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小話まとめ・短編・番外編
番外編 愛してる(中)
しおりを挟むジェイの国にある大学に二人共合格することが出来た。大学に入学する前にどうしても挙式を済ませておきたかった。
ジェイが大神家の俺と番ったことを社会に周知しておきたかったから。そうすればジェイを狙う人も出て来ないと思うし、俺達にちょっかいを掛けてくる者もいなくなる。
今は八月。俺とジェイは十九歳と二十一歳になっていた。
急いで準備を整えて、どうにか今日という日を迎えることが出来た。
礼拝堂に入る扉の前で開始を待つ。
兄さん達は先に礼拝堂の中に入って、自分たちの席で俺達を迎えてくれることになっている。
参列者は大神一族の人達とジェイの親族達。人数は二百人くらい。親族だけに絞ってある。あとは撮影をするスタッフ達。実は、今も撮影されている。式の間はずっと俺達に張り付いて映像を撮ってくれるみたい。
ジェイの腕にそっと手を置き、反対の腕には母さんが俺の腕に手を添える。母さんの隣には父さんが母さんをエスコートしている。
ジェイの反対側にはジェラルドさんがいてジェイと手を繋いでいる。その隣にはルーカスさんがいてジェラルドさんの腕にそっと手を置いていた。
途中で父さんと母さんが場所を交換するんだって。
六人で入場することに不思議な気分になる。
「なんだか、合同結婚でもするみたいだね」
無性におかしくなって笑ってしまった。
「ふふ、本当ね」
母さんがくすくすと笑う。そして、不意に笑みを引っ込めてまじまじと俺を見詰めてくる。
「――雪乃。本当に、おめでとう」
「ありがとう。母さん」
「一時はどうなるかと思ったけれど……素敵な運命を見付けられて良かったわ」
「――母さん……」
最初の運命の番だった彼と番えなかったことを言っているのだろう。
「でも、もう大丈夫ね?」
「うん。ジェイがいるから平気。――母さん、俺を生んでくれてありがとう」
「母親にとっては最高に嬉しい言葉だわ」
俺はジェイの腕を離して、俺よりも小さくなってしまった母さんを抱き締めた。
「父さんも、俺をジェイと引き会わせてくれてありがとう。――いつも俺を護ってくれて……ありがとうございます。俺、家族の皆が大好きだよ」
ちょっと泣きそうになっていると父さんが母さんごと俺を抱き締めてくれた。
「自分の子供を護るのは当たり前だ。これが最期じゃない。雪乃は一生私の子供なんだから。いつでも家に帰ってくればいい」
「……うん」
母さんをサンドイッチにしたまま父さんに抱き着いた。
いつもの安心する「我が家」の匂い。
父さんや母さん、兄さん達……皆の匂い。
別に、最後の別れじゃないのになんだか不思議な気持ちだ。
感慨深く浸っていると背中からジェイが抱き着いてくる。――俺の一番好きな匂い。
「雪乃。一人では帰さないからな」
むすっとして拗ねたように釘を刺してくるジェイに笑いが込み上げて来る。
「勿論だよ。ジェイ」
俺が頷くとジェイ越しに、トンっと軽い衝撃を感じた。
「ジェイ……本当に雪乃みたいな良い子が番で良かった。幸せになるんだよ」
俺に抱き着いているジェイの背中にルーカスさんが抱き着いたみたいだ。
「母さん……もう、幸せなんだ」
ルーカスさんに答えたジェイの言葉が俺の耳に吹き込まれる。まるで、俺にも言われているみたいで擽ったい気持ちになる。
ジェイが言うように、もう幸せの中にある。
皆で、ごちゃっとくっ付いているとジェラルドさんの困ったような声が聞こえた。
「ハハ、すっかり出遅れてしまったな。私もこの塊にくっ付いていいのかな?」
ジェラルドさんは苦笑しながらもルーカスさんとジェイを抱き締めた。
傍から見たら凄い光景だよな。想像するとおかしくなって笑ってしまう。
皆もそうだったのか、押し殺したような静かな笑いが溢れた。
「さあ、そろそろ始まりますよ」
スタッフの声に俺達は身形を整えて姿勢を正した。
隣に立つジェイを少しだけ見上げると、微笑みを浮かべた彼のエメラルドの目が柔らかく俺を見ていた。
嬉しくなって俺も微笑み返すと、礼拝堂の中からパイプオルガンの音が曲を奏で始める。
