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第73話
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リゼは道化師という職業について、気になっていた。
しかし、簡単に聞いてよいものかも分からない――。
道化師について悩んでいるリゼを見たクウガとアリスは、事件のことをきにしているのだと勘違いする。
「リゼちゃん‼」
「はい」
「このあと、用事でもある?」
「クエストを一つか、二つしようと思っています」
「そっか――お昼でも、一緒に食べない?」
「あの……ありがたいのですが、既にパンを買っていますので……」
リゼが、腰袋からパンを見せる。
「育ち盛りのリゼちゃんが、パンだけなんて――」
アリスは倒れそうな仕草をする。
「お姉さんが、奢ってあげるから好きなものを食べなさい‼」
「本当に‼ やったー、アリスのおごりだー!」
「あら~、この耳は飾りなのかしら? 誰がオプティミスにおごるって言ったのかしらね~」
「ははは……」
クウガは小声でオプティミスに話す。
「お前のせいで、アリスの機嫌が悪いんだから、これ以上悪くするな」
「え~、僕のせいなの?」
「お前以外に誰がいるんだよ!」
こそこそと話をするクウガとオプティミスを横目に、アリスはリゼに何が食べたいかを聞いていた。
「アリスさん。すいません……できる限り早く、今日の分のクエストを終わらせたいので……」
申し訳なさそうに話すリゼ。
しかし、アリスも冒険者であれば、クエストを達成させて報酬を得なければ生活できないことは知っている。
「そう……残念だけど、仕方がないわね。また、今度ね」
「はい、本当にすいません」
リゼは、ランクAの冒険者であるアリスの誘いを断ったことを、本当に申し訳ないと、何度も頭を下げる。
「リゼ。俺たちはあと数日は、オーリスにいる。その間、一度でいいから一緒に食事をしてくれないか?」
「……考えておきます」
「あぁ、考えておいてくれ。俺たちは、この辺にいるから何か用があれば、探してくれ」
「はい」
「ちょっ……」
アリスが何か言おうとしたが、クウガが軽く睨むと口を噤んだ。
「じゃあ、クエスト頑張れよ!」
「はい、ありがとうございます」
リゼはクウガたちに頭を下げると、小走りで去っていった。
「俺たちとは出来るだけ、関わらないようにしているな」
「それくらいは私でも分かったわよ。でも――」
「同じようなことが起きると考えているんだろうな」
「それは……」
アリスは、「何度も同じような事件が起きるわけない!」というつもりだったが、なんの根拠もない発言だ。
無責任なことは言えない。
「なに、アリス振られたの?」
「オプティミス‼」
油に火を注ぐかのように、アリスのオプティミスへの怒りが爆発する。
「お前らな……」
クウガは頭を抱えた――。
リゼのことをクウガは考える。
思っていた以上に、心を閉ざしていたからだ。
俺たちとの関係が、分不相応だと感じているのだろう。
自分の身も守れないような冒険者が、銀翼のメンバーと仲が良い。
そのことを、よく思わない者だっている。
実際、クラン間の争いに関係のない冒険者が巻き込まれた事件もあった。
ただの親切心から、少し手ほどきしただけで冒険者として、生活ができなくなるような怪我を負わされた。
なにが良いのかは、クウガには分からなかった。
ただ言えることは、リゼとの関係を後悔はしていない。だが、このまま関係が壊れることだけは避けたかった……。
「クウガ!」
「ん、なんだ?」
「これから、どうするのよ」
「そうだな……アルベルトたちが戻ってくるまで、俺は事件のことを聞いて回ることにするが来るか?」
「行くわけないでしょう‼ こんなことなら、アルベルトたちのほうに行けば、よかったわよ」
「アリスが、こっちのほうがいい! と叫んでいたんだろう?」
「それはリゼちゃんが心配だったから……」
