上 下
48 / 288

第48話

しおりを挟む
 リゼはタバッタたち暴風団から、教わった方法を思い出してスライムで試していた。
 確かに、魔核を狙っていた攻撃に比べて、楽に倒す事が出来る。
 一撃必殺ではなく、徐々に弱らせていくことが重要だと考えを改めた。

(やっぱり、他の冒険者たちの戦い方は見ておきたいな……)

 リゼは、吸収できるものが大きいと感じていた。
 その一方で、パーティーを組むということに関しては、変わらず否定的であくまでソロでの活動を考えていた。

 既にクエストのスライム討伐三匹は終えている。
 リゼは保留にしていた『ノーマルクエスト』や『ユニーククエスト』を見てみる。

(確か、魔物討伐十匹ってのがあったはず……あった!)

 リゼは『ユニーククエスト』の『達成条件:魔物討伐十匹』『期限:一時間』を選ぶ。
 そして、『ノーマルクエスト』も『達成条件:利き手を使わずに魔物討伐一匹』『期限:一時間』も選んだ。
 同じようなクエストであれば、内容によって幾つも受注出来るので効率がいい。
 保留にしているクエストも、達成しやすい状況になった時に受注すれば、失敗する確率も下がる。
 リゼは、『・クエスト内容を事前表示(達成報酬微低下)』を選択したことが間違いでは無かったと確信する。

 スライムを左手のみで十匹討伐する。
 要領さえ分かれば、左手でもスライムを簡単に討伐することが出来た。
 一匹倒した時点で、ノーマルクエストは達成しているので、『報酬(精神力強化)』を得ている。
 数値化されないので、リゼは残念な気持ちになるが強くなっている事には間違いないと、自分を納得させていた。
 そして、ユニーククエストの達成報酬『報酬(防御:一増加)』が表示される。

 リゼは、ポイズンスライムを探してみるが、近くにポイズンスライムは見つからなかった。
 このまま、ポイズンスライムを探し回っても良かったが、何度もスライム討伐のクエストは受注するつもりなので、時間の無駄だと思いオーリスに戻ることにした。

(そういえば……)

 リゼはデイリークエストのことを思い出す。
 デイリークエスト『達成条件:全力疾走五百メートル』。
 オーリスに戻る際に達成できると思い、全力疾走を何回かして戻ることにした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「思ったよりも早かったわね」

 アイリが笑顔で迎えてくれた。
 リゼは軽く頭を下げて、魔核を受付に置く。

「ちょっと待っていてね」

 アイリはスライムの魔核に間違いないことを確認すると、成功報酬の通貨をリゼの前に置く。

「ありがとうございました」
「あっ、リゼちゃん。ちょっと待って!」

 去ろうとするリゼを、アイリが止める。

「……」

 リゼは不安しかなかった。
 知らない間に自分が何か迷惑を掛けたのではないか! いや、迷惑で無くギルドに損害を与えるような事でもしたのではないかと、ここ数日の自分の行動を思い出していた。

「実は、リゼちゃんに指名クエストがあるのよ」
「私にですか?」

 リゼは困惑すると同時に、警戒した。
 何故、自分なのだ? という疑問が最初に浮かんだからだ。

「まぁ、受注するかはリゼちゃんの判断だから、依頼内容だけでも見てもらえるかな?」
「はい……」

 指名クエストなので、危険だと思えば断ることは可能だ。
 しかし、依頼主が貴族だったりすれば、拒否権があるのだろうか? リゼは不安な気持ちを隠しながら、アイリからクエストの紙を受け取る。

「……シトルさん?」

 依頼内容を読み進めるリゼ。

「あの~、これって……」
「シトルさんの言っていることが正しければ、疑惑を晴らして欲しいということね」

 あの場から自分が逃げたことで、シトルが身に覚えのない疑いを掛けられていることに驚き、申し訳ない気持ちだった。

「リゼちゃん。それで、どうするの?」
「申し訳ありませんが、お断りさせて頂こうかと思います」
「えっ‼ やっぱり、シトルさんが嘘を言っているのね。この間、リゼちゃんから聞いたのも脅されていたからなのね!」

