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第9話
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「嬢ちゃん、御疲れ」
ゴロウが、クエスト達成の証明証をリゼに手渡す。
「ありがとうございます」
リゼは、両手で証明証を受け取る。
帰る前にリゼは、ゴロウに頼み事をする。
「ゴロウさん。あそこの溝の掃除をしていいですか?」
「……もう、クエストは達成したんだぞ」
「はい。ただ、片付けの最中に気になったので、報酬は要りませんので御願いします」
リゼはゴロウに頭を下げる。
ゴロウや作業員達は面食らっていた。
報酬を貰っても、やりたくない仕事の一つがドブ掃除だ。
体に臭いが付き、洗ってもなかなか落ちない。
作業員達には、リゼが素晴らしい子供に見えた。
ゴロウも許可を出して、作業員達も協力してリゼと一緒に、ドブ掃除を始める。
達成時間の三十分を過ぎると、『ノーマルクエスト達成』『報酬(魅力:二増加)』と表示される。
しかし、リゼは止めることなく、作業員達とドブ掃除を続けた。
ノーマルクエストとは別で、自分に対して色々と配慮をしてくれたゴロウ達への恩返しの意味もあったからだ。
ギルド会館に戻って、一刻も早くクエストを受注したい気持ちはある。
しかし恩を受けたのであれば、その恩を絶対に忘れてはいけないと母親から教えられていた。
ドブ掃除が終了すると、リゼの体は泥だらけで異臭もしていた。
「どうも、ありがとうございました」
リゼは御辞宜をして、帰ろうとする。
「嬢ちゃん、ちょっと待ちな」
ゴロウが呼び止めて、裏にある水浴び場で体を洗っていくように勧める。
リゼは戸惑っていた。
「そんなに臭いと、周りにも迷惑が掛かるぜ」
ゴロウは無理矢理リゼを肩に担いで、水浴び場まで運ぶ。
「だ、大丈夫です。自分で歩けます」
リゼは恥ずかしくなり、必死で抵抗する。
ゴロウは笑いながらも、リゼを下ろすつもりは無かった。
一緒にドブ掃除をしていた従業員達の笑い声も聞こえた。
水浴び場に行くと、女性が二人待っていた。
「嫁のナタリーと、娘のミッシェルだ」
「初めまして、リゼちゃん」
リゼはゴロウに担がれた状態で、頭を下げて挨拶をする。
ゴロウはリゼを下ろすと、彼女達に「宜しくな!」と言って、水浴び場から去って行った。
汚れる事が分かっていたので、ゴロウはリゼの為に妻と娘を作業場に呼んでいた。
「お父さんがゴメンね」
ミッシェルがリゼに話し掛ける。
「いえ、こちらこそすいません」
「これ、私が小さい時に来ていた服だけど、帰りはこれに着替えてね」
「ありがとうございます。洗って、後日お返しに伺います」
「いや、いいわよ。リゼちゃんにあげるから」
「そんな、申し訳ないです」
恐縮するリゼだったが、
「着る人が居ないので、貰ってくれるとありがたいんだけどな」
ナタリーが優しく話し掛けると、リゼは頭を下げて、
「ありがとうございます」
と、礼を言った。
体も洗い終えて、ミッシェルの服に着替えるが、リゼには少し大きかった。
「ゴメンね」
「いえ、ありがとうございます」
ナタリーからは、ミッシェルのお古で良ければと追加で二着貰う。
丁重に断ろうとするが、ナタリーが強引にリゼに渡す。
「本当にありがとうございます」
頭を下げるリゼを、ナタリーとミッシェルは笑顔で見ていた。
リゼが着替え終わった事が分かると、ゴロウや従業員達はリゼと入れ替わりで体を洗うようだった。
その前にゴロウや、作業員達に御礼と別れと言ってギルド会館へと戻る
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「何があったの?」
ギルド会館に戻り、クエスト達成の報告をアイリにする前に、リゼの服装が変わっている事にアイリは気付く。