アリスは口を尖らせながら話す。
「まぁ、アリスとオプティミスで、ササ爺の面倒でも見ていてくれ」
「えぇー、それなら僕はクウガと一緒に行くよ」
「……私はササ爺と、自棄酒でも飲んでいるわ」
「じゃ、宿屋の情報はあとで知らせるから、飲み過ぎるなよ!」
「さぁ、分からないわね」
さみしそうなアリスを置いて、クウガとオプティミスは衛兵詰所へと歩き出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ギルド会館に戻ってきたリゼを、不思議そうに迎えるアイリとレベッカ。
「……銀翼のメンバーの人たちと会わなかった?」
「はい、クウガさんとアリスさんに、オプティミスさんとは、お会いしましたけど、なにかありましたか?」
「ううん。会えたなら、いいのよ」
アイリは、てっきり銀翼のメンバーと一緒にいるものだと思っていた。
まさか、リゼが一人でギルド会館に戻ってくるなんて、予想もしていなかったのだ。
それはレベッカも同じだった。
しかし、リゼの表情を見る限り、普段と変わりはない。
いつも通りにクエスト完了を受領されると、リゼはクエストボードに向かう。
そして、目を付けていたランクBとの共通クエスト『ケアリル草の採取』の紙をクエストボードから剥がそうと、腰を落とす。
目の前に『ノーマルクエスト達成』『報酬:観察眼強化』と表示される。
まだ時間があったので、気にしていなかったが、思っていたよりも屈伸運動をしていたのだと思っていた。
それよりも報酬の『観察眼』がなんなのか分からなかった。
字のとおりであれば、観察する力だ。
それが強化されたところで、なにか役に立つのだろうか?
もしかしたら『鑑定眼』の間違いかもしれないと思い、もう一度見直した。
しかし、表示されている文字は『観察眼』だった――。
(また、訳の分からない報酬だ……)
スキルのなかには【鑑定】と呼ばれるスキルがある。
このスキルはレアのため発見次第、国へ報告される。
常日頃から【鑑定】のスキルを使っていると、【人物鑑定】【物質鑑定】と各々に特化したスペシャルスキルが習得できることが分かっている。
重要人物に危険な訪問者を近付けないようにすることや、毒などが混入されていないかなどを確認するため、王族の周囲には【鑑定】のスキルを持った『王宮鑑定士』と呼ばれる存在が必ずいる。
この『王宮鑑定士』になれば、褒美として両親にも、それなりの地位と報酬が与えられる。
【鑑定】という素晴らしいスキルを持った子供を産んで育てたという理由からだ。
当然、虚偽の申請をする者もいるが、王宮鑑定士と簡単なものの鑑定で、嘘だということが分かってしまう。
以前に教会と貴族が共謀して、身分の低い子供が【鑑定】のスキルを授かったとしると、貴族はその両親を買収して、【鑑定】を持った子供を自分の子供として、王都へ送り出したことがある。
しかし、すぐにその犯行はバレてしまい、貴族は一族の爵位剥奪に財産没収となる。
教会側も信頼と名誉を著しく傷つけられたと、その司祭と犯行に携わった関係者を追放した。
【鑑定】というスキルによって、関係した人々の運命が大きく狂わされたのだった。
リゼは少し落ち込み、小さく息を吐いた。
落ち込む気分を一蹴して、クエストボードに貼ってある『ケアリル草の採取』の紙を見比べる。
ランクBとランクDとの共通クエストだ。
(依頼内容の違いは、採取する数だけだ……)
採取する数で、ここまでの報酬が異なっていることに、リゼは疑問を感じた。
とりあえず、ランクBとの共通クエスト『ケアリル草の採取』の紙を剥がして、受付へと持っていく。
「アイリさん。このクエストと、もう一枚ランクDとの共通クエストで同じ依頼内容があったのですが、なにが違うのですか?」
「あぁ、これね」
アイリはリゼに説明をする。
ランクDとの共通クエストは、リゼが今迄に受注して達成してきたクエストと、ほぼ同じだった。
