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第95話

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「じゃあ、リゼも気を付けてな」
「はい、ありがとうございます。星天の誓の皆さんも気を付けて」

 翌朝、リゼは星天の誓の三人と別れた。

「よしっ!」

 リゼはスライム討伐を再開する。
 スキルのクエストを達成する必要が無いので、二十匹討伐すればよい。
 昨日の時点で、十二匹。
 残り八匹だ。
 周囲を探索すると、スライムを発見する。
 罰則により能力値が下がっているとしても、スライム討伐には影響はない。
 リゼの思っている通り、リゼはスライムを難なく討伐する。
 そして、時間は掛かったが二十匹を討伐して、オーリスへと戻って行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ギルド会館には午前中に戻ることが出来たので、リゼはギルド会館内でクエストが貼りだされる前のクエストボードの前で、次のクエストを選んでいた。
 ランクBに昇格した時は、胸を躍らせてクエストボードの前にいたのだが、新しく貼り出されるクエストは、先輩冒険者たちが奪っていく。
 そのため、リゼが新しいクエストを受注出来る可能性は、かなり低かった。
 だから、残っているクエストを選ぶという選択肢しかないのだ。

 リゼは悩みながら、報酬額の高いクエストを選んで、クエストボードから用紙を剥がした。
 受付に行くと、リゼがクエストを受注するのが分かっていたのか、アイリが受付に残ってくれていた。

「これを御願いします」

 クエスト用紙を受け取ったアイリは冷静に対応する。
 しかし個人的に、このクエストはリゼに発注したくない思いもあった。

「本当に、この『墳墓の手入れ(三日間)』でいいの?」
「はい、御願いします」
「……本当にいいのね?」
「はい」

 このクエストは、報酬が高い。
 しかし、受注する冒険者が居ないため、数日後には『緊急』扱いとして、それでも受注する冒険者が現れなかったら、ギルドとして対応するつもりだった。
 つまり、それだけ不人気なクエストだということだ。
 不人気な理由は、作業内容にあった。
 死者は埋葬されるが、土を掘って遺体を寝かせて土を被せるだけだ。
 遺体の腐敗が進み、夜中に土が崩れる音がしたりして、子供たちの間では幽霊騒ぎになったりもしている。
 三日という期間を拘束されるだけであれば、報酬額も高いため問題にはならないのだが、作業内容は浮き上がってきた骨の再埋葬や、新たに埋葬予定の場所をあらかじめ掘って、出てきた骨を別の場所に埋めるという作業がある。
 それだけ重労働なクエストということだ。
 長期間放置されている場合、ギルドは屈強な男性冒険者に依頼をすることが多い。
 華奢な体つきのリゼには、かなり酷なクエストになる。
 しかし、ランクBの冒険者には変わりないので、リゼ本人に作業内容を説明し、意思を確認した上で発注をする。
 アイリは、ギルド会館を出ていくリゼを心配しながら、見送った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 オーリスの墳墓に、リゼは到着する。
 町のはずれにあり、リゼも初めて訪れる場所だった。
 町に近い右側には綺麗に整地されて柵で囲われている場所。
 反対の左側には、大きな石が一本建っていて、そこまでの石畳の道はあるが、それ以外は、整地がされていないのか、土が凸凹している。
 それなりの通貨を出せば、個人で墓石を立てることが出来る。
 その後、維持料を支払えば、その墓石を維持することは可能だ。
 一方で、大きな石が一本建っている場所は、残された遺族が遺体を処理するだけの通貨しか支払うことしか出来ない共同な場所になる。
 大半の人々は、こちらを利用する。
 何度か区画整理などもあり、時代と共に個人所有の場所と、共同埋葬の場所が変わっている。

