上 下
213 / 281

第213話

しおりを挟む
 三階層に下りると何組かの冒険者たちが立ち止まり武器や防具、道具などを確認していた。
 この下の四階層から本格的な討伐が始まる前の最終点検だ。
 よく見ると確認してくる冒険者たちは熟練冒険者という感じでなく、初々しい冒険者だった。

「あれ、リゼじゃないか?」

 後ろから名前を呼ばれたので振り向くとジャンロードだった。

「お前……単独ソロか?」
「はい」

 リゼの周りに冒険者がいないことから気付いたようだった。

「ジャンロードさんは何階層まで行くんですか?」
「俺たちは――」

 ジャンロードが答えようとすると、仲間らしき冒険者から呼ばれる。

「とりあえず……冒険者狩りには気を付けろよ」
「ありがとうございます」

 リゼに忠告だけしてジャンロードは仲間の元へ戻っていった。

 三階層を探索しようとしていると、遠くの方で怒鳴り声が聞こえた。
 他の冒険者にも聞こえていたのか、作業を止めて声のする方を一斉に見ていた。
 そこにいたのは昨日、迷宮ダンジョンの入り口で怒鳴っていたガラの悪い冒険者たちだった。
 かなり苛ついているのか他の冒険者たちを睨みながら通り過ぎていく。
 明らかに装備が劣っている二人は疲れているのか、少し遅れて歩いている。
 これが気に入らないのか遅れる二人に対して暴力を振るい、「早く歩け」と命令していた。

「ハセゼラたちか」
「相変わらずだな……あの二人も可哀そうにな」
「ハセゼラや他の奴等だって、たいして強くもないのにな」
「あぁ、最初はレベル三十六って自慢していたら、他の冒険者の方が強いと知ったらしく、すぐに四十六って言い変えていたしな」
「完全に嘘だろうが、ハセゼラの奴は騙せていると思っているから馬鹿だよな」

 ハセゼラが去った後に陰口を叩く冒険者たち。
 リゼはフルオロから「レベル四十以下だと迷宮ダンジョンに潜っても五階層くらいまでしか行けない」という言葉を思い出す。
 今、自分がいるのは三階層だ。
 この調子だったら、五階層まで行けるかも? と思いながら三階層で魔物討伐するため探索を始める。

 三階層でも擬態したストーンスネークやロックスネークを多く発見するが、気付かないふりで先に進む。
 分かれ道が多いためか、二階層よりも広いが天井は低い。
 階層によって、いろいろと異なるのはオリシスの迷宮ダンジョンと似ている感じがした。

 ジャンボラットが陰に隠れて襲おうとしているのを発見する。
 右の岩陰に一匹。
 左の岩陰に一……二匹。
 自分より二回り小さい魔物で、それほど強くなかったと魔物図鑑に書かれていたことを思い出す。
 ただ……なにか注意すべきことが書いてあった気もした。
 不意打ちに警戒して戦闘態勢で歩いていると、左側からジャンボラットが飛び出してくる。
 反社的に左に体を向けると、背後からジャンボラットも飛び出す。
 反撃できる体勢で無かったので、一旦後退すると暗闇に光る無数の目に気付く。

(しまった! 集団で狩りをする魔物だ‼)

 リゼはジャンボラットが集団狩りをする魔物だと気付く。
 すぐに左手で短刀を取り出し、両手で構えると”ドッペルゲンガー”を発動させて、ジャンボラットの確実に倒していく。
 小太刀と短刀を持った状態で、ドッペルゲンガーを発動させたことで両手での攻撃を実現させた。
 なにより戦力が二倍になる。
 予想外の状況にジャンボラットの連携が乱れたのを見逃すことなく、リゼはジャンボラットを倒していく。

(この短刀、凄い‼)

 握った瞬間に体の一部になる感覚に加えて、軽く斬れ味も良い。
 小太刀よりも切れ味は上で、狭い場所での戦闘には小太刀よりも短刀の方が向いている。
 久しぶりに両手で武器を持っての戦闘だった。
 片手での戦闘が長かったせいか、少しだけ違和感があった慣れの問題だろう? と感じながら短刀でジャンボラットの魔核を取り除く作業に取り掛かる。
 討伐数は全部で九匹だった。