しかし、ランクBとの共通クエストの採取場所は、さらに奥となっており、魔物と遭遇する確率も高くなる。
「あまり、リゼちゃんには言いたくないんだけど……ランクBからは、ギルドで魔物の買い取りもしているから、このクエスト受注時に討伐した魔物も対象になるのよ」
アイリの言葉に、リゼは目を大きく開く。
クエスト対象でない魔物の買い取りについては、解体所で話を聞いていたので知っている。
ランクBの冒険者が生活できるのも、この買い取りがあるからだ。
ただ、ランクC以下だと、買い取りを目的とした魔物討伐は、命の危険があるため行っていない。
この『ケアリル草の採取』は特殊なクエストなので、ランクB基準となるのだ。
クエストの紙を受け取ったアイリは先に、ケアリル草の生息地が書かれた紙を渡す。
そして受付の奥から、リゼに先程の背籠とは別の背籠を持ってきて渡した。
「絶対にアンチド草の生息地に近寄ったり、無茶な討伐は駄目だからね‼」
「はい、分かっています」
前科のあるリゼに言い聞かせるように話すアイリだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リゼがケアリル草の生息地に向かおうと準備をする。
夕方までに戻って来れる距離なので、魔物討伐も考えて回復薬の購入をした。
町に残っていた冒険者から声を掛けられるので、新しいケアリル草の生息地で遭遇する魔物の情報も入手した。
主に遭遇する魔物は『ワイルドボア』や『ニードルシープ』になる。
稀にだが、『プラントスライム』も現れるそうだ。
スライムは魔核しか入手できないので、他の魔物よりも買い取り価格が低いのだろうと、リゼは思っていた。
準備忘れがないかを確認するとリゼは出立する。
町の門を出ると、向こうの方から凄い勢いで何かが町に向かってくる。
リゼは思わず足を止めて、それがなんなのかを確認する。
徐々に近づき大きくなると、それがなにか分かる。
(……馬だ‼)
三頭の馬が走って来ていた。
(あれ? 乗っているのはシトルさん?)
リゼは、一頭の馬を操っていたのがシトルだと気付く。
馬の進路を妨害しないようにと、少し移動する。
シトルたちの馬は、一気にリゼの横を通り過ぎて行った。
(先頭の人は、ローガンさんだ)
リゼはローガンの存在に気付くが、怪我人が一緒にいた事までは、一瞬のことだったので分からなかった。
町の方を振り返ると、大きな声が聞こえる。
リゼは「ゴブリン討伐で、何かあったのだろう?」と思いながらも、戻ったところで何もできないと分かっていたので、自分ができること……ケアリル草の採取を急いだ。
しかし、簡単に聞いてよいものかも分からない――。
道化師について悩んでいるリゼを見たクウガとアリスは、事件のことをきにしているのだと勘違いする。
「リゼちゃん‼」
「はい」
「このあと、用事でもある?」
「クエストを一つか、二つしようと思っています」
「そっか――お昼でも、一緒に食べない?」
「あの……ありがたいのですが、既にパンを買っていますので……」
リゼが、腰袋からパンを見せる。
「育ち盛りのリゼちゃんが、パンだけなんて――」
アリスは倒れそうな仕草をする。
「お姉さんが、奢ってあげるから好きなものを食べなさい‼」
「本当に‼ やったー、アリスのおごりだー!」
「あら~、この耳は飾りなのかしら? 誰がオプティミスにおごるって言ったのかしらね~」
「ははは……」
クウガは小声でオプティミスに話す。
「お前のせいで、アリスの機嫌が悪いんだから、これ以上悪くするな」
「え~、僕のせいなの?」
「お前以外に誰がいるんだよ!」
こそこそと話をするクウガとオプティミスを横目に、アリスはリゼに何が食べたいかを聞いていた。
「アリスさん。すいません……できる限り早く、今日の分のクエストを終わらせたいので……」
申し訳なさそうに話すリゼ。
しかし、アリスも冒険者であれば、クエストを達成させて報酬を得なければ生活できないことは知っている。
