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第6話

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 新しいクエストがクエストボードに貼られると、待機していた冒険者が一斉にクエストボードの前に群がり、クエストの取り合いが始まる。
 といっても、ランクBのクエストボードだけだ。
 ランクDとランクCのクエストボードの前に、冒険者は居ない。
 リゼは『瓦礫の搬出』の紙をランクDのクエストボードから剥がして、受付に持って行く。
 アイリは別の担当冒険者と話をしていたので、他の受付嬢に発注をして貰ったが「大丈夫?」と心配される。
 クエスト内容は崩れた外壁の瓦礫を、指定した場所まで運ぶ事だった。
 期間は四時間で、報酬は銀貨三枚だ。
 指定された場所まで向かおうとすると、『ノーマルクエスト発生』の画面が出現する。
 リゼはギルドのクエストを受注すると、『ノーマルクエスト発生』が発動する事に気が付いた。
 取り敢えず、ノーマルクエストを受注する。
 今回の条件は、『達成条件:怪我人の救出』『期限:六時間』だった。
 達成条件が気にはなったが、とりあえずはギルドからのクエストを達成する必要があるので、急いでギルドクエストの指定場所に向かう。


「宜しく御願します」

 リゼは、受付で教えて貰った現場責任者に似た人物を探して挨拶をする。

「おう、嬢ちゃん宜しくな。俺はここの責任者でゴロウっていう者だ。依頼内容だが、この籠に入った瓦礫を、あそこの煙が見える解体場まで運んでくれ」

 リゼは言われた方向を見ると、確かに煙が上がっている。

「往復で大体四十分だ。嬢ちゃんは、ここにある籠六つを運んでくれ」
「はい。分かりました」

 リゼは籠を背負って、煙を目印に歩き始める。
 ランクDのクエストなので、発注する側も冒険初心者と分かっているので、無理なクエストを発注しない。
 多少、時間を掛かると分かっているので、余裕のある労働条件にしてあるので、報酬を低めに設定している。
 リゼは、重いと思いながらも真面目に瓦礫を運び、少しでも早くクエストを完了させようとしていた。

 最後の六つ目の瓦礫が入った籠を背負い歩こうとすると、後ろで大きな音が聞こえる。
 驚いて振り返ると、積んであった大きな瓦礫が崩れている。
 リゼは急いで、籠を下ろして崩れた場所まで走る。
 何人かが、瓦礫の下敷きになっていた。
 作業員達が、必死になって瓦礫を撤去している。
 リゼも手伝って、作業員の指示で瓦礫を動かそうとしているが、なかなか瓦礫が動かない。
 十歳のリゼの力では、大きな瓦礫を動かすには力不足だった。
 リゼは、ステータスを開き『万能能力値:三』を全て、力の能力値に振った。
 これにより、力の能力値が十に上昇する。
 能力値が上昇したとはいえ、大人達から見れば大きく変化は無い。
 しかし、リゼはひたすら精一杯の力で瓦礫を動かそうとする。
 騒ぎに気が付いた周りの大人達が駆け付けて来た。
 リゼが動かせなかった瓦礫を動かして、怪我人を救出した。
 リゼはその光景を、見ている事しか出来なかった。
 手伝いたいと思いながら、自分に出来る事が無いかを探す。
 しかし、十歳になったばかりのリゼに出来る事は無く、作業の邪魔にならないように片隅で立っているしか無かった。
 
 遠くで三時を知らせる鐘の音が聞こえた。
 その音でリゼは、ギルドから受注した『瓦礫の搬出』が未達成な事に気付いた。

(二日目で、早くもクエスト失敗か……)

 リゼは落ち込む。
 アクシデントがあったとはいえ、失敗には変わりがない。
 現場責任者のゴロウに、謝罪も兼ねた挨拶をしようと思っていた。
 しかし、事故の処理等で大変そうで、とても声を掛けれる状況で無かった。
 下敷きになった人達が、治療施設に運ばれるのを確認すると、リゼは瓦礫の入った籠を背負い、煙の出ている場所まで歩いて行く。
 クエストに失敗したとはいえ、途中で投げ出すのは嫌だった。
 報酬の問題では無く、発注してくれた人達に申し訳無いと感じたからだ。

