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第136話

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 迷宮ダンジョンの入口にある門を開ける。
 リゼは高揚感に包まれて、迷宮ダンジョンへと足を進めるが、数歩進んだだけで、一気に空気が変わるのを感じる。
 平常心でいられない自分に気付き、何度も呼吸を整えた。

(うん、大丈夫)

 自分に言い聞かせるように心の中で呟く。
 冷静さを失った者は命を落とす可能性が高くなると、誰かから聞いた言葉を思い出していた。

 リゼは慎重に奥へと進む。
 入り口からの陽の光が薄れて、徐々に暗くなっていった。
 正確に言えば此処は、迷宮ダンジョンではない。
 一階層からが迷宮ダンジョンと言われているからだ。
 迷宮ダンジョンは大きく上層、中層、下層、深層の四層に分けられる。
 上層は一層から十層、中層は十一層から二十層、下層は二十一層からだが、ここオリシスの迷宮ダンジョンは下層の二十七層までしか攻略されていない。
 何層まで存在するのかも不明だ。
 深層の存在も確認出来ていないので、迷宮主ダンジョンマスターの正体も分かっていない。
 迷宮主ダンジョンマスターが守っている迷宮核ダンジョンコアを破壊すれば、迷宮ダンジョンが崩壊する。
 破壊された迷宮核ダンジョンコアは復活しないので、迷宮ダンジョン自体が無くなる。
 生態系が崩れることを危惧する国などは、迷宮主ダンジョンマスターを討伐する事は許可しているが、 迷宮核ダンジョンコアを破壊することは禁止している。
 未だ解明されていないが、迷宮ダンジョンという狩場を安易に無くしたくない国の意向もある。
 魔物も人の恐怖の対象だが、魔核や素材の採取が出来るので経済も潤う。
 迷宮ダンジョンとは一つの産業として確立されている。
 逆に迷宮ダンジョンが発生すれば、その領地は一気に活性化されるし、周囲に町が出来る。

 オリシスの迷宮ダンジョンで魔物が本格的に出現するのは、二階層からだ。
 一階層は弱い魔物が時折、二階層から逃げてくる時があるくらいで魔物との遭遇率はかなり低い。
 今回、リゼが採取するオーリスキノコは五階層から群生していると言われている。
 ただ、五階層のオーリスキノコは頻繁に採取されるので、数も少なく小さい物しかない。
 最低でも七階層より下層でなければ、大きなオーリスキノコを採取することが難しいというのが冒険者の認識だ。
 七階層よりも下層に行く冒険者の目的はオーリスキノコの採取でなく、魔物討伐を目的とすることが殆どだからだ。
 リゼもレベッカから助言を貰っていた。
 安全を取るなら五階層での採取、危険でも大きなオーリスキノコを採取したいのであれば、七階層よりも下層での採取が必須となる。
 リゼも迷宮ダンジョンに来たからには、少しでも稼いで帰りたい気持ちがるので、七階層での採取を考えていた。
 だが、ユニーククエスト『現アイテムで迷宮ダンジョンに三日間滞在』も達成しなくてはならない。
 下層に進めば野営にも危険が伴う。
 迷宮ダンジョンでは迷う確率も高い。
 つまり、安易に進むことは死に繋がる。
 リゼは緊張しながら、迷宮ダンジョンを一歩一歩、足を進める。

 ――一階層。
 運よく魔物との遭遇は無かった。
 迷宮ダンジョンに慣れるという意味では周囲を見渡しながら進む。
 岩の隙間から風を感じることもあるので、どこかに繋がっているのかと隙間から出る風に手を当ててみたりする。
 緊張する自分と、少しだけ楽しんでいる自分がいることにリゼは気付く。

 ――二階層。
 周囲は光苔で迷宮ダンジョン内は薄っすらと明るい。
 その状況でリゼはキラーマウスと戦っていた。
 十匹以上で襲ってくるキラーマウスだが、リゼの方が強いと分かると逃走していった。
 自分より強者とは戦わないという選択肢こそが、迷宮ダンジョンで生き残ることなのだろう。
 リゼも無駄な戦闘は避けたいので、逃走するキラーマウスを追撃をしなかった。
 他に身を潜めて自分を狙っている魔物がいるかも知れないので、警戒を強めながら、更に奥へと進む。
 奥の方から明かりのようなものが近づいてくる。
 魔物ではないとリゼは感じていたが、近づくにつれてそれが正しかったと確信する。
 明かりの正体は、岐路に向かう冒険者一行が使用していた【ライトボール】だった。
 リゼは道を譲るため、端の方に移動して歩く。
 冒険者一行は四人組だった。
 すれ違うリゼを素通りせずに声を掛けてきた。

