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第88話
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リゼの精神的な欠点を指摘したクウガだったが、その後は戦い方についての欠点を指摘する。
「リゼの攻撃は直線的すぎる」
「どういうことですか?」
「攻撃が素直過ぎるってことだ」
リゼの攻撃は動かない相手を想定しているのか、変則的な攻撃をなかった。
攻撃箇所を目で追っているため、視線の先を攻撃することが分かってしまう。
それに体の動きも同調しているので、簡単に避けられるとクウガは説明する。
「ちょっと、これを握ってみろ」
クウガは先程、使用した木製の短剣をリゼに握らせた。
「狙いたい場所を目で追うのでなく、そこを狙う為に他の場所に意識を集中させる」
心臓を貫くために、死角となるように顔や喉を狙う。
そうすると相手は、咄嗟に腕で防御するので、当たる寸前に軌道を変える。
リゼの戦い方は孤児部屋で読んだ本での知識しかない。
臨機応変な戦い方は知らない。
「リゼの素早さなら、ほとんどの冒険者にも通じるだろう」
「そうですか……」
「盗賊の補正があるとはいえ、かなり上がっているんだろう。ローガンは、どう思う」
「そうだな。少なく見ても五十前半だろうな。もしかしたら、六十を超えているかもな」
ローガンは考えながら答える。
「俺も同じ意見だ」
クウガが嬉しそうに頷いた。
「素早さだけなら、アリスよりも上かもな」
「はいはい」
ミランがアリスを揶揄うが、アリスは話を流す。
しかし、アリスもリゼの俊敏さには驚いていたし、ローガンの意見にも納得していた。
「変則的な攻撃、クウガの十八番でしょう。見せてあげたら?」
「それなら、私が相手をしてやる」
ミランが一歩前に出る。
「まぁ、仕方ないか……ミラン。スキル無しだぞ」
「了解! 他はどうする?」
「そうだな……上半身のみ、腰から下の攻撃は無しでどうだ?」
「いいね~、私に合わせてくれたのか? まぁ、いい――アリスたちは、観覧席に移動しな!」
リゼの意志に関係なく、クウガとミランの戦いが始まろうとしていた。
「リゼちゃん。よく見ておきなさいね。クウガの戦い方は、リゼちゃんの理想とする戦い方かも知れないからね」
「はい」
リゼはランクAの冒険者同士の戦いが見られることに、心が躍っていた。
そして、自分に何が足りないのかを再確認出来ると考えていた。
「私からの攻撃でいいか?」
「あぁ、いつでも構わないぞ」
「じゃぁ、遠慮なく行かせてもらう‼」
ミランは剣を抜くと、笑顔でクウガに攻撃をする。
両手に輝く白銀のアックスがクウガを襲う。
クウガはミランの攻撃を紙一重で躱すが、ミランは避けられるのを計算していたかのように、次の攻撃を繰り出している。
しかしクウガは、その攻撃も難なく回避していた。
「ちっ、相変わらずムカつく奴だな」
自分の攻撃を簡単に避けられたミランが、苛立っていた。
今度はクウガが攻撃をする。
両手に持つ短剣が、ミランに襲い掛かるが、アックスで辛うじて防いでいる。
しかし、ミランも防戦一方でなく、隙をついてクウガへ攻撃をする。
ミランのアックスがクウガに当たると思った瞬間、クウガは紙一重で避けると、ミランのアックスに自分の腕を乗せる。
ミランも体勢を崩しながら、クウガの思い通りにはならないとばかりに、必死で抵抗する。
クウガはミランの抵抗する力も利用して、アックスに体重を乗せた腕を下に押し込み、足を腰付近まで上げると、腕の代わりにアックスに足を乗せて、そのまま踏みつけた。
片方のアックスが使えず、体勢を崩したミランはクウガの追撃に備えるが、クウガの姿が視線から消えていた。
「俺の勝ちだな」
いつの間にかクウガはミランの後ろに回り、首元に短剣を押し付けていた。
「くそっ! また、私の負けかよ‼」
ミランが両手をアックスから離す。
「これで、俺の五十三戦五十三勝だな!」
「私とクウガの相性が悪いだけだ‼」
不貞腐れたミランが、その場に座り込む。