「そう……残念だけど、仕方がないわね。また、今度ね」
「はい、本当にすいません」
リゼは、ランクAの冒険者であるアリスの誘いを断ったことを、本当に申し訳ないと、何度も頭を下げる。
「リゼ。俺たちはあと数日は、オーリスにいる。その間、一度でいいから一緒に食事をしてくれないか?」
「……考えておきます」
「あぁ、考えておいてくれ。俺たちは、この辺にいるから何か用があれば、探してくれ」
「はい」
「ちょっ……」
アリスが何か言おうとしたが、クウガが軽く睨むと口を噤んだ。
「じゃあ、クエスト頑張れよ!」
「はい、ありがとうございます」
リゼはクウガたちに頭を下げると、小走りで去っていった。
「俺たちとは出来るだけ、関わらないようにしているな」
「それくらいは私でも分かったわよ。でも――」
「同じようなことが起きると考えているんだろうな」
「それは……」
アリスは、「何度も同じような事件が起きるわけない!」というつもりだったが、なんの根拠もない発言だ。
無責任なことは言えない。
「なに、アリス振られたの?」
「オプティミス‼」
油に火を注ぐかのように、アリスのオプティミスへの怒りが爆発する。
「お前らな……」
クウガは頭を抱えた――。
リゼのことをクウガは考える。
思っていた以上に、心を閉ざしていたからだ。
俺たちとの関係が、分不相応だと感じているのだろう。
自分の身も守れないような冒険者が、銀翼のメンバーと仲が良い。
そのことを、よく思わない者だっている。
実際、クラン間の争いに関係のない冒険者が巻き込まれた事件もあった。
ただの親切心から、少し手ほどきしただけで冒険者として、生活ができなくなるような怪我を負わされた。
なにが良いのかは、クウガには分からなかった。
ただ言えることは、リゼとの関係を後悔はしていない。だが、このまま関係が壊れることだけは避けたかった……。
「クウガ!」
「ん、なんだ?」
「これから、どうするのよ」
「そうだな……アルベルトたちが戻ってくるまで、俺は事件のことを聞いて回ることにするが来るか?」
「行くわけないでしょう‼ こんなことなら、アルベルトたちのほうに行けば、よかったわよ」
「アリスが、こっちのほうがいい! と叫んでいたんだろう?」
「それはリゼちゃんが心配だったから……」
アリスは口を尖らせながら話す。
「まぁ、アリスとオプティミスで、ササ爺の面倒でも見ていてくれ」
「えぇー、それなら僕はクウガと一緒に行くよ」
「……私はササ爺と、自棄酒でも飲んでいるわ」
「じゃ、宿屋の情報はあとで知らせるから、飲み過ぎるなよ!」
「さぁ、分からないわね」
さみしそうなアリスを置いて、クウガとオプティミスは衛兵詰所へと歩き出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ギルド会館に戻ってきたリゼを、不思議そうに迎えるアイリとレベッカ。
「……銀翼のメンバーの人たちと会わなかった?」
「はい、クウガさんとアリスさんに、オプティミスさんとは、お会いしましたけど、なにかありましたか?」
「ううん。会えたなら、いいのよ」
アイリは、てっきり銀翼のメンバーと一緒にいるものだと思っていた。
まさか、リゼが一人でギルド会館に戻ってくるなんて、予想もしていなかったのだ。
それはレベッカも同じだった。
しかし、リゼの表情を見る限り、普段と変わりはない。
いつも通りにクエスト完了を受領されると、リゼはクエストボードに向かう。
そして、目を付けていたランクBとの共通クエスト『ケアリル草の採取』の紙をクエストボードから剥がそうと、腰を落とす。
目の前に『ノーマルクエスト達成』『報酬:観察眼強化』と表示される。
まだ時間があったので、気にしていなかったが、思っていたよりも屈伸運動をしていたのだと思っていた。
それよりも報酬の『観察眼』がなんなのか分からなかった。
字のとおりであれば、観察する力だ。
それが強化されたところで、なにか役に立つのだろうか?
