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第27話

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 リゼは時間も忘れて、本を読んでいた。
 今、呼んでいる本は『魔物図鑑(前編)』だ。
 見た事のない魔物達の姿が絵で描かれ、生息地域や特徴等も細かく書かれている。
 難易度も、星で示されている。
 スライムは星が一つなので、難易度が低い。
 ゴブリンやオークは集団行動なので、難易度も星三つとなっている。
 有効な武器や、推奨する討伐人数。
 討伐する際の推奨パーティーの構成と、とても分かりやすかった。

 魔物には人型魔物と、獣型魔物に大きく分類される。
 人型魔物は二足歩行で、人間と同じような背格好をしている。
 対して、獣型魔物は翼があったり、四本脚だったりと幅が広い。
 そして、更には基本形魔物と、進化系魔物がある事をリゼは知る。
 魔法書を偶然手に入れて、魔法が使えるようになったゴブリンは、『ゴブリンメイジ』と呼ばれる。
 同じように武器の扱いに特化したゴブリンは『ゴブリンナイト』や、『ゴブリンアーチャー』と呼ばれると書かれていた。

 頁を捲る度に、リゼは興奮していた。
 しかし、同時に一つの不安がリゼの頭を過ぎっていた。
 本に書かれている討伐推奨人数だ。
 基本的にパーティーは組まずに、ソロでの討伐を考えているリゼにとって、読み進めていくとすぐに、ソロでの討伐可能な魔物の頁は無くなってしまう。
 分かってはいた事だが、改めて認識する。

 続けて、『魔物図鑑(後編)』を読むが、後半は明らかに強い魔物ばかりで、推奨討伐人数も十人以上必要な魔物も居た。

 最後に、自分の力を過信しない事や、魔物の討伐人数は一匹の倍数では無い事等の注意点が書かれていた。
 これは、初級編の最後に書かれていた文章と同じだった。
 そして最後に、『逃げる事は恥ではない。死んでしまえば、恥だと思う事も出来ない。生きている事を当たり前と思わない事だ。冒険者に幸あれ』と締め括られていた。

 この文章にリゼは共感する。
 生きてこそ価値がある。死んでしまえば無意味だと……。

 本の厚さの割には、内容はそれ程難しくは無かった。
 しかも、大半は絵が書かれているので、読む箇所も少ない。

 読み終えた本を枕の横に置く。
 窓の外は、赤く染まっていた。
 時間も忘れて、読んでいた事に気が付く。
 昼食のパンなどにも手を付けていない。
 リゼは、もう夕食だと思いながら昼食を口にする。

 食べながら『魔物解体新書(初級編)』を読もうとも考えたが、行儀が悪いと思い読むのは食べ終わってからにした。
 一刻も早く、本を読みたいリゼはすぐに食べ終えて、『魔物解体新書(初級編)』を読み始める。
 獣型魔物の部位が細かく分かれていて、親切な説明が載っていた。
 リゼは最初の数頁で、先程食べた昼食を戻しそうになる。
 必死で堪えて、食事中に読まなくて良かったと思う。

 『魔物解体新書(初級編)』を半分くらいまで読んでいると、アイリが夕食を持って来てくれた。
 リゼは夕食の礼と、二冊の本を読み終えた事を伝える。

「もう、二冊も読んだの!」
「はい。とても参考になりました」
「そう。じゃあ、問題を出してみてもいい?」
「全て覚えているかは自信ありませんが、いいですか?」
「いいわよ」
「そうね……牙が刃物のように尖っているのが特徴で、リーダーがいる集団を形成する狼に似た魔物は、なんでしょう?」
「……サーベルウルフですか?」
「そう、正解よ。次は……」

 アイリは、その後もリゼに五問の質問をする。
 『魔物図鑑(前編)』からの出題では全て答える事が出来たが、『魔物図鑑(後編)』の出題は一問間違えたが、言い直して正解になる。

「リゼちゃん、凄いよ」

 御世辞抜きにアイリは、リゼに感心していた。
 アイリ自身、記憶力が良い方で無いのも関係している。
 実際、よく間違えて受付長のクリスティーナから叱られる事も多々ある。

「その、明日で良いのですが魔物解体新書の続きを、お借りする事は出来ますか?」
「うん、大丈夫よ。他に読みたい本はある?」

 リゼは考える。

「……ソロ冒険者の戦い方みたいな本は、あったりしますか?」
「うーん、どうかな。一度、探してみるね」
「御願いします」

 昼に借りた『戦い方の基本』は流し読みをしたが、体が動かない状態では読んでも実践出来ない為、読むのを後回しにした。
 内容もパーティーでの戦闘を主体にした本だった事もある。
 基礎的な体の動かし方は載っていたが、リゼの思うような内容では無かった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「はぁ~」

 アイリは受付に戻ると大きな溜息を付く。

「どうしたの?」

 溜息に気が付いたレベッカが、アイリに話し掛ける。

「それがね……」

 アイリはリゼから頼まれた本の事を、レベッカに話す。
 本の内容からして、ソロ冒険者で今後活動していく事は明白だ。
 しかし、ソロ冒険者の場合、死亡する確率がパーティーを組んでいる冒険者に比べて圧倒的に高い。
 死ぬのが嫌だからこそ、パーティーを組んで活動する冒険者が殆どだ。

「今回の事が原因なのかな……」
「そうね。違うとも言い切れないわね」

 話を聞いたレベッカも憂鬱な気持ちになる。

「時間が経てば、リゼちゃんの気持ちも変わるかも知れないわよ」
「そうだと、いいんだけど……」
「来月になれば、学習院を卒業した冒険者もクエスト受注する為に来るわ。もしかしたら、リゼちゃんの事を馬鹿にする子も現れると余計と心を閉ざすかも知れないわ」
「そうね……」

 毎月一回入校出来る学習院だが、クラス分けに伴い卒業も半年に一回となる。
 何人かの生徒はオーリスに残り、冒険者として活動していく事になるが、世間知らずの卒業生達も居る為、受付も混乱する時期になる。
 実力以上のクエストを見栄で受注しようとするが、実力不足で受付が拒否する事が多い。
 何より親の権威が通じると思っている者も多い。
 冒険者は実力のみで評価される。
 ギルドに冒険者として登録する選択した時点で、親や親戚がどれだけ偉かろうが、全く関係が無い。
 しかし、常識が通じない学習院出の冒険者には、誓約書を書かせてギルドは実力不足として止めたが、自分の意思でクエストを受注した事にするそうだ。
 昔、貴族の子息が自慢気に実力以上のクエストを受注しようとして、受付が拒否した事で、大問題となった事がある。
 その結果、この誓約書という制度が発生した。
 その後、クエストを受注した子息は、余生をまともな体で過ごす事は出来なかったそうだ。

 アイリはクリスティーナに、リゼから頼まれた本に心当たりがあるかを聞こうと、クリスティーナの所へと歩いて行く。
 話を聞いたクリスティーナは、少し考える。

「リゼさんの職業は確か、盗賊でしたね」
「はい、そうです」
「随分と昔の本になりますが、職業別の本があったかと思います。それなどは、どうでしょうか?」
「分かりました。一度、探してみます。有難う御座いました」

 アイリはクリスティーナに礼を言って去って行った。
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