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第265話
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ケルピー討伐後、リゼたちは地上へと戻ることにする。
余裕をもって迷宮を出るためだ。
やはり、出来るだけ深い階層に行きたいと思っている冒険者にとって、今の迷宮に魅力があるようには感じないと実感する。
かと言って、冒険者ギルドからのクエストの少ないので、バビロニアを離れようと思うのは自然の流れだった。
迷宮を出ると朝から降っていた雨も止み、雲の切れ間から沈もうとしている太陽が少しだけ顔を出し、濡れた地面を赤く照らしていた。
商業ギルドに討伐した魔物の素材を買い取って貰おうとすると、レティオールから止められた。
迷宮での運用が変わったことで、商業ギルドから通達が出る。
細かい買取が増えたことで、腐ったり痛んだりする素材以外は、ある程度の素材が貯まった時にまとめて買取をしたいそうだ。
物流が滞ることで、買い取った物を次に卸す作業にも支障をきたしていた。
商業者ギルドの怠慢だという冒険者たちもいたが、表立って文句を言うことはなく、陰口や酒の席で不満をぶちまける程度だった。
「商業ギルドも、アルカントラ法国とフォークオリア法国から来る客人の用意で大変みたいだしね」
領主の命令で来賓用の食事などの準備で手一杯となっているが、まだ極秘事項なので公には出来ない。
あくまで噂だけが一人歩きしていた。
リゼたちと同じように早めに迷宮を出る冒険者が多く、リゼの知っている時間よりも早く食事をすることとなり、飲食店としては売り上げが上がっているのだろうと思いながら、レティオールとシャルルが最近通っている店に案内された。
レティオールとシャルルは慣れた感じで注文をする。
リゼにとって初めての店なので、注文は二人に任せることにした。
今日の反省点などを話していると、隣の席で酒と食事を楽しんでいた冒険者の話が聞こえてきた。
「噂だけどよ、迷宮の結界石なんだが、どうやら故障しているらしぞ」
「俺も聞いた。だから、アルカントラ法国から魔法師が修理に来るらしいじゃないか」
「それまでに何もなけりゃいいけどな」
「大丈夫だろう。何年も問題なかったんだからよ」
「たしかにな」
リゼたち三人とも思わず、話を止めて聞き耳を立てていた。
町の雰囲気のせいか、悪い噂ばかりを耳にする。
出来るだけ早く迷宮が正常に戻り、以前のような街の雰囲気になればいいと思いながら、目の前の食べ物を口へと運ぶ。
「シャルルは、どのバフを習得しようとしていたの?」
「攻撃力か防御力です。バフのなかでも安価で一番使われると教えてもらいました」
「僕も相談を受けたけど状態異常のような特殊なものも重宝されると思うけど、シャルルだったら職業スキルで覚えられる可能性は高いから、よく使われるバフのほうがいいという考えにも共感したから、いいいんじゃないって答えたよ」
レティオールとシャルルたちの以前の仲間ハセゼラたちは、バフを使っていなかった。
戦闘の最中に、他のパーティーが使用をしているのを見るくらいだったが、バフが戦闘に必要なものだという知識は持っていたし、回復魔術師のシャルルは、いずれ必要になる魔法かも知れないと感じていた。
リゼは「不足分を貸そうか?」という言葉が頭に浮かぶが、シャルルは決して首を縦には振らない。
自分もそうだが、他人に借りてまでブックを購入するのは違うと感じていたからだ。
なにより、そう思われること自体が負担になってしまうと考える。
元気に取り繕うシャルルを、リゼとレティオールは気付いていたが気付かぬふりをして食事を進める。
少しでも早くシャルルの購入資金が貯まるように協力したい気持ちが強くなる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
バビロニアに戻って五日目になる。
迷宮の六階層まで行って戻るの繰り返しだった。
今日も迷宮から戻り、レティオールたちと一緒に食事を終えて二人と別れ、部屋に戻ろうとした時、待っていた……というのとは少し違うが、気になっていたメインクエストが表示される。
同時にリゼの思考が止まる。
目の前には『スタンピードからバビロニアを防衛。期限:スタンピード終息まで』『報酬:達成度により変動。最高報酬(万能能力値:十増加)』。
(スタンピードって――‼)
魔物たちが集団で襲ってくること。
ただ襲う訳では無く、理性を失い命あるかぎり破壊を繰り返す。