 アイルが語気を強めて、大声で叫ぶ。
 ギルド会館に居いた冒険者や、受付嬢たちが一斉にアイリとリゼの方を向いた。

「いえ、そういう訳ではありません」
「じゃぁ、どうして? 報酬もかなりいいのよ?」

 確かに成功報酬は魅力だ。
 あの場から逃げたのはリゼだ。
 シトルに過失が無いとは言えない。しかし、それはリゼも同じだ。
 そう、どちらが悪いという訳でも無い。
 それなのに、シトルだけ被害者になっていることに、リゼは申し訳無いと感じていた。

「この間、アイリさんとレベッカさんにお話したことは事実です。シトルさんが一方的に悪い訳ではありません。逃げてしまった私にも原因があると思っています」
「それは、そうだけど……」

 アイリは真剣な目で話すリゼに対して、「黙って受注すれば、楽して儲けられるのに」と思った自分が少し恥ずかしくなった。

「せっかく指名クエストを頂いたのですが……すいません」
「別にリゼちゃんが謝ることは無いのよ。クエストの選択は冒険者にあるんだからね」

 申し訳なさそうに頭を下げたリゼを、アイリは優しい口調で慰める。
 リゼが受注しようがしまいが、ギルドとしての手数料は入って来るので問題ない。

「それで、どうするの?」

 アイリは、リゼがシトルの指名クエストを意味も無く拒否したとは、考えていなかった。

「はい。個人的な問題ですので、個人的にシトルさんの信用を取り戻せれば。と、思っています」
「そう……」

 それは、ただ働きだよ! アイリは言いそうになった言葉を飲み込んだ。

「シトルさんは、どちらにいるか分かりますか?」
「ちょっと、待っていてね」

 アイリは、シトルの担当であるレベッカの所へ歩いて行った。
 小声で話をしているので、リゼには聞こえない。
 リゼも、どうやったらシトルの信頼が回復出来るかを考えていた。

「リゼちゃん、お待たせ。今日、シトルさんはギルド会館に顔を出していないから、待っていればそのうち、顔を出すんじゃないかしら」
「そうですか、ありがとうございます」

 リゼは頭を下げて、クエストボードの横にある長椅子へと移動して座る。
 クエストボードの横なので、クエストを探している冒険者たちは否が応でもリゼの姿が目に入る。

「リゼ。どうしたんだ?」

 気になった冒険者の一人がリゼに声を掛ける。

「はい。シトルさんを待っています」

 顔は知っているが名前までは知らない冒険者に、リゼは答える。

「あ~、そういうことか。シトルに復讐でもするのか?」
「ちっ、違います」

 笑っている冒険者に、リゼは必死で否定した。

「冗談だよ。まぁ、シトルを見かけたら、リゼがギルド会館で待っていた。と、言っておいてやる」
「ありがとうございます」

 リゼは椅子から立ち上がり、冒険者に頭を下げた。
 他の冒険者たちも、協力を口にしてくれた。

「あぁ、それと私はシトルさんから変なことはされていません。シトルさんは悪くないんです」

 必死で訴えたリゼに冒険者たちは、きょとんとした顔をする。
 数秒続いた静寂の時間が終わると、冒険者たちの笑い声がギルド会館に響き渡った。

「分かっているって!」
「シトルにそんな勇気はないからな」
「あいつの日頃の行いが招いた結果だ」

 冒険者たちは口々にシトルの悪口を言い始めた。

「まぁ、シトルが悪い奴じゃないことくらい俺たちは知っているから」
「なんだかんだ言っても、同じ冒険者だからな」
「そうそう、命を懸けて魔物討伐した仲でもあるんだし」

 冒険者の口ぶりからもシトルは嫌われていないのだと、リゼは感じた。
 悪口を言われながらも嫌われていないシトルという存在が、リゼには理解出来なかった。
 リゼの中で悪口を言われる者は、嫌われている者だという認識だからだ。
 幼い頃は、同世代の村の男の子たちから揶揄われたり、虐められたりした。
 貴族である元両親に引き取られてからも、常に罵られて暴力を振るわれていた。
 笑いながら悪口を言える関係……。リゼが、この関係を理解するにはもう少し時間が必要だった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!

モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。 突然の事故で命を落とした主人公。 すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。  それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。 「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。  転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。 しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。 そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。 ※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。

処理中です...