 中央に小屋があるので、リゼは小屋に向かって歩いた。
 小屋の扉を数回叩くと、家の中から物音がするので、リゼは暫く待つ。
 扉を開くと、中年の痩せた男性が姿を現した。
 男性はグレゴリーと言い、この墳墓の管理人だった。
 リゼは、クエストを受注したことをグレゴリーに伝える。
 グレゴリーはクエスト用紙とリゼを見る。
 
「クエストを受注してくれたのは、とても有難いのですが……かなりの重労働になりますが、大丈夫ですか?」
「はい」
「……分かりました」

 リゼの返事を聞いたグレゴリーだったが、不安な気持ちを隠せない様子だった。
 グレゴリーは何度も横目でリゼを見ながら、作業場所まで案内をした。

「ここの土を掘り返して頂き、出てきた骨は、ここに集めて下さい」

 グレゴリーの指差す先に、大きな木の板があった。
 そのまま、グレゴリーは説明を続けながら、木の板がある場所まで歩く。
 木の板を外すと穴が掘ってあり、穴の中には無数の骨が目に付いた。
 宝石などは、別の場所に集積するようだった。
 埋葬する際に、指輪やネックレス。大事にしていた装飾品などを一緒に埋葬することも多い。
 所有者が不明ということで、所有権は墳墓の管理を任されているグレゴリーが墳墓の運営に使用出来る契約になっていた。
 一通りの説明を受けたリゼは、疑問も持たずに作業へと入る。

 グレゴリーは暫くリゼの作業を観察することにした。
 墳墓と言っても、オーリスの町でなくなった人を全て埋めることは出来ない。
 だから定期的に、このような作業を行う。
 肉はすぐに無くなるが、骨は何十年いや、百年以上も残っている場合もある。
 年代別に土葬する場所は決まっているので、骨が残っている場合は一ヶ所に集めて、粉砕する。
 粉砕はグレゴリー自身が行う。
 残っていた宝石は、業者に買い取って貰う。
 しかし、そのまま売られることは無い。
 手直しをされて、原形が分からない状態で売られるからだ。
 ギルドへの依頼報酬も、この売上の一部から支払われる。

「……やはり、思ったよりも進まないですね」

 リゼの作業を見ながら、グレゴリーは悩んでいた。
 今回の依頼は三日間だが、それ以外にも条件がある。
 作業範囲の作業が、二日で完了しても三日分の報酬は支払われる。
 しかし、三日間で終わらなかった場合、猶予期間一日で終えることが出来れば、違約金は発生しない。
 それでも終わらない場合は、依頼未達成として違約金が発生する。
 グレゴリーは、自分の不安が的中したと確信しながら、その場を去って行った。

(力が入らない)

 リゼは思っていた以上に、非力な自分に焦っていた。
 作業自体は、母親と暮らしていた村で似たようなことをしていた。
 村で世話になっていたリゼにとって、村人の嫌がる作業をすることが、自分にできる恩返しだと考えていたからだ。
 だから、この作業は苦ではない。
 罰則で能力が半分になっていたことが、思っていた以上にリゼに重くのしかかっていた。

(このままだと。三日間で終わらない……)

 リゼは無我夢中で、土を掘りながら骨を拾った。
 そして、一日目が終了する時間になり、再びグレゴリーが姿を現した。

「もう、日が暮れます。今日はここまでにしましょう」
「……あの、無理なお願いだとは思いますが、もう少しだけ作業を続けても宜しいでしょうか?」
「でも、日が暮れてしまいますよ」
「掘りながら骨を拾うのであれば、暗くても出来ます」

 必死で訴えかけるリゼの目を見ながら、グレゴリーは考えていた。
 この場所は、かなり墳墓内でも奥のほうに位置する場所だ。
 物音をしても問題無い。

「分かりました。納得出来るところで終えて下さい。作業を終えて帰る際は、掘り起こした宝石を持って、私の所へ報告に来て下さい。ただし、明日の朝に遅れるようなことが無いようにお願いしますね」
「ありがとうございます」

 リゼはグレゴリーに一礼すると、すぐに作業を再開した。
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