 瓦礫を運んでいる最中に『ノーマルクエスト達成』と、『報酬(力:一増加、魔法効果:一増加)』の画面が現れる。
 リゼ自身、怪我人を救出していなので、達成と言われても納得出来なかった。
 何も出来なかった自分に落胆しながら歩く。

 解体場に瓦礫を降ろして、受け取ってくれた作業員に礼を言う。
 リゼの到着が遅かったので、心配してくれていたみたいだ。
 リゼは遅くなった理由が、瓦礫撤去中に瓦礫が崩れて怪我人が出た事と、怪我人は既に治療院に運ばれた事を伝える。
 作業員達は大慌てで一旦作業を止めて、瓦礫を撤去していた場所へと走って行った。

「ありがとうよ」

 年老いた男性が、リゼに声を掛ける。

「あっ!」

 突然、声を掛けられたリゼは驚く。

「……その、クエストを達成出来ませんでした。御迷惑をお掛けして、申し訳御座いません」

 リゼは、年老いた男性に謝罪する。

「お嬢さんは律儀だの。女の子には辛いクエストだったろうに」
「クエスト内容を承知した上で受注していますので、辛い事や女性である事は関係ありません」
「ふぉふぉふぉ、確かにそうだな。それは、申し訳ない」
「いえ……」

 十歳の女の子扱いされる事を、リゼは嫌っていた。
 冒険者であれば、年齢や性別は関係無いからだ。
 それが許されるのは、安全な環境に身を置いている者達だけだとリゼは知っていた。
 だからこそリゼは、本当の自分を見て欲しいと思っている。

「ヨイチさん。俺達も様子見てきます」
「気を付けての。ゴロウには、作業終わり次第寄るように言っておいてくれるかの」
「分かりました」

 ヨイチと呼ばれた年老いた男性は、手を振りながら従業員を見送る。
 リゼもヨイチに挨拶をして、殻になった籠を背負い事故のあった瓦礫撤去場所に戻る。


 瓦礫撤去場所に戻ると、崩れていた瓦礫は片隅に避けられていた。
 少しだが、先程より片付いているように思えた。
 現場責任者のゴロウを見つけたので、謝罪をする為に近付く。

「おっ、嬢ちゃん。怪我は無いか?」
「はい、大丈夫です。その……クエスト失敗しましたので、謝りに来ました」

 リゼの言葉に、ゴロウは驚く。
 ゴロウは事故の処理で、クエストの時間が過ぎている事に気が付いていなかった。
 クエストを失敗したのはリゼのせいでは無く、事故が原因だ。
 しかし、原因がどうであれクエストを失敗した事は事実になる。
 クエストは不測の事態を考慮する事が、最低条件で当たり前の事だ。
 失敗の言い訳をするのであれば、高難易度のクエストを皆が受注して、その度に失敗すれば良い。
 しかし、ギルドの信用も無くなる事にも繋がる。

 ゴロウは、リゼに対して申し訳ないと思っていた。
 リゼが小さい体で怪我人を助けようと、一生懸命に瓦礫を動かそうとしてくれている姿を間近で見ていた。
 怪我人全員が運ばれたのを確認した後で、リゼが籠を背負って歩いて行く姿を目撃したと、何人かの作業員から報告も受けている。
 何よりゴロウは、解体場の作業員に事故の報告をしてくれた事を感謝しようとしていた。
 リゼに対して感謝の言葉を伝える前に、リゼから謝罪の言葉を聞いてしまった事を悔やんでいた。

「……確かに、クエストは失敗だな」

 ゴロウは、リゼに少し待つように言い、その場を一旦離れる。

(ゴロウさんも、怒っているんだろうな)

 リゼはゴロウの態度を見て、怒っているのだと感じた。
 黙って険しい顔をしていたゴロウは、そう捉えられても仕方が無い表情をしていた。
 暫くして、『瓦礫の搬出』が未達成の書類を持って現れた。
 リゼは、ゴロウに礼を言ってギルド会館に戻る。

 ギルド会館に戻る最中、リゼはポイントの事を考えていた。
 クエスト失敗であれば、罰則としてポイントが減ると、アイリから説明を受けていたからだ。

(これで、昨日のポイントも無くなちゃうんだろうな。又、最初からやり直しか……)

 リゼは「今日はただ働きだった」と思いながら、空を見ようとすると解体場の煙が目に入る。
 怪我した人達が、早く良くなるようにと思いながら、重い足取りでギルド会館まで歩く。
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