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第229話

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 ヤマトとは正式名称”ヤマト大国”といい、国名の大国とは程遠い山に囲まれた小国でエルガレム王国の王都よりも小さく、国民は百人程度しかいない。
 ドヴォルク国とは洞窟を通じて交易をしていた稀な国だった。
 閉鎖的な国で、成人の儀を行うことも否定的だった。
 世界でアルカントラ法国から教会が設置され、成人の儀を採用した遅い国の一つになる。
 そのため、独自の文化があり服装や食事なども違い、異文化として嫌う国もあった。
 その代表がリリア聖国だった。
 国の位置としてはアルカントラ法国よりも、リリア聖国のほうが近い。
 にも関わらず、自分たちよりもアルカントラ法国との交流を優先的にしたのが気に入らなかった。
 武器や防具もドワーフ族と同等の技術があり友好関係を築ければ、自分たちにも恩恵があると考えていたからだ。
 しかし、山に囲まれた土地が災いしてか、大規模な山火事が起きて国を焼き払う事態が起きる。
 一部の人間はドヴォルク国へ逃げ込んだと噂もあるが、あくまで噂なので真実は分からない。
 この山火事さえ、リリア聖国が起こしたと考える者もいる。
 理由としてヤマト大国を囲む山が一斉に火事になったこと。
 そして、アルカントラ法国の教会関係者が、救済に向かった……正確には消火後に訪れた際に、焼けた死体の多くに斬られた傷があったことだ。
 確証はないが国全体が襲われたと考えるのが普通だった。
 当然、疑惑を向けられるリリア聖国も他国の侵略行為だと訴える。
 事実は闇に葬り去れ、ヤマト大国であった国地は、隣国のリリア聖国の物となる。
 もちろん、強奪行為や侵略だと抗議する国もあったが、隣国であるもう一つのドヴォルク国が意を唱えなかったこともあり、半ば強引に認められることになった。
 これもリリア聖国がヤマト大国を滅ぼしたと言われる要因となっていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 三人での迷宮ダンジョン探索も、徐々に慣れてきた。
 あれだけ苦戦した六階層も三人いれば難しくなかった。
 なにより、レティオールとシャルルたちは十三階層まで進んだ経験があるので、各階層の知識がリゼよりもあり、出現する魔物や各階層の特徴を覚えているので、八階層まで余裕で進むことが出来る。
 九階層からは中型の魔物が出現するので注意が必要だということから、八階層までで実力をつけることにした。
 八階層までとはいえ、六階層からは各階層が広いため、いろいろな場所で見たこともない魔物との戦闘が多く、簡単に討伐出来る状況ではなかった。
 だが、探索範囲が広がったことで、数日後にはリゼのメインクエストが達成される。
 これもレティオールとシャルルがいたからだと感謝する。
 当然、次のメインクエストが表示される。
 『購入した品を二倍の販売価格で売る。ただし、販売価格は金貨一枚以上とすること。期限:六十日』『報酬(観察眼の進化。慧眼けいがん習得)』。

(観察眼の進化? 慧眼?)

 報酬の意味が分からず考え込む。

「どうかした?」

 リゼの様子に違和感を感じたシャルルが声を掛ける。

「その……慧眼って知っている?」
「慧眼? 洞察力の類義語だったかな? 物事の本質を見抜くとかだった気がする。どうしたの突然?」
「あっ、ちょっと思い出したら気になって……」

 リゼは必死で誤魔化す。
 ただ、慧眼が何か分かっただけでも良かった。
 能力値に現れない報酬だが、自分には必要なのだろうと思いながらもクエスト内容の”購入した品を二倍の販売価格で売る”が厄介だった。
 販売などしたことがないし、正式に商売をするのであれば、商業ギルドへの登録も必要だ。
 個人売買であれば問題は無いが……別の意味で難易度が高いと感じていた。

