上 下
235 / 288

第235話

しおりを挟む
「レティオール、御願い!」
「任せて!」

 レティオールが魔物を引き付けている間に、リゼが攻撃をする。
 八階層にいる三匹程度の魔物であれば、連携して倒すことが出来るようになっていた。
 レティオールの装備を一新したことが大きかった。
 それにシャルルが本来の力を取り戻したことと治癒師に転職したことで、回復だけでなく、麻痺解除や解毒などの効果も飛躍的に上がっている。
 リゼ自身も強くなった実感があった。

 九階層へ進む。
 レティオールとシャルルの話だと、中型の魔物が出現する。
 以前に倒したミノタウロスも中型魔物に分類される。
 ミノタウロスを倒したことが自信にもなっていた。
 階段を下りる途中から戦闘音が聞こえてくる。

(あれ……明るい)

 階段下から漏れる明かるさに驚く。

「九階層は天井一面に光苔が多く生息しているのか、かなり明るいですよ」

 シャルルがリゼの表情に気付き、説明をしてくれた。
 九階層は迷宮ダンジョンのなかとは思えない風景が広がっていた。
 辺り一面に木が生い茂っている。
 そう……まるで森だ!
 上を見上げれば眩しい光が目に入って来る。
 光苔だけで、この光量を維持していることに驚く。
 それに無数の魔物が飛んでいる……この距離から見ても大きいことが分かる。
 冒険者の暗黙のルールで魔物を最初に見つけた冒険者パーティーが優先的に討伐する権利を得る。
 度々、発見する場所や、追っていたら先に討伐されたなどと問題が起きている。
 これは避けられない問題なので、冒険者同士で解決出来なければ、冒険者ギルドが介入することになる。
 ただし、冒険者ギルドが仲介料を搾取するため、報酬が少なくなる。
 そのことを知っているので冒険者同士で解決をすることが多い。

 リゼたちも他の冒険者たちの邪魔にならないように九階層を探索する。
 すぐに魔物”スタンボア”と遭遇する。
 大きな牙で攻撃を受けると意識が揺らぐ。
 酷い場合は倒れてしまい、起き上がるまでに殺されることもある危険な魔物だ。
 反射的にリゼが構えるが、レティオールから攻撃をするのを止められる。

「多分、他の冒険者の獲物です」

 よく見るとスタンボアは血を流している。
 そして後ろから追跡する物音や話し声が聞こえてきた。
 リゼたちはスタンボアを避けて、走り去るのを待つ。
 すると追っている冒険者たちが走りながら、簡単な礼を言って去って行った。
 自分たちの討伐対象だと分かって、譲ってくれた礼だった。

「レティオール、ありがとう。止めてくれなかったら攻撃してた」
「仕方ないよ。普通であれば遭遇した瞬間に討伐だからね」

 もし、討伐してしまったら話し合いになる。
 リゼは他の冒険者との衝突を望んでいない。
 だが、知らぬうちに討伐してしまったら……と考えていた。
 レティオールはハセゼラのパーティーにいた時、魔物を発見したら引き止める役をしていた。
 それが他の冒険者の獲物だったとしても関係ない。
 ハセザラは難癖付けて、脅迫するように魔物を奪っていた。
 もちろん、自分たちより弱い冒険者に対してだけだ。
 迷宮ダンジョン内では、良くも悪くも譲り合うことで調和が保たれている。

 別のスタンボアを順調に討伐していく。
 木が生い茂っているため、本当に多くの魔物が生息していた。
 木から木へと飛び移りながら、木の実を口に含んで飛ばしてくる”サライバモンキー”は数匹で攻撃をしてくる。
 レティオールが敵を引き付けている間に、リゼが素早く移動する。
 九階層の魔物でもリゼの早さに対応出来ないでいた。
 サライバモンキーを倒し終えると、近くで戦っている音がするので、近くまで行ってみることにする。
 他の冒険者たちの戦い方を見て、勉強しようと思っていた。
 近付くにつれて、魔物の咆哮と冒険者の叫ぶ声が聞こえてきた。
 歩いていたリゼたちだったが、明らかに異様な声に走り出す。
 倒れている木に片足を乗せて首を左右に振り、かなり興奮した魔物”クレイジーレックス”が暴れまわっていた。

