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第77話
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翌朝、リゼは握力が戻っていないことに気付く。
思いっきり握ると、小刻みに震えた。
クエストに支障は無いだろうと思いながら、いつも通りに兎の宿でヴェロニカたちに挨拶をする。
挨拶を返すヴェロニカは、リゼになにか言いたそうだったが、ヴェロニカが他の客に声を掛けられたので、リゼは気になったがギルド会館へと向かった。
向かう途中で、リゼは立ち止まる。
ユニーククエストとデイリークエストが同じものだったからだ。
それも『達成条件:両手の開閉(五百回)』『期限:一時間』と、先日達成したクエストと全く同じだった。
いままで、類似したクエストはあったが、同じクエストは無かった。
保留にしていたクエストとはいえ、昨日と同じクエストが……それも二つ。
昨日、達成したから同じクエストになったのか? とリゼは思っていたが、デイリークエストの『達成条件:両手の開閉(五百回)』『期限:一時間』を受注して歩きながら、両手の開閉をする。
きちんと開閉をしていないのか、数字が減らない。
頭では分かってはいるが、手は思うように動いてくれない……。
リゼは両手を開閉している動作を見られるのが恥ずかしいと思い、大通りを外れて遠回りしながら、ギルド会館へと歩き続けた。
ギルド会館に到着する前に、デイリークエストを達成する。
報酬は『万能能力値:一増加』だった。
この報酬にリゼは喜んだ。
この万能能力値の報酬が、リゼの中で一番嬉しい報酬だった。
(ヨシ‼)
リゼは心の中で、ガッツポーズをした。
そして、「もしかしたら?」という期待を込めて、同じクエスト内容を続けて受注する。
リゼは一層震える両手の開閉を続けた。
ギルド会館に到着すると、いつも通りにクエストボードを見る。
今日も受注しようと思っていた『ケアリル草の採取』が無かった。
昨日受注したランクBとの共通クエストだったものがない。
それだけでなく、ランクCの『ケアリル草の採取』も貼ってなかった。
なにか理由があるのだろうと思いながら、リゼは採取クエストでなく、清掃クエストを探す。
討伐クエストを受注したいが、握力がない状態では小太刀を握ることも難しい。
リゼはクエストボードから一枚の紙を剥がす。
クエストは『城壁周りの除草及び清掃』だ。
受付に行くと、アイリが不在だったのでレベッカにクエストの発注手続きをしてもらう。
リゼは迷いながら、思い切ってレベッカに尋ねた。
「レベッカさん。クエストボードから、『ケアリル草の採取』がクエストが無くなったんですが、どうしてですか?」
リゼは考えられる理由として、クエストの取り消しと、他の冒険者にクエストを受注されたと考える。
クエストの取り消しは、珍しくないことだと思いながらも、もしかして自分以外に、ランクCの冒険者が現れたことを可能性は少ないながらも選択肢に入れていた。
「あぉ、それはね――」
レベッカは笑顔で答えた。
理由は簡単だった。
昨日のリゼと、ランクBの冒険者が朝一番で『ケアリル草の採取』を受注して出て行った。
これ以上、ケアリル草を採取するのは、乱獲になるとギルドは判断したので、クエストを取り下げていたそうだ。
別の場所の『ケアリル草の採取』はあるが、オーリスより遠いわりに報酬も少ないので、受注する冒険者は少ない。
通常であれば、そこまでしなくてもケアリル草は足りているからだ。
不足分は、商人が運んできた回復薬で賄える。
ケアリル草は主に、体力回復薬に使用される。
流通している体力回復薬なので、商人たちは安い場所で仕入れてくることもある。
レベッカの返答にリゼは安心した。
新しくランクCの冒険者が現れたわけでない安堵感。
しかし、リゼはすぐに考えを変えた。
自分がランクBになれば、必然的にクエストの奪い合いになる。