クウガとミランの戦いを見ていたリゼは、戦いのレベルについていけずに、何が起こったのか分からないでいた。
クウガとミランの戦いはリゼの目で追えるレベルではなかったのだ。
アリスが参考になると言っていたが、それさえも分からなかった。
「ミラン。俺が仇を取ってやるぞ‼」
気付くと、先程まで隣にいたローガンがミランの隣にいた。
「おいおい、なんでローガンまで出てくるんだ?」
「こういう機会は、なかなか無いからな」
嬉しそうに拳を握りながら、指を鳴らす。
立ち上がったミランと、手を叩きあう。
「くそクウガを倒してくれよ」
「任せておけ‼」
「……それじゃ、俺が悪者みたいじゃないか」
「ふんっ!」
ミランは不機嫌そうに観覧席に向かって歩く。
「クウガとは三十六戦十八勝三引き分けだったよな」
「おいおい、ローガン。何を言っている。俺の十九勝二引き分けだろう」
「お前こそ、何を言っている‼」
クウガとローガンはお互いに睨み合っていた。
「くそっ!」
観覧席に戻ってきたミランは不機嫌そうに座った。
「まだまだ、クウガには勝てないみたいね」
「あと、少しなんだけどな」
「力任せだとクウガに、いいようにあしらわれるわね」
「分かっているんだが、私のこのスタイルを変えるつもりはないからな」
「そうね。その方がミランらしくて、私は好きよ」
アリスと話をしていると、いつの間にかミランの機嫌が直っていた。
「リゼ!」
「はい‼」
「クウガの強さは、最小限の攻撃で、最大のダメージを与えるところだ。無駄な動きもせずに、気付いたらクウガの思い通りに、こちらが攻撃していたってこともある。お前も、それくらいになれよ」
「……はい」
「リゼちゃんなら、あの馬鹿を倒せるくらいになれるわ」
ミランとアリスの二人が「クウガを倒してくれ!」と、頼んでいるようにリゼは感じた。
「ご期待に沿えるよう頑張ります」
リゼは、そう答えるだけで精一杯だった。
クウガとローガンの戦いは凄かった。
素手のローガンに合わせて、クウガも素手だった。
力のローガンに対して、技のクウガと言うべきか、ローガンの攻撃を上手く逃がしながら反撃をしていた。
クウガの職業である暗殺者は、素手での戦闘も得意としている。
しかし、時間と共にローガンが優勢になってきた。
リゼやミランとも戦っているクウガは、疲れが見え始めてきたのである。
「オラァーーー‼」
ローガンの気合の入った雄叫びと共に、右拳がクウガに繰り出される。
両手でガードしたクウガは、凄い勢いで後方に飛ばされた。
「くそったれ!」
攻撃したローガンは不満そうに、クウガを殴った右拳を見ていた。
「上手く威力を逃がしたわね」
「ったく、クウガの嫌なところだよな」
アリスとミランが、何事もなかったかのように冷静に話をしていた。
「あの……どういうことですか?」
リゼは二人の会話についていけなかったので、思い切って質問をしてみた。
「リゼには分からなかったかも知れないが、クウガの奴は自分で後ろに飛んで、ダメージを減らした。攻撃したローガンも殴った感触が無かったから、あんな表情なんだろう」
「自分から後ろに飛ぶ――」
リゼの中で防御と言えば、攻撃を受け止めるや、攻撃を避けるくらいしか思いつかなかった。
相手の攻撃を敢えて受けたうえで、後ろに飛んでダメージを減らすなど考えもしなかった。
「まぁ、クウガも疲れているから一瞬、対応が遅れたみたいだけどな」
ミランは嬉しそうに話す。
たしかにクウガは、少し呼吸が荒くなってきていた。
「今日はローガンの勝ちのようだな」
「そのようね」
クウガとローガンでは対格差もあるうえ、素手での戦いでは武闘家のローガンに分がある。
それはリゼも分かっている。
しかし、それでも先程の話だと、クウガはローガンと五分に近い戦績だった。
対格差や職業だけで、強さは決まらないということだと思っていた。
小さく非力な自分でも、強くなれるかもしれないと、少しだけ期待を持っていたのだ。
当然、クウガもローガンもスキルを使っていない。
もし、使えば戦況も変わるし、先程の戦績も変わってくることは承知している。
基礎がしっかりしていなければ、どれだけ凄いスキルを持っていても無駄になる。
