうと自慢気に話をする。
 ただ娘曰く、後から入って来た生徒が自分よりも優秀で学院内に自分の地位を脅かしている。
 その目障りな生徒を卒院までにどうにかしたいと、娘から相談を受けていたと酒のせいで口が軽くなった商人が話す。

「それなら、いい物がありますよ」

 ブライトは例の腕輪……カースドアイテムを懐から出す。

「この腕輪は装着した者の魔力と魔法力を著しく下げる効果があります。
もちろん、この腕輪は媒体なので数日も着けていれば、装着した者へ完全に呪い自体が移り、日を増すごとに魔力と魔法力は下がっていくでしょう」
「それは、本当か?」

 疑う商人にブライトは笑いながら言う。

「このエール一杯でお譲りしますよ。疑われないように、この似た腕輪も差し上げます。色が違うので模造品だと分かりますが、くれぐれも間違えないように」

 エール一杯なら騙されてもいいかと思う商人は、ブライトから腕輪を受け取る。
 後日、他の商品を納めるついでに学院を訪れた。
 学院にも出入りしていた商人の父親だったため、娘のエバに腕輪を渡すことは造作もないことだった。
 エバは喜んだ。
 これで邪魔者がいなくなる。
 生徒たちから羨望の眼差しを一心に浴びる日々が復活する。
 そんなエバの思いなど知らないシャルルは、素直にエバから腕輪を受け取った。
 ジャンロードが呪い返しをしたと話すと、ブライトは興味のない返事をする。
 自分と思っていた結末と違っていたからだ。
 その後、腕輪の効果が気になりブライトの部下たちが調査をしたところ、優秀な生徒と聞いていたエバは確かに優秀だったが、同じような生徒は他にもいたことが判明する。
 父親が教団に賄賂を渡していたため、特別な待遇を受けられただけだった。
 本当に優秀でアルカントラ法国の中枢の役職に就けるような存在であれば、ブライトはエバを懐柔させようと目論んでいた。
 だが、自分に有効な人材ではないと分かると、一気に興味を無くした。
 ジャンロードから腕輪の話を聞くまで、思い出すことさえしなかった。
 それにジャンロードが呪い返しのことを話したが、アルカントラ法国の有力な聖職者であれば、それが呪い返しだと一目で分かる。
 だが、そのカースドアイテムを誰が製作したかまでは分かるはずがない。
 そもそも、アルカントラ法国で自分と同じ聖職者の職務についている者が、他人に呪いを施したなど言語道断だ。
 他国に知られる……いいや、国民に知られるわけにいかないので、一生幽閉されて過ごすことになる。
 当然、いままで便宜を図っていた父親の商人も、それ相応の報いを受けることとなるだろう。
 不幸な話が好きなブライトの興味を示すには十分な内容だった。
 しかし、ブライトに一泡吹かせようと思っていたジャンロードは拍子抜けして、次の話へと移る。

「次にアルドゥルフロスト連邦だが、アルカントラとの関係を強めようとしている感がある。弱小国だからクソ女神の力を借りたいんだろうな! 暫くは警戒しておいたほうがいいだろう。なんなら強引にでも俺たちと交流をしたくなるようにしてもいいけどな」
「あまり表立つことは感心せぬな」
「分かっている! それと例のカースドアイテムの回収も出来た。よりにもよってスワロウトードの巣に眠っていたそうだ」
「そうだ…‥ってことは自分で見つけたわけじゃないようだな」
「あぁ、偶然……というよりも、ジジィのカースドアイテムを解呪した礼に貰った」
「それで」
「大丈夫だって。これの正体までは気付いていない。まぁ、見た時は嬉しすぎて涙がこぼれたけどよ。あの馬鹿が死んでくれたからな。ある意味、実験は成功だってことだ」
「それなら問題ない」
「俺からの報告は、これで終わりだ」

 アルカントラ法国を口にするのも嫌なところに、ブライトの苦言で機嫌を損ねて報告を終えた。

「最後はオプティミスだが、確実に殺したんだろうな?」
「う~ん。多分、死んだと思うよ」
「なんだと!」

 ブライトは確認だけのつもりだったが、オプティミスから予想していたものと違う言葉が返ってきたことに憤慨する。

「だって、コカトリスの番を討伐した後に、用意していたアンデッドと一緒に洞窟へ閉じ込めたんだよ。確認のしようがないじゃない。それに数日の間は部下たちには、洞窟周りの見張りをさせていたけど、誰も出てこなかったよ」
「アンデッド?」
「うん、そうだよ。コカトリスの討伐を終えて安心していたところに、部下に用意させていたグールやデスナイトの大群を送り込んだけど、問題あった?」
「失敗作を勝手に持ち出したのか? そんな大軍を奴らに知られることなく送り込むなど不可能だろう⁈」
「う~ん。価値のないものを再利用したから褒められると思ったんだけどな。まぁ、いいや……アンデッドは僕たちが入って一定の時間が経ったら、部下たちがスクロール魔法巻物の転移魔法で一気にアンデッドと一緒に転移させただけだよ。もちろん、事前に仕込んでおいたし、出入り口もコカトリス討伐前に塞ぐ細工をしていたから、逃げ出すことは出来ないよ」
「スクロールは幾つ使用したんだ?」
「全部で三十……いや、四十だったかな」
「なに!」