競争という概念を、自分の知らない間に無くしていたこと――。
リゼは考えを改めた。
レベッカから背籠と皮袋を渡される。
リゼは慣れた手つきで背籠を背負い、クエストへと向かおうとするが、レベッカはリゼにスコップも渡す。
「レベッカさん、このスコップは?」
スコップを渡された理由をレベッカに聞く。
レベッカはリゼにスコップの使用用途について説明をすると、リゼも理解する。
リゼはレベッカに礼を言う。
町を出るとき、門番に挨拶をする。
リゼはクエスト内容を説明すると、笑顔で通してくれた。
門の辺りは、門番なども気付いたら草引きしているので、綺麗になっている。
町の顔ともなる場所なので、綺麗にしておくのは当たり前なのだろう。
オーリスには正門と呼ばれる大きな場所の他に、小さな門が三つある。
通常は締まっているが、行事などで多くの人が出入りする時のみ開門される。
リゼは正門を出ると、壁沿いに作業を始める。
背の高い草はないので、中腰や腰を下ろしての作業となる。
ゴミなどは、ほとんど落ちていない。
その代わり、野犬にでも襲われたのか、小動物や鳥などの死骸がある。
動物などの死骸は穴を掘り埋めることになっているので、レベッカから渡されたスコップで穴を掘る。
握力がないため、スコップを何度も手から離す。
城壁の周りを歩きながらリゼは思う。
ゴミよりも、動物などの死骸処理に時間を要している。
数十メートル歩けば、なにかしらの死骸が落ちている。
この死骸を埋める作業は、ギルドに報告する義務はない。
ただ、衛兵の見回りの際に、あまりに数が多いとギルドに依頼がある。
手を抜けば、簡単に分かってしまうのだ。
リゼはそのことを知らないが、受注したクエストに手を抜くことはないので、黙々と作業を続けた。
城壁を四分の一くらい歩いたところで、ユニーククエストを達成する。
報酬は『孤独耐性強化』だった。
……孤独耐性?
リゼはクエスト報酬の画面を見ながら、呆然としていた。
聞きなれない『孤独耐性』という言葉。
文字通り孤独に対する耐性ということであれば、今でも同じようなものだ。
一人でも寂しくないようになったということなのだろうが……。
この能力が自分にとって、有効なものなのだろうか? とリゼは疑問に思う。
孤独には慣れているつもりだと思っているリゼは、今回の報酬に少し落胆していた。
落ち込みながらも城壁の周りを歩き、除草に清掃そして、死骸の埋葬の作業を継続する。
城壁を三分の二歩いたところで、スコップを握る手に力が入らなくなっていた。
辛うじて草を引き抜いたり、ゴミを拾うことはできていたのだが……。
リゼは少し休憩を取ることにした。
手を使わないことで、少しでも握力の回復を期待する。
城壁に背をあずけて、風景を眺める。
来たことのない場所なので、新鮮な感じがしていた。
城壁を回って気付いたこともあった。
町の中に流れていた川だが、城壁から出る箇所には、鉄格子が何重にも設置されていた。
魔物から町を守ることと、町から犯罪者などを出さないためなのだろう。
ランクBには、この鉄格子の清掃クエストがある。
ここにゴミが詰まると、川が氾濫するからだろう。
大がかりな作業なので、数人での行うことになる。
報酬がよいので、このクエストは受注する冒険者が毎回同じ顔ぶれになることが多い。
「おーい、聞こえるか?」
どこからか声がする――。
リゼは周囲を確認するが、誰もいない。
「上だ、上!」
リゼは指示された通り、上を見ると衛兵がいた。
城壁の上で巡回していた衛兵が、休んでいるリゼの安否を確認したようだった。
「大丈夫か?」
衛兵はリゼが、怪我でもして倒れていると思ったのだろう。
「はい。少し、休んでいただけです」
「そうか。頑張れよ!」
「ありがとうございます」
リゼは立ち上がり、大きな声で返事をした。
(サボっていると思われたのかな……)
衛兵が自分のことを、どう思ったのかを考えながら、リゼは立ち上がる。
(あと、少し!)