(これで三種類か……あと、二十七種類)

 このバビロニアの迷宮ダンジョンでは、ほとんどが未討伐の魔物だと思っていたので、リゼの予想は当たっていた。
 しかし、各階層にいる魔物の種類も限りがあり階層を進まなければ、より多くの魔物と遭遇することは出来ない。
 クエスト内容を「一日一種類」と軽く考えていたが、考えを改めることにした。

 次の四階層へ行くか、三階層で奥へと進むかを悩む。
 悩んだ末、三階層を奥に進むことにする。
 細い場所を進んでいくと、低かった天井が一気に高くなる場所に出た。
 床には黒い玉が幾つも転がっているので、リゼはすぐに天井を見上げようとすると、天井から大きな音が聞こえる。
 岩壁に反響しているのか、あらゆる方向から音が響いて来るんでリゼは全方位に注意を払う。
 地面に落ちていたのは、天井にいる魔物の糞だとリゼは気付いていたが、それより策に魔物が攻撃を仕掛けてきたのだ。
 天井にいる魔物の正体はマッドバットで、ジャンボラット同様に集団で行動している。
 ただ違うのは集団で狩りをしないため、対処するのは襲ってきたマッドバットだけで良い。
 リゼが動かずにいると、痺れを切らしたのか数匹のマッドバットが凄い速さで飛んで来た。
 反撃するため小太刀を振るうが、事前に攻撃が分かっているのか、小太刀を避けるようにしてリゼから離れた。
 初めて現した姿を現したマッドバットと、以前に倒したことのあるジャイアントバットとを比較して小さいと思いながらも、油断は出来ないと次の攻撃を警戒する。
 その後も、同じ個体なのか別の個体なのかも判別できないまま、襲ってくるマッドパッド数匹と応戦する。
 飛行最中に口もとから垂れた液で地面から煙が出ていたので、アシッドスライムのように物質を溶かすことが可能なので、警戒を強めながらも武器を破損するのを危惧して”ドッペルゲンガー”を発動させることにした。
 不思議なことにドッペルゲンガーに、まるで気付いていないかのようにあっさりと討伐される。

(そういえば……)

 リゼは魔物図鑑に蝙蝠に似た魔物は、蝙蝠同様に超音波を使って敵や障害物の位置を把握すると書いてあったことを思い出す。
 ドッペルゲンガーは影なので超音波が聞かなかったことを知り、今後は同じような魔物には有効な攻撃手段だと確信する。


――――――――――――――――――――

■リゼの能力値
 『体力:三十六』
 『魔力:三十』
 『力:二十三』
 『防御:二十』
 『魔法力:二十一』
 『魔力耐性:十六』
 『敏捷:八十六』
 『回避:四十三』
 『魅力:二十四』
 『運:四十八』
 『万能能力値:零』
 
■メインクエスト
 ・迷宮ダンジョンで未討伐の魔物討伐(討伐種類:三十)。期限:三十日
 ・報酬:転職ステータス値向上

■サブクエスト
 ・防具の変更。期限:二年
 ・報酬:ドヴォルグ国での武器製作率向上

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年
 ・報酬:全ての能力値(一増加)

■シークレットクエスト
 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
 ・報酬:万能能力値(五増加)  
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

【3部完結】ダンジョンアポカリプス!~ルールが書き変った現代世界を僕のガチャスキルで最強パーティーギルド無双する~

すちて
ファンタジー
謎のダンジョン、真実クエスト、カウントダウン、これは、夢であるが、ただの夢ではない。――それは世界のルールが書き変わる、最初のダンジョン。  無自覚ド善人高校生、真瀬敬命が眠りにつくと、気がつけばそこはダンジョンだった。得たスキルは『ガチャ』! クラスメイトの穏やか美少女、有坂琴音と何故か共にいた見知らぬ男性2人とパーティーを組み、悪意の見え隠れする不穏な謎のダンジョンをガチャスキルを使って善人パーティーで無双攻略をしていくが…… 1部夢現《ムゲン》ダンジョン編、2部アポカリプスサウンド編、完結済。現代ダンジョンによるアポカリプスが本格的に始まるのは2部からになります。毎日12時頃更新中。楽しんで頂ければ幸いです。

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...