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第147話

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 翌日、リゼはタイダイから改めて返事を貰う。
 それは、同行させることは出来ないとのことだった。
 リゼも無理を言える立場では無いので了承して、いろいろと動いてもらったタイダイにに対して礼を言う。
 そして、その足でギルド会館へと向かった。
 王都へ向かう別の商人に交渉をするためだ。
 しかし、予定していないリゼを同乗させることは難しいと、全て断られる。
 その原因は、リゼが採取してきたオーリスキノコにあった。
 名産品でもあるオーリスキノコが通常よりも多く入手出来たことで、それに合う食材なども予定よりも多く買った為、荷台に余裕が無かったのだ。
 基本的に日持ちがしなく収納が可能な物はアイテムバッグに収納する。
 本来、アイテムバッグに入れるはずの物を荷台に乗せることになったのだ。
 自分が採取したオーリスキノコが原因で、王都への移動に支障をきたしていることを、リゼは知る由もなかった。

「定期運航している馬車に乗るんだな」

 交渉していた商人から最後に助言を貰う。
 大きな都市を巡回している馬車がある。
 運賃だけ支払い、飲食や寝床は自分たちで確保するのだが、距離に応じて支払う通貨が変わるが、商人に同乗するよりもかなり割高になる。
 安全に運航するため、護衛の為の冒険者が何人もいることや、その冒険者たちの支払いも運航費のなかに入っているからだ。
 安全を通貨で買っているから、仕方のないことだとリゼは理解していた。

(もう少しだけ、オーリスに滞在して……いや、それよりもバジーナ経由での方が――)

 別の商人に頼めば、定期運航の馬車よりも安く王都まで行ける。
 しかし、必ずしもリゼの条件に合うとは限らない。
 当然商人なので、王都に行くまでに別の場所を経由したり、商人によっては定期運航している馬車よりも運賃が高かったりと、同乗者への配慮は無い。
 リゼは悩みながら一旦、隣の都市バジーナまで移動をして、そこから王都への移動も考えることにした。
 オーリスよりもバジーナの方が商人の出入りが多く、荷馬車に同乗できる確率が高いからだ。
 これは情報を聞いている時に、偶然知ったことだった。
 しかし、バジーナでの滞在日数を考えると、高くても定期運航の馬車の方が安くなることも十分に考えられる。
 考えれば考えるほど、思っていた以上に選択肢があることに、リゼは悩みながら、決めきれない自分の優柔不断さにも悩んでいた。

(うん!)

 自分に言い聞かせるように頷くと、リゼは歩き始めた。
 行き先は……定期運航の馬車乗り場だ。
 悩んで時間を浪費するよりも、行動に移した方が良いとリゼは判断した。

 乗り場には数人の列が出来ていた。
 リゼは列の最後尾に並んで、自分の番が来るのを待つ。
 そして、リゼの番になり行き先が王都ということを伝えて、運賃や移動時の決め事などを係員から説明を受ける。

「王都だと……明日の朝にオーリスを出る馬車が一番早いが、どうする?」
「それで御願いします」

 リゼは即答する。
 今、宿泊している兎の宿は明日の晩まで前払いしているので、一泊分無駄になるが仕方のないことだとリゼは思っていた。
 それに明朝の出発だと、今日中に御世話になった人たちへの挨拶が必要だと、頭の中で御世話になった人を思い浮かべていた。
 リゼは係員から明日の馬車の番号と、乗車番号の掛かれた紙を受け取る。
 この紙を馬車に見せれば乗車可能だ。
 しかし、移動している途中でも紙を紛失したら、その瞬間から馬車には乗れなくなってしますので、大事に保管しておかなくてはならない。
 とりあえず、王都までの移動手段を確保したリゼ。
 しかし、すぐにお世話になったオーリスの人たちへ、この町を去ることとお礼を言って回る為、走って乗り場から去る。

 まず、兎の宿に戻り、ヴェロニカに次の予約はしないことを伝える。

「いつ、この町を出ていくんだい?」

 事情を察したヴェロニカは、いつもと同じ口調でリゼに語り掛ける。

「明朝です。いろいろと御世話になりました」
「たいしたことはしていないよ。体に気を付けて元気でやりなよ」
「はい、ありがとうございます」

 ヴェロニカは不在中の夫であるハンネルと、娘のニコルには自分から話をしておくと言ってくれた。
 明朝であれば、二人に合うことが出来るのでリゼはその時に、改めて二人に礼を言おうと伝えた。