「その、服が汚れたので、ミッシェルさん……ゴロウさんの娘さんに服を頂きました」
「あぁ、そういう事ね」
アイリは納得しながら、リゼのクエスト達成処理を行う。
リゼは報酬を受け取ると、クエストボードに向かう。
短時間で出来るクエストを探していた。
『ギルド会館の清掃(一階)』がある。他にも『ギルド会館の清掃(二階)』や『ギルド会館の清掃(書類整理)』がある。
全て期限:一時間で、達成報酬は、銅貨五枚だ。
リゼはその中から『ギルド会館の清掃(一階)』の紙をクエストボードから剥がして、受付に持って行く。
アイリは、クエストをリゼに発注する。
「今日は、このクエストで終わりね」
「……はい」
一日で受注出来るクエストの数にも制限がある。
ランクDからランクCで、三つ。ランクB以上で、二つだ。
リゼは既に二つクエスト達成しているので、本日最後のクエストという事だ。
それは、リゼも理解していた。
規則なので仕方が無い。
『ノーマルクエスト』を考えることなく『はい』を選択する。
『達成条件:ゴキブリの討伐(一匹)』『期限:一時間』
リゼは目の前の表示された内容に固まる。
ゴキブリは母親と暮らしていた頃に、何度も見ているし殺した事もある。
小さな黒い体を捕まえようとしても、素早く逃げ回る。
しかも突然、羽根を広げて飛んだりもする。
リゼが苦手とする生き物の一つだ。
初めてクエストで『はい』を選択した事を後悔した。
(こんな事で怖気付いてどうするの。私は冒険者になって、一人で生きて行くのよ)
リゼは自分を鼓舞する。
アイリに掃除道具の雑巾と桶を貰い、ギルド会館一階の掃除を始める
小さいリゼに出来る掃除は、雑巾掛けくらいだ。
冒険者達も、リゼがクエスト中だと知っているので、邪魔をしないようにしていた。
リゼも冒険者達の邪魔にならないように、掃除をしている。
窓拭きや、壁等を拭いては桶の水を換えたりする。
さっきのノーマルクエストが、今だったらなとリゼは思いながらも掃除を続ける。
床に雑巾を掛けている時、ギルド会館の奥にあった小さな木箱を退けて床を掃除しようとすると、ゴキブリが姿を現した。
「きゃっ!」
リゼは思わず叫ぶ。
叫び声を聞いて、冒険者達が何事かとリゼの周りに集まって来た。
「こいつか!」
冒険者のシトルがゴキブリに気付き、勢いよく踏み潰す。
アイリやレベッカも、リゼの所まで来て心配をする。
冒険者達は、アイリ達に床に潰されたゴキブリを見せる。
「せっかく、リゼちゃんが綺麗に拭いてくれたのに……」
「そうね、一生懸命拭いてくれたのにね」
アイリとレベッカは、同情を誘うように悲しそうな振りをする。
ゴキブリを踏み潰したシトルは「分かったよ!」と言い、リゼから雑巾を借りて床を拭き始めた。
「ありがとうね」
アイリとレベッカは、床を拭くシトルに笑顔で囁くと、シトルの機嫌は一気に良くなった。
その後も掃除を続けていると『ノーマルクエスト未達成』『罰則:身体的成長速度停止(一年)』が表示された。
リゼは愕然とする。
ゴキブリを殺せなかっただけで、成長が止まったと宣言された。
たかが、ゴキブリを一匹殺せなかっただけでだ。
リゼ自身、自分のスキル『クエスト』で未達成になった罰則を甘く考えていた。
せいぜい、能力値が少し下がるくらいだと思っていたからだ。
冷静に考えると、リゼは恐ろしくなった。
ゴキブリ一匹殺さなかっただけで、この呪いにも近い罰則だ。
今後は、四肢や感情を奪われたり、最悪死ぬ事も想定しなければならないと恐怖する。
それに達成報酬とで、バランスが取れているのかが疑問だ。
能力値が少し上がるという事は、罰則と同等の報酬でなければならない筈だ。
リゼは、自分のスキルに殺されるのかも知れない恐怖に怯える。
「リゼちゃん。大丈夫?」
真っ青な顔のリゼを見たアイリは、心配で声を掛ける。
「はい。先程のゴキブリで気分が悪くなっただけです」
「そう。クエスト達成しているから、受付で処理するわね」
