上 下
239 / 281

第239話

しおりを挟む
 戸惑うリゼの様子を見ていたナングウは少しだけ考えていた。
 ただの偶然ではないと感じていたからだ。
 話の流れを遮らないように自然な感じで、リゼに質問をする

「他にも同じようなことがあったのかい?」
「はい」

 リゼはサンドリザードと爪と、短刀を机の上に置く。

「おいおい」

 カリスがリゼの許可を取らずに短刀に触れて、目を輝かせていた。

「こんなところで再会するとはな……リゼ、これをどこで手に入れた」
「この町の武具店です」

 リゼの言葉にイデスが目を開いて驚く。

「そ……そんな、この町にある武器や防具に道具を取り扱っている店は、何度も確認していました」
「武具店の隅にあった特売品と書かれた箱の中にありました」
「えっ‼」

 イデスはリゼの証言に思わず叫ぶと、呆然としていた。

「――そこまでは確認していませんでした。ナングウ様、申し訳御座いません」

 自分の不手際を認めたイデスは、ナングウに謝罪する。

「よいよい。それより……」

 ナングウは、リゼの短刀をいろいろな角度から眺めていた。

「カリスよ。それはリゼちゃんのじゃから、勝手に分解などしたらいかんぞ」
「……そうだったな。リゼ、これ分解していいか?」
「えっ‼」

 いきなりの要望に驚くとともに、そんなことを言うカリスにも驚きを隠せなかった。

「見た目は変わっているが、これは間違いなく私の作品だ。」

 戸惑うリゼにカリスは短刀を振りながら言い切った。

「カリスが、そこまで言うのであれば本当じゃろうが、それは国に戻ってからにしたほうが良いじゃろう。なにより、リゼちゃんの承諾を得ておらぬじゃろうに」

 暴走気味のカリスを諫めると、冷静にな短刀をリゼに返して椅子に座る。

「それよりも、これはサンドリザードの爪では無いの」
「たしかに、これはダークドラゴンの爪じゃな。幼体じゃからサンドリザードの爪と大きさは同じじゃから間違えたのじゃろうな」

 ナングウはリゼに爪の付け根を見せて、サンドリザードとダークドラゴンの見分け方を教えてくれた。

「しかもかなり古いものじゃな。イズンよ、ちょっと見てくれるか?」
「はい、かしこまりました」

 ナングウの指示に従い、イズンがダークドラゴンの爪を手に取り状態を確認する。

「ナングウ様の言われる通り、百年以上は経っていると思われます」
「やはり、そうか。ダークドラゴンが暴れたと報告があったのは百六十年ほど前じゃ。当時は暴れた原因は不明だったが、各国での被害も大きかったからの」

 いきなり百六十年前の話をされても、リゼには実感が湧かなかった。
 ただ、暴れたダークドラゴンが暴れるのを止めた理由があったのか? と疑問を抱く。
 幼体ということは暴れたダークドラゴンは、爪を剥がされた親だと推測できるが……。

「そもそも、ドラゴンは知能の高い魔物じゃ。我らの言葉を理解して会話をするドラゴンもいるからの。どこかの国が犯人をダークドラゴンに差し出したのじゃろう」
「それも多分、本当の犯人じゃないだろうがな」
「まぁ、そうじゃろうな」

 リゼの考えていることが分かったのか、少し間をおいて話を続けると、カリスがナングウの言い辛そうなことを代わりに話す。
 ダークドラゴンの怒りを収めてもらおうと、犯人でない者を差し出したのだろうが、簡単に犯人など見つかるはずもない。
 適当な身代わりでも立ててでも、国を守るためには必要があった。
 聞こえはいいが必要な犠牲なのだろう。

「それと、この玉石じゃが苔を取っても良いかの?」
「はい、構いません」

 ナングウの代わりにイズンが苔を取り、部屋にあった布で石を磨く。

「これは”ダマスカス”じゃ。バビロニアの迷宮ダンジョンで稀に発見される珍しい鉱石で、特徴としては丸い状態で発見されることが多いんじゃが、最近は階層の攻略も進んでおらぬせいか、市場に出回ることさえ無くなっておる」

