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第172話

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 リゼはラドカに闇属性の魔法を習得して、他の魔法書は売却すると伝える。
 そして、追加報酬は闇属性のブック魔法書にしたいことも伝えた。

「分かりました。上級のブック魔法書を幾つか用意致しますので、アンジュ同様に気に入ったブック魔法書を二冊選んで下さい」

 火属性と闇属性のブック魔法書を持ってくるまで、リゼが持っていた闇属性のブック魔法書の魔法について、グローアが説明をしてくれた。

 『闇の中級魔法』は”シャドウバインド”と”シャドウステップ ”だった。
 "シャドウバインド"は影のある場所なら、影から棘を出して一定時間だけ相手を拘束できるが体力の能力値差が大きいと効果は一瞬しかない。
 "シャドウステップ"は足場の無い場所でも影があれば、影を足場にして移動することが出来る。
 夜、光が当たらない場所であれば自由に移動が可能な魔法だが、影と物体が一体化していることが条件になる。
 『闇の上級魔法』は”ドレイン”で、一定時間だけ武器に魔法付与をして、攻撃を当てるたびに、相手から体力を奪い自分の体力を回復してくれる。使用回数に制限がある。制限は人によって違うが、かなり希少な魔法らしい。

 リゼは説明を受けたが、かなり有効的な魔法だと感じていたが、魔法を使うことをあまり考えていなかった。
 魔力や魔法力の能力値を上げていないため不安を感じていたからだ。

 グローアはリゼに気に入ったブック魔法書があれば、売却するブック魔法書と交換してもいいと提案してくれた。
 もちろん、中級のブック魔法書なので、全て上級の魔法書とは交換が出来ないことはリゼも分かっていた。

「気に入った魔法書があれば売ってもらうことは出来ますか?」

 アンジュが目を輝かせながらグローアに質問をする。

「えぇ、いいですが市場よりも少し安いだけですよ」
「それでも構いません」

 上級魔法のブック魔法書が市場に出回ることは少なく、販売されるタイミングが分からないので入手するのが困難だ。
 馴染みの店であれば、入荷したら暫くは取り置きをしてくれることもあるが、その分高価になる。
 王都にいる魔法師の数からも、アンジュくらいの冒険者であっても、贔屓にしてくれる店は無いに等しい。 

「二属性魔法のブック魔法書は全て超級ですよね?」
「はい。二属性魔法は希少ですので、全て超級になります」

 二属性魔法とは、その名の通り魔法属性を二つ持ったブック魔法書になる。
 相乗効果もあり攻撃力も上級の比ではない。
 アンジュは学習院時代に一度だけ、二属性魔法を見たことがあった。
 その時の魔法は『水』と『雷』だった。
 魔法名まで覚えていなかったが、”アクアバレット”のように指先から幾つかの水の弾が発射されるのだが、雷を纏っているのか数メートル離れた対象物に向かって光が散らばり、凄い音と共に焦げる臭いがていた。
 明らかに雷属性の魔法攻撃だった。
 この魔法を見て以降、アンジュは超級魔法に心を奪われていた。

 アンジュの魔法属性は『火』と『雷』だった。
 だが、アンジュは火属性の魔法しか習得していない。
 一番多い属性が『火』なので、使用している冒険者も多いし、生産職でも火属性を活用して働いている人たちが多くいることも知っている。
 本当であればアリスが使っている風属性の魔法を使ってみたかったが、属性が『火』や『雷』に比べてかなり劣っているないため諦めていた。
 雷属性魔法のブック魔法書は少ないため、なかなか手に入れることが出来なかったのも、火属性魔法しか使っていない理由になる。
 今回、雷属性魔法を習得しようとも考えたが、むやみに慣れていない属性魔法に手を出すより、扱い慣れている火属性魔法の方が良いと考えたからだ。
 二属性魔法は解明されていないことが多いことも知っていたが、習得できるチャンスだと感じていたのだ。

「実感がないかも知れませんが――」

 グローアは前置きをしながらも、魔法には熟練度というものがあり、何回も使う度に微少であるが強くなっていることを話す。
 この内容は学習院で習った記憶があると、アンジュはすぐに思い出した。
 しかし、グローアの言うとおり実感がまるでない。