もしかしたら『鑑定眼』の間違いかもしれないと思い、もう一度見直した。
しかし、表示されている文字は『観察眼』だった――。
(また、訳の分からない報酬だ……)
スキルのなかには【鑑定】と呼ばれるスキルがある。
このスキルはレアのため発見次第、国へ報告される。
常日頃から【鑑定】のスキルを使っていると、【人物鑑定】【物質鑑定】と各々に特化したスペシャルスキルが習得できることが分かっている。
重要人物に危険な訪問者を近付けないようにすることや、毒などが混入されていないかなどを確認するため、王族の周囲には【鑑定】のスキルを持った『王宮鑑定士』と呼ばれる存在が必ずいる。
この『王宮鑑定士』になれば、褒美として両親にも、それなりの地位と報酬が与えられる。
【鑑定】という素晴らしいスキルを持った子供を産んで育てたという理由からだ。
当然、虚偽の申請をする者もいるが、王宮鑑定士と簡単なものの鑑定で、嘘だということが分かってしまう。
以前に教会と貴族が共謀して、身分の低い子供が【鑑定】のスキルを授かったとしると、貴族はその両親を買収して、【鑑定】を持った子供を自分の子供として、王都へ送り出したことがある。
しかし、すぐにその犯行はバレてしまい、貴族は一族の爵位剥奪に財産没収となる。
教会側も信頼と名誉を著しく傷つけられたと、その司祭と犯行に携わった関係者を追放した。
【鑑定】というスキルによって、関係した人々の運命が大きく狂わされたのだった。
リゼは少し落ち込み、小さく息を吐いた。
落ち込む気分を一蹴して、クエストボードに貼ってある『ケアリル草の採取』の紙を見比べる。
ランクBとランクDとの共通クエストだ。
(依頼内容の違いは、採取する数だけだ……)
採取する数で、ここまでの報酬が異なっていることに、リゼは疑問を感じた。
とりあえず、ランクBとの共通クエスト『ケアリル草の採取』の紙を剥がして、受付へと持っていく。
「アイリさん。このクエストと、もう一枚ランクDとの共通クエストで同じ依頼内容があったのですが、なにが違うのですか?」
「あぁ、これね」
アイリはリゼに説明をする。
ランクDとの共通クエストは、リゼが今迄に受注して達成してきたクエストと、ほぼ同じだった。
しかし、ランクBとの共通クエストの採取場所は、さらに奥となっており、魔物と遭遇する確率も高くなる。
「あまり、リゼちゃんには言いたくないんだけど……ランクBからは、ギルドで魔物の買い取りもしているから、このクエスト受注時に討伐した魔物も対象になるのよ」
アイリの言葉に、リゼは目を大きく開く。
クエスト対象でない魔物の買い取りについては、解体所で話を聞いていたので知っている。
ランクBの冒険者が生活できるのも、この買い取りがあるからだ。
ただ、ランクC以下だと、買い取りを目的とした魔物討伐は、命の危険があるため行っていない。
この『ケアリル草の採取』は特殊なクエストなので、ランクB基準となるのだ。
クエストの紙を受け取ったアイリは先に、ケアリル草の生息地が書かれた紙を渡す。
そして受付の奥から、リゼに先程の背籠とは別の背籠を持ってきて渡した。
「絶対にアンチド草の生息地に近寄ったり、無茶な討伐は駄目だからね‼」
「はい、分かっています」
前科のあるリゼに言い聞かせるように話すアイリだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リゼがケアリル草の生息地に向かおうと準備をする。
夕方までに戻って来れる距離なので、魔物討伐も考えて回復薬の購入をした。
町に残っていた冒険者から声を掛けられるので、新しいケアリル草の生息地で遭遇する魔物の情報も入手した。
主に遭遇する魔物は『ワイルドボア』や『ニードルシープ』になる。
稀にだが、『プラントスライム』も現れるそうだ。
スライムは魔核しか入手できないので、他の魔物よりも買い取り価格が低いのだろうと、リゼは思っていた。
準備忘れがないかを確認するとリゼは出立する。
町の門を出ると、向こうの方から凄い勢いで何かが町に向かってくる。
リゼは思わず足を止めて、それがなんなのかを確認する。
徐々に近づき大きくなると、それがなにか分かる。
(……馬だ‼)
三頭の馬が走って来ていた。
(あれ? 乗っているのはシトルさん?)
リゼは、一頭の馬を操っていたのがシトルだと気付く。
馬の進路を妨害しないようにと、少し移動する。
シトルたちの馬は、一気にリゼの横を通り過ぎて行った。
(先頭の人は、ローガンさんだ)
リゼはローガンの存在に気付くが、怪我人が一緒にいた事までは、一瞬のことだったので分からなかった。
町の方を振り返ると、大きな声が聞こえる。
リゼは「ゴブリン討伐で、何かあったのだろう?」と思いながらも、戻ったところで何もできないと分かっていたので、自分ができること……ケアリル草の採取を急いだ。
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