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第97話
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「どうしたの、浮かない顔して」
覇気のない顔のアイリにレベッカが話し掛けた。
「受付嬢失格だなって、思ってね」
「……リゼちゃ、じゃなかったリゼのこと?」
「うん。必要以上に心配しちゃっている自分がいるのよね。それにリゼの実力は私が思っている以上のようだったし……」
「それって、この間のアルミラージのこと?」
「うん」
「実力的に怪しいと思ったのであれば、正しい判断じゃないの?」
「でも……担当冒険者を疑ったことは事実なんだよね」
「まぁ、確かにね。でも、ランクBに上がったとはいえ、まだ十歳だからね。スライムしか討伐実績のない冒険者が、アルミラージを討伐したとなれば、疑うのは仕方ないと思うわよ」
「そうだね。だけど、受付長からも注意を受けたわけだし……」
オーリスの冒険者ギルドでも十歳でランクBの冒険者と接したことがあるのは、ほんの一握りしかいない。
アイリやレベッカは、十歳の冒険者と接すること自体が初めてなので、戸惑いがあるのは仕方のないことだ。
特にアイリはリゼの担当受付嬢なので、必要以上に心配になるのも同じ受付嬢であるレベッカには理解できた。
孤児というマイナスの印象から入ったからこそ、普通に接することが出来るリゼには好印象を持っていたし、普通の子以上に気遣いも出来るので、自分を恥じたこともある。
いい意味で成長を見守っているからこそ、親身になってしまうことが本当に悪いことなのかと、悩むアイリを見ながらレベッカは自問自答していた。
長い間、一緒にいたアイリが、ここまで悩んでいる姿を始めて見た。
その悩む姿に不安を感じていた。
「リゼが、気を悪くしていなければいいんだけど……」
相変わらず優しいアイリ。
その優しさが、自分自身を傷付けているのではないかと、レベッカは時折感じることがあった。
「じゃあ、リゼが顔を出した時に謝ってみれば?」
「そうだね。そうしてみる。でも、リゼのクエスト納期は明日までだから、明日になっちゃうけどね」
不安そうな表情を隠すかのように、無理な笑顔を作るアイリ。
その笑顔を見て、レベッカの不安な気持ちは、より一層大きくなっていた。
「今、リゼに発注しているクエストは?」
「墳墓の手入れよ」
「……それは又、大変なクエストを選んだのね」
「力仕事だから三日で終わるのは厳しいと思っている」
「でも、そのクエストだったら猶予期間が一日設定されているわよね」
「うん。四日あれば大丈夫だとは思っているけど……ね」
簡単なクエストでは無いことは、レベッカも知っている。
猶予期間は天候による影響もあるから、設定されているだけで、通常作業での後れを取り戻すためではない。
アイリが不安なのも理解できた。
「じゃあ、新しいクエストの準備を始めるわよ」
「そうね」
レベッカは体の向きを変えて、仕事の準備に入る。
「……アイリ。リゼのクエスト納期って、明日だったわよね」
「えぇ、そうよ」
アイリがレベッカに返事をして振り返ると、ギルド会館の入口に入ってきた冒険者に気付く。
「……リゼ⁈」
クエスト中のリゼが、ギルド会館に来る理由はない。。
それ以外の理由は二つある。
アイリとレベッカの頭からは、その一つが消えた。
それは期間内でのクエスト達成。
アイリとレベッカは、ゆっくりと歩いて来るリゼに声を掛けることなく、目の前に来るまで見続けていた。
「おはようございます」
リゼは、アイリとレベッカに挨拶をする。
「おはよう、リゼ。その……クエストは?」
リゼは黙って、アイリにクエスト用紙を渡す。
不安な気持ちで用紙を受け取るアイリだったが、内容を確認すると表情が一変する。
「凄いわ。二日……いえ、一日ちょっとで墳墓の手入れのクエストを達成するなんて‼」
アイリの言葉にリゼは戸惑う。
書類には、グレゴリーによる事情によるクエスト達成の記載がある。
アイリもグレゴリーとは面識がある。
仕事に厳しい印象は持っていた。
事情があるとはいえ、簡単にクエストの納期を変更してまで、クエストを達成させることは、これまでなかったと記憶している。
「どうかした?」
「……いえ」
