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第168話

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「単刀直入に言うわ。ビトレイアさん、あなたは襲ってきた野盗……いいえ、野盗を装っている奴らの仲間よね?」
「えっ!」

 アンジュの唐突な発言に、リゼと月白兎のシュウを覗くメンバーは驚いていた。
 名指しで野盗の仲間扱いされたビトレイアも驚いている。

「一体、なんのことをおっしゃっているのか」

 動揺するビトレイアを無視するかのように、アンジュは話を続けた。

「あなたを疑う条件は、幾つもあるわ」

 アンジュはビトレイアの目を見ながら理由を話す。
 まず、野盗たちがビトレイアに攻撃を仕掛けなかったことを冷静に話す。

「それは野盗の目的が物だったからでは?」
「そうですね。その考えも分かります。ですが先程、荷台から出てきた野盗が人質をリスボンさんから、あなたに変えましたよね」
「はい、それが?」
「不自然なんですよ。最初、私も女性のあなたを人質としたほうが、逃走しやすいからかと思ったわ。だけど、野盗であればアイテムバッグに商品を持っているリスボンさんの方が一緒に連れていくメリットのほうが高いはずよ」

 アンジュの言葉にビトレイアは反論できなかった。

「それにリゼ。荷台の中でのことを教えてくれる」
「はい」

 リゼは野盗を追って、荷台に入った時の状況を話す。

「そのバッグ、アイテムバッグよね」

 リゼが話し終えると同時に、アンジュはビトレイアの肩から斜め掛けてしているバッグを指差す。

「……いいえ、普通のバッグです」

 ビトレイアはバッグを守るように抱き抱える。

「それと隠しているつもりでしょうが、そのネックレスも野盗と同じよね」

 胸元から少しだけ見えるネックレスをアンジュは指差すと、ビトレイアは咄嗟に胸元を隠す。

「ちっ、上手くいっていたのに」

 ビトレイアの態度が豹変して、太々しい表情に変わる。

「どうせ、人質として野盗たちと一緒に逃走するつもりだったのでしょう」

 アンジュがビトレイアの計画を全て知っていたかのような馬鹿にした口調で話すと図星だったかのか、ビトレイアはアンジュを睨んだ。
 リゼはアンジュの言葉で、殺した野盗が最後に言った「もう、戻るだけだったのに――」という言葉の意味を理解した。

「おっと! 逃げようたって、そうはいかないぜ」

 逃走する素振りを見せたビトレイアを、シュウたちは距離と詰めて取り囲む。
 ビトレイアは諦めることなく逃走する手段があるのか、アイテムバッグに手を掛ける。
 背後にいたシアクスが、すぐにビトレイアの手を押さえる。
 同時にシュウも剣をビトレイアに突き付けると、ビトレイアの注意が突き付けられた剣に向けられていた。
 シアクスは、その一瞬を狙ってビトレイアのアイテムバッグの肩紐を斬る。
 アイテムバッグがビトレイアの体から離れると、ビクトリアが異変に気付いた。
 しかし、シアクスがビトレイアより先に、地面に落ちる前にアイテムバッグを掴むと、そのまま隣にいたアンジュに放り投げた。
 あまりに一瞬のことで、ビトレイアは反応が遅れる。
 アイテムバッグを受け取ったアンジュは、素早く自分のアイテムバッグにビトレイアのアイテムバッグを仕舞った。

「くそっ!」

 リゼたちの包囲網を何とか突破しようと模索するビトレイアだったが、一瞬の隙も見せることなくビトレイアを包囲し続ける。
 視線を外した隙に、シュウがビトレイアに一撃を入れようとするが、最小限の動きでシュウの剣を躱す。

