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第85話
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リゼが到着して数分後、領主であるカプラスが現れた。
カプラスの入室と同時に銀翼のメンバーたちは一斉に立ち上がった。
リゼも立ち上がろうとしたが遅れる。
この一瞬の遅れがリゼの中では許せなかった。
分かっていたのに、誰よりも遅い行動をしてしまったことを後悔していたのだ。
しかし、カプラスの前では表情に出さずにいた。
「よく来てくれたね」
カプラスは領主として、ゴブリン討伐を銀翼のメンバーに向かって丁寧に礼を述べた。
そして、リゼに対しても領主として謝罪の言葉を口にする。
リゼは黙って頭を下げた。
「オーリスならではの食事を用意させていただいたので、堪能していただきたい。それに、王都よりも味は落ちるかもしれないが、エールも好きなだけ飲んでくれて結構だ」
エールが飲み放題‼ という言葉を聞いてササジールとローガンは顔が緩んでいた。
「では、私は失礼する。帰られる際は使用人に声を掛けてくれれば、お見送りをさせて頂く」
「ありがとうございます」
アルベルトの言葉に、銀翼のメンバーは一斉に頭を下げた。
ここでもリゼが一瞬遅れる。
カプラスが退室すると、ササジールとローガンはエール飲み放題で浮かれていた。
それを冷やかな目で見るミランとラスティア。
部屋の扉を叩く音がして、使用人たちが料理を運んできた。
「何かあれば、このベルを御鳴らし下さい」
使用人の一人が、アルベルトにベルを渡す。
「お嬢さんや、このエールをあと六杯頂けるかの?」
「六杯ですか⁈」
ササジールの前には、手つかずのエールの容器がまだある。
「申し訳御座いませんが、私にはお水を頂けますか?」
「あっ、私もお水で御願いします」
ラスティアが追加で注文をすると、リゼも慌てて注文をする。
「かしこまりました。瓶でお持ちした方が宜しいでしょうか?」
「はい、御願いします」
成人の儀を受ければ、エールを飲むことは出来る。
しかし、エールを飲んで暴れる父親を見ていたので、エールを飲もうとは思わなかった。
父親と同じことはしたくないと、心の何処かでリゼは思っていたのだ。
食事会でのリゼは、自分から発言することなく聞くことのほうが多かった。
「リゼ‼」
「はい」
クウガに話し掛けられたリゼは返事をする。
「もし、お前を捨てた親が、自分の子供だと言って、受け入れようとしたらお前はどうする?」
「……どういうことですか?」
リゼはクウガの言っている意味が理解できなかった。
自分は捨てられた身なのに、どうして自分の子供だと言うようなことがあるのか……?
「お前が冒険者として有名になれば、その可能性があるってことだ」
「……クウガ、それって昔の自分のことを言っているの?」
「あぁ、そうだ。可能性の一つとして、個人的に聞いてみたかっただけだ。答えなくなければ、答える必要はないがな」
「クウガさんのことって……?」
クウガは下級貴族の愛人の子供だった。
成人の儀で外れスキルだと分かると同時に捨てられ、孤児部屋行きとなった。
しかし、アルベルトと共に冒険者として、その地位を高めると自分を捨てた親が、自分の子供だと周りに言い始める。
そして、家に戻ってくるようにと使者を送ってきた。
有名冒険者が自分の子供だとなれば、周囲に自慢が出来る。
そして、クウガが実績を上げれば、貴族と階級も上がる可能性が高かったからだ。
しかし、クウガは多くの貴族がいる前で、自分は成人の儀の時に捨てられたと発言をする。
当然、両親は「嘘だ!」と反論する。
その時、他にも多くの冒険者がいたこともあり、クウガが孤児部屋出身だということは知っていたので、他の冒険者もクウガの言葉が嘘ではないと証言をした。
他の貴族が「そこまで言うのであれば、『真偽の水晶』に触れて、どちらが嘘をついているかハッキリさせよう!」と、提案をするが両親ともに『真偽の水晶』に触れずに、その場から去った。
