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第175話

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「討伐数は達成したわね」
「そうっスね」

 キラーエイプを十四匹討伐し終えた。
 最初に見つけた四匹のメス集団の後に、五匹のメス集団を発見して、最後に五匹のオス集団で討伐を終えた。

「六匹倒した、私の勝ちね」
「……悔しいけど、そうっス」

 ジェイドも五匹討伐している。リゼは三匹だった。
 二人に比べて討伐に時間が掛かっている。
 魔法を駆使して、数匹を相手にしているアンジュ。
 数回の攻撃で確実に討伐していくジェイド。
 リゼが最後まで戦っているため、二人にはリゼとの戦闘が終わるまで待っていてもらっていた。
 それが戦闘中の視線に入り、余計とリゼの気を焦らせて攻撃が鈍っていた。
 予定よりも遠い場所に来たことと、リゼのせいで討伐に時間が掛かってしまったことで、夜道を戻るか、野営をするかの選択に迫られていた。

「まぁ、ちょっと戻った所にあった川岸で、野営の方が安全ね」
「そうっスね。無理して戻ると危険があるっスもんね」

 てっきり戻るものだと思っていたリゼは、二人の意見に驚いた。
 危険をきちんと把握して、適切な状況判断が出来るのは経験の差だろう。

 安全な川岸に移動すると、移動中に拾った小枝などを集めて火を付ける。
 薪を焚べながら各々がアイテムバッグから食料を出す。

「反省会でもするっスか?」
「いいわね。お互いに思ったことを気にせずに言い合いましょう。リゼもいい?」
「はい」
「……まだ、ぎこちないわね」

 他人行儀の言葉使いに苦笑いするアンジュ。

「最初は言い出したジェイドからね」
「いいっスよ」
「そうね――」

 アンジュはジェイドの戦闘状況について話始める。
 リゼは自分が戦闘しているなかで、ジェイドの細かい状況を話すアンジェが凄いと感じたが、そのあとにジェイドがアンジュの戦闘についても話をしていたことに、これが普通なのか? と自分の考えが分からなくなっていた。
 リゼが二人に質問をすると、呆気にとられた表情で笑いながら返答される。

「私は後方支援だから、全体の戦況を把握して、状況によっては指示を出したりすることもあるから、常に周囲を見ておくようにとアリスお姉様から言われているのよ。状況に応じて、使用する魔法も違うしね」
「自分もそうっスね。一応、最初に攻撃をするっスけど、周囲を見て戦わないと、孤立して仲間に迷惑を掛けることになるっス。兄貴から何度も注意を受けたっスよ」

 アンジュとジェイドは何気なく話すが、普通の冒険者は自分のことで精一杯なので、仲間の状況まで見ていられる冒険者は多くない。
 いたとしても、アンジュのような後方支援職の仲間が全員に指示を出したり、魔法を発動する時に巻き込まないように、注意を促すくらいだ。
 銀翼は常に仲間の位置を確認しながら攻撃をしているため、連携が他のクランよりも取れている。
 たまに暴走するミランなどは、戦闘後にクウガやアリスから叱られていた。

 反省会は感情的になるわけでなく、淡々と話していたのが印象的だったリゼは自分の番になり緊張していた。

「あの魔物を拘束する魔法いいわね」
「自分も思ったっス」

 習得した”シャドウバインド”が褒められて、リゼは嬉しい気持ちになる。
 拘束した相手であればアンジュは魔法を、ジェイドは拳を打ち込める。
 しかし、褒めてもらえたのは最初だけでアンジュとジェイドから厳しい言葉が幾つも投げつけられる。
 まず、攻撃に躊躇いがあることを二人から指摘された。
 初めて人を殺めてから時間が経っていないとかは関係なかった。
 優しい言葉でなく、きちんと自分と言う人間を評価してくれている。
 リゼは真剣に二人の意見を聞いていた。

「他に魔法使っていなかったけど、使えない魔法だった?」
「いいえ……ちょっと、魔法使うので意見を聞かせて貰えますか?」
「別にいいわよ。ねっ、ジェイド」
「もちろんっスよ」
「ありがとうございます」
「ございますは、不要よ」
「あっ!」

