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第116話
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二階からクリスティーナが下りてくる。
リゼと二人で上がったにも係わらず、クリスティーナが一人で下りてきたということは、リゼはニコラスと二人でいる。
そのことに気付かない冒険者はいない。
受付へと戻ったクリスティーナは誰にも話しかけることなく、鍵を掛けてある場所から孤児部屋の鍵を手に取った。
クリスティーナもアイリとレベッカ、冒険者たちの視線を感じていたが、特に気にすることなく淡々と作業をする。
その姿は、いつもの仕事をしている姿と変わらなかった。
奥の部屋から冒険者ギルドの規則本を取り出して、二階へと向かおうとする。
一瞬だけ、アイリと目が合うがすぐに視線を外してしまうと、そのまま階段を上がって行った。
アイリは冒険者との話を一旦、切り上げてレベッカに駆け寄る。
レベッカも同じで冒険者に少しだけ待っていてもらった。
「……受付長だけ戻ってきたよね」
「えぇ、しかも孤児部屋の鍵と、何かの本を持っていったわ」
アイリとレベッカは、罰則としてリゼが孤児部屋に軟禁されるのではないかと思っていた。
クリスティーナにリゼの処遇を確認したかったが、アイリもレベッカも受付から離れることは出来ない。
アイリは自分のためにリゼが罰則を受けることに、とても心が痛かった……。
二階でニコラスとクリスティーナが、リゼに何をしているのか気になりながらも、クリスティーナが再び下りて来るのを待つしかなかった。
階段を上がるクリスティーナは、アイリたち受付嬢や冒険者たちが誤解をしている可能性も考えたが、その誤解を解くよりも優先すべきはリゼに規約本を届けることだと思っていた。
「受付長‼」
階段を上がりきろうとすると、野太い声で自分の名を呼ばれたクリスティーナは振り返った。
声の主はフリクシンだった。
フリクシンは、ゆっくりと足を進めながら階段を上ってきた。
「リゼの話をさっき聞いたが、本当に罰するのか?」
「はい」
フリクシンの質問に迷うことなく即答するクリスティーナだった。
「本当かよ」
フリクシンは頭を左右に振り、深いため息をつく。
「俺もギルマスの所に行くぞ」
「……どうぞ、ご自由に」
素っ気ない態度でフリクシンに返事をすると、クリスティーナはギルマスの部屋へと歩き始めた。
後ろを歩くフリクシンが少し怒っているのを、クリスティーナは背中越しに感じていた。
ギルマスの部屋の扉を叩き入室すると、フリクシンがクリスティーナを押しのける形でニコラスに詰め寄る。
「おい、どういうつもりだ‼」
「……どうしたんだフリクシン、そんなに怒って⁉ それにどういうつもりって、一体なんのことだい?」
「なんのことって、リゼのことだ。アイリへの贈り物は賄賂にはならないだろう!」
ニコラスはフリクシンが怒っている理由が分かると笑い始める。
「フリクシン。君は誤解しているようだね」
「誤解って……受付長がリゼに罰則を与えるって聞いたぞ」
「そうだね。冒険者ギルドの規約本を読んでいなかったので、規約本を読みたいというリゼの希望を叶えるだけだよ」
「えっ……」
フリクシンはニコラスとリゼの顔を見て、ニコラスの言葉が嘘ではないと分かると、すぐに振り返りクリスティーナを睨みつける。
「なんでしょうか? 規約違反をした罰則として、規約本を読むことに対して、なにか御不満でも?」
「……そういうことかよ。受付長も人が悪いぜ!」
自分が勝手に勘違いしたとはいえ、クリスティーナも敢えて勘違いさせるような発言をして、受付嬢や冒険者の前でサブマスである自分がギルマスに意見をいう現場を目撃させたのだと知る。
「私は何も間違ったことを言ったつもりはありませんが?」
クリスティーナにとってもフリクシンに声を掛けられた事は幸いだった。
