上 下
220 / 281

第220話

しおりを挟む
 武器と防具が完成する当日、朝一番で武具屋に向かったが、まだ出来ていなかった。
 夕方にもう一度、来るようにと言われる。
 アイテムバッグは完成していたので、先にアイテムバッグのみ受け取る。
 スワロウトードを買い取ってもらうため、商業ギルド会館へ向かうことにした。

 綺麗に解体されたスワロウトードを高値で引き取ってくれた。
 解体技術も褒められて、少しだけ嬉しい気持ちになる。
 最近はスワロウトードを持ち込む冒険者が少ないため、持ち込みは大歓迎のようだ。
 高値で買取して貰える魔物の種類を教えて貰うように頼むと、
 帰り際には「またよろしく!」と期待される。

 その足で冒険者ギルド会館に向かい、アイテムバッグの中身を説明された。
 リゼの考えていた通り、かなり昔の冒険者もいたようで武器や防具も古いもので、リゼが使用できるようなものはなかった。
 幸運だったのは全部で二十四つのライトボールのスクロール魔法巻物を手に入れられたことだった。
 当たり前の話だが、迷宮ダンジョンに入る冒険者がライトボールのスクロール魔法巻物を持っていない訳がない。
 不測の事態に備えて予備のスクロール魔法巻物を持っている。

 しかし、リゼは姿恰好から目立った存在になり、一部の冒険者から目を付けられる。
 もちろん、悪い意味でだ。
 悪目立ちしたことに気付いていないリゼは迷宮ダンジョンに必死で、冒険者を始めた当時に目立たないようにするという気持ちを完全に忘れていた。
 とくにすることも無く、夕方まで時間があるので一旦、宿に戻ることにする。


 宿に戻ったリゼに朗報が入る。
 リャンリーが宿に戻ってきていた。
 約束通り、リゼのことをリャンリーに話してくれたらしく、リゼが戻ったら部屋まで来るようにと言われていた。
 見知らぬ冒険者の部屋に行くことには抵抗があったが、こちらから話を持ち掛けておいて行かないのは失礼にあたると、リャンリーの部屋を聞く。
 
 部屋の扉を叩き、リゼは名前を名乗ると中から女性の声で返事があった。
 勝手にリャンリーが男性だと思っていた。
 長身の女性が部屋へと迎え入れてくれる。

「あの……フルオロさんから――」

 緊張のせいか思うように言葉が出て来ない。
 とりあえず、フルオロからの紹介状をリャンリーに手渡す。

「ありがとう」

 リャンリーはリゼからフルオロの紹介状を受け取ると読み始める。
 短い文章だったのか、すぐに紹介状を閉じた。

「それでなにが聞きたい?」

 優しい口調ではあったが、どことなく怖い感じがしていた。
 リゼは迷宮ダンジョンの基本的なことを最初に質問をする。
 リャンリーはリゼの問いに対して、丁寧に答えてくれる。
 注意する魔物や、各階層の特徴など――。
 リゼは忘れないようにアイテムバッグから魔物図鑑を取り出して、最後の頁にあった空白の頁に、一字一句忘れないよう書き留める。

「それでパーティー編成は?」
単独ソロです」

 戦い方を聞いた時に、リャンリーから反対に質問をされた。
 即答するリゼに驚く。

「止めておきな。単独ソロで戦い続けられるほど、簡単な迷宮ダンジョンじゃない」

 自分たちが必死で攻略している迷宮ダンジョンを舐められていると思ったのか、簡単に考えているリゼを睨む。

「私の目的は強くなることなので、奥に進むことが目的ではありません」
「強いってなに?」

 リャンリーの問いにリゼは答えられなかった。

「仲間を守れるだけの力が欲しいです」
「そう……それなら、今すぐじゃなくてもいいから、パーティーを組みな」

 予想外の答えだった。
 だがリャンリーは単独ソロの戦い方に慣れると、パーティーでの戦闘に支障をきたすこともあると説明をする。
 今すぐと言わないのは、それなりに信用出来る冒険者でないと意味がないからだ。
 仲間を守りたいと言ったのであれば、その仲間を守る状況でないリゼの言葉は矛盾していると伝えた。

