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第273話
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「私からは以上になります」
邪魔も入ったが、エンヴィーが静かに報告を終える。
「次は俺だな」
変わらずに無礼な口調のジャンロードをブライトが睨みつけるが、それを気にするジャンロードではなかった。
ジャンロードの任務は各国の諜報活動だった。
「フォークオリア法国だが、円盤の収集には苦労しているようだ。この間も円盤の一つをエルドラード王国に奪われている」
「あぁ、銀翼も円盤を探していたよ。まぁ、秘密裏に動いていたようだし、メンバーでも数人しか知らなかったようだけどね」
銀翼という言葉に、全員が過剰とも言える反応を示す。
「それと、僕の情報だと今回妨害したのも銀翼らしいよ」
「銀翼はお前が全滅させたんだろう?」
「う~ん、少し違うよ。殺したのはラスティアを除く正式メンバーだけ。見習いの二人は対象外だよ」
終始笑いながら話すオプティミスに苛立ち始める。
「あっ、正確には銀翼と他一名だった」
「どうでもいいことだろう」
「ん~……でも、その他一名はジャンロードとエンヴィーは会っているよ」
「どこでだ?」
自分を疑われた気分になったジャンロードの語尾が強まる。
「ほら、バビロニアに向かう馬車でリゼって冒険者がいたでしょう? 偶然とはいえ、荷馬車一台に虹蛇が三人も乗っていたなんて凄いよね」
「ちょっと、待ってよ。私とジャンロードは偶然に同じ馬車だったことは覚えているわ。もちろん、そのリゼって冒険者もね。でも、オプティミス! あなたは、あの馬車に乗っていなかったでしょう‼」
「そうだ。あの時、俺とエンヴィーは初対面を装った。お前がいた記憶はない」
オプティミスの言葉から、荷馬車に乗っていた三人目の虹蛇がオプティミスだというのは間違いない。
エンヴィーとジャンロードはお互いの顔を見る。
二人してオプティミスの存在に気付かなかったことなど有り得ない! と確認するようだった。
「ふふ~ん。僕はラスティアを訪ねてきたリゼに不審な動きが無いか、変装して同乗していたんだよね。まぁ、コボルトに襲われた時は面倒だったよ。戦うわけにいかないからね。まぁ、運よく商人がコボルトに殺されたから、見つからないように商人と成り代わったんだけどね。僕はコボルトよりも、その後にジャンロードに脅されたほうが怖かったよ~」
「嘘つくな。俺は報酬として商人のアイテムバッグから商品を――」
ジャンロードは言いかけて、なにかを思い出したかのように話すのを止めた。
「ちぇ。たしかに、お前なら可能だったな」
道化師のオプティミスが、アイテムバックの制約解除が出来ることを思い出し悔しがる。
「へへへぇ。名演技だったでしょう。ジャンロードが銀貨五枚で納得してくれれば、もっと良かったんだけどね」
「てめぇ‼」
「ん、なに?」
自慢するオプティミスにジャンロードは「本当に、こいつは苦手だ」と心の中で呟く。
「そのリゼだけど、君たちが見落としたダークドラゴンの爪を持っていったよね」
「あぁ、俺も平然を装ったが……なんでサンドリザードの爪と一緒になっているんだよ」
「幼少期の爪だったからでしょう。サンドリザードの成体だったら、ワイバーンと同等の大きさだから、ドラゴンの子供も同じくらいなんじゃないかしら。まぁ、戦闘力でいえば、サンドリザードは格段に弱いけどね。討伐しやすく汎用性が高い爪だから、よく出回る素材よ。だから、いちいち検品もしないだろうし、微妙な違いなんて一般の商人や冒険者に見抜くのは至難の業よ」
「珍しく奪わなかったのは、なんでなの?」
「あそこで無理に奪って目立つのは任務に支障をきたす恐れもあったし、なによりも面倒だったしな。俺にとって、そこまで欲しい物でもなかったからな」
「ふ~ん」
「それよりもダークドラゴンが暴れているという報告がないわね。子供を殺されたダークドラゴンが大人しくしているとは思えないわ」