 レティオールとシャルルは間違いなく成長している。
 重戦士になりたいと思っているレティオールは、盾役となり魔物の攻撃からリゼやシャルルを守っている。
 シャルルも自信を取り戻したのか、きちんと回復魔術師の役目をこなす。
 ただ、シャルルの魔力が異様に少ないとリゼは感じていた。
 そのことはシャルルも感じているようだったが、マジックポーションを購入する程ではないし、大きな怪我を負うこともないため口に出すことは無かった。
 地上に戻ろうとすると、二階層で多くの冒険者がいた。
 どうやら、冒険者ギルドの迷宮ダンジョン探索クエストに参加していた冒険者たちが戻ってきたようだ。
 疲れた表情をしている冒険者たち、その顔に笑顔はない。
 地上へ戻る階段で渋滞をしていたため、リゼたちは人が少なくなるのを待つ。

「どうだったんだろう?」
「良い感じではなさそうね」

 重い足取りで階段を上がって行く冒険者たちを見ていた。
 ある程度、冒険者が少なくなると冒険者ギルド職員が、サークル魔法陣があったであろう場所に続く道を縄で封鎖していた。
 気になったリゼたちは職員に事情を聞くことにした。
 サークル魔法陣の転移先階層は不明だったが、見たこともない景色と新種の魔物が発見されたそうで、クエストに参加した何人もの冒険者が命を落としたそうだ。
 運の良いことに帰還用のサークル魔法陣が近くにあったので、帰還することが出来たが、もし帰還用のサークル魔法陣が見つからなければ、被害は大きかったと話す。
 しばらくの間は利用禁止にするそうだ。
 冒険者がサークル魔法陣を使用するのは勝手だが、転移の際に魔物と一緒に転移すると階層のバランスが崩れて危険だと判断したようだ。
 かといって、サークル魔法陣を破壊するようなことは簡単に出来ないため、暫定処置として、縄で通行止めにしている。
 戻って来た冒険者たちが浮かない顔をしていた理由が分かった。
 魔物だけではサークル魔法陣は発動しないが、冒険者と一緒であれば魔物も転移される。
 過去にも同じようなことがあり、迷宮ダンジョンを一時的に封鎖したこともあったと教えてくれた。
 最後に「絶対に入らないで下さい」と念押しされた。
 自分たちが約束を守らないような冒険者に見えたのだろうか? と職員が居なくなってから笑いながら話をする。

「リゼ。御願いがあるんだけど……」

 深刻な顔で話すレティオール。

「なに?」
「帰りに職業案内所に寄ってもいいかな?」
「別にいいよ。重戦士になるの?」
「うん。なれるかは分からないけど……確認をしたいんだ」
「うん、分かった。私も確認してみようかな。シャルルもどう?」
「私は……大丈夫」

 剣士から重戦士への転職は難易度は高くない。
 剣士は初級職でありながら、経験を積めば積むほど強くなる職業なので転職しない冒険者もいる。
 剣士で経験を多く積めば、それだけ転職できる職業も増えるとも考えられている。
 ただ、早めに重戦士へ転職をして経験を積む冒険者も多い。
 もし、転職できなければ経験が足りないので経験を積めばいいだけのことだ。 レティオールが気にしていたのは、転職の有無は関係なく、転職の手続きをするだけで支払いが発生するからだ。
 自分が上位職になれないと思っているシャルルは表情を見られたくないのか俯いていた。


――――――――――――――――――――

■リゼの能力値
 『体力:三十六』
 『魔力:三十』
 『力:二十五』
 『防御:二十』
 『魔法力:二十一』
 『魔力耐性:十六』
 『敏捷:八十六』
 『回避:四十三』
 『魅力:二十四』
 『運:四十八』
 『万能能力値:零』
 
■メインクエスト
 ・購入した品を二倍の販売価格で売る。
  ただし、販売価格は金貨一枚以上とすること。期限:六十日
 ・報酬:観察眼の進化。慧眼けいがん習得

■サブクエスト
 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年
 ・報酬:全ての能力値(一増加)

■シークレットクエスト
 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
 ・報酬:万能能力値(五増加) 
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