私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵

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第247話

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「リゼは私と一緒に、ここに泊まるがいい」

 カリスは自分の家にリゼを招待する。
 家と言ってもカリスしか居ない。
 長い間、掃除もしていないため埃っぽいし、どれだけ放置していたのか分からない酒樽が幾つも転がっていた。
 家に灯りが灯ったため、カリスの帰宅を知ったドワーフたちが、酒樽を持ち込んで宴が始まる。
 誰もがカリスの帰国を喜んでいたのが伝わってくる。
 外の世界の話よりも、話の多くは鍛冶に関することのほうが多いとリゼは思いながら、いろいろな議論を交わしながら怒ったり笑ったりしている姿を見ていた。
 終始楽しそうだったが、リゼは匂いだけで酔いそうだったので、少しだけ外に出ることにした。
 家の前で座ってると、一人のドワーフが家の近くまで来ては離れたり、また近寄ったりと何度も同じ行動を取っていた。

(どうしたんだろう?)

 リゼは気になりながら見ていると、そのドワーフと目が合う。
 するとそのドワーフは、その場から走り去ってしまった。
 不思議に思いながら、ドワーフの姿が見えなくなるまで見続けた。
 特にすることもないリゼはステータスを開く。

(えっ‼)

 驚いたリゼは一度ステータスを閉じて、もう一度開きなおして確認する。
 習得した魔法から“ドッペルゲンガー”が消えて、代わりにジョブ職業スキル欄に“影分身”が追加されていた。
 それは“ディサピア”や“シャドウステップ”も同じだった。
 “ディサピア”は”隠形かくしん”に、“シャドウステップ”は“影走り”と変更されていた。
 混乱する頭を整理するため、大きく深呼吸をする。

「姿を現せ”ドッペルゲンガー”」

 魔法発動させようと呟くが、影からドッペルゲンガーが現れることはなかった。
 詠唱した段階で、リゼ自身にも違和感があった……言葉に表せないが、何かが違っていたのだ。
 次に頭の中で「影分身」と念じると、影から人型が現れる。
 ただし、ドッペルゲンガーと違い、少しだけリゼに近い姿に変化していた。

(えっ、どうして……もしかして)

 ハンゾウから忍について解説してもらったことが影響していることは間違いない。
 もしかしたら“忍”という職業は闇属性の魔法よりもジョブ職業スキルが優先されるのではないかと、リゼは推測する。
 望んでいたジョブ職業スキルだったが、こういう形のジョブ職業スキルを望んではいなかった。
 ため息をつきながらも元に戻らないことは明白だったので仕方ないと諦める。
 三メートルほど向かいに転がっている壊れかけた木箱を見て、棒手裏剣の練習をすることにする。
 右手に比べると、左手で投げると距離や狙いが定まらない。
 遊びで左手で投げていたこともあったので、それなりには投げられるが上手投げしかしてこなかった。
 左手で下手投げを習得するため、リゼは何度も何度も投げ続ける。
 カリスたちの賑やかな声でかき消されるため、リゼの棒手裏剣の音に気付く者はいない。
 楽しい宴を邪魔することはなく、夜は更けていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 町の声で目を覚ます。
 カリスは気持ちよさそうに寝ているが、部屋中には昨夜行われた宴の残り香が強烈に残っていた。
 窓を開けて換気をして、泊めてさせてもらったお礼にと部屋の掃除を始める。
 出来るだけカリスを起こさないようにするが、町から聞こえる鍛冶の音の方が大きいため、リゼの気遣いは意味がなかった。
 半分くらい片付けを終えると、ナングウが訪ねてきた。

「おはようございます」
「おはよう、リゼちゃん」
「あの……」

 リゼは知らぬとはいえ、前国王のナングウに対して失礼な言葉使いをしていたことを詫びる。

「ふぉふぉふぉ、リゼちゃんは律儀じゃの~。今の儂は、ただの爺さんじゃ」
「でも……」
「ここドヴォルク国の国民も儂をただの爺さんと思っておるから大丈夫じゃよ。だから、変に気を遣わずに今まで通り接してくれんかの」

