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マティーロ × ラムエル
3. 脱落者
しおりを挟む生まれて初めて飛行機に乗って目的の空港に降り立った。
空港にはプリンセス候補と書かれたボードを掲げたスーツ姿の男が待っていた。
はっきり言って、近付きたくねぇ……
プリンセス候補ってなんだよ。もうちょっとマシな言葉はなかったのかよ……恥ずかしいだろーがっ!
ボードを掲げた男の側に、いかにもオメガらしい顔も服もキレイな男女が寄って行く。
オメガにしては背が高く、細いけどガッチリめな俺。しかも縒れて色褪せた白いTシャツにカーキ色の長袖シャツとジーンズ。あの集団の中に入ったら確実に浮く。
金の為だと言い聞かせながら、止まっていた足をなんとか動かして男の元へ向かった。
意外なことに三十人近くのオメガが一緒だった。大型のバスに乗せられ、何ヶ所かに停まっては人が増えていく。最終的に六十人乗りのバスがいっぱいになった。
人数の多さに驚いていたら、俺が乗っているバスの後ろに同じバスが三台続いて来ていた。
すげぇな……
これほどのオメガが集まって来ているのか。自分もその内の一人だけど、その人数に驚く。
バスの中でスーツの男が軽い挨拶をしてから説明を始めた。
「皆さんがこれから会いに行くのは、希少種アルファの『皇帝』です」
男の言葉に、周囲が浮かれたようにざわつく。
「皇帝のフェロモンは強力です。彼の住む敷地は広いですが、強力なフェロモンは敷地外にまで及びます。影響を受け易い方は敷地外から受けますので、その場合は速やかに私へとお知らせください。以上です」
そんな広範囲にまでフェロモンの影響が出るだなんて、大袈裟だな。
周りのオメガ達もあまり信じていないようで、もし自分が希少種アルファの運命だったらどうしようと色めき立って浮かれている。
何故か俺も、気持ちがそわそわと浮き足立っていた。
俺は、何を期待しているんだよ。一人で勝手に浮かれて、がっかりするのはごめんだ。
気持ちを鎮めようとしても、全く鎮まらなくて苛つく。
俺みたいな薄汚れたオメガが皇帝の運命のはずがないだろ。なんとか身体は売らずにやってきたけど、何度もレイプされている俺は汚れている。
最近じゃあ、金の為に身体を売ろうかと悩む時ですらあるっていうのに、笑える。
期待している自分が嫌で嫌でしょうがない。
どうせ最後は、がっかりして落ち込むのが目に見えているのに自分が馬鹿みたいで嫌になる。
それからどれくらいバスに揺られていたのか、周りの景色が自然の緑ばかりで街らしい場所すらなくなって来た頃、一人の女性オメガが弱々しく手を上げた。
特に慌てた様子もなく案内の男が彼女に近付き、何事かを話している。そして、バスが停まった。
そこで、手を上げたオメガが降ろされた。他にも数名が手を上げて真っ青な顔でバスを降りて行く。
後ろのバスも停まっていて、何人か降りているようだ。
浮ついていたバス内の空気は、僅かな不安が混じり始めていた。
「皆さん、ご心配なく。皇帝のフェロモンに当てられたようです。無理に先へお連れしますと倒れてしまいますので、ここで降りて頂きました。降りた方は、別の車でホテルまでお送り致しますので御安心を」
案内人の説明に皆がほっと安堵する。こんな、なんにもない場所に捨て置かれても困るからな。
皇帝のフェロモンの影響がもう出ているのか。
バスの中は、僅かな不安が漂い始めている。でも、それだけじゃない。周りの空気が少し重い気がする。感覚的なものだからなんとも言えないけど、そんな気がする。
気分が悪くなったオメガ達を降ろして、バスが動き出す。
そこからは、バスが何度も停車した。停車する度にバスの中にいたオメガの人数は減っていった。
バスが進むに連れて、周囲の空気は気のせいとは言えないほどに重苦しくなっていく。
重い空気を感じながらも、俺の胸の奥にある期待の気持ちはなくならなかった。
もし本当に、俺が皇帝の番だったら……
やめろよ。考えるな。期待するな。勘違いだ。
期待なんかしたって、いつだって裏切られて来たじゃねぇか。
期待なんて、するんじゃねーよ。
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