分かりやすく言えば暴走状態になる。
それが、ここバビロニアで起こるということを知らせたことになる。
町の人に話をしたところで信じて貰えるわけない。
なにより混乱を招く恐れもあるが……事前にスタンピードが起きることを知っているだけで、首謀者だという疑いを掛けられるかもしれない。
スタンピードが、いつ起きるのか? そしてどれだけ続くのか? 分からないことだらけだが、準備だけはしておく必要がある。
なんとなくだが、リゼは四方を見渡して、魔物たちが襲ってくる方向を確認する。
当たり前だが、今すぐにスタンピードが起こるわけでは無い。
不安を感じながら、来るべき時のために体を休めるため、部屋に戻る。
だが、興奮していたせいか、横になっても眠れないでいた。
習慣となっていた闇糸の練習をしながら、気を紛らわせる。
実戦で闇糸を使うほどに精度が上がっていた。
どれだけ多く練習しても、実戦での経験にには敵わない。
なにかの本で読んだ文章を思い出す。
左手を振り払うようにして五本の指から闇糸を出して、狙いをつけた天井や壁に固定する。
左手を引っ張るが、闇糸の強度不足は感じない。
天井の板が闇糸に引っ張られて、少しだけ弓なりに反ったことでリゼの中に「自分の体を持ち上げることが出来るのでは?」と思いつく。
もし自分の体を持ち上げられることが出来れば、戦術の幅広がる。
迷宮であれば天井に取り付けることが出来れば、飛行する魔物との戦闘の仕方も変わってくる。
思っていた以上に奥が深い闇糸に喜びながら、教えてくれたハンゾウとザイゾウに感謝する。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十三』
『魔力:三十二』
『力:二十七』
『防御:十九』
『魔法力:二十五』
『魔力耐性:十二』
『敏捷:百七』
『回避:五十五』
『魅力:二十三』
『運:五十七』
『万能能力値:五』
■メインクエスト
・スタンピードからバビロニアを防衛。期限:スタンピード終息まで
・報酬:達成度により変動。最高報酬(万能能力値:十増加)
■サブクエスト
・瀕死の重傷を負う。期限:三年
・報酬:全ての能力値(一増加)
・殺人(一人)。期限:無
・報酬:万能能力値:(十増加)
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)
余裕をもって迷宮を出るためだ。
やはり、出来るだけ深い階層に行きたいと思っている冒険者にとって、今の迷宮に魅力があるようには感じないと実感する。
かと言って、冒険者ギルドからのクエストの少ないので、バビロニアを離れようと思うのは自然の流れだった。
迷宮を出ると朝から降っていた雨も止み、雲の切れ間から沈もうとしている太陽が少しだけ顔を出し、濡れた地面を赤く照らしていた。
商業ギルドに討伐した魔物の素材を買い取って貰おうとすると、レティオールから止められた。
迷宮での運用が変わったことで、商業ギルドから通達が出る。
細かい買取が増えたことで、腐ったり痛んだりする素材以外は、ある程度の素材が貯まった時にまとめて買取をしたいそうだ。
物流が滞ることで、買い取った物を次に卸す作業にも支障をきたしていた。
商業者ギルドの怠慢だという冒険者たちもいたが、表立って文句を言うことはなく、陰口や酒の席で不満をぶちまける程度だった。
「商業ギルドも、アルカントラ法国とフォークオリア法国から来る客人の用意で大変みたいだしね」
領主の命令で来賓用の食事などの準備で手一杯となっているが、まだ極秘事項なので公には出来ない。
あくまで噂だけが一人歩きしていた。
リゼたちと同じように早めに迷宮を出る冒険者が多く、リゼの知っている時間よりも早く食事をすることとなり、飲食店としては売り上げが上がっているのだろうと思いながら、レティオールとシャルルが最近通っている店に案内された。
レティオールとシャルルは慣れた感じで注文をする。
リゼにとって初めての店なので、注文は二人に任せることにした。
今日の反省点などを話していると、隣の席で酒と食事を楽しんでいた冒険者の話が聞こえてきた。
「噂だけどよ、迷宮の結界石なんだが、どうやら故障しているらしぞ」
「俺も聞いた。だから、アルカントラ法国から魔法師が修理に来るらしいじゃないか」
「それまでに何もなけりゃいいけどな」
「大丈夫だろう。何年も問題なかったんだからよ」
「たしかにな」
リゼたち三人とも思わず、話を止めて聞き耳を立てていた。
町の雰囲気のせいか、悪い噂ばかりを耳にする。