「……たしかにそうだね。もしかしたら、親の方も殺されているのかもよ」
「それはそれで問題でしょう。ダークドラゴンを倒せる戦力を持った国があるってことでしょう!」
「調査する必要があるみたいだね。その調査は――」
「いい加減にしろ‼」
話が脱線したことをブライトに叱られる。
「悪い悪い。話を戻すが、フォークオリア法国だが、あと二年もすれば王子派が政権を取るだろう。まぁ、俺たちの後ろ盾があってこそだがな」
その後、エルドラード王国の報告をオプティミスの横やりに耐えながら報告する。
「ラバンニアル共和国は、来年に国主選挙がある。すでに裏工作は、ある程度終わっていると思うが、プルゥラどうだ?」
ジャンロードが話を変えて、プルゥラに質問をする。
「大丈夫よ。ラバンニアル共和国の商人の多くは私の息がかかった者たちの圧力に屈したし、選挙委員の買収も終えているわ。次期国主は、今のバビロニア領主で決定しているわ」
プルゥラは妖艶に微笑み返す。
ラバンニアル共和国は五年に一度、国で一番偉い国主を選出するため選挙を行う。
国民全員というわけでなく、各都市や町で選ばれた代表者が首都ラバンまで出向き、決まった日時に選挙をして、新たな国主を選出する。
都市や町の大きさで代表者の数も異なるため、大きい都市ほど影響力が大きい。
今回、バビロニアからの領主もプルゥラの息がかかった人物だ。
他にも商人たちに圧力をかけて、障害となる人物を徐々に追い詰めていった。
なにより公平な立場の選挙委員さえも、プルゥラに逆らうことなく従うしかない状況に追い込まれていた。
「これでラバンニアル共和国は手中に収めたも同然だな」
「えぇ。近い将来、リリア聖国の属国になるでしょうね」
得意気に笑うプルゥラの笑い声が響く。
「さっきの続きだが、俺がご丁寧に傷つけてやった迷宮の扉も、そのうち壊れるだろうよ。俺の部下たちを何年もかけて、バビロニアで有名な冒険者リャンリーのパーティーとして忍び込ませている。扉の破壊前に結界を無効化する。エンヴィーが言ったサークルも俺の部下が設置したやつだ」
隠し事をされていたエンヴィーは恥をかく形となり、ジャンロードを睨んでいた。
「それと同時に、何年もかけて誘導魔法を施した魔物たちに魔法を発動させて、迷宮内に設置したサークルを利用して、魔物たちを迷宮から一気に町を襲わせる。領主やリャンリーには悪いが、バビロニアは大騒ぎになるだろうな」
自分の手柄を自慢するジャンロードは話を続ける。
「今回の作戦終了次第、部下たちには戻ってくる言ってあるから、詳細な報告は後日するつもりだ。何人かはリリア様のために命を投げ出すことになるがな」
既に作戦が成功したかのように話すジャンロードだったが、誰もジャンロードの自慢話に興味が無かった。
「ところで、フォークオリア法国の連中にも情報は流したんだろう?」
誰からも反応が無かったジャンロードが再度、話を変えてプルゥラを見る。
「えぇ、あなたから聞いたことを、そのまま伝えたわ。その時期にフォークオリア法国からバビロニア領主を訪ねる手はずも整っているわ。まぁ、さっきも報告したけどバビロニアの領主も次期国主という餌で買収済だから安心してちょうだい。ただ、結界石が偽物だったことついては、信じ切っていないようだけどね」
「まぁ問題ないだろうよ。迷宮から魔物が飛び出してこれば、否応なしに信じるだろう。そもそも結界自体が必要かどうかも怪しいからな」
「それは保険と言うことでしょう。でも、あなたが仕掛けるスタンピードが実行されれば、結界の有効性については立証される形になるわね」
「まぁな」
不敵に笑うジャンロードを、エンヴィーは不快に見つめる。
まるでジャンロードの手の平で転がされていたかのような感じだったからだ。
自分の任務外のことに関与したうえで、それ以上の成果をあげる。
昔から、気に食わない……男尊女卑のような思考を持っているのか、なにかにつけてエンヴィーを馬鹿にしている節がある。
それはプルゥラに対しても同じだった。
プルゥラのように軽くあしらえば良いのだが……。