「お願いします」
リゼは、ショックで上手く話せないでいた。
ゴロウが、クエスト達成の証明証をリゼに手渡す。
「ありがとうございます」
リゼは、両手で証明証を受け取る。
帰る前にリゼは、ゴロウに頼み事をする。
「ゴロウさん。あそこの溝の掃除をしていいですか?」
「……もう、クエストは達成したんだぞ」
「はい。ただ、片付けの最中に気になったので、報酬は要りませんので御願いします」
リゼはゴロウに頭を下げる。
ゴロウや作業員達は面食らっていた。
報酬を貰っても、やりたくない仕事の一つがドブ掃除だ。
体に臭いが付き、洗ってもなかなか落ちない。
作業員達には、リゼが素晴らしい子供に見えた。
ゴロウも許可を出して、作業員達も協力してリゼと一緒に、ドブ掃除を始める。
達成時間の三十分を過ぎると、『ノーマルクエスト達成』『報酬(魅力:二増加)』と表示される。
しかし、リゼは止めることなく、作業員達とドブ掃除を続けた。
ノーマルクエストとは別で、自分に対して色々と配慮をしてくれたゴロウ達への恩返しの意味もあったからだ。
ギルド会館に戻って、一刻も早くクエストを受注したい気持ちはある。
しかし恩を受けたのであれば、その恩を絶対に忘れてはいけないと母親から教えられていた。
ドブ掃除が終了すると、リゼの体は泥だらけで異臭もしていた。
「どうも、ありがとうございました」
リゼは御辞宜をして、帰ろうとする。
「嬢ちゃん、ちょっと待ちな」
ゴロウが呼び止めて、裏にある水浴び場で体を洗っていくように勧める。
リゼは戸惑っていた。
「そんなに臭いと、周りにも迷惑が掛かるぜ」
ゴロウは無理矢理リゼを肩に担いで、水浴び場まで運ぶ。
「だ、大丈夫です。自分で歩けます」
リゼは恥ずかしくなり、必死で抵抗する。
ゴロウは笑いながらも、リゼを下ろすつもりは無かった。
一緒にドブ掃除をしていた従業員達の笑い声も聞こえた。
水浴び場に行くと、女性が二人待っていた。
「嫁のナタリーと、娘のミッシェルだ」
「初めまして、リゼちゃん」
リゼはゴロウに担がれた状態で、頭を下げて挨拶をする。
ゴロウはリゼを下ろすと、彼女達に「宜しくな!」と言って、水浴び場から去って行った。
汚れる事が分かっていたので、ゴロウはリゼの為に妻と娘を作業場に呼んでいた。
「お父さんがゴメンね」
ミッシェルがリゼに話し掛ける。
「いえ、こちらこそすいません」
「これ、私が小さい時に来ていた服だけど、帰りはこれに着替えてね」
「ありがとうございます。洗って、後日お返しに伺います」
「いや、いいわよ。リゼちゃんにあげるから」
「そんな、申し訳ないです」
恐縮するリゼだったが、
「着る人が居ないので、貰ってくれるとありがたいんだけどな」
ナタリーが優しく話し掛けると、リゼは頭を下げて、
「ありがとうございます」
と、礼を言った。
体も洗い終えて、ミッシェルの服に着替えるが、リゼには少し大きかった。
「ゴメンね」
「いえ、ありがとうございます」
ナタリーからは、ミッシェルのお古で良ければと追加で二着貰う。
丁重に断ろうとするが、ナタリーが強引にリゼに渡す。
「本当にありがとうございます」
頭を下げるリゼを、ナタリーとミッシェルは笑顔で見ていた。
リゼが着替え終わった事が分かると、ゴロウや従業員達はリゼと入れ替わりで体を洗うようだった。
その前にゴロウや、作業員達に御礼と別れと言ってギルド会館へと戻る
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「何があったの?」
ギルド会館に戻り、クエスト達成の報告をアイリにする前に、リゼの服装が変わっている事にアイリは気付く。
「その、服が汚れたので、ミッシェルさん……ゴロウさんの娘さんに服を頂きました」
「あぁ、そういう事ね」
アイリは納得しながら、リゼのクエスト達成処理を行う。
リゼは報酬を受け取ると、クエストボードに向かう。