出来るだけ早く迷宮が正常に戻り、以前のような街の雰囲気になればいいと思いながら、目の前の食べ物を口へと運ぶ。
「シャルルは、どのバフを習得しようとしていたの?」
「攻撃力か防御力です。バフのなかでも安価で一番使われると教えてもらいました」
「僕も相談を受けたけど状態異常のような特殊なものも重宝されると思うけど、シャルルだったら職業スキルで覚えられる可能性は高いから、よく使われるバフのほうがいいという考えにも共感したから、いいいんじゃないって答えたよ」
レティオールとシャルルたちの以前の仲間ハセゼラたちは、バフを使っていなかった。
戦闘の最中に、他のパーティーが使用をしているのを見るくらいだったが、バフが戦闘に必要なものだという知識は持っていたし、回復魔術師のシャルルは、いずれ必要になる魔法かも知れないと感じていた。
リゼは「不足分を貸そうか?」という言葉が頭に浮かぶが、シャルルは決して首を縦には振らない。
自分もそうだが、他人に借りてまでブックを購入するのは違うと感じていたからだ。
なにより、そう思われること自体が負担になってしまうと考える。
元気に取り繕うシャルルを、リゼとレティオールは気付いていたが気付かぬふりをして食事を進める。
少しでも早くシャルルの購入資金が貯まるように協力したい気持ちが強くなる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
バビロニアに戻って五日目になる。
迷宮の六階層まで行って戻るの繰り返しだった。
今日も迷宮から戻り、レティオールたちと一緒に食事を終えて二人と別れ、部屋に戻ろうとした時、待っていた……というのとは少し違うが、気になっていたメインクエストが表示される。
同時にリゼの思考が止まる。
目の前には『スタンピードからバビロニアを防衛。期限:スタンピード終息まで』『報酬:達成度により変動。最高報酬(万能能力値:十増加)』。
(スタンピードって――‼)
魔物たちが集団で襲ってくること。
ただ襲う訳では無く、理性を失い命あるかぎり破壊を繰り返す。
分かりやすく言えば暴走状態になる。
それが、ここバビロニアで起こるということを知らせたことになる。
町の人に話をしたところで信じて貰えるわけない。
なにより混乱を招く恐れもあるが……事前にスタンピードが起きることを知っているだけで、首謀者だという疑いを掛けられるかもしれない。
スタンピードが、いつ起きるのか? そしてどれだけ続くのか? 分からないことだらけだが、準備だけはしておく必要がある。
なんとなくだが、リゼは四方を見渡して、魔物たちが襲ってくる方向を確認する。
当たり前だが、今すぐにスタンピードが起こるわけでは無い。
不安を感じながら、来るべき時のために体を休めるため、部屋に戻る。
だが、興奮していたせいか、横になっても眠れないでいた。
習慣となっていた闇糸の練習をしながら、気を紛らわせる。
実戦で闇糸を使うほどに精度が上がっていた。
どれだけ多く練習しても、実戦での経験にには敵わない。
なにかの本で読んだ文章を思い出す。
左手を振り払うようにして五本の指から闇糸を出して、狙いをつけた天井や壁に固定する。
左手を引っ張るが、闇糸の強度不足は感じない。
天井の板が闇糸に引っ張られて、少しだけ弓なりに反ったことでリゼの中に「自分の体を持ち上げることが出来るのでは?」と思いつく。
もし自分の体を持ち上げられることが出来れば、戦術の幅広がる。
迷宮であれば天井に取り付けることが出来れば、飛行する魔物との戦闘の仕方も変わってくる。
思っていた以上に奥が深い闇糸に喜びながら、教えてくれたハンゾウとザイゾウに感謝する。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十三』
『魔力:三十二』
『力:二十七』
『防御:十九』
『魔法力:二十五』
『魔力耐性:十二』
『敏捷:百七』
『回避:五十五』
『魅力:二十三』
『運:五十七』
『万能能力値:五』
■メインクエスト
・スタンピードからバビロニアを防衛。期限:スタンピード終息まで
・報酬:達成度により変動。最高報酬(万能能力値:十増加)
■サブクエスト
・瀕死の重傷を負う。期限:三年
・報酬:全ての能力値(一増加)
・殺人(一人)。期限:無
・報酬:万能能力値:(十増加)
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
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