重厚な木で出来た扉がゆっくりと開かれ、俺とジェイは一歩を踏み出した。
ウェディングアイルを六人で歩く俺達を参列者達は微笑みながら迎えてくれた。
兄さん達や番の皆も温かく迎えてくれる。
祭壇の前まで来ると母さんと場所を替わっていた父さんが俺の背を軽く押して送り出してくれた。
六人でウェディングアイルを歩いて来た俺達を父さんの知り合いである年配の神父は苦笑混じりに微笑みながら一言。
「これだけ守られた花嫁なら悪魔も手が出せませんね」
教会の独特の雰囲気の中、厳かに儀式は進んで行く。
聞いたことがある誓いの言葉を神父が口にした。当然のように俺とジェイは「誓う」と答えた。
運命の番なのだから誓うまでもなくずっと傍にいる。それは当たり前のこと。傍にいない方が難しい。
アルファとオメガの番の結婚式は、言ってしまえば番になったと周知するお披露目。
俺の手を取って手袋を外し、シンプルなシルバーの指輪を嵌めるジェイを見詰める。
俺の番は見惚れるほど美しい。ジェイの全部が好き。全部愛してる。
ジェイの欠点ですら、俺には欠点に見えない。
ジェイが言っていたように俺達のこれまでが神様の試練だと云うのなら、番った今は試練をくれてありがとうと言いたいくらいに神様に感謝したい。
試練を乗り越えた先に待っているのがジェイなら、どんなにボロボロになっても辿り着いてみせる。
ジェイの手袋を外した骨張った手を取って、長い指にシルバーの指輪を嵌めた。
でも、もう辿り着いて手に入れた後だけどね。
心の中で誰ともなくドヤりながらジェイに笑い掛ける。
「誓いのキスを」
神父の言葉にジェイが俺のベールを頭の後ろへ捲り上げてから腰を抱き寄せる。
ジェイの整った顔が近づいて来て、俺の唇に触れるだけのキスをすると参列者達が歓声を上げた。
ジェイは、そのまま俺の耳元に口を寄せて囁いた。
「決して離さないし逃さないからな、雪乃」
ふふ、離されたら俺が困る。
俺はジェイの直ぐ側にある耳に口を寄せた。
「ジェイ。執着はアルファだけのものじゃないんだよ? 逃げられないのはジェイの方なんだから」
ジェイの耳朶を甘く噛んで名残り惜しく、ちゅっと軽く吸い上げて離す。
ジェイの身体がピクリと震えて俺を抱き締める腕に力が籠もった。そして、はああぁっと俺の耳に深い深い溜め息を吐き出した。
「――雪乃、なんでそんなに俺を煽るんだ……」
「それは勿論、ジェイを愛しているからだよ」
ジェイの頭に擦り寄りながら彼の耳に甘く吹き込んだ。
その途端、荒々しく後頭部を掴まれて激しく口付けられた。
ジェイは、乱暴に舌を絡めてきてキツく吸い上げ俺の舌を彼の口内に引き摺り込み、甘く何度も噛まれる。
「ふ、ンッ……!」
ジェイにキツく吸い上げられて俺の舌の付け根が攣りそうに痛む。深く吸い込まれて息も出来ない。
こんなに激しくキスされるのは初めてだ。
「ん゙、んん゙…っ…ンッ!」
ジェイの口内で彼の舌に小刻みに舌を擽られ、そうかと思えば大きく撫で回されてゾクゾクする。漸く自分の口内に舌を戻せたかと思えば、追って来た彼の舌になすすべもなく舐め転がされてどうしていいか分からない。
「ンンンん゙~~っ、っ、っ!」
息が出来なくて苦しくて頭が朦朧としてくる。必死にジェイの服を掴んで力が抜けそうになる身体を支えた。
それなのにジェイの攻撃は治まらなくて苦しさのあまり涙が滲んでくる。ついに堪えられなくなって、カクンと膝が落ちると漸くジェイが口を離してくれた。
ハァ……ハァ……ハァ……
俺とジェイの荒い息遣いだけが響いていた。
自力で立っていられなくなった俺をジェイがキツく抱き締めることで支えてくれる。
耳に掛かるジェイの荒い息遣いにゾクゾクと身体が震えた。
「――――君達……ちょっと激し過ぎないか?」
力の入らない目で声のした方を見れば、年配の神父が頬を染めながら茫然としていた。
結婚式の最中だったことをすっかり忘れていた……
本当なら慌てて姿勢を正すところだけど、ジェイのキスで、くにゃくにゃになってしまった今の俺には神父をぼんやりと見ていることしか出来なかった。
神父は困ったように俺を見て、コホンとわざとらしい咳払いをした。
「二人の情熱的な愛の強さに、主も二人が伴侶になることをお認めにならない訳にはいかないでしょう! 今ここに、二人の結婚が成立したことを宣言致します!」