短時間で出来るクエストを探していた。
『ギルド会館の清掃(一階)』がある。他にも『ギルド会館の清掃(二階)』や『ギルド会館の清掃(書類整理)』がある。
全て期限:一時間で、達成報酬は、銅貨五枚だ。
リゼはその中から『ギルド会館の清掃(一階)』の紙をクエストボードから剥がして、受付に持って行く。
アイリは、クエストをリゼに発注する。
「今日は、このクエストで終わりね」
「……はい」
一日で受注出来るクエストの数にも制限がある。
ランクDからランクCで、三つ。ランクB以上で、二つだ。
リゼは既に二つクエスト達成しているので、本日最後のクエストという事だ。
それは、リゼも理解していた。
規則なので仕方が無い。
『ノーマルクエスト』を考えることなく『はい』を選択する。
『達成条件:ゴキブリの討伐(一匹)』『期限:一時間』
リゼは目の前の表示された内容に固まる。
ゴキブリは母親と暮らしていた頃に、何度も見ているし殺した事もある。
小さな黒い体を捕まえようとしても、素早く逃げ回る。
しかも突然、羽根を広げて飛んだりもする。
リゼが苦手とする生き物の一つだ。
初めてクエストで『はい』を選択した事を後悔した。
(こんな事で怖気付いてどうするの。私は冒険者になって、一人で生きて行くのよ)
リゼは自分を鼓舞する。
アイリに掃除道具の雑巾と桶を貰い、ギルド会館一階の掃除を始める
小さいリゼに出来る掃除は、雑巾掛けくらいだ。
冒険者達も、リゼがクエスト中だと知っているので、邪魔をしないようにしていた。
リゼも冒険者達の邪魔にならないように、掃除をしている。
窓拭きや、壁等を拭いては桶の水を換えたりする。
さっきのノーマルクエストが、今だったらなとリゼは思いながらも掃除を続ける。
床に雑巾を掛けている時、ギルド会館の奥にあった小さな木箱を退けて床を掃除しようとすると、ゴキブリが姿を現した。
「きゃっ!」
リゼは思わず叫ぶ。
叫び声を聞いて、冒険者達が何事かとリゼの周りに集まって来た。
「こいつか!」
冒険者のシトルがゴキブリに気付き、勢いよく踏み潰す。
アイリやレベッカも、リゼの所まで来て心配をする。
冒険者達は、アイリ達に床に潰されたゴキブリを見せる。
「せっかく、リゼちゃんが綺麗に拭いてくれたのに……」
「そうね、一生懸命拭いてくれたのにね」
アイリとレベッカは、同情を誘うように悲しそうな振りをする。
ゴキブリを踏み潰したシトルは「分かったよ!」と言い、リゼから雑巾を借りて床を拭き始めた。
「ありがとうね」
アイリとレベッカは、床を拭くシトルに笑顔で囁くと、シトルの機嫌は一気に良くなった。
その後も掃除を続けていると『ノーマルクエスト未達成』『罰則:身体的成長速度停止(一年)』が表示された。
リゼは愕然とする。
ゴキブリを殺せなかっただけで、成長が止まったと宣言された。
たかが、ゴキブリを一匹殺せなかっただけでだ。
リゼ自身、自分のスキル『クエスト』で未達成になった罰則を甘く考えていた。
せいぜい、能力値が少し下がるくらいだと思っていたからだ。
冷静に考えると、リゼは恐ろしくなった。
ゴキブリ一匹殺さなかっただけで、この呪いにも近い罰則だ。
今後は、四肢や感情を奪われたり、最悪死ぬ事も想定しなければならないと恐怖する。
それに達成報酬とで、バランスが取れているのかが疑問だ。
能力値が少し上がるという事は、罰則と同等の報酬でなければならない筈だ。
リゼは、自分のスキルに殺されるのかも知れない恐怖に怯える。
「リゼちゃん。大丈夫?」
真っ青な顔のリゼを見たアイリは、心配で声を掛ける。
「はい。先程のゴキブリで気分が悪くなっただけです」
「そう。クエスト達成しているから、受付で処理するわね」
「お願いします」
リゼは、ショックで上手く話せないでいた。
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