自分の口から説明をするより、フリクシンから冒険者たちに状況を話してくれた方が都合が良いからだ。
「あの……私のことで言い争いをしているのであれば、私は大丈夫ですので――」
リゼは今の状況が分からなかったが、自分のことでニコラスとフリクシンが言い争っていることだけは分かっていた。
自分のことで喧嘩をしている二人を見ていられなかったので、思い切って発言をする。
「いや、俺のほうこそ悪かった。とりあえず、ギルマス。リゼの処分について話してくれるか?」
「あぁ、構わないよ」
ニコラスはフリクシンに状況を話す。
リゼの髪飾りは冒険者ギルドからの贈り物である花束と一緒にアイリに贈る。
ただし、あくまでも冒険者ギルドがリゼから没収した品になるので公表はしない。
冒険者ギルドの規約を理解していなかったリゼには、すぐに読みたいというリゼの希望で孤児部屋で規約本を読んでもらう。
「ったく、そういうことなら、初めから言ってくれれば、よかったじゃないか」
「勝手に勘違いしたのはフリクシン。君だろう?」
「まぁ、そうだが……下の連中たちも俺と同じだろうよ」
「そうなのかい?」
「賄賂を渡したことでギルマスの所に連れていかれて、受付長だけ姿を現したと思ったら、すぐに二階に上がっていくのだから勘違いしても仕方がないだろう」
「なるほどね。それだけリゼが皆から心配されているってことだね」
ニコラスはリゼを見ながら笑う。
リゼはニコラスの言葉を聞いて、反応に戸惑っていた。
「とりあえず、俺は下で冒険者たちに状況を話して来るとするか」
「そう、宜しく頼むよ。私が血も涙もないようなギルマスではないと、きちんと説明をしてくれるかな」
「分かっている。没収した髪飾りの件については話さないつもりだ」
「よろしくね」
フリクシンは立ち上がると、部屋から出て行った。
「さてと……」
ニコラスはクリスティーナのほうを向くと、クリスティーナは机に規約本を置いた。
「これが冒険者ギルドの規約本になります。全て読もうとすると一日は掛かります」
「ありがとうございます。とりあえず、今日一日で読めるだけ読むつもりです。読み切れなければ、受付の隣にある規約本で少しずつでも読もうと思います」
「分かりました。では、部屋を開けますので着いて来て下さい」
「はい」
クリスティーナが立つと、リゼも立ち上がる。
ニコラスに挨拶だけ済ませると、懐かしい孤児部屋へと案内された。
「では、受付終了時間にもう一度来ます」
「はい、分かりました」
クリスティーナ退室したのを確認するとリゼは早速、規約本を読み始めた。
前書きとして冒険者ギルドの位置づけから始まり、討伐系や採取系などのクエストについてや、罰則事項などを一心不乱に読み漁る。
大半が見聞きした内容だったので、すぐに理解することが出来た。
賄賂行為については、自分の勝手な解釈になっていないか何度も考えながら読み直す。
どうしても分からないことは後日、他の冒険者に聞くことにした。
基本的に自由な冒険者だが、自由だからこその罰則に対して厳しい反面もある。
特に違約金だが、個人やパーティーの金額に比べて、クランに対しての違約金の多さに驚いた。
クランへの依頼は指名クエストが多いと聞いていたので成功報酬が高い分、違約金も高いのだと感じていた。
リゼは文書を読みながら疑問を感じる。
指名クエストでも無理だと分かれば、断ってもよいのでは? と思ったからだ。
多額の違約金を払うのであれば、安全なクエストのみを受注すればよい。
しかし、クランとしてプライドを掛けたクエストや、指名してくれたという期待を裏切ってはいけないという思いがあることを、この時のリゼには思いつかなかった。
他国への移動についても、いろいろと規約があることをリゼは知り驚く。
名匠に武器を製作してもらうためには、ドワーフの国『ドヴォルグ』へ行くことを考えていた。
規約本を一通り読み終えて再度、気になったところを呼んでいるとクリスティーナが部屋の扉を開けて、時間だと伝えに来た。
