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第248話

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 往来する人は少ないが、町全体が活気に満ち溢れているのが伝わってくる。
 行先を聞こうとするが、ナングウもカリスも声をかけられたり、歩きながら町の人と会話をしているため、なかなか聞けずにいた。
 周囲よりも立派な建物が目に入る。
 高さが無いので、遠目では気付かなかった。
 門衛がいることから、警備対象者が住んでいるのだと、そしてドヴォルク国の国王が住んでいるのだと直感的に理解する。
 ナングウとカリスは、その大きな建物には進まなかった。
 建物の両側にも、少し大きめの建物が数件建っているので、そちらに向かって進んでいた。
 そして、目的地の場所に到着したのか、ナングウとカリスは足を止める。
 軒先には文字が書かれているが、ドヴォルク国独自の文字なのか、リゼに読むことは出来なかった。
 どの家も住居と工房が一体にになっているが、多くの工房の扉は空きっぱなしなので、自由に出入りが可能だ。
 工房の奥からは、作業をする金属を叩く音が聞こえてくる。
 カリスとナングウは躊躇することなく、工房を奥へと進んだ。
 工房を奥に進むにつれて、一気に温度が上がったのを感じる。
 一人のドワーフが汗を垂らしながら、一心不乱に鉄を叩いていた。
 カリスとナングウが近寄っても気が付かないくらいの集中力なので、二人とも作業が終わるのを静かに待つ。

 暫くして、ナングウとカリスの存在に気付いたドワーフは驚き、二人を放置していたことを謝罪した。
 カリスから彼女の名は“オスカー”だと紹介される。
 つまり、カリスからオスカーの名を継いだ名匠だ。
 リゼはオスカーの顔に見覚えがあった。
 昨夜、棒手裏剣の練習をしている時に、カリスの家の前で不審な行動を取っていたドワーフだったからだ。
 カリスと話すオスカーは、どことなく緊張しているように見えた。
 リゼは少しだけ後ろで三人の話を聞いていた。

「最近、調子悪いらしいな」
「……はい。最近というよりも、ずっとですが」
「お前の腕は確かだ。それは私だけでなく、この爺さんもカシムにスミスも認めているだろう」
「それは……偶然が重なっただけで」
「はぁ……情けない」

 カリスは首を左右に振る。

「そんなに満足いくものが出来ないのか?」
「はい。オス……カリス様たちに認めて頂いた武器も偶然、製作出来たに過ぎません」
「おいおい、偶然が何度も重なるか? それは必然、つまり実力だってことだ」
「そんなことは……」

 オスカーは目を伏せると、力なさげに言葉の続きを話す。

「自分にはカリスの後任……オスカーの名は重過ぎます」

 その様子にカリスは何も言わなかった。
 いいや、言えなかったという方が正しいのだろう。
 カリスも同じように悩んでいた時期があったことを思い出したから……。

「リゼ。これ、分解していいか?」

 カリスはリゼの短刀を分解する許可を取る。

「もし、正確に組めなかったら、腕のいい職人に武器を作ってもらうが……駄目か?」

 リゼを直視するカリスの目から、なにか訴えかけているような気がした。
 そして、カリスの願いを受け入れる必要があるとも感じていた。

「はい、大丈夫です」
「ありがとうな」

 少しだけ口角を上げて話すカリス。

「これをどう思う?」

 カリスは短刀をオスカーに渡す。
 そして、分解して意見をするように伝える。
 オスカーはカリスの言うとおりに短刀を分解し始める。
 そして刀身を真剣に眺める。
 その目は先程までの自信なさげな目と違っていた。

「私にも見せてくれるか?」
「はい、どうぞ」

 オスカーが一通り見終えたとたカリスが頼むと、オスカーはカリスに短刀を渡す。
 受け取ると指の腹で短刀の感触を感じるように滑らせる。

「そうか、そうか」

 まるで生き物と会話しているように刀身に話しかけていた。
 話しかけるカリスは、いままで見たことのない穏やかな表情だった。

「これをどう思う? お前の率直な意見を聞かせてくれ」
「はい。ドヴォルク国製の短刀に間違いはありません。かなり古いものですが、それほど素晴らしい物ではなく、レベルで言えば平均もしくは、平均より少し上くらいだと思います」
「だろうな」

 オスカーの意見を聞いたカリスは嬉しそうだった。

「これは昔、私が打った短刀だ」
「えっ!」

 カリスの発言にオスカーは驚く。
 仮にもドヴォルク国最高の武具職人、名匠と言われた初代オスカーが製作した物とは思えなかったからだ。

「私だって、こんな代物しか打てない時期があった。それも名匠だと周りに煽てられて怠慢になっていたんだろうな。自分の武具の価値さえ分からず、鉄の声や精霊に耳をかたむけることさえ忘れていた」

