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第133話

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 キンダル領に移動を終えたリアムたちは、まずチャールストンたちが住んでいた領主の館へと向かった。
 チャールストン不在を任されていた執事長に、クリスパーが事情を説明して使用人を集めるように指示をする。
 常にチャールストンたちから恐怖を受けていた為、恐怖心を植え付けられていた使用人たちの行動は迅速だった。
 先日、王都からの調査団が来たことも関係しているのでは? と、思っている者も多かった。

「全員揃いました」

 執事長の言葉を聞いたクリスパーは最初に、リアムを紹介する。
 目の前に第三王子だと知ると、急いで跪いた。
 クリスパーは面を上げるように言ってから、国王からの言葉を伝える。
 賃金が払われていなかったり、著しく単価が低い労働条件だったため、押収したチャールストンの私財から特別に手当てを支払われることを最初に話す。
 使用人たちは顔を見合わせて、歓喜の声が上がる。
 クリスパーは静かにするように注意をしてから、使用人たちには今後の選択肢があることを話す。
 一つ目は、後任の領主が来てから採用試験を行うので、その採用試験に合格すれば、新しい領主の元で再び、この屋敷で働くことが出来る。
 しかし、新しい領主も使用人を連れて来るので、何人雇用されるかは不明だとも説明をする。
 二つ目は、別の土地に移動して新しい生活を始める。
 多くの使用人は成人になったと同時に、この屋敷で働くことになった者が多い。
 税金を支払うことが出来ない領民に対して、強制的に子供を差し出させていたのだ。
 もちろん未成年の場合、犯罪行為になるので必ず、十歳になったと同時に『成人の儀』を行ってから、屋敷で労働をさせられる。
 だが厳密にいえば、この行為も人身売買になる。
 自分の意志で判断をして労働をしているわけではないからだ。
 領主たちも禁止事項……犯罪行為だと認識している。
 悪知恵が働く領主の場合は両親を買収して、自分の意志で働いているように裏工作をしたりしているので、判明するまでに時間を要することが多い。
 ただ、チャールストンは裏工作を何もしていない。
 調査をしていた調査団も、隠す様子の無い書類などから逆に怪しんでいたくらいだった。
 強制的に労働させられた使用人は当然、学習院に通ってはいない。
 若い使用人に限っては、これから学習院に通うことも可能だ。

「すぐに答えは出ないでしょうから、次の領主が来る二月後までに考えておいて下さい。もちろん、答えが出ている人は申し出て頂いて構いません」

 動揺する使用人たちは暫くの間、苦悩の日々を過ごすこととなる。
 使用人たちには仕事に戻って貰う為一旦、解散を命じる。
 最後に残ったのは、執事長だけだった。
 
「リアム王子」

 執事長は既に答えを出していたようだった。
 先代より仕えていた執事長は、今回の責任の一端は自分にもあると考えて、通貨を貰うことを辞退するとともに、自分の分を他の使用人たちに割り振って欲しいと申し出る。
 そして、自分は執事長を退くと進退を明言する。

「引退して、どうされるのですか?」

 リアムの代わりにクリスパーが質問をする。

「以前より、息子夫婦と暮らして孫の面倒を見るつもりでしたので、良い機会かと思っております」
「それであれば、通貨は持っていた方がいいでしょう。執事長の考えも考慮したうえで、一考致します」
「承知致しました」

 執事長も自分の我儘を通す訳にはいかないと分かっているので、クリスパーの言葉に同意する。

「それと、フィーネという使用人は居りますか?」
「はい。お探しの人物かは分かりませんが、フィーネという名の使用人は居ります」
「そのフィーネは、リゼと関係のある使用人でしたか?」
「……リゼとは、成人の儀に向かう途中に魔物に襲われて亡くなられたリゼお嬢様のことでしょうか?」
「あぁ、そのリゼだ」

 今まで沈黙していたリアムが口を開くと、執事長に緊張が走る。

「フィーネは、リゼお嬢様専属の使用人でした。ですが、どうしてリゼお嬢様や、フィーネのことを御存じなのでしょうか?」
「それは秘密ということで、御願い致します」
「……承知致しました」

 執事長の質問にクリスパーが答える。
 リアムは想像していた通り、リゼが死んでいたことにされていることに怒っていた。
 クリスパーはリアムの表情から察していた。
 以前、教会が人身売買に関係していることを突き止めたが、教会は治外法権のため、簡単に捜査をすることが出来なかった。
 教会の協力が無ければ『成人の儀』を執り行うことが出来ないからだ。
 この世界はスキルによって決まることを、教会は最大限に生かしている。
 教会を疑うことは、教会が所属する”アルカントラ法国”を敵にする行為とみなされて、外交問題に発展する。
 リアムは、その時のことを思い出していたのだ。