 気を付けているが、言葉使いが変わっていなかったことにリゼは気付く。

「じゃあ、使いますね……我が存在を消し去れ”ディサピア”」

 唱え終わるとアンジュとジェイドの顔が一変する。
 周囲を見渡してリゼを探す。
 だがリゼは一歩も動いていなかった。
 時間にして二秒ほどだった。
 リゼが頭の中で「解除」と叫ぶ前に、魔法が解除された。

「……消えた?」
「気配も感じないっス……凄いっスね。簡単に背後を取れるじゃないっスか」

 ジェイドが興奮していた。
 反対にアンジュは少し考え込んでいた。

「悪くはないけど、仲間がいる時の戦闘で使うのは危険ね」
「どうしてっスか?」
「簡単なことよ。姿が見えないってことは、認識できないってことよ。仲間の攻撃が当たってしまう可能性だってあるってことよ」
「確かにそうっスね」
「特に魔法を発動する時に一瞬とはいえ、確認出来ないのは致命的よ」

 アンジュの意見は間違っていない。
 戦況を確認していようが、気配も完全に断った相手は意識の外にいる。
 それが例え一瞬のことだとしても、命取りになる。

「まぁ、慣れればリゼの位置などは、ある程度把握できるかも知れないけど……」

 全く使えないのでなく、使える状況を模索しているようだった。
 リゼ以上に”ディサピア”の使いどころを考えていた。

「他にもあったわよね?」
「はい。ジェイドさんに協力してもらいたいのですが……」
「いいっスよ。それと、呼び捨てで大丈夫っス!」

 屈託のない笑顔をリゼに向ける。

「姿を現せ”ドッペルゲンガー”」

 影が人が現れる。

「行きます!」

 ジェイドに向かって攻撃をする。
 リゼとドッペルゲンガーの二人からの攻撃に、ジェイドは防戦する。
 意思疎通が出来ているため、コンビネーションに隙が無い。
 時間が経過して、魔法が解除される。
 息を切らすリゼとは対照的に、笑顔のジェイドが興奮していた。

「凄いっスよ。時間に制限があるとはいえ完璧な攻撃っすよ。これとさっきの魔法を合わせれば、一瞬でも姿を消して二人攻撃ってことっスよね!」

 少し早口でリゼに意見を述べる。
 考えてもいなかった提案だった。

「それは止めた方がいいわ」
「何でっスか!」

 自分の意見を否定されたジェイドが不満を口にする。

「予想だけど”ディサピア”はリゼ自身は消せれるけど、影から具現化したドッペルゲンガーは難しいんじゃないかしら?」
「たしかに……そうっスね」
「まぁ、リキャストタイム後に試してみたら分かることだけど……他にも習得した魔法があったわよね」
「はい」

 リゼは”シャドウステップ”を発動させて、影になっている木の幹を歩く。
 ジェイドは毎回、新鮮な反応で驚く。
 アンジュは何度か軽く頷きながら、リゼの様子を見ていた。

「今、見せてくれた魔法の持続時間は把握している?」
「はい」

 アンジュからの意見は的を得ていると思いながら、なにを言われるのかと緊張してアンジュの言葉を待つ。

「今日、見せてもらった魔法だけど、闇属性だけあって四つとも珍しい魔法ね。使用している冒険者は少ないと思うわ。使いところが難しいけど、魔法を理解さえすれば解決することよ」

 アンジュはリゼを安心させるかのように、ゆっくりと話す。

(あれ?)

 リゼは自分の気持ちの異変に気付く。
 いままで単独ソロに拘ってきたはず……いつの間にか誰かと……いや、アンジュとジェイドと一緒に戦うという考えに変わっていた。
 今回はお互いの戦いに干渉しないようにしていた。
 クエスト内容にもよるが、単独ソロで戦うよりも楽だったことは間違いない。
 ただ、アンジュもジェイドもお互いの戦い方を見ている余裕があったが、リゼは自分の戦いに精一杯で余裕が無かった。
 リゼは楽なほうに逃げているのではないか? と自分の弱さを考えていた。


――――――――――――――――――――

■リゼの能力値
 『体力:三十五』
 『魔力:二十八』
 『力:二十二』
 『防御:二十』
 『魔法力:二十一』
 『魔力耐性:十六』
 『敏捷:八十四』
 『回避:四十三』
 『魅力:十九』
 『運:四十五』
 『万能能力値:零』

■メインクエスト
 ・魔力の枯渇(三回)期限:十日
 ・報酬:体力(一増加)、魔力(二増加)
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