「仲間と、はぐれたのか?」

 突然のことに戸惑うリゼだったが、冷静を装い返答をする。

「いいえ、単独ソロです」
単独ソロだと‼」

 冒険者一行はリゼを不可思議な目で見ていた。
 まだ幼い少女が一人で迷宮ダンジョンに入るはずがない。
 自分たちだって四人で迷宮ダンジョンに挑んでいたからだ。

「誰かに脅されているのか?」
「いいえ、違います」

 親切心から話しかけてもらっていると、リゼは思っているので失礼のない態度で示す。
 冒険者一行は隣の都市バジーナにあるクラン『黒龍』のメンバーだった。
 一応、リーダーのグラドンとはオーリスのギルマスの紹介で、話をしたことがあることを伝える。

「たしかにリーダーたちは、クエストの途中でオーリスに寄るって言っていたからな」

 リゼの表情は話しぶりから、リゼが嘘をついていないと感じていたが、それと一人で迷宮ダンジョンに入ることは別問題だ。
 余程、強力なスキル持ちでもないかぎり単独ソロでの迷宮ダンジョン攻略はしない。
 もしかして……と冒険者たちの頭にあり得ないような憶測が浮かんだ。
 ましてや、リーダーであるグラドンと話をしたともなれば、信憑性も高くなる。
 だが、グラドンの知り合いであれば、見過ごしたことでグラドンから叱られる可能性もあるので、そう簡単に引き下がることも出来ない。
 リゼが受注したクエストを確認して、いろいろとアドバイスをする。
 危険場所などを説明しようとしたが、リゼは道具屋で販売している迷宮地図ダンジョンマップを持っていなかった。
 そもそも、リゼは迷宮地図ダンジョンマップの存在を知らなかった。
 迷宮ダンジョンに入るのであれば、迷宮地図ダンジョンマップを購入することが当たり前なのだ。
 オリシスの迷宮ダンジョンで現在販売されている迷宮地図ダンジョンマップは上層の一層から十層と、中層は十一層から二十層のみだ。
 定期的に改訂版が販売されるが、大きく変わらないことや、自分なりに手書きで記入した迷宮地図ダンジョンマップを手放したくない冒険者が多い。
 リゼの受注したクエスト内容は上層のみでクエスト達成が可能なことをが分かったので、黒龍のメンバーたちは、口頭で注意点を教えてくれた。
 親切に教えてくれた黒龍のメンバーたちに名前を聞こうとしたが、「またどこかで会った時に」と言われた。 
 リゼは礼を言って、黒龍のメンバーたちと別れた。

迷宮地図ダンジョンマップか……)

 一人になったリゼは自分の不手際に後悔していた。
 受付嬢のレベッカも当たり前のことだったので、リゼにアドバイスもしなかったのだろうと、リゼは思っていた。
 用意不十分なままで、これから三日間を迷宮ダンジョンで過ごすとなると、不安だらけだと思い、深いため息をつく。

 ――三階層。
 空気全体が湿った感じがする。
 階層が深くなればなるほど、湿った感じがするのか分からないが不快感が増す。
 微かに明るいので、目視のまま進むことが出来る。
 時折、洞窟内に点のような光っている場所がある。
 蓄光石なのだろう。
 二階層で出会った黒龍のメンバーたちのように、暗闇を照らす【ライトボール】を使用する冒険者がいる場合、その光を蓄積して長ければ数日間は発光し続ける。
 光属性の魔術師がいる冒険者たちか、【ライトボール】のスクロール魔法巻物を使用したのだと、リゼは蓄光石を見ながら感謝していた。

(そういえば……)

 リゼは孤児部屋で読んだ本のことを思い出す。
 ブック魔法書スクロール魔法巻物などについて書かれていた本だ。
 一部の冒険者のみが所持するアーティファクトと呼ばれるアイテム。
 スクロール魔法巻物と違い、何度も使用できるアイテムだ。
 どのように製作されたかは今も謎らしい。
 オーリスのグッダイ道具店で聞いた時に、売れば何年も遊んで暮らせる通貨を手に入れられるという話だった。
 幾つか種類があるそうだが、実物を見たことが無い冒険者も多い。
 グッダイたちも数回しか目にしたことが無いそうだ。
 もちろん、仕入れて販売出来るわけもないので、仕入先で目にしたくらいだと、店主のグッダイは笑って反してくれた。
 もし【ライトボール】のような魔法が何度も使えるアーティファクトがあれば便利だと、リゼは思っていた。


――――――――――――――――――――

リゼの能力値
『体力:三十五』
『魔力:十八』
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:十一』
『魔力耐性:十六』
『素早さ:七十六』
『回避:四十三』
『魅力:十七』
『運:四十三』
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