 返答をした執事長も、リアムたちに事情があることは理解したので、追及するようなことはしなかった。

「フィーネを呼んで頂けますか?」
「承知致しました。すぐに呼んでまいりますので、暫く御待ち下さい」

 執事長はフィーネを呼びに退室した。
 リアムは調査団からの報告書を思い出す。
 成人の儀を行うため、両親と共にキンダルを出たリゼだったが、戻って来た時にはリゼの姿は無く両親だけだった。
 不審に思った執事がリゼのことを尋ねると、チャールストンとマリシャスの逆鱗に触れて、執事はその場で解雇されてしまった。
 以降、チャールストンとマリシャスの前で、リゼの名を出すことは禁句となっていた。

「失礼します」

 執事長に連れられて使用人が入って来る。
 不揃いに切られたショートカットの髪に汚れた服、怯えた態度で現れた彼女がフィーネだった。

「わ、私に何か御用でしょうか」

 目の前に第三王子が居る状況で緊張しない訳がない。
 リアムが立ち上がり、フィーネを直視すると執事長に説明する。

「なんで、そんなに汚れているんだ?」

 先程、使用人が集まった時からリアムは気になっていた。
 他の使用人と違い、一人だけ身なりが汚れていたからだ。
 この質問に執事長は即答できなかった。

「使用人内での虐めか?」

 強めの口調で、執事長に回答を催促する。

「……チャールストン様……前領主様の言いつけで御座います」

 執事長は言葉を選びながら、話し始める。

「前領主の娘リゼの専属使用人だったからか?」
「……憶測で回答することは――」
「憶測で構いません。リアム王子の前ということを忘れないで下さい」
「申し訳御座いません」

 口籠りながら回答を渋る執事長だったが、前領主への忠誠心からなのだろう。
 重い口調で執事長は、ゆっくりと話を再開した。
 フィーネは屋敷で働き始めの頃から物をよく壊すため、マリシャスから嫌われていた。
 厄介者同士ということでリゼの専属使用人となり、フィーネの失敗はリゼの失敗ともされる。
 逆もしかりでリゼの失敗でフィーネも処罰を受ける連帯責任となっていた。
 領主夫人であるマリシャスに嫌われることは、この屋敷から追い出されることに加えて、両親にも危害を加えられる可能性が高いため、他の使用人たちもマリシャスに同調してフィーネを嫌っていた。
 リゼも領主の娘だが、使用人同様の扱いで構わないとマリシャスから言われていたので、フィーネと同様の扱いをしていた。
 年齢に比べて胸が発達していることも虐めの要因になっているのではないかと、同じ女性のエミリネットとユーリは、気付かれないように自分の胸を見て落ち込んでいた。
 報告書も虚偽の内容がある為、リアムは改めて確認をしていた。
 全てはマリシャスの指示だと、自分たちはマリシャスの指示に従っていただけだと、使用人は自分の行動を正当化するかのように口を揃えていた。
 弱者を作ることで、不平不満のはけ口にすることはある。
 しかし、それは本来の解決方法ではない。
 根本となる原因を解決していないからだ。
 無能な者が用いる方法だ。

「リゼが怒るわけだな」

 リアムがリゼの心情を理解するかのように吐き捨てた。

「リゼお嬢様を御存じなのでしょうか⁈ あっ、申し訳御座いません」

 リゼの名を聞いたフィーネは興奮して言葉を発したが、リアムに対して失礼だと気付き、すぐに謝罪をする。

「あぁ、知っているぞ」
「その……御迷惑でなければ、リゼお嬢様のことを御教え頂けませんでしょうか」

 フィーネは怯えながらも勇気を出して、リゼの現状を知ろうとする。

「それを知ってどうするつもりだ?」

 リアムはフィーネに聞き返す。

「……リゼお嬢様が生きておられることが分かっただけでも満足です。これ以上を望むことは贅沢なことだと分かったうえで申し上げさせていただきます。リゼお嬢様が元気なのかだけで結構です。どうか御教え頂けれませんでしょうか。何卒、何卒宜しく御願い致します」

 フィーネが心の底から、リゼのことを心配しているのが伝わる。

「冒険者として頑張っているぞ」
「冒険者……リゼお嬢様が冒険者ですか――ありがとうございました」

 フィーネはリアムに礼を言う。
 隣で会話を聞いていた執事長も、リゼが冒険者として活動していることに驚いていた。
 しかし、内心ではリゼが本当に生きているのだと知り、胸を撫でおろしていた。
 執事長もリゼが居なくなったことに心を痛めて、罪悪感を感じていた一人だったからだ。


――――――――――――――――――――

リゼの能力値
『体力:三十五』
『魔力:十八』
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:十一』
『魔力耐性:十六』
『素早さ:七十六』
『回避:四十三』
『魅力:十七』
『運:四十三』
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