リゼは作業を再開するために、足を進めた。
思いっきり握ると、小刻みに震えた。
クエストに支障は無いだろうと思いながら、いつも通りに兎の宿でヴェロニカたちに挨拶をする。
挨拶を返すヴェロニカは、リゼになにか言いたそうだったが、ヴェロニカが他の客に声を掛けられたので、リゼは気になったがギルド会館へと向かった。
向かう途中で、リゼは立ち止まる。
ユニーククエストとデイリークエストが同じものだったからだ。
それも『達成条件:両手の開閉(五百回)』『期限:一時間』と、先日達成したクエストと全く同じだった。
いままで、類似したクエストはあったが、同じクエストは無かった。
保留にしていたクエストとはいえ、昨日と同じクエストが……それも二つ。
昨日、達成したから同じクエストになったのか? とリゼは思っていたが、デイリークエストの『達成条件:両手の開閉(五百回)』『期限:一時間』を受注して歩きながら、両手の開閉をする。
きちんと開閉をしていないのか、数字が減らない。
頭では分かってはいるが、手は思うように動いてくれない……。
リゼは両手を開閉している動作を見られるのが恥ずかしいと思い、大通りを外れて遠回りしながら、ギルド会館へと歩き続けた。
ギルド会館に到着する前に、デイリークエストを達成する。
報酬は『万能能力値:一増加』だった。
この報酬にリゼは喜んだ。
この万能能力値の報酬が、リゼの中で一番嬉しい報酬だった。
(ヨシ‼)
リゼは心の中で、ガッツポーズをした。
そして、「もしかしたら?」という期待を込めて、同じクエスト内容を続けて受注する。
リゼは一層震える両手の開閉を続けた。
ギルド会館に到着すると、いつも通りにクエストボードを見る。
今日も受注しようと思っていた『ケアリル草の採取』が無かった。
昨日受注したランクBとの共通クエストだったものがない。
それだけでなく、ランクCの『ケアリル草の採取』も貼ってなかった。
なにか理由があるのだろうと思いながら、リゼは採取クエストでなく、清掃クエストを探す。
討伐クエストを受注したいが、握力がない状態では小太刀を握ることも難しい。
リゼはクエストボードから一枚の紙を剥がす。
クエストは『城壁周りの除草及び清掃』だ。
受付に行くと、アイリが不在だったのでレベッカにクエストの発注手続きをしてもらう。
リゼは迷いながら、思い切ってレベッカに尋ねた。
「レベッカさん。クエストボードから、『ケアリル草の採取』がクエストが無くなったんですが、どうしてですか?」
リゼは考えられる理由として、クエストの取り消しと、他の冒険者にクエストを受注されたと考える。
クエストの取り消しは、珍しくないことだと思いながらも、もしかして自分以外に、ランクCの冒険者が現れたことを可能性は少ないながらも選択肢に入れていた。
「あぉ、それはね――」
レベッカは笑顔で答えた。
理由は簡単だった。
昨日のリゼと、ランクBの冒険者が朝一番で『ケアリル草の採取』を受注して出て行った。
これ以上、ケアリル草を採取するのは、乱獲になるとギルドは判断したので、クエストを取り下げていたそうだ。
別の場所の『ケアリル草の採取』はあるが、オーリスより遠いわりに報酬も少ないので、受注する冒険者は少ない。
通常であれば、そこまでしなくてもケアリル草は足りているからだ。
不足分は、商人が運んできた回復薬で賄える。
ケアリル草は主に、体力回復薬に使用される。
流通している体力回復薬なので、商人たちは安い場所で仕入れてくることもある。
レベッカの返答にリゼは安心した。
新しくランクCの冒険者が現れたわけでない安堵感。
しかし、リゼはすぐに考えを変えた。
自分がランクBになれば、必然的にクエストの奪い合いになる。
競争という概念を、自分の知らない間に無くしていたこと――。
リゼは考えを改めた。
レベッカから背籠と皮袋を渡される。
リゼは慣れた手つきで背籠を背負い、クエストへと向かおうとするが、レベッカはリゼにスコップも渡す。