クエスト達成したにも関わらず、憂鬱な表情のリゼを見ながら、アイリは少し考えながら、リゼに成功報酬を用意する。
「はい、今回のクエストの成功報酬ね」
「ありがとうございます。全額預かっていただけますか?」
「分かったわ」
リゼは報酬の通貨を数えると受け取ることなく、そのままギルドに預けることにした。
「元気ないようだけど、何かあった?」
「いえ、なんでもないです」
「そう――リゼ。その、この間はごめんね」
「……この間って、なんでしたか?」
「アルミラージを討伐した時に、気を悪くしたでしょう」
「どうしてですか?」
「だって、リゼを疑ったことをしたのよ」
リゼはアイリの言っている意味が理解できなかった。
実力が認められていない自分だから、疑われることは当たり前だと思っていたし、不正を疑うことが受付の仕事だと思っていたからだ。
ランクBとはいえ、実力はピンキリだと思っている。
自分でも、ランクBの中では下の下だという自覚がある。
これは自分を卑下しているわけでなく、客観的に見た自分の実力だと、リゼは思っている。
「気にしていません。私はランクBになったとはいえ、実力で言えば他の冒険者に比べて、実力不足だと自分でも分かっています。疑われるのは仕方のないことですし、不正が無いようにするアイリさんや、受付の方たちの対応も当たり前のことだと思います」
「そう……」
リゼの言葉に、アイリは言葉が詰まる。
会話を聞いていたレベッカも、表情にこそ出さなかったが驚きを隠せずにいた。
十歳の子が、自分のことを客観的に見たことと、自分たちの仕事のことまで理解した上で当たり前だと、言ってのけたのだ。
レベッカは、この言葉を聞いてリゼへの対応を考え直す。
十歳のランクB成り立ての冒険者でなく、ランクBの冒険者として、他の冒険者と同様に扱う存在だと――。
自分の考えでリゼを子供扱いしていたことは、リゼに対して侮辱行為だったと……。
一方のアイリは、リゼが自分に気を使っているのではないかと感じていた。
しかし、表情に出すとリゼを困らせてしまうと思い、必死で隠すように表情をつくった。
クエストが完了したので、リゼは新しいクエストを受注するために、クエストボードの前に移動する。
目新しいクエストは無いが、自分の現在の状況を考えながら、成功率が高いクエストを探した。
(……これかな?)
リゼはクエストボードから、クエスト用紙を剥がして、受付にいるアイリの所へと持って行く。
「パラリカ草の採取ね」
リゼの選んだクエストは採取系のクエストだった。
パラリカ草は麻痺回復薬の原材料で、最低三十本採取する条件だ。
採取してから数時間で、決められた方法で保存しなければ、すぐに枯れてしまう。
パラリカ草の生息地域が近いため、短納期のクエストとしてリゼは、このクエストを選んだ。
本当であれば、清掃系のクエストを選びたかったが、ボードに貼られていなかったのだ。
数日前から、ギルド内で冒険者同士の会話で、水路に魔物がいるのを見た人がいるとか、水路から動物の骨が流れてきたなどと噂を耳にしていたので、その影響もあるのかとリゼは感じていた。
実際に昨夜、ギルマスのニコラスと領主カプラスとで話し合いの場が設けられた。
その結果、調査を行うことを決定する。
調査結果が出るまで、関係性の高いクエストの発注を取りやめることも、その場で決定していた。
その内容を、受付嬢たちは冒険者に伝えるため、いろいろと準備をしていたところだった。
新しいクエストには、領主からのクエスト【水路の調査】もある。
大人数で一気に調査をする。
ランクBの冒険者であれば、参加できる。
町の治安を守ることを目的としているので、早期解決したい領主カプラスの意向もあり、成功報酬も少しだけ高めに設定されている。
当然、リゼにもクエスト受注の権利はある。
しかし、クエストの内容を事前に伝えるのは守秘義務に反するので、アイリはリゼに伝えることが出来なかった。
アイリはリゼに【パラリカ草の採取】のクエストを発注する。
「背籠はいる?」
「はい、お願いします」
「ちょっと、待っていてね」
アイリは奥の部屋に移動すると、採取用の背籠を抱えて現れた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
背籠を受け取ったリゼは、アイリに礼を言う。
その後、アイリからパラリカ草の群生地辺りに生息する魔物を聞く。