「まだ仮説ですが熟練度が上がれば、魔力と魔法力の能力値が上がると、当研究所は考えております」

 王都魔法研究所では、高額な報酬で魔法師に同じ魔法を何度も何度も発動させて、魔力が切れると、魔法回復薬……今はマジックポーションで魔力を回復させて、魔法を発動させるというのを、短い食事の時間と、数時間の睡眠以外は何日も同じことをして確認したそうだ。
 人体実験とも捉えることが出来るが、きちんとギルドに発注をしている正規のクエストだ。
 もちろん、破格の報酬と先程の誓約書もあるので、何度もクエストを受注する冒険者もいるそうだ。
 ただし、表に出ていないが短時間による魔法を発動している反動か、精神的に影響を受ける冒険者もいるが、その事実を冒険者ギルドは知らない。
 受注して冒険者が戻らないことで、冒険者ギルドが謝罪にくるが、王都魔法研究所としては謝罪を受け入れて、冒険者のことは知らぬ存ぜぬを通して突然、居なくなったとだけ伝えていた。

 王都魔法研究所や、フォークオリア法国が正式に発表していないことから信憑性が薄いと感じながらも、熟練度をあげる行為をしてみるのもありだとアンジュは感じていた。
 強くなるため、憧れのアリスに近付くためには、考えられることは全てするつもりだからだ。

 ラドカが戻って来ると、後ろに何人かの所員の手には何冊もブック魔法書が積まれていた。
 それを綺麗に机の上に陳列始める。

 少し遅れて、拳闘士用の武器を運んでくる所員たち。
 ブック魔法書とは別の場所に、武器も綺麗に並べた。

「凄いっスね‼」

 並べられた武器に喜びを隠せないようだった。

「う~ん、棍や爪系は使わないっスから、手甲で決まりっスね」
「どうぞ、手に取って確認して下さい」

 喜ぶジェイドを見て、満面の笑みで武器の方へと誘う。
 ラドカが手甲の武器に付与されている魔法などを説明を始めると、ジェイドは真剣んに説明を聞き始めた。
 アンジュは陳列されたブック魔法書を見ながら、魔法を確認していた。

「どの魔法か分かるの?」
「もちろんよ」

 アンジュにとって簡単なことだと知ったリゼは、自分の無知を知る。
 たしかにブック魔法書が分からなければ、習得する魔法を知ることは出来ない。
 当たり前のことだが、つい先ほどまで魔法を習得する気が無かったリゼは学ぶべきことが増えたことを知る。

 悩んでいたのか分からないほどの時間でアンジュは”エクスプロージョン”と”インフェルノ”を選択した。
 二つとも希少な火属性魔法で、アンジュが尊敬してやまないアリスも使用する魔法だ。
 ”エクスプロージョン”は広域魔法で、座標指定をすると上空に大きな火球を発現させて、それを地面に向けて落とす魔法だ。
 その被害範囲は数キロに及ぶこともあるので、使用状況が難しい魔法だが、広域魔法を取得していないアリスにとっては、喉から手が出るほど欲しかった魔法の一つだった。
 ”インフェルノ”は近距離から中距離にかけて使用する魔法で、対象者に当たれば消えることのない炎で絶命するまで焼き尽くす恐ろしい魔法だ。
 魔力の消費量が大きい魔法の一つで、一度に一回しか使用できないので、対象者が絶命するまで、別の対象者に魔法を発動することが出来ない。
 自分よりも体力がある対象者には、水属性魔法などで炎を消されたり、体に纏わりついた炎が自然に消えることもある。
 ただし、魔物との戦闘の場合、火を嫌う魔物が多いので体に纏わりついた火を消そうとする行為を優先にする為、隙が出来やすく次の攻撃に繋げやすい。

 ジックペリンが所員に指示を出して、アンジュの選んだブック魔法書の誓約作業を手伝わせていた。

ブック魔法書の説明をしましょうか?」
「はい、御願いします」

 グローアはリゼにブック魔法書に書かれた魔法の説明を始めた。


――――――――――――――――――――

■リゼの能力値
 『体力:三十五』
 『魔力:十八』
 『力:二十二』
 『防御:二十』
 『魔法力:十一』
 『魔力耐性:十六』
 『敏捷:八十四』
 『回避:四十三』
 『魅力:十九』
 『運:四十五』
 『万能能力値:零』

■メインクエスト
 ・魔法習得
 ・報酬:魔力(二増加)、魔法力(二増加)

■サブクエスト
 ・魔法習得(二十四時間以内)
 ・報酬一回習得につき(最大五回):魔力(二増加)、魔法力(二増加)
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