 ナングウや先程のカリスの話から時間の流れが、自分と違うことに気付く。
 ドワーフ族は、人間よりも長寿な種族だから聞いていて、違和感があったのだろう。

「出来れば、譲って貰いたいところじゃが……もし、この中から気にった物があったら、それらと交換と言うのはどうじゃろうか? もちろん、儂らも価値は分かっておるから、それなりの等価交換を考えておる。無理なら買取ってことでも良いのじゃがな」

 リゼは机の上に並べられた物を見るが、その価値が分からない。
 もっとも購入した苔の生えた丸い石の価値も分かってはいなかったが……メインクエストを達成できるチャンスだとも感じる。

「おっと、そうじゃったの。イズンよ、頼めるかの?」
「はい、承知致しました」

 イズンはナングウの指示に従い、机の上に置かれた物に手を掛けると同時に破壊し始めた。
 民芸品の人形の体の中にはスクロール魔法巻物が隠されていた。
 他の物も土台にブック魔法書が隠されていた。
 模造品の剣も唾の部分を回転させると、模造品の剣身の中から素晴らしいが剣身が現れた。
 全ての品から隠されたであろう物が出てくるのでリゼは驚く。

「なにか気になるものはあるかの?」
「いいえ、特には……」

 スクロール魔法巻物ブック魔法書にしても、魔法属性が分からないので自分で使用できるかさえ分からない。

「リゼちゃんは魔法について、どう思っておるかの?」

 突然の質問に即答できないリゼだったが、ナングウが話を続ける。

「魔法書が、この世界が出来てからあるとして、どうして無くならないのじゃろうな」
「あっ……たしかに」

 ナングウに言われるまで気が付かなかったが、ブック魔法書迷宮ダンジョンで発見される。
 いままで、何人の人間……いいや、ゴブリンメイジなどの魔物でもブック魔法書を使用するので、かなりの数のブック魔法書が消費されていることになる。
 それなのにどうして無くならないのか……考えたこともなかった。
 たしかに探索しつくされた迷宮ダンジョンで、極稀にブック魔法書が発見されることがある。
 それに突如、発見される迷宮ダンジョン
 消費する数に対して、圧倒的に供給が追い付いていない。

「そういうことじゃ。魔法書は世界で一定数にされている。そして、使用されている数に対して、不足数量をなにかしらの方法で供給している。つまり、神が介入しておる……と儂らは考えておる」

 いきなり神を口にするナングウに、話が飛躍しすぎでは無いかと思ったが、それを否定出来るだけの情報を持っていない。

「ただの仮説じゃがな」

 真剣な話が嘘だったかのようだった。
 だがナングウの言葉は、リゼの胸に大きなくさびを残していた。

「望みの物が無いようじゃったら、買取ということで良いかの?」
「はい、出来ればですが……」
「承知した。イズンよ、どれくらいになるかの?」
「そうですね……金貨」


 即答は出来ないので、暫く待ってもらうことにした。

「これを見てもらってもいいですか?」

 リゼは一縷の希望に掛けるように折れた小太刀を見せる。

「触っても良いかの?」
「はい」

 ナングウは小太刀を手に取り状態を確認すると、そのままカリスに渡す。

「駄目だな。これは役目を終えている」

 分かっていたっことだったが、はっきりと答えを言って貰ったことで、諦めが……心の整理がついた。

「ただ、大事に使っていたのは伝わってくる。こいつも幸せだっただろう」

 ドワーフ族は武器の声が聞こえるのか? とも思ったが、カリスの言った言葉は、小太刀が自分に向けてでなく、クウガに言った言葉だと感じていた。

「ありがとうございます」

 リゼは礼を言って、小太刀をアイテムバックに仕舞う。


――――――――――――――――――――

■リゼの能力値
 『体力:四十一』
 『魔力:三十』
 『力:二十五』
 『防御:二十』
 『魔法力:二十一』
 『魔力耐性:十六』
 『敏捷:百一』
 『回避:五十三』
 『魅力:二十四』
 『運:五十八』
 『万能能力値:零』
 
■メインクエスト
 ・購入した品を二倍の販売価格で売る。
  ただし、販売価格は金貨一枚以上とすること。期限:六十日
 ・報酬:観察眼の進化。慧眼けいがん習得

■サブクエスト
 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年
 ・報酬:全ての能力値(一増加)

■シークレットクエスト
 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
 ・報酬:万能能力値(五増加) 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった… それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく… ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...