以前に呼んだ本に書いてあったことを、リゼは思いだしていた――。
「リゼの攻撃は直線的すぎる」
「どういうことですか?」
「攻撃が素直過ぎるってことだ」
リゼの攻撃は動かない相手を想定しているのか、変則的な攻撃をなかった。
攻撃箇所を目で追っているため、視線の先を攻撃することが分かってしまう。
それに体の動きも同調しているので、簡単に避けられるとクウガは説明する。
「ちょっと、これを握ってみろ」
クウガは先程、使用した木製の短剣をリゼに握らせた。
「狙いたい場所を目で追うのでなく、そこを狙う為に他の場所に意識を集中させる」
心臓を貫くために、死角となるように顔や喉を狙う。
そうすると相手は、咄嗟に腕で防御するので、当たる寸前に軌道を変える。
リゼの戦い方は孤児部屋で読んだ本での知識しかない。
臨機応変な戦い方は知らない。
「リゼの素早さなら、ほとんどの冒険者にも通じるだろう」
「そうですか……」
「盗賊の補正があるとはいえ、かなり上がっているんだろう。ローガンは、どう思う」
「そうだな。少なく見ても五十前半だろうな。もしかしたら、六十を超えているかもな」
ローガンは考えながら答える。
「俺も同じ意見だ」
クウガが嬉しそうに頷いた。
「素早さだけなら、アリスよりも上かもな」
「はいはい」
ミランがアリスを揶揄うが、アリスは話を流す。
しかし、アリスもリゼの俊敏さには驚いていたし、ローガンの意見にも納得していた。
「変則的な攻撃、クウガの十八番でしょう。見せてあげたら?」
「それなら、私が相手をしてやる」
ミランが一歩前に出る。
「まぁ、仕方ないか……ミラン。スキル無しだぞ」
「了解! 他はどうする?」
「そうだな……上半身のみ、腰から下の攻撃は無しでどうだ?」
「いいね~、私に合わせてくれたのか? まぁ、いい――アリスたちは、観覧席に移動しな!」
リゼの意志に関係なく、クウガとミランの戦いが始まろうとしていた。
「リゼちゃん。よく見ておきなさいね。クウガの戦い方は、リゼちゃんの理想とする戦い方かも知れないからね」
「はい」
リゼはランクAの冒険者同士の戦いが見られることに、心が躍っていた。
そして、自分に何が足りないのかを再確認出来ると考えていた。
「私からの攻撃でいいか?」
「あぁ、いつでも構わないぞ」
「じゃぁ、遠慮なく行かせてもらう‼」
ミランは剣を抜くと、笑顔でクウガに攻撃をする。
両手に輝く白銀のアックスがクウガを襲う。
クウガはミランの攻撃を紙一重で躱すが、ミランは避けられるのを計算していたかのように、次の攻撃を繰り出している。
しかしクウガは、その攻撃も難なく回避していた。
「ちっ、相変わらずムカつく奴だな」
自分の攻撃を簡単に避けられたミランが、苛立っていた。
今度はクウガが攻撃をする。
両手に持つ短剣が、ミランに襲い掛かるが、アックスで辛うじて防いでいる。
しかし、ミランも防戦一方でなく、隙をついてクウガへ攻撃をする。
ミランのアックスがクウガに当たると思った瞬間、クウガは紙一重で避けると、ミランのアックスに自分の腕を乗せる。
ミランも体勢を崩しながら、クウガの思い通りにはならないとばかりに、必死で抵抗する。
クウガはミランの抵抗する力も利用して、アックスに体重を乗せた腕を下に押し込み、足を腰付近まで上げると、腕の代わりにアックスに足を乗せて、そのまま踏みつけた。
片方のアックスが使えず、体勢を崩したミランはクウガの追撃に備えるが、クウガの姿が視線から消えていた。
「俺の勝ちだな」
いつの間にかクウガはミランの後ろに回り、首元に短剣を押し付けていた。
「くそっ! また、私の負けかよ‼」
ミランが両手をアックスから離す。
「これで、俺の五十三戦五十三勝だな!」
「私とクウガの相性が悪いだけだ‼」
不貞腐れたミランが、その場に座り込む。
クウガとミランの戦いを見ていたリゼは、戦いのレベルについていけずに、何が起こったのか分からないでいた。
クウガとミランの戦いはリゼの目で追えるレベルではなかったのだ。
アリスが参考になると言っていたが、それさえも分からなかった。