「その身のこなし。やはり、只者では無いようね」

 アンジュたちは警戒を強める。
 しかし、武器を持たないビトレイアは戦闘を避けて逃走することを優先させていることは、誰もが分かっている。
 証人としてビトレイアを連れて行くつもりのようだ。
 先程まで戦闘していた野盗も尋問するために、数人は生きたまま捕獲しようとしたが、自害を選んだり、口封じに仲間の手によって殺された。
 抑え込もうとするが、ビトレイアは体を入れ替えて拘束から必死で逃げるが、アンジュたちの敷いた包囲網から、容易に逃げ出すことは出来ない。
 リゼたちを見渡して、逃げられないと観念したような仕草を見せるが、ビトレイアの罠かと思い、リゼたちの警戒は変わらずにいた。
 不敵な笑みをビトレイアが浮かべた次の瞬間、目が見開き、口から血を吐いた。

「しまった‼」

 シュウが叫ぶ。ビトレイアの症状が、自決した衛兵たちと同じだったからだ。

「これ以上、追及できることもなくなったようね」

 悔しそうにアンジュが倒れたビトレイアを見ていた。
 警戒しながら、アンジュがビトレイアの死体に触れる。少しでも証拠が無いかと探していた。
 野盗たちの情報共有方法の手掛かりを探していたのだ。しかし、手掛かりは見つからなかった。
 シュウの判断で野盗数人と、ビトレイアのの死体を縛って王都まで運ぶことに決める。
 王都に戻れば、何か分かるかも知れないと考えたからだ。

 早速、移動の準備を始める。
 リゼとアンジュも同行して王都に戻ることにした。

 王都に戻る途中で、騎士団と一緒にいたジェイドと出会う。
 シュウたちは騎士団にビクトリアと野盗の死体を渡す。
 リスボンは騎士団に向かって、ビトレイアのアイテムバッグに盗まれた商品が入っていることを伝える。
 王都に戻ってからの処理をスムーズに進めるためだ。
 リスボンは指揮を任されている騎士の元へと案内される。
 シュウも護衛代表として、リスボンに同行した。

「大丈夫?」

 顔色が悪いリゼにアンジュが声を掛ける。

「はい、大丈夫です」

 アンジュの問いにリゼが答える。
 リゼの状況から、初めて人を殺した動揺を引きずっていることを感じていた。
 月白兎のメンバーたちはリゼが始めて人を殺したことを知らないので、単純に疲れているのだろうくらいしか思っていないだろう。
 アンジュも初めて人を殺した時のことを、今でも明確に覚えている。
 そして立ち直る……いいや、普通の状態に戻るまで時間が掛かったので、周囲に迷惑を掛けたことも、昨日のことのように思い出す。
 リゼの周囲には自分の時のように頼れる冒険者がいない。
 先輩冒険者としても、リゼの面倒を見ようとアンジュはリゼを見守っていた。

「相変わらずだね」

 アントニーがアンジュに話し掛ける。

「それは成長していないってこと?」
「違うよ。相変わらず優秀って意味だよ」

 アンジュとアントニーは、学習院で同期だ。在学中でもアンジュは座学、実戦共に優秀だった。同じ魔術師ということもあり、特別仲が良いわけではないが、悪くもない関係だった。
 同じ冒険者としてアンジュの成長を考えると、追い付くどころか引き離されている。
 アントニーは天賦の才を恨めしくさえ感じていた。

「アリスお姉様に比べれば、私なんて優秀じゃないわ」

 自分のことよりもアリスのことを自慢気に話すアンジュをアントニーは苦笑いしていた。
 
「思い込んだら一直線な性格も変わっていないね」
「失礼ね」

 アントニーの言葉に不機嫌になる。
 話を終えたのか、リスボンとシュウが戻って来る。
 すぐに王都に戻ることとなった。
 王都に戻っても、リゼとアンジュ、ジェイドの三人は今回の件で事情を聞かれるとのことだった。

「まぁ、仕方がないわね」

 アンジュは面倒臭そうに答えていた。 


――――――――――――――――――――

■リゼの能力値
 『体力:三十五』
 『魔力:十八』
 『力:二十二』
 『防御:二十』
 『魔法力:十一』
 『魔力耐性:十六』
 『敏捷:八十四』
 『回避:四十三』
 『魅力:十七』
 『運:四十三』
 『万能能力値:零』

■メインクエスト
 ・王都にある三星飲食店で十回食事をする。一店一回。期限:十二日
 ・報酬:魅力(二増加)、運(二増加)
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