リゼは規約本を返すと、アイリの送別会を開くので参加するようにと教えてくれたので、クリスティーナと部屋を出て一階へと下りる。
リゼと二人で上がったにも係わらず、クリスティーナが一人で下りてきたということは、リゼはニコラスと二人でいる。
そのことに気付かない冒険者はいない。
受付へと戻ったクリスティーナは誰にも話しかけることなく、鍵を掛けてある場所から孤児部屋の鍵を手に取った。
クリスティーナもアイリとレベッカ、冒険者たちの視線を感じていたが、特に気にすることなく淡々と作業をする。
その姿は、いつもの仕事をしている姿と変わらなかった。
奥の部屋から冒険者ギルドの規則本を取り出して、二階へと向かおうとする。
一瞬だけ、アイリと目が合うがすぐに視線を外してしまうと、そのまま階段を上がって行った。
アイリは冒険者との話を一旦、切り上げてレベッカに駆け寄る。
レベッカも同じで冒険者に少しだけ待っていてもらった。
「……受付長だけ戻ってきたよね」
「えぇ、しかも孤児部屋の鍵と、何かの本を持っていったわ」
アイリとレベッカは、罰則としてリゼが孤児部屋に軟禁されるのではないかと思っていた。
クリスティーナにリゼの処遇を確認したかったが、アイリもレベッカも受付から離れることは出来ない。
アイリは自分のためにリゼが罰則を受けることに、とても心が痛かった……。
二階でニコラスとクリスティーナが、リゼに何をしているのか気になりながらも、クリスティーナが再び下りて来るのを待つしかなかった。
階段を上がるクリスティーナは、アイリたち受付嬢や冒険者たちが誤解をしている可能性も考えたが、その誤解を解くよりも優先すべきはリゼに規約本を届けることだと思っていた。
「受付長‼」
階段を上がりきろうとすると、野太い声で自分の名を呼ばれたクリスティーナは振り返った。
声の主はフリクシンだった。
フリクシンは、ゆっくりと足を進めながら階段を上ってきた。
「リゼの話をさっき聞いたが、本当に罰するのか?」
「はい」
フリクシンの質問に迷うことなく即答するクリスティーナだった。
「本当かよ」
フリクシンは頭を左右に振り、深いため息をつく。
「俺もギルマスの所に行くぞ」
「……どうぞ、ご自由に」
素っ気ない態度でフリクシンに返事をすると、クリスティーナはギルマスの部屋へと歩き始めた。
後ろを歩くフリクシンが少し怒っているのを、クリスティーナは背中越しに感じていた。
ギルマスの部屋の扉を叩き入室すると、フリクシンがクリスティーナを押しのける形でニコラスに詰め寄る。
「おい、どういうつもりだ‼」
「……どうしたんだフリクシン、そんなに怒って⁉ それにどういうつもりって、一体なんのことだい?」
「なんのことって、リゼのことだ。アイリへの贈り物は賄賂にはならないだろう!」
ニコラスはフリクシンが怒っている理由が分かると笑い始める。
「フリクシン。君は誤解しているようだね」
「誤解って……受付長がリゼに罰則を与えるって聞いたぞ」
「そうだね。冒険者ギルドの規約本を読んでいなかったので、規約本を読みたいというリゼの希望を叶えるだけだよ」
「えっ……」
フリクシンはニコラスとリゼの顔を見て、ニコラスの言葉が嘘ではないと分かると、すぐに振り返りクリスティーナを睨みつける。
「なんでしょうか? 規約違反をした罰則として、規約本を読むことに対して、なにか御不満でも?」
「……そういうことかよ。受付長も人が悪いぜ!」
自分が勝手に勘違いしたとはいえ、クリスティーナも敢えて勘違いさせるような発言をして、受付嬢や冒険者の前でサブマスである自分がギルマスに意見をいう現場を目撃させたのだと知る。
「私は何も間違ったことを言ったつもりはありませんが?」
クリスティーナにとってもフリクシンに声を掛けられた事は幸いだった。
自分の口から説明をするより、フリクシンから冒険者たちに状況を話してくれた方が都合が良いからだ。
「あの……私のことで言い争いをしているのであれば、私は大丈夫ですので――」