「ミラン。俺が仇を取ってやるぞ‼」
気付くと、先程まで隣にいたローガンがミランの隣にいた。
「おいおい、なんでローガンまで出てくるんだ?」
「こういう機会は、なかなか無いからな」
嬉しそうに拳を握りながら、指を鳴らす。
立ち上がったミランと、手を叩きあう。
「くそクウガを倒してくれよ」
「任せておけ‼」
「……それじゃ、俺が悪者みたいじゃないか」
「ふんっ!」
ミランは不機嫌そうに観覧席に向かって歩く。
「クウガとは三十六戦十八勝三引き分けだったよな」
「おいおい、ローガン。何を言っている。俺の十九勝二引き分けだろう」
「お前こそ、何を言っている‼」
クウガとローガンはお互いに睨み合っていた。
「くそっ!」
観覧席に戻ってきたミランは不機嫌そうに座った。
「まだまだ、クウガには勝てないみたいね」
「あと、少しなんだけどな」
「力任せだとクウガに、いいようにあしらわれるわね」
「分かっているんだが、私のこのスタイルを変えるつもりはないからな」
「そうね。その方がミランらしくて、私は好きよ」
アリスと話をしていると、いつの間にかミランの機嫌が直っていた。
「リゼ!」
「はい‼」
「クウガの強さは、最小限の攻撃で、最大のダメージを与えるところだ。無駄な動きもせずに、気付いたらクウガの思い通りに、こちらが攻撃していたってこともある。お前も、それくらいになれよ」
「……はい」
「リゼちゃんなら、あの馬鹿を倒せるくらいになれるわ」
ミランとアリスの二人が「クウガを倒してくれ!」と、頼んでいるようにリゼは感じた。
「ご期待に沿えるよう頑張ります」
リゼは、そう答えるだけで精一杯だった。
クウガとローガンの戦いは凄かった。
素手のローガンに合わせて、クウガも素手だった。
力のローガンに対して、技のクウガと言うべきか、ローガンの攻撃を上手く逃がしながら反撃をしていた。
クウガの職業である暗殺者は、素手での戦闘も得意としている。
しかし、時間と共にローガンが優勢になってきた。
リゼやミランとも戦っているクウガは、疲れが見え始めてきたのである。
「オラァーーー‼」
ローガンの気合の入った雄叫びと共に、右拳がクウガに繰り出される。
両手でガードしたクウガは、凄い勢いで後方に飛ばされた。
「くそったれ!」
攻撃したローガンは不満そうに、クウガを殴った右拳を見ていた。
「上手く威力を逃がしたわね」
「ったく、クウガの嫌なところだよな」
アリスとミランが、何事もなかったかのように冷静に話をしていた。
「あの……どういうことですか?」
リゼは二人の会話についていけなかったので、思い切って質問をしてみた。
「リゼには分からなかったかも知れないが、クウガの奴は自分で後ろに飛んで、ダメージを減らした。攻撃したローガンも殴った感触が無かったから、あんな表情なんだろう」
「自分から後ろに飛ぶ――」
リゼの中で防御と言えば、攻撃を受け止めるや、攻撃を避けるくらいしか思いつかなかった。
相手の攻撃を敢えて受けたうえで、後ろに飛んでダメージを減らすなど考えもしなかった。
「まぁ、クウガも疲れているから一瞬、対応が遅れたみたいだけどな」
ミランは嬉しそうに話す。
たしかにクウガは、少し呼吸が荒くなってきていた。
「今日はローガンの勝ちのようだな」
「そのようね」
クウガとローガンでは対格差もあるうえ、素手での戦いでは武闘家のローガンに分がある。
それはリゼも分かっている。
しかし、それでも先程の話だと、クウガはローガンと五分に近い戦績だった。
対格差や職業だけで、強さは決まらないということだと思っていた。
小さく非力な自分でも、強くなれるかもしれないと、少しだけ期待を持っていたのだ。
当然、クウガもローガンもスキルを使っていない。
もし、使えば戦況も変わるし、先程の戦績も変わってくることは承知している。
基礎がしっかりしていなければ、どれだけ凄いスキルを持っていても無駄になる。
以前に呼んだ本に書いてあったことを、リゼは思いだしていた――。
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