 短刀をわが子のように撫でる仕草が、リゼの目には悲しそうに映る。

「まぁ、そんな時に目を覚まさせてくれたのが爺さんなんだがな」
「ふぉふぉふぉ、当時のおぬしは武具職人として最低じゃったからな」
「その通りだった……な」

 当時のカリスとナングウとの間に、どのようなやり取りがあったのかは定かではない。
 だが、カリスがナングウを慕っている理由が、なんとなくリゼには理解できた。
 前国王ということだけでなく、恩人という間柄なのだろう。
 話を聞いていたオスカーも驚いていた。
 自分が知っているカリス……初代オスカーは妥協を許さずに工房に入れば、真摯に鉄と向かい合っていた印象があったからだ。
 自身がオスカーの名を継ぐ前の”アメノマ”だった時に必死で追いかけていた背中に……まさか、そんな過去があったことなど想像もしていなかった。
 そもそも、名匠の名を継ぐという制度は無かった。
 他の名匠二人は現役だ。
 名匠が三人ということもないし、実力のある者がいれば名匠になることも出来る。
 だが長年の間、名匠が三人だった。
 それだけ名匠になることが難しかった。
 カリスが名匠を退こうとしたのは、アメノマの存在があったからだ。
 自分にない感性で武具を製作するアメノマに新しい風を感じたことと、過去に製作した武具を超えられないと、自分の限界を感じていた。
 名匠を退くと伝えるが、当然周囲から引き止められる。
 しかし、カリスの意志は固かった。
 国外にもオスカーの名が知られているため、そう簡単に認められない。
 そこでカリスはアメノマを後任に指名をして、アメノマの承諾を得てオスカーの名を継ぐことを提案する。
 既に国内で実力は認められて、次世代を背負うと噂されていたアメノマ。
 新たな名匠就任に反対する者はいないが、当のアメノマは……この提案に難色を示す。
 だが、名匠のなかで唯一の女性であり、追い続けていた背中に追いつけたという喜びもあった。
 名匠という重圧に加えて、オスカーの名を継ぐということは作品を比べられるということ、オスカーの名に傷をつけてしまうことなどを考えていた。

「お前はお前の作りたいものを作ればいい。私の作品など関係ない。オスカーの武具が進化したと思われるだろうからな」

 名匠の武器が国外に出ることは稀だ。
 その多くは重要な外交に利用される。
 人間たちが本当に、自分たちが製作した武具の価値が分かっていると思っているドワーフ族は少ない。
 ましてや、名匠という言葉に惑わされて武具の本質を見ないだろうと、カリスも考えていたからこその発言だった。

「私はお前の作品が好きだからこそ、お前の名をオスカーを継いでもらいたい」
「分かりました。オスカーの名を引き継がさせていただきます」

 憧れの人に自分が製作した武具が好きと言われたことで、不安はありながらもアメノマはオスカーの名を継ぐことを決心した。
 そして、オスカーの名を譲ると、カリスと名を変えた。


「リゼ。悪いがこれを譲ってもらえないか。自惚れていた当時を思い出す戒めもあるが、武具職人として大事な心を思い出させてくれるんだよな。もちろん、代わりとなる武器は渡すつもりだ」
「武具職人は続けられているんですか?」
「あぁ、たまにだがな。名匠は譲ったが武具職人は引退していない。自分の好きな時にだけ打つことにしている」
「そうですか……」

 リゼは悩んだ。
 現在所有する武器で使い勝手が良い短刀。
 だが、カリスの思いを無下にも出来ない。
 そして、自分の考えが卑しいと知ったうえで回答する。

「分かりました。その短刀はカリスさんに御譲りします。その代わりと言ってはなんですが、忍刀を頂くことは可能でしょうか?」
「もちろんだ。ありがとうよ」
「ダークドラゴンの爪って、忍刀の素材に使えますか?」
「あぁ、使えるが……いいのか?」

 ダークドラゴンの爪は貴重な素材で、売却すれば高額な値がつくため、カリスはリゼに確認した。
 売却すれば高額な値がつくことは、リゼでも予想は出来た。
 だが、今は強くなるために出来ることをすべきだという考えを最優先している。
 間違っていない決断だとリゼは覚悟を決めていた。


――――――――――――――――――――

■リゼの能力値
 『体力:四十一』
 『魔力:三十』
 『力:二十五』
 『防御:二十』
 『魔法力:二十一』
 『魔力耐性:十六』
 『敏捷:百一』
 『回避:五十三』
 『魅力:二十四』
 『運:五十八』
 『万能能力値:零』
 
■メインクエスト


■サブクエスト
 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年
 ・報酬:全ての能力値(一増加)

■シークレットクエスト
 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
 ・報酬:万能能力値(五増加) 
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