去ろうとするリゼに向かって「早く戻って来たら、良いことがあるかもね」と、アイリは笑顔で送り出した。
覇気のない顔のアイリにレベッカが話し掛けた。
「受付嬢失格だなって、思ってね」
「……リゼちゃ、じゃなかったリゼのこと?」
「うん。必要以上に心配しちゃっている自分がいるのよね。それにリゼの実力は私が思っている以上のようだったし……」
「それって、この間のアルミラージのこと?」
「うん」
「実力的に怪しいと思ったのであれば、正しい判断じゃないの?」
「でも……担当冒険者を疑ったことは事実なんだよね」
「まぁ、確かにね。でも、ランクBに上がったとはいえ、まだ十歳だからね。スライムしか討伐実績のない冒険者が、アルミラージを討伐したとなれば、疑うのは仕方ないと思うわよ」
「そうだね。だけど、受付長からも注意を受けたわけだし……」
オーリスの冒険者ギルドでも十歳でランクBの冒険者と接したことがあるのは、ほんの一握りしかいない。
アイリやレベッカは、十歳の冒険者と接すること自体が初めてなので、戸惑いがあるのは仕方のないことだ。
特にアイリはリゼの担当受付嬢なので、必要以上に心配になるのも同じ受付嬢であるレベッカには理解できた。
孤児というマイナスの印象から入ったからこそ、普通に接することが出来るリゼには好印象を持っていたし、普通の子以上に気遣いも出来るので、自分を恥じたこともある。
いい意味で成長を見守っているからこそ、親身になってしまうことが本当に悪いことなのかと、悩むアイリを見ながらレベッカは自問自答していた。
長い間、一緒にいたアイリが、ここまで悩んでいる姿を始めて見た。
その悩む姿に不安を感じていた。
「リゼが、気を悪くしていなければいいんだけど……」
相変わらず優しいアイリ。
その優しさが、自分自身を傷付けているのではないかと、レベッカは時折感じることがあった。
「じゃあ、リゼが顔を出した時に謝ってみれば?」
「そうだね。そうしてみる。でも、リゼのクエスト納期は明日までだから、明日になっちゃうけどね」
不安そうな表情を隠すかのように、無理な笑顔を作るアイリ。
その笑顔を見て、レベッカの不安な気持ちは、より一層大きくなっていた。
「今、リゼに発注しているクエストは?」
「墳墓の手入れよ」
「……それは又、大変なクエストを選んだのね」
「力仕事だから三日で終わるのは厳しいと思っている」
「でも、そのクエストだったら猶予期間が一日設定されているわよね」
「うん。四日あれば大丈夫だとは思っているけど……ね」
簡単なクエストでは無いことは、レベッカも知っている。
猶予期間は天候による影響もあるから、設定されているだけで、通常作業での後れを取り戻すためではない。
アイリが不安なのも理解できた。
「じゃあ、新しいクエストの準備を始めるわよ」
「そうね」
レベッカは体の向きを変えて、仕事の準備に入る。
「……アイリ。リゼのクエスト納期って、明日だったわよね」
「えぇ、そうよ」
アイリがレベッカに返事をして振り返ると、ギルド会館の入口に入ってきた冒険者に気付く。
「……リゼ⁈」
クエスト中のリゼが、ギルド会館に来る理由はない。。
それ以外の理由は二つある。
アイリとレベッカの頭からは、その一つが消えた。
それは期間内でのクエスト達成。
アイリとレベッカは、ゆっくりと歩いて来るリゼに声を掛けることなく、目の前に来るまで見続けていた。
「おはようございます」
リゼは、アイリとレベッカに挨拶をする。
「おはよう、リゼ。その……クエストは?」
リゼは黙って、アイリにクエスト用紙を渡す。
不安な気持ちで用紙を受け取るアイリだったが、内容を確認すると表情が一変する。
「凄いわ。二日……いえ、一日ちょっとで墳墓の手入れのクエストを達成するなんて‼」
アイリの言葉にリゼは戸惑う。
書類には、グレゴリーによる事情によるクエスト達成の記載がある。
アイリもグレゴリーとは面識がある。
仕事に厳しい印象は持っていた。
事情があるとはいえ、簡単にクエストの納期を変更してまで、クエストを達成させることは、これまでなかったと記憶している。
「どうかした?」
「……いえ」
クエスト達成したにも関わらず、憂鬱な表情のリゼを見ながら、アイリは少し考えながら、リゼに成功報酬を用意する。
「はい、今回のクエストの成功報酬ね」
「ありがとうございます。全額預かっていただけますか?」
「分かったわ」