その後、クウガが『真偽の水晶』に触れて、自分の意見が正しいことを証明した。
この事は、あっという間に貴族や国民の間に広がる。
クウガの両親は、最低の人間だと罵られるようになる。
そして、一年後に他の貴族と悪事に手を染めていた事実が発覚して、爵位を剥奪された。
他の貴族も同様に、外れスキルと判定された子供は死亡や、行方不明になったとしていることも多い。
一度捨てた子供は、何があっても自分の子だと認めてはならないという暗黙のルールを欲に目が眩んだクウガの両親は破ってしまったのだった。
「私の親は亡くなった母親だけです。この世に肉親は一人もいません」
クウガの話を聞いて、リゼはハッキリとした口調で答えた。
リゼの言葉を聞いたクウガは嬉しそうに笑う。
隣にいるアルベルトも同様だった。
「なんか、そっちは難しい話をしているね」
ササジールとローガンと酒を飲みながら話をしていたオプティミスが会話に入ってきた。
「別に難しい話なんかしていないぞ!」
クウガはエールを飲みながら答える。
「ふーん。そうなんだ」
疑うような目でオプティミスはクウガを見る。
「まぁ、いいや。リゼちゃんは僕たちに質問があれば聞くよ」
今まで、聞き手に回っていたリゼだったが、オプティミスの発言で皆の視線が集まる。
「質問ですか――」
リゼは考えた。
聞きたいことは山ほどある。強くなる秘訣や、単独での戦い方などだ。
しかし、この場で聞くことではないとリゼは分かっていたので、差し障りのない質問を考える。
「銀翼のメンバーは全員で何人なんですか?」
「全部で十人だよ」
アルベルトが代表して答える。
「ここに居る八人と、王都に二人いる」
「王都にいる二人は見習いだけどな」
「見習い?」
「うん」
アルベルトはリゼに詳しく説明をしてくれた。
銀翼のメンバーになるには、現メンバーから最低三人の推薦がなければならない。
入りたいと言って、勝手に入ることができないのだ。
このルールは、初期メンバーであるアルベルトとクウガ、アリスの三人が認めないと銀翼に入ることができなかった時のルールから引き継がれている。
「ローガンが連れてきたジェイドという拳闘士と、今はアリスの弟子であるアンジュの二人。二人ともランクBの冒険者だね」
「実力的にいえば、ランクBでも上位になるだろうがな」
仲間のことを話すアルベルトとクウガは嬉しそうだった。
「リゼちゃんが入りたいって言えば、私は賛成するからね」
少し酔っ払っているアリスがリゼを銀翼に入れるような話を始めた。
「アリスもリゼに構ってばかりだと、アンジュがヤキモチを焼くぞ」
「たしかにそうですね。いつもお姉様、お姉様とアリスを慕っていますからね」
「それとこれとは別でしょう‼」
絡むアリスにミランと、ラスティアが揶揄う。
「そう言えば――」
ラスティアは何かを思い出したような表情を浮かべた。
「アルベルト。ゴブリン討伐にいた光属性魔法を使うコファイという冒険者を覚えていますか?」
「もちろんだよ。自分に自信のなさそうだけど、化けたら凄そうな冒険者だよね」
「はい。私はオーリスに戻ったらササ爺を紹介すると約束をしていました」
「そうなんだ。たしかにササ爺と話をしたら、彼も一皮向けるかもね」
「ん? そのコファイって奴を銀翼に入れるのか?」
ラスティアとアルベルトの会話に、ミランが入る。
「そのつもりは、今のところないよ。明らかに実力不足だからね」
「そうなのか」
実力不足と聞いて興味を無くしたのか、ミランは料理を食べ始めた。
「そういえば、ゴブリン討伐中に銀翼に入りたいっていう冒険者がいましたね」
「サウディとバクーダだね。彼らの連携には、目を見張るものがあったけど、もう少し経験を積まないと厳しいかな」
リゼはアルベルトたちの話を聞きながら、銀翼の層の高さを感じていた。
サウディとバクーダも同じオーリスの冒険者なので知っている。
若手有望株の二人だと有名だからだ。
クランには所属していないが、オーリスにある幾つかのクランからスカウトを受けていることも知っている。
コファイは気の弱そうな冒険者という印象しかなかった。