 少し寂しそうな表情を浮かべたナングウにリゼは申し訳ない気持ちになり、ナングウの申し出を受け入れた。

「ありがとうの」
「はい」

 笑顔になるナングウ。

「ところでカリスは、まだ寝ておるのか?」
「はい。昨夜は遅くまで騒いでいましたから」
「そうか、そうか」

 ナングウは頷くと、近くに置いてあった椅子に座る。

「出発前にお願いしておった件は決まったかの?」
「はい。これと言って欲しいものもなかったので、買い取っていただいてもいいですか?」
「もちろんじゃとも」

 ナングウとの交渉を終えると、メインクエスト達成の表示が現れたが、次のメインクエストが表示されなかった。
 リゼの頭の中では、次のメインクエストの内容が予測できたので気にすることなく、ナングウと話を続ける。

「イズンさんがバビロニアで武具や骨董品を集めていた理由はなんですか?」
「意図的に隠された物……貴重な品と言ったほうがよいかの。そういった物を儂らが集めることで、商人に高額で売りつけられるからの。それと、ドヴォルク国製の武具回収じゃ」
「どうして、回収する必要があるんですか?」
「理由はいくつかあるが、一番大きな理由は出来の悪い物の回収になるかの。なにかの拍子で国外に出回ってしまったのか、ドヴォルク国製と言われるのが耐えられないような武具じゃ」
「それは、私の短刀も同じということですか?」
「いいや。それは別の理由じゃ。役目を終えたドヴォルク国の武具は、ドヴォルク国が責任をもって処理をする。リゼちゃんの短刀のようにまだ現役なのに使用されていない武具は、ドワーフ族がきちんと手入れをして高値で売るためじゃ」

 偽装されていれば高価な物だと分からずに、安値で売られている。
 それにドヴォルク国製の武具であれば、年代物でも購入しようとする冒険者は多い。
 リゼはドワーフ族は、武具の製作にしか興味がないと思っていた。
 種族は違えど、考えていることは自分たちと変わらない……ドワーフ族に対して、大きな勘違いしていたことに気付く。

「そろそろ、カリスを起こすとするかの」

 椅子から立ち上がったナングウは、ゆっくりと歩いてカリスを叩き起こしていた。
 リゼの目には起こすというよりも、力一杯叩いているように見えた。

「ん……」

 寝ぼけているカリスは上半身を起こすが、目は虚ろなままだった。

「寝ぼけている場合ではないぞ。あやつの所に行くんじゃろ?」
「ん~」

 目を覚ますためなのか、両手を大きく上に上がて背を伸ばし終えると立ち上がり用意を始めた。

「リゼちゃんは、ハンゾウと会ったのじゃろ?」
「はい。いろいろと教えてくれました」
「そうかい、それは良かったの」

 嬉しそうに微笑むナングウと、昨日の出来事を話すリゼの姿は、まるで祖父と孫のようだった。
 ドヴォルク国の前国王であるナングウを相手に話すということで普通を装っていたが、どうしても意識してしまう。
 普通に接しようと意識すればするほど、普段以上に話をしなければいけないという思いからか、普段よりも多く話していることにリゼ自身は気付いていなかった。
 話の途中で、奥の部屋の扉が開くと、すっきりした顔のカリスはが姿を現す。
 外出する用意は終わったようだ。

「では、行こうかの」
「いってらっしゃい」

 見送りをしたリゼにナングウとカリスが顔を見合わせる。

「リゼ。お前も一緒だ」

 家の掃除をしたら棒手裏剣の下手投げ練習をするつもりだった。
 断ることも出来ず、ナングウたちと一緒に外出する。


――――――――――――――――――――

■リゼの能力値
 『体力:四十一』
 『魔力:三十』
 『力:二十五』
 『防御:二十』
 『魔法力:二十一』
 『魔力耐性:十六』
 『敏捷:百一』
 『回避:五十三』
 『魅力:二十四』
 『運:五十八』
 『万能能力値:零』
 
■メインクエスト


■サブクエスト
 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年
 ・報酬:全ての能力値(一増加)

■シークレットクエスト
 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
 ・報酬:万能能力値(五増加) 
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