「大丈夫ですか」

 倒れている冒険者にリゼが駆け寄る。
 気絶している。
 クレイジーレックスから必死で仲間を守ろうとしている冒険者二人と合流する。

「手伝いましょうか?」
「悪い、頼めるか。俺たちだけでは手に負えない」

 重戦士と斧術士だった。
 重戦士のほうは既に限界だったようで、レティオールと交代して、シャルルに回復を頼んだ。

「私の仲間が気を引きますので、攻撃に回りましょう」
「分かった。俺は左側から攻撃するから、右側を頼む」
「はい」

 リゼと冒険者は視線を合わせて、レティオールがクレイジーレックスを挑発するタイミングで左右に飛ぶ。
 斧術士の一撃はリゼの一撃よりも攻撃力が高い。
 自分は攻撃しながら、クレイジーレックスの注意を斧術士に向けないように攻撃をする。
 大振りの攻撃をしようとしたクレイジーレックスにシャドウバインドで拘束をする。
 拘束時間はレティオールも攻撃に参加して、出来るだけ体力を削る。
 レティオールが上手く位置を変えながらクレイジーレックスを誘導してくれるので、とても戦いやすかった。
 なにより攻撃するのがもう一人居るだけで、こんなに楽なことを知る。
 リキャストタイムを終えると、もう一度シャドウワインドで拘束する。
 最後は斧術士が、拘束された状態のクレイジーレックスにとどめを刺す。

「はぁはぁ」

 早く浅い呼吸を繰り返すリゼ。
 思っていた以上に苦戦した。
 これが九階層の魔物……中型の魔物の脅威を知った。
 ミノタウロスのほうが強かったが、今の実力ではクレイジーレックスでも倒せない。

「本当に助かった。さすがは宵姫だな」
「……宵姫?」

 呼吸を整えながら、自分のことを言われているのか確認する。
 リゼは気付いていなかったが、ミノタウロスの事件以降、リゼの戦闘スタイルと容姿から”宵姫”と二つ名で呼ばれていた。
 自分で名乗らずとも周囲が勝手に広める二つ名なので、時には不本意な二つ名で呼ばれる時もある。

「私は姫じゃないですよ?」

 真剣に答えるリゼに斧術士とレティオールが笑う。
 離れていたシャルルも回復しながら笑っている。
 アルベルトやクウガたちにも二つ名はあったが、エルガレム王国では二つ名で呼ぶ習慣があまりない。
 それは不本意な二つ名だった場合、本人が気分を害するからだ。
 バビロニアは良くも悪くも、そういった感覚が無いので揶揄うように二つ名で呼ぶ冒険者も多い。
 しかも口の軽い噂好きの冒険者が他の町などで、吹聴するので二つ名だけがひとり歩きすることもある。


――――――――――――――――――――

■リゼの能力値
 『体力:四十一』
 『魔力:三十』
 『力:二十五』
 『防御:二十』
 『魔法力:二十一』
 『魔力耐性:十六』
 『敏捷:百一』
 『回避:五十三』
 『魅力:二十四』
 『運:五十八』
 『万能能力値:零』
 
■メインクエスト
 ・購入した品を二倍の販売価格で売る。
  ただし、販売価格は金貨一枚以上とすること。期限:六十日
 ・報酬:観察眼の進化。慧眼けいがん習得

■サブクエスト
 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年
 ・報酬:全ての能力値(一増加)

■シークレットクエスト
 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
 ・報酬:万能能力値(五増加) 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

聖剣を錬成した宮廷錬金術師。国王にコストカットで追放されてしまう~お前の作ったアイテムが必要だから戻ってこいと言われても、もう遅い!

つくも
ファンタジー
錬金術士学院を首席で卒業し、念願であった宮廷錬金術師になったエルクはコストカットで王国を追放されてしまう。 しかし国王は知らなかった。王国に代々伝わる聖剣が偽物で、エルクがこっそりと本物の聖剣を錬成してすり替えていたという事に。 宮廷から追放され、途方に暮れていたエルクに声を掛けてきたのは、冒険者学校で講師をしていた時のかつての教え子達であった。 「————先生。私達と一緒に冒険者になりませんか?」  悩んでいたエルクは教え子である彼女等の手を取り、冒険者になった。 ————これは、不当な評価を受けていた世界最強錬金術師の冒険譚。錬金術師として規格外の力を持つ彼の実力は次第に世界中に轟く事になる————。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...