神父が声を張って結婚成立の宣言をした。
参列者達から拍手が上がる。
その後は、ジェイに支えられながら結婚証明書になんとかサインをした。
歩けない俺をジェイが横抱きにしてウェディングアイルを大股でずんずんと歩いて行く。
なんだかこのままベッドに連れて行かれそうな勢いだ。
「……ジェイ。まだ帰れないよ? 写真撮影もあるし、フラワーシャワーもあるし、披露宴もあるよ?」
「っ~~~~!」
教会を出たところで俺が釘を刺すとジェイは声にならない唸り声を上げて、その場にピタリと立ち止まった。
ジェイの情欲に濡れたエメラルドが無言のまま俺を鋭く見据えて来る。
「――――痛い……? 待って……今、緩めてあげる……」
持っているブーケで隠しながら手を俺とジェイの身体の間にぐりぐりと滑り込ませ、ずっと大っきくなっていた昂りをスルリと撫でてジェイのベルトに手を掛ける。
「っ!?」
ジェイの身体がビクリと跳ねて俺を抱く腕に痛いほどの強い力が籠もった。
ジェイの昂りはボトムを窮屈そうに押し上げていて締め付けられて痛そう……
よしよしと撫でてあげながらベルトを緩める。
「っ~~~!……雪乃……ここで抱かれたくなかったら、今すぐやめろっ……」
ジェイは歯を喰い縛りながら唸るように声を絞り出した。
ベルトを緩め、ボトムのボタンを外してチャックを少しだけ下ろし終えてからジェイを見詰める。
「ジェイはそんなことしないよ。――それとも、俺の恥ずかしい姿を皆に見せるの……?」
「っ!? 雪乃っ……!!」
ジェイはギシリと歯を噛み締めて、悶えるように俺の頭に顔を擦り付けて来る。
そんなジェイの頬に手を添えて優しく撫でた。
「……フラワーシャワー……楽しみだね」
「ゔぅ゙~~~……」
俺をこんなにも欲しがってくれるジェイが堪らなく愛おしくなって、自分でも驚くほど優しい気持ちで微笑んでいた。
「何よりも誰よりも一番ジェイを愛してる」
「っ!? クッソっ……! 俺も愛してるっ……!!」
ジェイは俺を喰い入るように凝視しながら、やけくそ気味に叫んだ。
そうしたら、赤い薔薇の花びらが俺達にひらひらと降り掛かった。
「お前達……もういいからホテルに行け」
「そうね、写真撮影なんて無理ね」
いつの間にか来ていた父さんが花びらを放った手のまま、呆れたように俺達を見ていた。その隣には微笑んだ母さんが居る。
「ハハハッ! 凄いな! 雪乃は!!」
「ジェイが手玉に取られているところなんて初めて見たよ! サイコーだね、雪乃!!」
ジェラルドさんとルーカスさんが笑いながら花びらを盛大に放り投げて来る。
「こんな所でアルファを煽りまくるなんて……雪乃は鬼畜だな……」
「仁……二人共、おめでとう!」
苦笑混じりに言いながら、仁乃兄さんが史人さんと一緒に花びらを浴びせて来た。
「雪乃は、ちょっと天然よね……」
「都ちゃんったら……おめでとう!」
呆れたように言う都乃姉さんと、それを窘めながら蘭花さんも笑顔で花びらを降らせる。
「初めてジェイデンに同情したよ……」
「とっても可愛かったわ、雪乃! おめでと~!」
憐れみの目をジェイに向ける禅乃兄さんとハイテンションのセレイアさんが空高く花びらを舞い上げた。
蒼い空に赤い花びらがひらひらと降り注ぐ。
辺り一面に薔薇の匂いが立ち込める。
「ありがとう! 皆……」
「ありがとう! ……もう行っていいんだな?」
ジェイは切羽詰まったように言い放ち、返事も聞かずに足早に歩き出す。
手を振ろうとして、手にしたブーケに気が付いて離れて行く皆に向って放り投げた。セレイアさんが見事にキャッチしていた。
「――雪乃。初夜が楽しみだな……?」
ジェイが不穏な微笑みを浮かべながら囁いた。
「――うん……ジェイ、愛してる」
ジェイの首に抱き着きながら言葉が勝手に溢れてしまう。
「っ……まだ煽るのかっ……」
ジェイはボソリと呟いて、歩く速度が益々早くなった。
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読んでくれてありがとうございました。
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