 次にリゼは解体場へと向かった。
 懐かしくも初めてクエストに失敗したことや、ヨイチたちが自分へのクエストを発注してくれたことを思い出しながら、冒険者として忘れられない場所の一つだと思っていた。
 作業中なので邪魔にならないようにと、様子を伺っていると作業員の一人がリゼに気付き声を掛けてきた。

「ん? なにか用かい?」
「はい。御仕事中にすみませんが、ヨイチさんは居ますか?」
「あぁ、ヨイチさんか。今日はゴロウさんの所にいるよ」
「そうですか。ありがとうございます」

 リゼは頭を下げて礼を言うと、すぐにゴロウが普段いる解体場へと向かった。
 向かう途中に武器職人の工房があるので、リゼはゴードンとラッセルに挨拶をすることにする。
 ラッセルは初めて自分の武器を使ってくれたリゼとの別れを悲しんでいたが、親方であるゴードンに武器職人と冒険者の立場を言われると納得して、リゼとの前向きな別れを納得してくれて、ラッセルからも感謝の言葉を貰った。
 リゼの様子から急いでいるのを悟ったゴードンは、名残惜しそうなラッセルと連れて仕事へと戻る。

 町中を必死で走るリゼに驚く人もいたが、リゼは気にすることなく走り続けた。
 走りながら御礼を言うのに、手土産が必要では無かったのか! と気付き、足を止めた。
 自分の意志で町を去ることは初めてなので、失礼なことをしたのではないかと考える。
 しかし、御礼の品をあげた人と、あげない人が出るのは自分の中で納得できないし再度、挨拶に伺うのも失礼だと思い、自分の非礼を承知で挨拶に回ることにする。

 解体場に到着すると、走って来たリゼに驚いた従業員がゴロウに報告をする。
 何事かとゴロウとヨイチがリゼの所へとやってきた。

「どうしたんだ⁈」

 状況が分からないゴロウは戸惑いながらリゼに声を掛ける。
 ヨイチも心配そうにリゼを見ていた。

「実は……」

 リゼは明朝にオーリスを出て王都へ向かうことを告げて、ヨイチとゴロウに世話になった礼を簡単ではあるが、自分なりの言葉で告げた。
 そして、急だったためお礼の品も持って来ていない失礼な振る舞いを謝罪する。

「そうか……冒険者だから拠点を変えることはよくあるしな」
「そうじゃとも。それに手土産など不要じゃ。こうして、わざわざ会いに来てくれたことが、儂らにとってはなによりじゃしな」
「そうだな。ナタリーとミッシェルも寂しがるだろう」

 ゴロウの妻であるナタリーと、娘のミッシェルにもリゼは、とても世話になったので挨拶は出来ないが感謝していたことを伝えて貰うことにする。

「ゴロウ」
「分かっている」

 ヨイチがゴロウの名を呼ぶと、ゴロウは何かを察したのか指を口に当てて、指笛を鳴らす。
 その合図に従業員たちがゴロウの所へと集まって来た。

「リゼが明日の朝、この町を去るそうだ」

 ゴロウの言葉に従業員たちは少し驚いていたが、リゼに向かって「頑張れよ」「元気でな」と温かい言葉を掛けてくれた。
 従業員たちは事故の時にリゼが必死で助けようとしてくれていたことを思い出していた。

「何番の馬車に乗る予定かの?」
「八十二番です」
「そうかい。元気での」
「はい、ヨイチさんもゴロウさん、従業員の皆さんもお元気で。本当にいろいろと御世話になりました」

 リゼは深々と頭を下げてお辞儀をする。

「他にも回るところがあるんじゃろうて、早く行きなさい」
「ありがとうございます」

 リゼはヨイチの言葉に甘える形で解体所を後にした。

「八十二番か……」

 走り去るリゼの後姿を見ながら、ヨイチは呟いていた。

 その後、リゼは靴屋デニスと、防具屋のファースの所に行き礼を言って回る。
 共に王都の知り合いの店を教えて貰い、もし何かあればそこを訪れるようにと親切に言ってくれた。
 そして、オーリスに戻って来た時は、必ず顔を出すようにと約束させられる。
 正確は違っていても同じことを言う二人にリゼは「やっぱり、兄弟なんだな」と感じていた。