「レベッカさん、このスコップは?」
スコップを渡された理由をレベッカに聞く。
レベッカはリゼにスコップの使用用途について説明をすると、リゼも理解する。
リゼはレベッカに礼を言う。
町を出るとき、門番に挨拶をする。
リゼはクエスト内容を説明すると、笑顔で通してくれた。
門の辺りは、門番なども気付いたら草引きしているので、綺麗になっている。
町の顔ともなる場所なので、綺麗にしておくのは当たり前なのだろう。
オーリスには正門と呼ばれる大きな場所の他に、小さな門が三つある。
通常は締まっているが、行事などで多くの人が出入りする時のみ開門される。
リゼは正門を出ると、壁沿いに作業を始める。
背の高い草はないので、中腰や腰を下ろしての作業となる。
ゴミなどは、ほとんど落ちていない。
その代わり、野犬にでも襲われたのか、小動物や鳥などの死骸がある。
動物などの死骸は穴を掘り埋めることになっているので、レベッカから渡されたスコップで穴を掘る。
握力がないため、スコップを何度も手から離す。
城壁の周りを歩きながらリゼは思う。
ゴミよりも、動物などの死骸処理に時間を要している。
数十メートル歩けば、なにかしらの死骸が落ちている。
この死骸を埋める作業は、ギルドに報告する義務はない。
ただ、衛兵の見回りの際に、あまりに数が多いとギルドに依頼がある。
手を抜けば、簡単に分かってしまうのだ。
リゼはそのことを知らないが、受注したクエストに手を抜くことはないので、黙々と作業を続けた。
城壁を四分の一くらい歩いたところで、ユニーククエストを達成する。
報酬は『孤独耐性強化』だった。
……孤独耐性?
リゼはクエスト報酬の画面を見ながら、呆然としていた。
聞きなれない『孤独耐性』という言葉。
文字通り孤独に対する耐性ということであれば、今でも同じようなものだ。
一人でも寂しくないようになったということなのだろうが……。
この能力が自分にとって、有効なものなのだろうか? とリゼは疑問に思う。
孤独には慣れているつもりだと思っているリゼは、今回の報酬に少し落胆していた。
落ち込みながらも城壁の周りを歩き、除草に清掃そして、死骸の埋葬の作業を継続する。
城壁を三分の二歩いたところで、スコップを握る手に力が入らなくなっていた。
辛うじて草を引き抜いたり、ゴミを拾うことはできていたのだが……。
リゼは少し休憩を取ることにした。
手を使わないことで、少しでも握力の回復を期待する。
城壁に背をあずけて、風景を眺める。
来たことのない場所なので、新鮮な感じがしていた。
城壁を回って気付いたこともあった。
町の中に流れていた川だが、城壁から出る箇所には、鉄格子が何重にも設置されていた。
魔物から町を守ることと、町から犯罪者などを出さないためなのだろう。
ランクBには、この鉄格子の清掃クエストがある。
ここにゴミが詰まると、川が氾濫するからだろう。
大がかりな作業なので、数人での行うことになる。
報酬がよいので、このクエストは受注する冒険者が毎回同じ顔ぶれになることが多い。
「おーい、聞こえるか?」
どこからか声がする――。
リゼは周囲を確認するが、誰もいない。
「上だ、上!」
リゼは指示された通り、上を見ると衛兵がいた。
城壁の上で巡回していた衛兵が、休んでいるリゼの安否を確認したようだった。
「大丈夫か?」
衛兵はリゼが、怪我でもして倒れていると思ったのだろう。
「はい。少し、休んでいただけです」
「そうか。頑張れよ!」
「ありがとうございます」
リゼは立ち上がり、大きな声で返事をした。
(サボっていると思われたのかな……)
衛兵が自分のことを、どう思ったのかを考えながら、リゼは立ち上がる。
(あと、少し!)
リゼは作業を再開するために、足を進めた。
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