リゼは報酬の通貨を数えると受け取ることなく、そのままギルドに預けることにした。
「元気ないようだけど、何かあった?」
「いえ、なんでもないです」
「そう――リゼ。その、この間はごめんね」
「……この間って、なんでしたか?」
「アルミラージを討伐した時に、気を悪くしたでしょう」
「どうしてですか?」
「だって、リゼを疑ったことをしたのよ」
リゼはアイリの言っている意味が理解できなかった。
実力が認められていない自分だから、疑われることは当たり前だと思っていたし、不正を疑うことが受付の仕事だと思っていたからだ。
ランクBとはいえ、実力はピンキリだと思っている。
自分でも、ランクBの中では下の下だという自覚がある。
これは自分を卑下しているわけでなく、客観的に見た自分の実力だと、リゼは思っている。
「気にしていません。私はランクBになったとはいえ、実力で言えば他の冒険者に比べて、実力不足だと自分でも分かっています。疑われるのは仕方のないことですし、不正が無いようにするアイリさんや、受付の方たちの対応も当たり前のことだと思います」
「そう……」
リゼの言葉に、アイリは言葉が詰まる。
会話を聞いていたレベッカも、表情にこそ出さなかったが驚きを隠せずにいた。
十歳の子が、自分のことを客観的に見たことと、自分たちの仕事のことまで理解した上で当たり前だと、言ってのけたのだ。
レベッカは、この言葉を聞いてリゼへの対応を考え直す。
十歳のランクB成り立ての冒険者でなく、ランクBの冒険者として、他の冒険者と同様に扱う存在だと――。
自分の考えでリゼを子供扱いしていたことは、リゼに対して侮辱行為だったと……。
一方のアイリは、リゼが自分に気を使っているのではないかと感じていた。
しかし、表情に出すとリゼを困らせてしまうと思い、必死で隠すように表情をつくった。
クエストが完了したので、リゼは新しいクエストを受注するために、クエストボードの前に移動する。
目新しいクエストは無いが、自分の現在の状況を考えながら、成功率が高いクエストを探した。
(……これかな?)
リゼはクエストボードから、クエスト用紙を剥がして、受付にいるアイリの所へと持って行く。
「パラリカ草の採取ね」
リゼの選んだクエストは採取系のクエストだった。
パラリカ草は麻痺回復薬の原材料で、最低三十本採取する条件だ。
採取してから数時間で、決められた方法で保存しなければ、すぐに枯れてしまう。
パラリカ草の生息地域が近いため、短納期のクエストとしてリゼは、このクエストを選んだ。
本当であれば、清掃系のクエストを選びたかったが、ボードに貼られていなかったのだ。
数日前から、ギルド内で冒険者同士の会話で、水路に魔物がいるのを見た人がいるとか、水路から動物の骨が流れてきたなどと噂を耳にしていたので、その影響もあるのかとリゼは感じていた。
実際に昨夜、ギルマスのニコラスと領主カプラスとで話し合いの場が設けられた。
その結果、調査を行うことを決定する。
調査結果が出るまで、関係性の高いクエストの発注を取りやめることも、その場で決定していた。
その内容を、受付嬢たちは冒険者に伝えるため、いろいろと準備をしていたところだった。
新しいクエストには、領主からのクエスト【水路の調査】もある。
大人数で一気に調査をする。
ランクBの冒険者であれば、参加できる。
町の治安を守ることを目的としているので、早期解決したい領主カプラスの意向もあり、成功報酬も少しだけ高めに設定されている。
当然、リゼにもクエスト受注の権利はある。
しかし、クエストの内容を事前に伝えるのは守秘義務に反するので、アイリはリゼに伝えることが出来なかった。
アイリはリゼに【パラリカ草の採取】のクエストを発注する。
「背籠はいる?」
「はい、お願いします」
「ちょっと、待っていてね」
アイリは奥の部屋に移動すると、採取用の背籠を抱えて現れた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
背籠を受け取ったリゼは、アイリに礼を言う。
その後、アイリからパラリカ草の群生地辺りに生息する魔物を聞く。
去ろうとするリゼに向かって「早く戻って来たら、良いことがあるかもね」と、アイリは笑顔で送り出した。
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