リゼは今の状況が分からなかったが、自分のことでニコラスとフリクシンが言い争っていることだけは分かっていた。
自分のことで喧嘩をしている二人を見ていられなかったので、思い切って発言をする。
「いや、俺のほうこそ悪かった。とりあえず、ギルマス。リゼの処分について話してくれるか?」
「あぁ、構わないよ」
ニコラスはフリクシンに状況を話す。
リゼの髪飾りは冒険者ギルドからの贈り物である花束と一緒にアイリに贈る。
ただし、あくまでも冒険者ギルドがリゼから没収した品になるので公表はしない。
冒険者ギルドの規約を理解していなかったリゼには、すぐに読みたいというリゼの希望で孤児部屋で規約本を読んでもらう。
「ったく、そういうことなら、初めから言ってくれれば、よかったじゃないか」
「勝手に勘違いしたのはフリクシン。君だろう?」
「まぁ、そうだが……下の連中たちも俺と同じだろうよ」
「そうなのかい?」
「賄賂を渡したことでギルマスの所に連れていかれて、受付長だけ姿を現したと思ったら、すぐに二階に上がっていくのだから勘違いしても仕方がないだろう」
「なるほどね。それだけリゼが皆から心配されているってことだね」
ニコラスはリゼを見ながら笑う。
リゼはニコラスの言葉を聞いて、反応に戸惑っていた。
「とりあえず、俺は下で冒険者たちに状況を話して来るとするか」
「そう、宜しく頼むよ。私が血も涙もないようなギルマスではないと、きちんと説明をしてくれるかな」
「分かっている。没収した髪飾りの件については話さないつもりだ」
「よろしくね」
フリクシンは立ち上がると、部屋から出て行った。
「さてと……」
ニコラスはクリスティーナのほうを向くと、クリスティーナは机に規約本を置いた。
「これが冒険者ギルドの規約本になります。全て読もうとすると一日は掛かります」
「ありがとうございます。とりあえず、今日一日で読めるだけ読むつもりです。読み切れなければ、受付の隣にある規約本で少しずつでも読もうと思います」
「分かりました。では、部屋を開けますので着いて来て下さい」
「はい」
クリスティーナが立つと、リゼも立ち上がる。
ニコラスに挨拶だけ済ませると、懐かしい孤児部屋へと案内された。
「では、受付終了時間にもう一度来ます」
「はい、分かりました」
クリスティーナ退室したのを確認するとリゼは早速、規約本を読み始めた。
前書きとして冒険者ギルドの位置づけから始まり、討伐系や採取系などのクエストについてや、罰則事項などを一心不乱に読み漁る。
大半が見聞きした内容だったので、すぐに理解することが出来た。
賄賂行為については、自分の勝手な解釈になっていないか何度も考えながら読み直す。
どうしても分からないことは後日、他の冒険者に聞くことにした。
基本的に自由な冒険者だが、自由だからこその罰則に対して厳しい反面もある。
特に違約金だが、個人やパーティーの金額に比べて、クランに対しての違約金の多さに驚いた。
クランへの依頼は指名クエストが多いと聞いていたので成功報酬が高い分、違約金も高いのだと感じていた。
リゼは文書を読みながら疑問を感じる。
指名クエストでも無理だと分かれば、断ってもよいのでは? と思ったからだ。
多額の違約金を払うのであれば、安全なクエストのみを受注すればよい。
しかし、クランとしてプライドを掛けたクエストや、指名してくれたという期待を裏切ってはいけないという思いがあることを、この時のリゼには思いつかなかった。
他国への移動についても、いろいろと規約があることをリゼは知り驚く。
名匠に武器を製作してもらうためには、ドワーフの国『ドヴォルグ』へ行くことを考えていた。
規約本を一通り読み終えて再度、気になったところを呼んでいるとクリスティーナが部屋の扉を開けて、時間だと伝えに来た。
リゼは規約本を返すと、アイリの送別会を開くので参加するようにと教えてくれたので、クリスティーナと部屋を出て一階へと下りる。
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