エンヴィーの視線に気付いたジャンロードは、気を逆撫でるように小馬鹿するように視線を返すことが、さらにエンヴィーを苛立たせていた。
邪魔も入ったが、エンヴィーが静かに報告を終える。
「次は俺だな」
変わらずに無礼な口調のジャンロードをブライトが睨みつけるが、それを気にするジャンロードではなかった。
ジャンロードの任務は各国の諜報活動だった。
「フォークオリア法国だが、円盤の収集には苦労しているようだ。この間も円盤の一つをエルドラード王国に奪われている」
「あぁ、銀翼も円盤を探していたよ。まぁ、秘密裏に動いていたようだし、メンバーでも数人しか知らなかったようだけどね」
銀翼という言葉に、全員が過剰とも言える反応を示す。
「それと、僕の情報だと今回妨害したのも銀翼らしいよ」
「銀翼はお前が全滅させたんだろう?」
「う~ん、少し違うよ。殺したのはラスティアを除く正式メンバーだけ。見習いの二人は対象外だよ」
終始笑いながら話すオプティミスに苛立ち始める。
「あっ、正確には銀翼と他一名だった」
「どうでもいいことだろう」
「ん~……でも、その他一名はジャンロードとエンヴィーは会っているよ」
「どこでだ?」
自分を疑われた気分になったジャンロードの語尾が強まる。
「ほら、バビロニアに向かう馬車でリゼって冒険者がいたでしょう? 偶然とはいえ、荷馬車一台に虹蛇が三人も乗っていたなんて凄いよね」
「ちょっと、待ってよ。私とジャンロードは偶然に同じ馬車だったことは覚えているわ。もちろん、そのリゼって冒険者もね。でも、オプティミス! あなたは、あの馬車に乗っていなかったでしょう‼」
「そうだ。あの時、俺とエンヴィーは初対面を装った。お前がいた記憶はない」
オプティミスの言葉から、荷馬車に乗っていた三人目の虹蛇がオプティミスだというのは間違いない。
エンヴィーとジャンロードはお互いの顔を見る。
二人してオプティミスの存在に気付かなかったことなど有り得ない! と確認するようだった。
「ふふ~ん。僕はラスティアを訪ねてきたリゼに不審な動きが無いか、変装して同乗していたんだよね。まぁ、コボルトに襲われた時は面倒だったよ。戦うわけにいかないからね。まぁ、運よく商人がコボルトに殺されたから、見つからないように商人と成り代わったんだけどね。僕はコボルトよりも、その後にジャンロードに脅されたほうが怖かったよ~」
「嘘つくな。俺は報酬として商人のアイテムバッグから商品を――」
ジャンロードは言いかけて、なにかを思い出したかのように話すのを止めた。
「ちぇ。たしかに、お前なら可能だったな」
道化師のオプティミスが、アイテムバックの制約解除が出来ることを思い出し悔しがる。
「へへへぇ。名演技だったでしょう。ジャンロードが銀貨五枚で納得してくれれば、もっと良かったんだけどね」
「てめぇ‼」
「ん、なに?」
自慢するオプティミスにジャンロードは「本当に、こいつは苦手だ」と心の中で呟く。
「そのリゼだけど、君たちが見落としたダークドラゴンの爪を持っていったよね」
「あぁ、俺も平然を装ったが……なんでサンドリザードの爪と一緒になっているんだよ」
「幼少期の爪だったからでしょう。サンドリザードの成体だったら、ワイバーンと同等の大きさだから、ドラゴンの子供も同じくらいなんじゃないかしら。まぁ、戦闘力でいえば、サンドリザードは格段に弱いけどね。討伐しやすく汎用性が高い爪だから、よく出回る素材よ。だから、いちいち検品もしないだろうし、微妙な違いなんて一般の商人や冒険者に見抜くのは至難の業よ」
「珍しく奪わなかったのは、なんでなの?」
「あそこで無理に奪って目立つのは任務に支障をきたす恐れもあったし、なによりも面倒だったしな。俺にとって、そこまで欲しい物でもなかったからな」
「ふ~ん」
「それよりもダークドラゴンが暴れているという報告がないわね。子供を殺されたダークドラゴンが大人しくしているとは思えないわ」
「……たしかにそうだね。もしかしたら、親の方も殺されているのかもよ」
「それはそれで問題でしょう。ダークドラゴンを倒せる戦力を持った国があるってことでしょう!」
「調査する必要があるみたいだね。その調査は――」