自分は他の冒険者たちから、どのような評価を受けているのだろうと、リゼは考えていた。
カプラスの入室と同時に銀翼のメンバーたちは一斉に立ち上がった。
リゼも立ち上がろうとしたが遅れる。
この一瞬の遅れがリゼの中では許せなかった。
分かっていたのに、誰よりも遅い行動をしてしまったことを後悔していたのだ。
しかし、カプラスの前では表情に出さずにいた。
「よく来てくれたね」
カプラスは領主として、ゴブリン討伐を銀翼のメンバーに向かって丁寧に礼を述べた。
そして、リゼに対しても領主として謝罪の言葉を口にする。
リゼは黙って頭を下げた。
「オーリスならではの食事を用意させていただいたので、堪能していただきたい。それに、王都よりも味は落ちるかもしれないが、エールも好きなだけ飲んでくれて結構だ」
エールが飲み放題‼ という言葉を聞いてササジールとローガンは顔が緩んでいた。
「では、私は失礼する。帰られる際は使用人に声を掛けてくれれば、お見送りをさせて頂く」
「ありがとうございます」
アルベルトの言葉に、銀翼のメンバーは一斉に頭を下げた。
ここでもリゼが一瞬遅れる。
カプラスが退室すると、ササジールとローガンはエール飲み放題で浮かれていた。
それを冷やかな目で見るミランとラスティア。
部屋の扉を叩く音がして、使用人たちが料理を運んできた。
「何かあれば、このベルを御鳴らし下さい」
使用人の一人が、アルベルトにベルを渡す。
「お嬢さんや、このエールをあと六杯頂けるかの?」
「六杯ですか⁈」
ササジールの前には、手つかずのエールの容器がまだある。
「申し訳御座いませんが、私にはお水を頂けますか?」
「あっ、私もお水で御願いします」
ラスティアが追加で注文をすると、リゼも慌てて注文をする。
「かしこまりました。瓶でお持ちした方が宜しいでしょうか?」
「はい、御願いします」
成人の儀を受ければ、エールを飲むことは出来る。
しかし、エールを飲んで暴れる父親を見ていたので、エールを飲もうとは思わなかった。
父親と同じことはしたくないと、心の何処かでリゼは思っていたのだ。
食事会でのリゼは、自分から発言することなく聞くことのほうが多かった。
「リゼ‼」
「はい」
クウガに話し掛けられたリゼは返事をする。
「もし、お前を捨てた親が、自分の子供だと言って、受け入れようとしたらお前はどうする?」
「……どういうことですか?」
リゼはクウガの言っている意味が理解できなかった。
自分は捨てられた身なのに、どうして自分の子供だと言うようなことがあるのか……?
「お前が冒険者として有名になれば、その可能性があるってことだ」
「……クウガ、それって昔の自分のことを言っているの?」
「あぁ、そうだ。可能性の一つとして、個人的に聞いてみたかっただけだ。答えなくなければ、答える必要はないがな」
「クウガさんのことって……?」
クウガは下級貴族の愛人の子供だった。
成人の儀で外れスキルだと分かると同時に捨てられ、孤児部屋行きとなった。
しかし、アルベルトと共に冒険者として、その地位を高めると自分を捨てた親が、自分の子供だと周りに言い始める。
そして、家に戻ってくるようにと使者を送ってきた。
有名冒険者が自分の子供だとなれば、周囲に自慢が出来る。
そして、クウガが実績を上げれば、貴族と階級も上がる可能性が高かったからだ。
しかし、クウガは多くの貴族がいる前で、自分は成人の儀の時に捨てられたと発言をする。
当然、両親は「嘘だ!」と反論する。
その時、他にも多くの冒険者がいたこともあり、クウガが孤児部屋出身だということは知っていたので、他の冒険者もクウガの言葉が嘘ではないと証言をした。
他の貴族が「そこまで言うのであれば、『真偽の水晶』に触れて、どちらが嘘をついているかハッキリさせよう!」と、提案をするが両親ともに『真偽の水晶』に触れずに、その場から去った。
その後、クウガが『真偽の水晶』に触れて、自分の意見が正しいことを証明した。
この事は、あっという間に貴族や国民の間に広がる。
クウガの両親は、最低の人間だと罵られるようになる。