 グッダイ道具店で出発前、最後の道具を購入する。
 グッダイから事情を聞いていたミサージュとラリンは悲しんでくれていた。

「これは私たちからの餞別よ」
「えっ、でも!」
「いいから、受け取って」

 リゼの購入した道具とは別にポーションを二つくれた。
 笑顔で渡すミサージュにリゼは「ありがとうございます」と言い、商品を受け取った。

「王都ではタイダイ道具店を贔屓にしてあげてね」
「はい」

 リゼも王都の状況が分からないが、タイダイの店を利用するつもりでいた。
 知っている人の方が安心出来るからだ。

 タイダイ道具店を出て、冒険者ギルドへ向かう途中に領主の館を見る。

(領主様やミオナにもお礼を言いたいけど……)

 一介の冒険者である自分とは立場が違うため、簡単に会うことは出来ない。
 ギルマスであるニコラスに伝えて貰うことにした。

 冒険者ギルド会館に到着すると、クエストから戻って来た冒険者たちも居るため、リゼが思っていたよりも人が多かった。

 リゼはクエストをしていないが担当受付嬢のレベッカの列に並ぶ。
 列に並んでいるリゼに気付いたレベッカは、リゼを不思議そうな目で見ていた。
 リゼがクエストを受注していないことは知っているし、リゼの手にクエストボードから剥がしたクエストの紙も持っていなかったからだ。
 一番世話になったのが、この冒険者ギルドの人たちだ。
 リゼは待っている間、自分が生活していた二階の孤児部屋の方を見ていた。
 全てはあの孤児部屋から始まったのだと、冒険者になった数か月前のことを昨日のように思い出していた。
 そして、ヴェロニカから言われた「慣れた頃が一番危険だ!」という言葉を思い出して、自分に言い聞かせていた。

「はい、次……リゼね」

 リゼに番が回って来た。

「どうしたの?」
「その……明日の朝、オーリスを離れることにしたので、御挨拶を――」
「えっ‼」

 リゼが全てを言い終わる前に、レベッカは驚き声をあげた。

「それでどこに行くの?」
「王都です」
「王都……銀翼に入るつもりなのかな?」
「いいえ、銀翼は関係ありません」
「そう……もしかして、アイリでなく私が担当だったから」
「そんなことありません。アイリさんにもレベッカさんにも感謝しています。私が王都に行くのは私の事情であって、レベッカさんのせいでとかではありません」

 リゼは誤解されていると思い、必死で誤解を解こうとしていた。

「そう、それなら良かったわ。アイリに合わせる顔が無いもんね」

 レベッカの顔に笑顔が戻る。
 リゼはギルマスのニコラスと受付長のクリスティーナに取次ぎをお願いしようとしたが、生憎と二人とも不在だったので伝言だけ頼むことにした。
 そして、ニコラスの伝言には領主であるカプラスと娘のミオナにも感謝の言葉を伝えて欲しいとレベッカに伝えた。

「分かったわ。必ず伝えておくわ」
「それと、星天の誓はクエスト中ですか?」
「えぇ、少し遠い場所でのクエスト中だから、暫くは戻って来ないかな」
「分かりました。御手数ですが星天の誓の人たちにも、私が感謝していたと伝えて貰えますか?」
「えぇ、分かったわ」
「その……冒険者の人たちにも全員挨拶した方が良いですか?」
「う~ん、そういうのは必要ないわね。仲良かった冒険者だけで良いと思うわよ」
「分かりました。……シトルさんはクエストから戻ってきていますか?」
「シトルさんは、まだ戻ってきていないわ。シトルさんにも伝えておくわよ」
「すみませんが、御願い出来ますか?」
「はい、伝えておくわ」

 レベッカに伝言を頼んだリゼは冒険ギルド会館を出て、外から冒険者ギルド会館を改めて見ていた。
 暫く見ていた後、リゼは心の中で「有難う御座いました」と呟き、その場から去った。


――――――――――――――――――――


■リゼの能力値
 『体力:三十五』
 『魔力:十八』
 『力:二十二』
 『防御:二十』
 『魔法力:十一』
 『魔力耐性:十六』
 『素早さ:七十八』
 『回避:四十三』
 『魅力:十七』
 『運:四十三』
 『万能能力値:三』

■メインクエスト
 ・王都へ移動。期限:一年
 ・報酬:万能能力値(三増加)
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