「いい加減にしろ‼」
話が脱線したことをブライトに叱られる。
「悪い悪い。話を戻すが、フォークオリア法国だが、あと二年もすれば王子派が政権を取るだろう。まぁ、俺たちの後ろ盾があってこそだがな」
その後、エルドラード王国の報告をオプティミスの横やりに耐えながら報告する。
「ラバンニアル共和国は、来年に国主選挙がある。すでに裏工作は、ある程度終わっていると思うが、プルゥラどうだ?」
ジャンロードが話を変えて、プルゥラに質問をする。
「大丈夫よ。ラバンニアル共和国の商人の多くは私の息がかかった者たちの圧力に屈したし、選挙委員の買収も終えているわ。次期国主は、今のバビロニア領主で決定しているわ」
プルゥラは妖艶に微笑み返す。
ラバンニアル共和国は五年に一度、国で一番偉い国主を選出するため選挙を行う。
国民全員というわけでなく、各都市や町で選ばれた代表者が首都ラバンまで出向き、決まった日時に選挙をして、新たな国主を選出する。
都市や町の大きさで代表者の数も異なるため、大きい都市ほど影響力が大きい。
今回、バビロニアからの領主もプルゥラの息がかかった人物だ。
他にも商人たちに圧力をかけて、障害となる人物を徐々に追い詰めていった。
なにより公平な立場の選挙委員さえも、プルゥラに逆らうことなく従うしかない状況に追い込まれていた。
「これでラバンニアル共和国は手中に収めたも同然だな」
「えぇ。近い将来、リリア聖国の属国になるでしょうね」
得意気に笑うプルゥラの笑い声が響く。
「さっきの続きだが、俺がご丁寧に傷つけてやった迷宮の扉も、そのうち壊れるだろうよ。俺の部下たちを何年もかけて、バビロニアで有名な冒険者リャンリーのパーティーとして忍び込ませている。扉の破壊前に結界を無効化する。エンヴィーが言ったサークルも俺の部下が設置したやつだ」
隠し事をされていたエンヴィーは恥をかく形となり、ジャンロードを睨んでいた。
「それと同時に、何年もかけて誘導魔法を施した魔物たちに魔法を発動させて、迷宮内に設置したサークルを利用して、魔物たちを迷宮から一気に町を襲わせる。領主やリャンリーには悪いが、バビロニアは大騒ぎになるだろうな」
自分の手柄を自慢するジャンロードは話を続ける。
「今回の作戦終了次第、部下たちには戻ってくる言ってあるから、詳細な報告は後日するつもりだ。何人かはリリア様のために命を投げ出すことになるがな」
既に作戦が成功したかのように話すジャンロードだったが、誰もジャンロードの自慢話に興味が無かった。
「ところで、フォークオリア法国の連中にも情報は流したんだろう?」
誰からも反応が無かったジャンロードが再度、話を変えてプルゥラを見る。
「えぇ、あなたから聞いたことを、そのまま伝えたわ。その時期にフォークオリア法国からバビロニア領主を訪ねる手はずも整っているわ。まぁ、さっきも報告したけどバビロニアの領主も次期国主という餌で買収済だから安心してちょうだい。ただ、結界石が偽物だったことついては、信じ切っていないようだけどね」
「まぁ問題ないだろうよ。迷宮から魔物が飛び出してこれば、否応なしに信じるだろう。そもそも結界自体が必要かどうかも怪しいからな」
「それは保険と言うことでしょう。でも、あなたが仕掛けるスタンピードが実行されれば、結界の有効性については立証される形になるわね」
「まぁな」
不敵に笑うジャンロードを、エンヴィーは不快に見つめる。
まるでジャンロードの手の平で転がされていたかのような感じだったからだ。
自分の任務外のことに関与したうえで、それ以上の成果をあげる。
昔から、気に食わない……男尊女卑のような思考を持っているのか、なにかにつけてエンヴィーを馬鹿にしている節がある。
それはプルゥラに対しても同じだった。
プルゥラのように軽くあしらえば良いのだが……。
エンヴィーの視線に気付いたジャンロードは、気を逆撫でるように小馬鹿するように視線を返すことが、さらにエンヴィーを苛立たせていた。
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