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第68話

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「サウディ、そっちを頼む‼」
「分かった、任せろ!」

 奥に進むなか、遭遇するゴブリンたちをサウディとバクーダは、連携を取りながら倒していく。
 洞窟に入ったときよりも、格段に成長している。

「はぁ……結局、アルベルトの思った通りなのでしょうね」

 小さくため息をつくラスティア。
 その横で、サウディとバクーダの成長を目の当たりにしたコファイは、悔しそうに拳を握っていた。
 自分だけが置いて行かれた気分だった――。
 ラスティアに言われた言葉が頭から離れないでいた。
 すぐに、光属性魔法を理解して、自分なりの方法で強くなりたいと思っていた。

「コファイ!」
「はい、なんでしょうか?」
「オーリスに戻ったら、私たちを訪ねなさい。スケベで大酒呑みですが、光属性の魔法を使う上級魔術師を紹介してあげますわ」
「えっ‼」
「……嫌でしたか?」
「いえ、そんなこと……ありがとうございます‼」

 ラスティアは、コファイが悔しそうにしているのに気づいていた。
 自分も同じようなことを経験したことがあるので、コファイの悔しさが分かっていた。
 そう、アルベルトにクウガ、カルアに助けられて冒険者として生まれ変わった時、三人と実力に差がありすぎて、何度も悔しい思いをしてきた。
 ランクの話などではなく、アルベルトが言った経験の差だった。
 仲間の次の行動を予測しながら魔法の準備をしたり、安全な場所へと移動したりすることがなかなかできなかった――。
 そのことで、アルベルトたちがラスティアに文句を言うことはなかったが、その優しさがラスティアには酷でしかなかったのだ。
 クウガに頼んで、いろいろと教わる。
 そして、少しずつだが戦闘にも慣れてきて、三人の役に立てていると思えるようになる。
 そして、正式に銀翼と言う名のクランに入ることを頼んで、許可される。
 許可される時に三人が言った「もう、仲間だと思っていた」の言葉は、今でもラスティアの中で心に残っていた。


「……おかしいな?」

 アルベルトが立ち止まる。

「どうしたのですか?」
「あぁ、ラスティア。ゴブリンの数が少ない。横への抜け道も無かったのも気になる……もしかして、隠し通路があったのかも知れない」
「まさか……その可能性も含めて、私も確認していました」
「それなら、どうして……」

 徐々に出現するゴブリンの数が少なくなっている原因は二つあった。
 一つ目は、先程の広げた場所で決着をつけようと大量のゴブリンを投入したこと。
 二つ目は、苛立ったホブゴブリンが残っていたゴブリンに八つ当たりをして、何匹も殺してしまったことだ。
 アルベルトは、その違和感に気付きながらも原因が分からない不気味さを感じていたのだった。

「後方部隊も順調に進んでいるようですし、とりあえず進むしかないでしょう」
「そうだね……変なことを言って、すまなかったね」

 アルベルトたちは、さらに洞窟の奥へと進んでいく。


 十数メートル歩くとアルベルトが、動作で止まるように指示を出して、静かにするように指を口に当てる。
 そして、アルベルトは一人で少しだけ進み様子を確認しに歩き出した。
 少しだけ広い場所の奥に座るホブゴブリンと、その横にいるゴブリンメイジとゴブリンナイトの三匹。
 その手前には、十数匹のゴブリンが固まっていた。
 その足元には、無惨に潰されたゴブリンの死体が数体転がっていた――。

 アルベルトは集落のリーダーがホブゴブリンだと確信する。
 問題はゴブリンメイジの魔法だ。
 この五人では倒しきるのが難しい! と、判断したアルベルトはラスティアたちの所に戻ると、後方部隊と合流することを提案する。
 ラスティアもアルベルトの意見に賛成だった。
 アルベルトたちは一旦、後方部隊と合流するために、ゴブリンたちを警戒しながら引き返すことにした。
 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ニコラスたち後方部隊と合流をしたアルベルトは、ニコラスに報告をする。

「……ホブゴブリンですか⁉」
「えぇ、ゴブリンジェネラルでなくて、ホブゴブリンでしたので、最悪の事態は免れたと思っていいでしょう」
「たしかに、そうですね。やはり、ゴブリンメイジでは、なかったのですね……」

 アルベルトからの報告を受けたニコラスは、ホブゴブリンが集落のリーダーだったことに驚くが、冷静を装った。
 それに、慌てることなく淡々と話すアルベルトに対して、「もしかしたら、かなり前から、ホブゴブリンが集落のリーダーだったことに気付いていたのか?」と感じていた。

「……戻って来られたということは私たちに、なにか協力できることがあるということでしょうか?」
「はい。私たちが見落とした横道や、抜け穴などはありませんでしたか?」
「私たちも慎重に確認しましたが、それらしいものは発見しませんでした。一本道で間違いないでしょう?」

 この場所は元々、鉱石の有無を確認するために掘られた洞窟だったが、採れる鉱石が極端に少ないことや、岩盤が堅いため計画通りに採掘ができなかった。
 結局、計画は途中で中止されたので、鉱山のような幾つもの道が存在していない。
 このことは、事前にニコラスからアルベルトにも伝えられていたが、念のためということで、横道や抜け道をニコラスたち後方部隊が、念入りに調べていた。