「そうですね……」
「別に弱い冒険者でも構わない。それを補うのが仲間ってもんだ」
「はい」

 項垂れるリゼを見て、言葉が過ぎたと感じたのかリャンリーは話題を変える。

「それより、その恰好は?」
「あっ! すみません」

 失礼な格好だと思ったリゼは謝罪するが、リャンリーが聞きたいのは、そういった答えでは無かった。

「その……スクィッドニュートの墨で防具が墨だらけになったので今、黒く染めてもらっています」
「スクィッドニュートの墨って――あぁ、冒険者ギルドで噂になっていた冒険者はお前だったのか!」

 リゼのことは噂になっていたようだ。
 松明を持って迷宮ダンジョンに入り、スワロウトードの巣へ積極的に入って行き挙句の果て、スクィッドニュートの墨を被って地上に帰還した。
 それだけでなく、魔物図鑑を購入したことも噂の一端になっている。

「とりあえず、この町の……バビロニアの迷宮ダンジョンを楽しんでくれ」

 楽しむという言葉に違和感を感じたが、リャンリーなりの優しさだと捉える。

「疲れているところ、ありがとうございました。大変、勉強になりました」
「別にいいって。フルオロの紹介だしな」

 礼儀正しいリゼに好感触を感じながら、迷宮ダンジョンでの戦いに耐えられるのか心配する。

「リャンリーさんは、ランクAなんですよね?」
「あぁ、一応な。長い間、バビロニアにいたから自然になれたって感じだな」

 リャンリーが謙遜していることは、リゼにも分かっていた。
 長く冒険者を続ければランクAになれるわけではないからだ。

「今はレベルなんてものが流行っているが、あれが迷宮ダンジョンでの冒険者の死亡率をあげていると個人的には思っている。あくまで私の私見だけど、他の冒険者のレベルは信じないほうがいい」

 嘘の過剰申告することで、自分を強く見せて仲間を集めるが、戦闘になると思うような連携が取れないことが多いそうだ。

「過小評価してでも、パーティーを組んでくれる仲間のほうが、まだ信用出来る」

 リャンリーの言い分は良く分かる。
 レベルの高い冒険者としてパーティーを組めば、自分たちが楽を出来ると思うからだ。
 これは、レベルの高い冒険者の恩恵に預かろうとパーティーを組む冒険者にも責任がある。
 とは言え、自分を強く見せようとして、嘘のレベルを言う冒険者のほうが悪質だ。

「お前はパーティーを組んでいた時、仲間に対して正直に自分のレベルを言ったのか?」

 リャンリーはリゼを試していた。
 だが、リゼの言葉でそれが無意味なことを知る。

「ずっと単独ソロですから、誰にもレベルの話はしていません」
迷宮ダンジョンを攻略するのに単独ソロって――」

 リャンリーはリゼが単独ソロだと知っていたが、過去にパーティーを組んでいたと思っていた。
 他の町から来たようなので、クランに所属しているかとも思ったが、敢えて詮索はしない。
 それに、自分たちが迷宮ダンジョン攻略を目標にしているが、他の冒険者たちは違うことに気付いたからだ。
 リャンリーたちは数日前に迷宮ダンジョン内で瀕死の冒険者を発見して、自分たちの予定を変更して負傷者たちを地上まで送って来た。
 本来であれば、今は迷宮ダンジョン内にいるはずだったので、リゼが会えたのは幸運だった。

「まったく、誰が言い出したんだか」

 レベル否定派のリャンリーは不満を口にした。

「まぁ、迷宮ダンジョンで見かけたら、声をかけてくれ」
「はい、ありがとうございます」

 リャンリーと仲間たちは明日には再度、迷宮ダンジョンに向かうそうだ。
 リゼはパーティーを組む提案に不安を抱えながらも、リャンリーに再度礼を言って別れた。


――――――――――――――――――――

■リゼの能力値
 『体力:三十六』
 『魔力:三十』
 『力:二十三』
 『防御:二十』
 『魔法力:二十一』
 『魔力耐性:十六』
 『敏捷:八十六』
 『回避:四十三』
 『魅力:二十四』
 『運:四十八』
 『万能能力値:零』
 
■メインクエスト
 ・迷宮ダンジョンで未討伐の魔物討伐(討伐種類:三十)。期限:三十日
 ・報酬:転職ステータス値向上

■サブクエスト
 ・防具の変更。期限:二年
 ・報酬:ドヴォルグ国での武器製作率向上

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年
 ・報酬:全ての能力値(一増加)

■シークレットクエスト
 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
 ・報酬:万能能力値(五増加) 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった… それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく… ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...