そして、一年後に他の貴族と悪事に手を染めていた事実が発覚して、爵位を剥奪された。
他の貴族も同様に、外れスキルと判定された子供は死亡や、行方不明になったとしていることも多い。
一度捨てた子供は、何があっても自分の子だと認めてはならないという暗黙のルールを欲に目が眩んだクウガの両親は破ってしまったのだった。
「私の親は亡くなった母親だけです。この世に肉親は一人もいません」
クウガの話を聞いて、リゼはハッキリとした口調で答えた。
リゼの言葉を聞いたクウガは嬉しそうに笑う。
隣にいるアルベルトも同様だった。
「なんか、そっちは難しい話をしているね」
ササジールとローガンと酒を飲みながら話をしていたオプティミスが会話に入ってきた。
「別に難しい話なんかしていないぞ!」
クウガはエールを飲みながら答える。
「ふーん。そうなんだ」
疑うような目でオプティミスはクウガを見る。
「まぁ、いいや。リゼちゃんは僕たちに質問があれば聞くよ」
今まで、聞き手に回っていたリゼだったが、オプティミスの発言で皆の視線が集まる。
「質問ですか――」
リゼは考えた。
聞きたいことは山ほどある。強くなる秘訣や、単独での戦い方などだ。
しかし、この場で聞くことではないとリゼは分かっていたので、差し障りのない質問を考える。
「銀翼のメンバーは全員で何人なんですか?」
「全部で十人だよ」
アルベルトが代表して答える。
「ここに居る八人と、王都に二人いる」
「王都にいる二人は見習いだけどな」
「見習い?」
「うん」
アルベルトはリゼに詳しく説明をしてくれた。
銀翼のメンバーになるには、現メンバーから最低三人の推薦がなければならない。
入りたいと言って、勝手に入ることができないのだ。
このルールは、初期メンバーであるアルベルトとクウガ、アリスの三人が認めないと銀翼に入ることができなかった時のルールから引き継がれている。
「ローガンが連れてきたジェイドという拳闘士と、今はアリスの弟子であるアンジュの二人。二人ともランクBの冒険者だね」
「実力的にいえば、ランクBでも上位になるだろうがな」
仲間のことを話すアルベルトとクウガは嬉しそうだった。
「リゼちゃんが入りたいって言えば、私は賛成するからね」
少し酔っ払っているアリスがリゼを銀翼に入れるような話を始めた。
「アリスもリゼに構ってばかりだと、アンジュがヤキモチを焼くぞ」
「たしかにそうですね。いつもお姉様、お姉様とアリスを慕っていますからね」
「それとこれとは別でしょう‼」
絡むアリスにミランと、ラスティアが揶揄う。
「そう言えば――」
ラスティアは何かを思い出したような表情を浮かべた。
「アルベルト。ゴブリン討伐にいた光属性魔法を使うコファイという冒険者を覚えていますか?」
「もちろんだよ。自分に自信のなさそうだけど、化けたら凄そうな冒険者だよね」
「はい。私はオーリスに戻ったらササ爺を紹介すると約束をしていました」
「そうなんだ。たしかにササ爺と話をしたら、彼も一皮向けるかもね」
「ん? そのコファイって奴を銀翼に入れるのか?」
ラスティアとアルベルトの会話に、ミランが入る。
「そのつもりは、今のところないよ。明らかに実力不足だからね」
「そうなのか」
実力不足と聞いて興味を無くしたのか、ミランは料理を食べ始めた。
「そういえば、ゴブリン討伐中に銀翼に入りたいっていう冒険者がいましたね」
「サウディとバクーダだね。彼らの連携には、目を見張るものがあったけど、もう少し経験を積まないと厳しいかな」
リゼはアルベルトたちの話を聞きながら、銀翼の層の高さを感じていた。
サウディとバクーダも同じオーリスの冒険者なので知っている。
若手有望株の二人だと有名だからだ。
クランには所属していないが、オーリスにある幾つかのクランからスカウトを受けていることも知っている。
コファイは気の弱そうな冒険者という印象しかなかった。
自分は他の冒険者たちから、どのような評価を受けているのだろうと、リゼは考えていた。
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