「ここからの戦いですが、ホブゴブリンは私一人で相手をします」
「一人でですか!」
「はい。ホブゴブリン一匹であれば問題ありません。しかし、ゴブリンメイジも攻撃に参加すると少々厄介なので、ゴブリンメイジの相手をお願いしたいと思います」
「でも、ゴブリンナイトもいるのですよね⁈」
「はい。しかし、ゴブリンナイトの相手は、サウディとバクーダがします。全体的な判断はラスティアがしてくれるので、回復魔法が遅れて致命傷になることはないと思います」
「サウディとバクーダが、ゴブリンナイトの相手ですか……」
「心配なら何人かの冒険者をつけて頂いて構いません」
「……分かりました」

 ニコラスはアルベルトの提案に疑問を感じていた。
 サウディとバクーダの実力は、ギルマスとして把握しているつもりだ。
 二人がかりとはいえ、ゴブリンナイトの相手をするのは荷が重いと感じていた。
 アルベルトはオーリスの冒険者ではない。
 もしかしたら、サウディとバクーダの二人を犠牲にしているのではないか……アルベルトに対して、不快感を感じていた。

「ニコラス。アルベルトは、二人の実力を知ったうえで戦えると判断をしています」

 ニコラスは、ラスティアが自分の心の中を読んだのか⁉ と思うようなタイミングで話し掛けてきたことに驚く。

「心配であれば、サウディとバクーダに話を聞いてみますか?」
「そうですね……」

 ニコラスはサウディとバクーダを呼ぶと、アルベルトからの作戦を二人に伝えた。
 顔を見合わせるサウディとバクーダだったが、二人して頷いた。

「大丈夫です。俺たち二人でゴブリンナイトを倒してみせます」
「まぁ、なにかあれば……助けてください」

 自信に満ちた二人の表情にニコラスは驚く。
 自分の知っているサウディとバクーダでないように感じたからだ。


 サウディとバクーダは後方部隊と合流する時に、今回の作戦を聞いていた。
 もちろん、無理強いはしないので無理なら、何人かでゴブリンナイトの相手をしてもいいと、アルベルトは話す。

「アルベルトさん……それは、俺……僕たち二人であれば、ゴブリンナイトを倒せると思っているのでしょうか?」

 サウディがアルベルトに質問をする。

「もちろん。君たちの戦いぶりを見て決めたことだ。君たちは、僕が思っていた以上に強いし、連携も上手に出来ていると思う」

 サウディとバクーダは同じパーティーで何度も戦っている仲間だった。
 連携がとれているのは、長年培ってきた信頼によるものだろう。
 もちろんアルベルトは、その情報を知っていて、サウディとバクーダの二人を選んでいた。

「ありがとうございます」

 ランクAの冒険者に実力を認めてもらえることは、なにより自信につながる。
 それにアルベルトとラスティアは、自分たちの長所を伸ばして、短所を指摘してくれるので、自分たちが何をすべきかが明確になる。

「……アルベルトさん」
「なにか、質問でもあるのかな?」
「いいえ。その……僕を銀翼のクランに入れてはもらえませんか?」

 バクーダは、真剣な表情でアルベルトに話す。

「そっ、それなら俺……僕も入りたいです!」

 バクーダに先を越されたと感じたサウディも銀翼へ入ることを懇願する。

「ん~、君たちに気持ちは、とてもありがたいけど、銀翼は少数精鋭なクランなんだよね。もう少し、実力がないと厳しいかな?」

 少し、困った表情で答えるアルベルト。

「そうですね。人数が増えれば維持費だけでも大変ですからね。大手クランであれば別ですが、うちのようなクランですと確かに厳しいですよね」

 ラスティアがアルベルトをフォローするように話す。
 実際、ラスティアの言うように人数が多くなれば、それだけクエストを受注しなければならない。
 大手のクランであれば、実力にあったクエストを幾つか受注しながら運営をしているところもある。
 しかし、銀翼は指名クエストや、他の冒険者では達成が難しいクエストを受注したりしているので、運営を考えれば実力不足の者を招き入れることは難しいのだ。
 少数精鋭……銀翼が大手クランと対等な立場でいられる所以でもある。

「そうですよね……分かりました、もっと力をつけます。その時には、もう一度クランへの加入をお願いしてもいいですか?」
「もちろんだよ」

 バクーダに笑顔で答えるアルベルトだった。
 その様子を見ていたラスティアは、コファイが俯きながら悲しそうな表情をしていることに気付く。
 しかし、ラスティアはコファイに声を掛けることはなかった。
 今、何を言ってもコファイの心に響かないと思ったからだ。
 ある程度の自信があり、アルベルトに銀翼への加入を申し出たサウディとバクーダ。
 コファイは、その場所にさえ立つことができないので、何も言えずに悔しい思いをしていたからだ。
 この悔しさを乗り越えなければ、コファイの成長はないだろうと、ラスティアは思っていた――。
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