 転移魔法が施されたスクロール魔法巻物は高額で取引されている。
 これはフォークオリア法国が製造制限をしているからだと噂されている。
 冒険者が単独購入することは稀だ。
 スクロール魔法巻物にもよるが、使用時に転移させる人数が異なる。
 一般に出回っていることスクロール魔法巻物で最大五人だ。
 価格を下げれば、一人や二人が転移出来るスクロール魔法巻物を購入することが出来るが、それでも高価だ。
 購入するにしても、個人でなくクランでの購入になるが、金銭的な負担も大きい。
 なにより、白金貨四十枚以上で販売されるため、簡単に購入できる代物でない。
 今回、オプティミスが使用したスクロール魔法巻物は、秘密裏にフォークオリア法国から横流しして手に入れていた物だ。
 王子派に協力している対価になる。
 ブライトとしては他国との戦争時に使用する計画だったため、オプティミスの行動は予想外だった。
 部下任せにしていたスクロール魔法巻物などの管理は厳重に保管されているはずなので、簡単に持ち出すことは出来ない。
 ただ、相手が虹蛇だとすれば、話は別だ。
 オプティミスの発言に頭を抱えながら、ブライトは苦言を呈す。

「だいたい、そのスクロール魔法巻物の転移魔法を使って、その場から脱出することだって考えられるだろうに」
「僕が長年銀翼に潜伏していた経験と調査の結果、高額な脱出用スクロール魔法巻物を個人で持っているメンバーはいなかったし、クエストで使用することも無かったよ。念のため、各メンバーの転移しそうな場所にも部下たちを派遣して見張らせたけど、アルベルトたちが現れたって報告は今も無いしね。つまり、生きていても洞窟の中で苦しんでいるんじゃないかな? 回復やアンデッドに有効な魔法を使うラスティアは、こっちに引き込んでいるし、厄介なクウガもコカトリス戦で重傷を負わせたから……あっ、もしかしてもう全員がアンデッドになっていたりして」
「そんないい加減な――」
「もうよい」

 ブライトの言葉を遮り、教皇アルバートがオプティミスの報告を強制的に終わらせた。

「ブライトよ。我が任命したオプティミスを、そこまで信用できないのか? であれば、お前が出向いて直接、自分の目で確認をしてみたらどうだ?」
「いえ、そのようなことは……出過ぎた真似をして申し訳ございません」
「分かればよい。もし、納得出来ないようであれば、お前の気が済むようにすればよい」
「承知致しました」

 自分の言葉を信じてもらえなかったオプティミスは頬を膨らませてブライトを睨む。
 ブライトも教皇アルバートに逆らうつもりは毛頭ないため、再調査などをするつもりはなかった。
 報告が全て終わったことを確認すると、教皇アルバートが立ち上がる。

「準備が上々なことは理解した。聖戦の時まで引き続き怠らず、女神リリス様の神託に従え」

 その言葉に、虹蛇七人は一斉に「女神リリス様の仰せのままに」と頭を下げて返事をした。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【3部完結】ダンジョンアポカリプス!~ルールが書き変った現代世界を僕のガチャスキルで最強パーティーギルド無双する~

すちて
ファンタジー
謎のダンジョン、真実クエスト、カウントダウン、これは、夢であるが、ただの夢ではない。――それは世界のルールが書き変わる、最初のダンジョン。  無自覚ド善人高校生、真瀬敬命が眠りにつくと、気がつけばそこはダンジョンだった。得たスキルは『ガチャ』! クラスメイトの穏やか美少女、有坂琴音と何故か共にいた見知らぬ男性2人とパーティーを組み、悪意の見え隠れする不穏な謎のダンジョンをガチャスキルを使って善人パーティーで無双攻略をしていくが…… 1部夢現《ムゲン》ダンジョン編、2部アポカリプスサウンド編、完結済。現代ダンジョンによるアポカリプスが本格的に始まるのは2部からになります。毎日12時頃更新中。楽しんで頂ければ幸いです。

処理中です...